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第五章 鮭の人無双~環《リンク》覚醒ハイ進行中
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「ヨシュアさんからの美味しい鮭で、私たちがどれだけ救われたことか!」
「そのヨシュアさんがカズンを大切に思っていて、かつルシウスさんに甘えっ子な甥っ子さんだと、バッチリ皆にお知らせしておきました!」
「ちゃんとカズンとのことも込みでね」
「カズン命の人だって、もう皆知ってます!」
ぐっ、と親指を立ててトオンが良い笑顔で笑う。
わかってる。鮭の人はちゃんとわかっていた。
(か、彼女たちに悪気はまったくない。……え、これないんだよ……な?)
「……私も少しは協力させてもらった。このカーナ神国でも『ヨシュア・リーストファンクラブ』の会員数は着実に増えているぞ」
薄っすら端正な顔の頬を染めてユーグレンも嬉しそうだ。その胸元には分厚いファンクラブ会報の総集編と、この国に来てから発行された新刊を抱き締めている。
「な、なな、な……っ」
思わず鮭の人は言葉に詰まった。
何だ、何なのだこの状況は。
いきなり、ぽっと出の他国の貴族が政務顧問になることも、ましてや宰相になることも異常事態だ。
(絶対誰かがちょっと待てって突っ込んでくるって思ってたのに!)
確かに、先に叔父ルシウスが馴染んでいた国というアドバンテージはあった。
けれど確実に抵抗や批判が沸き出るものだと覚悟して、たくさんのシミュレーションを行っていたというのに全部無駄になった。
カズンはといえば、そんな絶句している幼馴染みが面白いのか、必死で笑いを堪えるも、失敗してやはり腹を抱えている。
「上層部にはもちろん伝えてたし。一般人にはほら、ルシウスさんは市井に住んでるじゃない? その辺で地元の人たちと井戸端会議するたびにヨシュアさん語りが出るわけ」
曰く、
生まれたときから一緒の可愛い可愛い甥っ子である。
食事の世話はもちろん、おむつ換えもしたし、一緒にお昼寝は当たり前。
乳離れした後は離乳食を作って食べさせもしていた。
実家に帰ったときは必ず絵本の読み聞かせをねだられたし、寝ついた可愛い寝顔を見るたびに「守ってみせる」と誓い続けてきた。
初めて「だいすき」と言われた日のことは今でも鮮明に思い出せる。思い出すだけで酒の肴になるほど。
鮭や卵料理が好き。
きのこが大嫌いだが、好きな子の前では格好つけて平気な顔して食べるところが可愛い。応援するしかない。
そして必ず最後に、
「大好きだった亡き兄の忘れ形見ヨシュアは、我、聖剣の聖者ルシウス・リーストの最愛と言っても過言ではない」
と言って締める。
その愛は重かった。ルシウスの低い美声でじっくり何度も何度も愛情たっぷりに角度を変えては語られて、いつの間にか洗脳、いや人々の心に染み込み刷り込まれていったのが彼の甥っ子の存在である。
お陰でルシウスの身近な者たちは誰もが『ルシウス最愛の甥っ子』通と化していた。
「実はさ、新聞でルシウスさんと一緒にヨシュアさんの特集も組まれた後でさ。はい」
手渡されたカーナ神国新聞(旧カーナ王国新聞)では、鮭の人の来歴が詳しく面白く網羅されていた。
なぜヨシュアが〝鮭の人〟と呼ばれるかの聖女アイシャによるエッセイ付きだ。当然、国民は皆読んだ。
情報提供者の名前にはファンクラブ会長としてユーグレン・アケロニアだけでなく、聖女アイシャやトオンの名前まである。
「新聞社の依頼で俺、ヨシュアさんを紹介する記事も書かせてもらってたんですよ」
と自慢げなのは、聖女投稿の立役者トオンだ。
もうこの時点で鮭の人は崩れ落ちそうになっていた。
「そのヨシュアさんがカズンを大切に思っていて、かつルシウスさんに甘えっ子な甥っ子さんだと、バッチリ皆にお知らせしておきました!」
「ちゃんとカズンとのことも込みでね」
「カズン命の人だって、もう皆知ってます!」
ぐっ、と親指を立ててトオンが良い笑顔で笑う。
わかってる。鮭の人はちゃんとわかっていた。
(か、彼女たちに悪気はまったくない。……え、これないんだよ……な?)
「……私も少しは協力させてもらった。このカーナ神国でも『ヨシュア・リーストファンクラブ』の会員数は着実に増えているぞ」
薄っすら端正な顔の頬を染めてユーグレンも嬉しそうだ。その胸元には分厚いファンクラブ会報の総集編と、この国に来てから発行された新刊を抱き締めている。
「な、なな、な……っ」
思わず鮭の人は言葉に詰まった。
何だ、何なのだこの状況は。
いきなり、ぽっと出の他国の貴族が政務顧問になることも、ましてや宰相になることも異常事態だ。
(絶対誰かがちょっと待てって突っ込んでくるって思ってたのに!)
確かに、先に叔父ルシウスが馴染んでいた国というアドバンテージはあった。
けれど確実に抵抗や批判が沸き出るものだと覚悟して、たくさんのシミュレーションを行っていたというのに全部無駄になった。
カズンはといえば、そんな絶句している幼馴染みが面白いのか、必死で笑いを堪えるも、失敗してやはり腹を抱えている。
「上層部にはもちろん伝えてたし。一般人にはほら、ルシウスさんは市井に住んでるじゃない? その辺で地元の人たちと井戸端会議するたびにヨシュアさん語りが出るわけ」
曰く、
生まれたときから一緒の可愛い可愛い甥っ子である。
食事の世話はもちろん、おむつ換えもしたし、一緒にお昼寝は当たり前。
乳離れした後は離乳食を作って食べさせもしていた。
実家に帰ったときは必ず絵本の読み聞かせをねだられたし、寝ついた可愛い寝顔を見るたびに「守ってみせる」と誓い続けてきた。
初めて「だいすき」と言われた日のことは今でも鮮明に思い出せる。思い出すだけで酒の肴になるほど。
鮭や卵料理が好き。
きのこが大嫌いだが、好きな子の前では格好つけて平気な顔して食べるところが可愛い。応援するしかない。
そして必ず最後に、
「大好きだった亡き兄の忘れ形見ヨシュアは、我、聖剣の聖者ルシウス・リーストの最愛と言っても過言ではない」
と言って締める。
その愛は重かった。ルシウスの低い美声でじっくり何度も何度も愛情たっぷりに角度を変えては語られて、いつの間にか洗脳、いや人々の心に染み込み刷り込まれていったのが彼の甥っ子の存在である。
お陰でルシウスの身近な者たちは誰もが『ルシウス最愛の甥っ子』通と化していた。
「実はさ、新聞でルシウスさんと一緒にヨシュアさんの特集も組まれた後でさ。はい」
手渡されたカーナ神国新聞(旧カーナ王国新聞)では、鮭の人の来歴が詳しく面白く網羅されていた。
なぜヨシュアが〝鮭の人〟と呼ばれるかの聖女アイシャによるエッセイ付きだ。当然、国民は皆読んだ。
情報提供者の名前にはファンクラブ会長としてユーグレン・アケロニアだけでなく、聖女アイシャやトオンの名前まである。
「新聞社の依頼で俺、ヨシュアさんを紹介する記事も書かせてもらってたんですよ」
と自慢げなのは、聖女投稿の立役者トオンだ。
もうこの時点で鮭の人は崩れ落ちそうになっていた。
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