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第五章 鮭の人無双~環《リンク》覚醒ハイ進行中
呪詛解除……ならず
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思えば今まで、カズンが呪詛にかかってることなどアイシャは知らなかった。
アイシャの聖なる魔力は、トオンの飯マズにも一時的な効果ならあったのだ。ならば呪詛にも多少の効き目ぐらいはあるのではないか。
軽く両手を伸ばして、自分の周りに手のひらで身体の全面に半円を描くような動きを作った。手の動きの後から光の円環、環が現れる。
アイシャの環は基本の白く光る円環に、ネオングリーンの魔力を帯びた状態で顕現する。
そっと、現れた環の表面に指先で触れる。
「呪詛に作用させるには、どのように聖なる魔力を使えばいい?」
環を通じて世界に問いかけた。すぐに直観の形でレスポンスが返る。
――カズンも環使いなのだから彼の環に流し込めばいい。
「カズンの環を顕現。……あら、呪詛がかかってるってわかって見ると、あなたの環は今までとは違ったものに見えるわ」
「何だと?」
皆の視線がカズンの環に集まる。胸周りに出た白く光る環は、環使いの基本色だ。特に白色以外の色はない。
魔力量が少なく、魔力値が低い者の基本形態でもある。仲間内だと料理人のゲンジが同じ白色のみを持っている。
手にネオングリーンに光る聖なる魔力をぼわっと帯びさせて、アイシャはカズンの環に触れた。
手首まで中に突っ込み、そこで指先を蠢かせるような動きを少しだけ見せる。
しばらくそのままの体勢でいたが、すぐに切り上げて手を引き抜いた。
「カズンのステータスを見てみて。魔力値が点滅してるでしょ? でも」
アイシャの言う通り皆がカズンのステータスに注目する目の前で、2だった魔力値が光りながら点滅し、――3に上がった。
「おおおお!? ……お?」
だが喜びも束の間。すぐにまた2に逆戻りして、点滅も止まってしまった。
「アイシャ様。これってどういう?」
「呪詛は難しいのよ。聖なる魔力が世界と調和した力なら、呪詛は人為的な操作の極みみたいな感じ。複雑すぎるのよ。私の能力だと呪詛の解析はちょっと無理みたい」
「解析、ですか」
申し訳なさそうな顔のアイシャに鮭の人は思案げな顔になった。
ふと視線を戻すと、トオンとユーグレンがカズンの空中に表示されたステータス画面を覗き込んで何やら唸り合っている。
「……カズン様も環に目覚めたとき、呪詛が解けてればよかったのに」
ぽつりと悲しげに鮭の人が呟いている。
まったくだ、と世の中ままならないものだと皆で嘆息した。
とはいえ、ここまで判明したのならカズンの課題はかなり明確になった。
「カズンは呪詛を解くのがまず最優先だね」
親の仇を追うのも、魔力値が今の2のままより本来の10に戻ってからのほうが良いに決まっている。
「でも、時間はかかるかもだけど不可能ではないと思うよ」
と言い出したトオンに、皆の視線が集まった。
「さっきユーグレンさんとカズンのステータスや環を見てたら、呪詛の構造式らしきものが薄っすら環の中に見えてたんだ。あれが解析できたら、多分」
「呪詛は解ける……か? だがカズンの両親や王家が全力を尽くしても無理だったのに」
「でもアケロニアって魔力使いたちの旧世代の国でしょ? 俺たちは新世代の環使いなわけで。どうだい、カズンは?」
と話を振られた当事者のカズンは少し俯いている。見慣れてきた黒縁眼鏡のレンズに光が反射して黒い目が見えないが、何やら考え込んでいるようだ。
「環使いは……物事が上手くいきやすいと聞いていたが、正直僕はそこまで恩恵を感じていなかったんだ。だからあまり環の訓練も進んでなくて。でも」
「呪詛の解除がひとまずの目標だな」
「……うん」
親戚のユーグレンに軽く背中を叩かれるも、カズンはどこか元気がない。
言葉で言えば簡単だが、あまり具体的なイメージが見えていない様子だった。
「ヨシュアさん」
「ええ、アイシャ様。環の研究、本気でやりましょうね」
アイシャは鮭の人と目配せし合った。
環は確かに便利な魔法でありツールだったが、何ができるのか具体的なことは個々の術者の力量任せで、まだわからないことが多い。
