上 下
271 / 292
第五章 鮭の人無双~環《リンク》覚醒ハイ進行中

7.〝しごでき〟の系譜~リースト家の男たち

しおりを挟む
 新生カーナ神国の宰相に抜擢された鮭の人はとにかくフットワークの軽い男だった。
 住居は叔父ルシウスの屋敷と、旧王城をそのまま転用した官邸に一室ずつ。

 神人ピアディの本拠地となった海上神殿ポセイディアを中心として、小さなウーパールーパーの主な活動範囲にはそれぞれを結ぶ空間転移装置が設置されている。
 その装置を利用して、設置場所である海上神殿、官邸、王都神殿、ルシウス邸、そしてトオンの古書店へと鮭の人は自由に動いていた。

 しかも、足元には彼特有の群青の魔力を帯びたリンクを常に出しながらだ。
 この国の首脳部、新宰相はリンク使いだぞと周知させるために。

 神人ピアディの大きな目の色と同じ鮮やかなウルトラマリンカラーの軍服は、彼の青銀の髪や白い肌によく映えた。
 今の首脳部でこの色をまとっているのは鮭の人だけだ。支配者ピアディの寵愛を全身で表しているともいえる。
 その姿を周囲に余すことなく見せつけ、ついでに神人ピアディと主だった国内有力者たちとの面通しをどんどん進めていった。

 かと思えば、トオンの古書店まで来ては一階の食堂でお茶を飲み、アイシャやカズンが作った菓子や軽食を摘む優雅な姿を見せている。
 アイシャやトオンはもちろん大歓迎だった。何せ実際に会う前から好感度が上に振り切れていたぐらいなので。



「ヨシュアさん。無理してない? あまり忙しいようなら私もトオンもできる限り助けになるわ」

 とアイシャが心配げに尋ねると、鮭の人は軍服のジャケットを脱いだ白いシャツ姿の両肩を軽くすくめて見せた。

「忙しそうに見えますか? アイシャ様」
「今はリラックスして見えるけど……」

 何せ彼はほぼ毎日、トオンの古書店に来ている。
 日によっては早朝から来て、厨房の主カズンと一緒に昼食を作っていたりする。
 それどころか、夕方前に食材持参で来てはやはりカズンと一緒に皆の夕飯の手伝いをしていることも多かった。

 アイシャたちが神殿やルシウス邸に赴いたときも大抵その場にいる。
 もちろん官邸や騎士団を訪れたときも、気づいたらなぜかいる。

 不思議そうなアイシャに、幼馴染みだというカズンは言う。

「アイシャ、そいつなら大丈夫だ。リースト家の人間は基本的に〝しごでき〟だからな。やることやって自由時間を確保するなんてのはお手の物だ」
「「しごでき!?」」
「仕事ができるの略だ」
「斬新な略し方するね……」

 読書家のトオンも知らなかった略し方のようで驚いている。

「ええ、〝しごでき〟です。自分で言うのもなんですが、我がリースト家の者は本家から末端の分家まで優秀ですよ。秘密、があるんです」

 秘密、のところを殊更ゆっくり声を落としてゆっくり言う鮭の人に、アイシャたちはワクワクした気分になった。
 何か、ものすごい秘せられた奥義が語られる予感がする!

「ヨシュア、そこ詳しく」

 鮭の人ファンクラブ会長のユーグレンがすかさず懐から手帳とペンを出してスタンバイした。

「リースト家の者たちの秘密はですね……」





しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と叫んだら長年の婚約者だった新妻に「気持ち悪い」と言われた上に父にも予想外の事を言われた男とその浮気女の話

ラララキヲ
恋愛
 長年の婚約者を欺いて平民女と浮気していた侯爵家長男。3年後の白い結婚での離婚を浮気女に約束して、新妻の寝室へと向かう。  初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と愛する夫から宣言された無様な女を嘲笑う為だけに。  しかし寝室に居た妻は……  希望通りの白い結婚と愛人との未来輝く生活の筈が……全てを周りに知られていた上に自分の父親である侯爵家当主から言われた言葉は──  一人の女性を蹴落として掴んだ彼らの未来は……── <【ざまぁ編】【イリーナ編】【コザック第二の人生編(ザマァ有)】となりました> ◇テンプレ浮気クソ男女。 ◇軽い触れ合い表現があるのでR15に ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇ご都合展開。矛盾は察して下さい… ◇なろうにも上げてます。 ※HOTランキング入り(1位)!?[恋愛::3位]ありがとうございます!恐縮です!期待に添えればよいのですがッ!!(;><)

