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第五章 鮭の人無双~環《リンク》覚醒ハイ進行中
公開制裁、閉幕
しおりを挟む「追加、お待たせしましたー」
有能なスタッフことダークスーツ姿の秘書ユキレラが、追加の飯マズコーヒー入りポットを持って軽快な足取りで舞台に上がってきた。
空になった『ふつうにコーヒーを飲めてしまった者』の大カップに、再びなみなみとコーヒーが注がれていく。
反省しなかったことが露呈した八名は、渋々、嫌々、諦め、様々な態度でコーヒーを飲んでいった。
その間、鮭の人は再び回収した神人ピアディとのトークで間を保たせた。
「ピアディ様。『美味しいごはんを食べられなくする』とは、彼らの味覚を遮断したということでしょうか?」
「ぷぅ(いかにも。でもねでもね、〝おいしい〟は味覚のみにあらずなのだ)」
「まあそうですよね。味は味覚ですが、匂いや香りは嗅覚。コーヒーの匂いは好きな人には堪りませんよね。口に入れたときの舌触りは……触覚ですかね?」
「ぷぅ(そういうことなのだ~)」
「そういうことですか~」
どういうことだ!? と観客たちの思いが一つになった頃、罪人たちが一通りコーヒーを飲み終わった。
全量飲みきれなかったのは、新たに反省した者たちだ。
結果、二名が飯マズに反応して、しっかり反省したことが判明し、これ以上の制裁から逃れることができたのだった。
残り六名はふつうにコーヒーが飲めてしまった。まったく、何も反省せず、むしろ聖女アイシャを逆恨みしている者と思われる。
「さて、諸君は神人ピアディの罰を受けて、飲食に関わる五感の能力が剥奪されている。解除方法は簡単だ。『反省せよ』それのみ」
「ぷぅ(すこしは聖女ねえやに悪いと思わなかったのだ? すこーしも?)」
まだ幼い神人ピアディは不思議そうだった。なんでこんなに頑固なのかと小さな頭を傾げている。
鮭の人は、更に追加でカップ一杯分を注がせ飲ませたのだが、反省せぬ者六名はやはりふつうに飲んでしまっていた。
もはや呆れて、途中で飲むのを止めさせた。
「これ以上はキリがないですね。ひとまず締めましょうか」
パン、と手を打った鮭の人の合図で、アイシャたちは顔を見合わせ、頷いた。
反省したと思しき七名はスタッフに連れられて退場だ。この後は無罪放免となり、帰宅が許される。
残って晒し者になったのは『反省ゼロ』の六名だった。
女性一名、男性五名。全員が貴族籍にあった者たちで、平民出身の聖女アイシャを見下していた者たちである。
彼らも同じように無罪放免となる。
だが反省しなかったことが誰の目にも明らかとなり、神人ピアディのお仕置きで味覚を始めとした飲食に関わる五感を奪われたまま。
あのトラウマ級のトオンのコーヒーすら、普通に飲めてしまったのだ。今後本当に反省するまでは、どんな美味も味わえなくなる。
味も、匂いも、食感も。
現時点では飲み物のコーヒーをするする味のない水のように飲めてしまっただけだ。彼らはまだ神人ピアディが与えた罰の、本当の辛さに気づいていない。
「ぷぅ?(あのねあのね。ちょっとでも聖女ねえやにおわびするきもちがあれば、すぐ元どおりになるのだぞ?)」
「ピアディ様。もうそれ以上の気遣いは不要かと」
残った六名は身を縮めているが、同情の余地はなかった。
「それではこれにて、公開制裁は閉幕と致します。事の顛末は明日の新聞の……えっ、本日号外を出す? ……だそうです。号外は大通りで配布、明日の朝刊にも同じ内容が掲載されるそうなので見逃しはなさそうですね」
重要事項のアナウンスの後、閉幕、解散となったのだった。
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