今カーナ神国には聖女アイシャと大魔道士ヨシュア、二人の実力者がいる。
やれるだけのことはやる、と二人は決意を新たに頷き合った。
アイシャの聖なる魔力は、トオンの飯マズにも一時的な効果ならあったのだ。ならば呪詛にも多少の効き目ぐらいはあるのではないか。
軽く両手を伸ばして、自分の周りに手のひらで身体の全面に半円を描くような動きを作った。手の動きの後から光の円環、環が現れる。
アイシャの環は基本の白く光る円環に、ネオングリーンの魔力を帯びた状態で顕現する。
そっと、現れた環の表面に指先で触れる。
「呪詛に作用させるには、どのように聖なる魔力を使えばいい?」
環を通じて世界に問いかけた。すぐに直観の形でレスポンスが返る。
――カズンも環使いなのだから彼の環に流し込めばいい。
「カズンの環を顕現。……あら、呪詛がかかってるってわかって見ると、あなたの環は今までとは違ったものに見えるわ」
「何だと?」
皆の視線がカズンの環に集まる。胸周りに出た白く光る環は、環使いの基本色だ。特に白色以外の色はない。
魔力量が少なく、魔力値が低い者の基本形態でもある。仲間内だと料理人のゲンジが同じ白色のみを持っている。
手にネオングリーンに光る聖なる魔力をぼわっと帯びさせて、アイシャはカズンの環に触れた。
手首まで中に突っ込み、そこで指先を蠢かせるような動きを少しだけ見せる。
しばらくそのままの体勢でいたが、すぐに切り上げて手を引き抜いた。
「カズンのステータスを見てみて。魔力値が点滅してるでしょ? でも」
アイシャの言う通り皆がカズンのステータスに注目する目の前で、2だった魔力値が光りながら点滅し、――3に上がった。
「おおおお!? ……お?」
だが喜びも束の間。すぐにまた2に逆戻りして、点滅も止まってしまった。
「アイシャ様。これってどういう?」
「呪詛は難しいのよ。聖なる魔力が世界と調和した力なら、呪詛は人為的な操作の極みみたいな感じ。複雑すぎるのよ。私の能力だと呪詛の解析はちょっと無理みたい」
「解析、ですか」
申し訳なさそうな顔のアイシャに鮭の人は思案げな顔になった。
ふと視線を戻すと、トオンとユーグレンがカズンの空中に表示されたステータス画面を覗き込んで何やら唸り合っている。
「……カズン様も環に目覚めたとき、呪詛が解けてればよかったのに」
ぽつりと悲しげに鮭の人が呟いている。
まったくだ、と世の中ままならないものだと皆で嘆息した。
とはいえ、ここまで判明したのならカズンの課題はかなり明確になった。
「カズンは呪詛を解くのがまず最優先だね」
親の仇を追うのも、魔力値が今の2のままより本来の10に戻ってからのほうが良いに決まっている。
「でも、時間はかかるかもだけど不可能ではないと思うよ」
と言い出したトオンに、皆の視線が集まった。
「さっきユーグレンさんとカズンのステータスや環を見てたら、呪詛の構造式らしきものが薄っすら環の中に見えてたんだ。あれが解析できたら、多分」
「呪詛は解ける……か? だがカズンの両親や王家が全力を尽くしても無理だったのに」
「でもアケロニアって魔力使いたちの旧世代の国でしょ? 俺たちは新世代の環使いなわけで。どうだい、カズンは?」
と話を振られた当事者のカズンは少し俯いている。見慣れてきた黒縁眼鏡のレンズに光が反射して黒い目が見えないが、何やら考え込んでいるようだ。
「環使いは……物事が上手くいきやすいと聞いていたが、正直僕はそこまで恩恵を感じていなかったんだ。だからあまり環の訓練も進んでなくて。でも」
「呪詛の解除がひとまずの目標だな」
「……うん」
親戚のユーグレンに軽く背中を叩かれるも、カズンはどこか元気がない。
言葉で言えば簡単だが、あまり具体的なイメージが見えていない様子だった。
「ヨシュアさん」
「ええ、アイシャ様。環の研究、本気でやりましょうね」
アイシャは鮭の人と目配せし合った。
環は確かに便利な魔法でありツールだったが、何ができるのか具体的なことは個々の術者の力量任せで、まだわからないことが多い。
今カーナ神国には聖女アイシャと大魔道士ヨシュア、二人の実力者がいる。
やれるだけのことはやる、と二人は決意を新たに頷き合った。
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