悪役令嬢の去った後、残された物は

たぬまる
恋愛
公爵令嬢シルビアが誕生パーティーで断罪され追放される。 シルビアは喜び去って行き 残された者達に不幸が降り注ぐ 気分転換に短編を書いてみました。

破壊のオデット

真義あさひ
恋愛
麗しのリースト伯爵令嬢オデットは、その美貌を狙われ、奴隷商人に拐われる。 他国でオークションにかけられ純潔を穢されるというまさにそのとき、魔法の大家だった実家の秘術「魔法樹脂」が発動し、透明な樹脂の中に封じ込められ貞操の危機を逃れた。 それから百年後。 魔法樹脂が解凍され、親しい者が誰もいなくなった時代に麗しのオデットは復活する。 そして学園に復学したオデットには生徒たちからの虐めという過酷な体験が待っていた。 しかしオデットは負けずに立ち向かう。 ※思春期の女の子たちの、ほんのり百合要素あり。 「王弟カズンの冒険前夜」のその後、 「聖女投稿」第一章から第二章の間に起こった出来事です。

〖完結〗私は旦那様には必要ないようですので国へ帰ります。

藍川みいな
恋愛
辺境伯のセバス・ブライト侯爵に嫁いだミーシャは優秀な聖女だった。セバスに嫁いで3年、セバスは愛人を次から次へと作り、やりたい放題だった。 そんなセバスに我慢の限界を迎え、離縁する事を決意したミーシャ。 私がいなければ、あなたはおしまいです。 国境を無事に守れていたのは、聖女ミーシャのおかげだった。ミーシャが守るのをやめた時、セバスは破滅する事になる…。 設定はゆるゆるです。 本編8話で完結になります。

断罪されたので、私の過去を皆様に追体験していただきましょうか。

下菊みこと
恋愛
悪役令嬢が真実を白日の下に晒す最高の機会を得たお話。 小説家になろう様でも投稿しています。

【完結】公爵令嬢は、婚約破棄をあっさり受け入れる

櫻井みこと
恋愛
突然、婚約破棄を言い渡された。 彼は社交辞令を真に受けて、自分が愛されていて、そのために私が必死に努力をしているのだと勘違いしていたらしい。 だから泣いて縋ると思っていたらしいですが、それはあり得ません。 私が王妃になるのは確定。その相手がたまたま、あなただった。それだけです。 またまた軽率に短編。 一話…マリエ視点 二話…婚約者視点 三話…子爵令嬢視点 四話…第二王子視点 五話…マリエ視点 六話…兄視点 ※全六話で完結しました。馬鹿すぎる王子にご注意ください。 スピンオフ始めました。 「追放された聖女が隣国の腹黒公爵を頼ったら、国がなくなってしまいました」連載中!

あなたをかばって顔に傷を負ったら婚約破棄ですか、なおその後

アソビのココロ
恋愛
「その顔では抱けんのだ。わかるかシンシア」 侯爵令嬢シンシアは婚約者であるバーナビー王太子を暴漢から救ったが、その際顔に大ケガを負ってしまい、婚約破棄された。身軽になったシンシアは冒険者を志して辺境へ行く。そこに出会いがあった。

断罪された公爵令嬢に手を差し伸べたのは、私の婚約者でした

カレイ
恋愛
 子爵令嬢に陥れられ第二王子から婚約破棄を告げられたアンジェリカ公爵令嬢。第二王子が断罪しようとするも、証拠を突きつけて見事彼女の冤罪を晴らす男が現れた。男は公爵令嬢に跪き…… 「この機会絶対に逃しません。ずっと前から貴方をお慕いしていましたんです。私と婚約して下さい!」     ええっ!あなた私の婚約者ですよね!?

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。