婚約破棄で捨てられ聖女の私の虐げられ実態が知らないところで新聞投稿されてたんだけど~聖女投稿~

真義あさひ

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第五章 鮭の人無双~環《リンク》覚醒ハイ進行中

大カップになみなみと飯マズコーヒー

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「今回、罪人たちには各自でコーヒーを飲むカップのサイズを選んでもらいます。大中小どのサイズでも構いません」

 いざ、以前から話していた、罪人たちにカップを選ばせる段になった。
 試飲した人々が舞台の下で飯マズコーヒーの苦痛に呻く姿は、罪人たちを震え上がらせるには充分だった。
 十三名全員の手が、ブルブル小刻みに震えながら小さなカップに伸びたが……

「違うだろう、お前たち! コーヒーを一杯飲むだけで聖女様を虐めた罪が無罪放免なんだぞ!?」

 観客の中から一際鋭い声が上がった。
 そう。今回の公開制裁はそのように事前告知がなされている。
 甘すぎると憤慨した者も多かったが、試飲の様子を見る限り、厳しい制裁だと短い時間で観客たちは理解している。

「誠意を見せろ! 大カップだ」
「「「大カップ! 大カップ!」」」

 大方の予想通り、観客からの大カップコールだ。
 どの罪人も顔を顰めていたが、数の圧力には勝てない。
 結果、全員が大カップを選ばざるを得なかった。

「………………」

 アイシャたちは鮭の人のいる壇とは反対側の、舞台の向かって左側の席からその光景を見守ることになった。
 主賓ともいえる聖女アイシャを中心に、舞台奥側にルシウス、観客側にユーグレンだ。
 三人とも無言で罪人たちを見つめていた。

 スタッフからカップになみなみと注がれる、トオンのあのコーヒー。
 湯気が上がっている。ホットだ。暑くても、アイス用に冷ましても、飯マズは飯マズのままと以前実験の折に確認済みだった。

 恐る恐るカップに口を付けた、かつての侍女の一人が固まった。他の罪人たちも続いたが、やはり同様に一口、口に入れるなり硬直している。

 そのまま数分が経過した。
 我を取り戻した罪人たちが、震えながら持っていたカップにまた口を近づけるも、何度も躊躇っては動きが止まる。
 だが、飲まない限りこの見せしめは終わらない。
 観客たちの熱気と怒号もとどまるところを知らなかった。

 また一口。固まる。時間をかけて、また次の一口。硬直し、そのたびに観客から「止まるな、飲み干せ!」と叫ばれる。

「………………」

 何とも酷い光景だった。
 だが、旧王城でアイシャはこの何倍も、そして長期間に渡って彼らに汚染された飲食を強要され、嗤われていた。それもまた、事実だった。



「アイシャ。大丈夫か」

 左からルシウスの大きく温かな手が、膝の上でかすかに震えていたアイシャの小さな手の上にそっと置かれた。
 季節は六月下旬、暑い日も増えてきた頃だが、アイシャの手は冷たい。

「無理はせずとも良いと思う。退席するか?」

 反対側からユーグレンも、腕にかすかに触れて心配する声をかけてくる。
 だがアイシャは小さく首を振った。

 大丈夫、と示すように二人それぞれの手に軽く触れてから、おもむろに立ち上がった。

 舞台の右端、鮭の人のいる壇の奥に控えているトオンとカズンの姿が目に入った。やはりどちらも心配そうな顔でこちらを見ている。
 彼らに向けて、頷いて見せた。

(大丈夫。心配は要らないわ)



「もう結構。そこまで」

 ハッと罪人たちがコーヒーを飲む手を止めた。
 カップの中のコーヒーはどれも、半分以上残っている。この時点で全部飲みきった者は一人もいなかった。

 しん、と会場内は静まり返った。誰もが聖女アイシャの言葉を待っている。

 アイシャは罪人たちに近づこうとしたが、それは彼らを監視する騎士たちに止められた。仕方ないので席の前に立ったまま話すことにする。

「旧王国時代、私がクーツ王太子の婚約者だった頃。最初は王城滞在時の食事が、私のものだけ不自然に冷めていた。それが始まりでした」

 罪人たちから受けた仕打ちを語ることは、最初から決めていたことだ。

「王族や貴族たちとの会食の場でね。そのうち、料理は見るからに残り物の古い傷んだものになって、やがて腐った食材が混ざり、しまいには髪の毛や、ゴミらしきものまで入るようになった」

 罪人たちは皆、カップを握り締めたまま俯いている。全員、何かしら思い当たることがあるはずだ。

「その汚された食事を、最初は無理して食べていました。もちろんすべてではありません。ほんの一口か二口かをこっそり清浄魔法クリーンをかけて、水で胃の中に流し込んでましたね。食事の量が少ない私を、国王や王妃は心配してくれることもありましたが、クーツや彼の取り巻きたちは殊更あげつらって馬鹿にしていた。その光景を、皆さんはおかしそうに笑って見ていましたね」

 それらの出来事のいくつかは、かつての新聞記事『聖女投稿』でアイシャ自身のメモ書きとして皆が知っていた。



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