254 / 306
第五章 鮭の人無双~環《リンク》覚醒ハイ進行中
大カップになみなみと飯マズコーヒー
しおりを挟む
「今回、罪人たちには各自でコーヒーを飲むカップのサイズを選んでもらいます。大中小どのサイズでも構いません」
いざ、以前から話していた、罪人たちにカップを選ばせる段になった。
試飲した人々が舞台の下で飯マズコーヒーの苦痛に呻く姿は、罪人たちを震え上がらせるには充分だった。
十三名全員の手が、ブルブル小刻みに震えながら小さなカップに伸びたが……
「違うだろう、お前たち! コーヒーを一杯飲むだけで聖女様を虐めた罪が無罪放免なんだぞ!?」
観客の中から一際鋭い声が上がった。
そう。今回の公開制裁はそのように事前告知がなされている。
甘すぎると憤慨した者も多かったが、試飲の様子を見る限り、厳しい制裁だと短い時間で観客たちは理解している。
「誠意を見せろ! 大カップだ」
「「「大カップ! 大カップ!」」」
大方の予想通り、観客からの大カップコールだ。
どの罪人も顔を顰めていたが、数の圧力には勝てない。
結果、全員が大カップを選ばざるを得なかった。
「………………」
アイシャたちは鮭の人のいる壇とは反対側の、舞台の向かって左側の席からその光景を見守ることになった。
主賓ともいえる聖女アイシャを中心に、舞台奥側にルシウス、観客側にユーグレンだ。
三人とも無言で罪人たちを見つめていた。
スタッフからカップになみなみと注がれる、トオンのあのコーヒー。
湯気が上がっている。ホットだ。暑くても、アイス用に冷ましても、飯マズは飯マズのままと以前実験の折に確認済みだった。
恐る恐るカップに口を付けた、かつての侍女の一人が固まった。他の罪人たちも続いたが、やはり同様に一口、口に入れるなり硬直している。
そのまま数分が経過した。
我を取り戻した罪人たちが、震えながら持っていたカップにまた口を近づけるも、何度も躊躇っては動きが止まる。
だが、飲まない限りこの見せしめは終わらない。
観客たちの熱気と怒号もとどまるところを知らなかった。
また一口。固まる。時間をかけて、また次の一口。硬直し、そのたびに観客から「止まるな、飲み干せ!」と叫ばれる。
「………………」
何とも酷い光景だった。
だが、旧王城でアイシャはこの何倍も、そして長期間に渡って彼らに汚染された飲食を強要され、嗤われていた。それもまた、事実だった。
「アイシャ。大丈夫か」
左からルシウスの大きく温かな手が、膝の上でかすかに震えていたアイシャの小さな手の上にそっと置かれた。
季節は六月下旬、暑い日も増えてきた頃だが、アイシャの手は冷たい。
「無理はせずとも良いと思う。退席するか?」
反対側からユーグレンも、腕にかすかに触れて心配する声をかけてくる。
だがアイシャは小さく首を振った。
大丈夫、と示すように二人それぞれの手に軽く触れてから、おもむろに立ち上がった。
舞台の右端、鮭の人のいる壇の奥に控えているトオンとカズンの姿が目に入った。やはりどちらも心配そうな顔でこちらを見ている。
彼らに向けて、頷いて見せた。
(大丈夫。心配は要らないわ)
「もう結構。そこまで」
ハッと罪人たちがコーヒーを飲む手を止めた。
カップの中のコーヒーはどれも、半分以上残っている。この時点で全部飲みきった者は一人もいなかった。
しん、と会場内は静まり返った。誰もが聖女アイシャの言葉を待っている。
アイシャは罪人たちに近づこうとしたが、それは彼らを監視する騎士たちに止められた。仕方ないので席の前に立ったまま話すことにする。
「旧王国時代、私がクーツ王太子の婚約者だった頃。最初は王城滞在時の食事が、私のものだけ不自然に冷めていた。それが始まりでした」
罪人たちから受けた仕打ちを語ることは、最初から決めていたことだ。
「王族や貴族たちとの会食の場でね。そのうち、料理は見るからに残り物の古い傷んだものになって、やがて腐った食材が混ざり、しまいには髪の毛や、ゴミらしきものまで入るようになった」
罪人たちは皆、カップを握り締めたまま俯いている。全員、何かしら思い当たることがあるはずだ。
「その汚された食事を、最初は無理して食べていました。もちろんすべてではありません。ほんの一口か二口かをこっそり清浄魔法をかけて、水で胃の中に流し込んでましたね。食事の量が少ない私を、国王や王妃は心配してくれることもありましたが、クーツや彼の取り巻きたちは殊更あげつらって馬鹿にしていた。その光景を、皆さんはおかしそうに笑って見ていましたね」
それらの出来事のいくつかは、かつての新聞記事『聖女投稿』でアイシャ自身のメモ書きとして皆が知っていた。
いざ、以前から話していた、罪人たちにカップを選ばせる段になった。
試飲した人々が舞台の下で飯マズコーヒーの苦痛に呻く姿は、罪人たちを震え上がらせるには充分だった。
十三名全員の手が、ブルブル小刻みに震えながら小さなカップに伸びたが……
「違うだろう、お前たち! コーヒーを一杯飲むだけで聖女様を虐めた罪が無罪放免なんだぞ!?」
観客の中から一際鋭い声が上がった。
そう。今回の公開制裁はそのように事前告知がなされている。
甘すぎると憤慨した者も多かったが、試飲の様子を見る限り、厳しい制裁だと短い時間で観客たちは理解している。
「誠意を見せろ! 大カップだ」
「「「大カップ! 大カップ!」」」
大方の予想通り、観客からの大カップコールだ。
どの罪人も顔を顰めていたが、数の圧力には勝てない。
結果、全員が大カップを選ばざるを得なかった。
「………………」
アイシャたちは鮭の人のいる壇とは反対側の、舞台の向かって左側の席からその光景を見守ることになった。
主賓ともいえる聖女アイシャを中心に、舞台奥側にルシウス、観客側にユーグレンだ。
三人とも無言で罪人たちを見つめていた。
スタッフからカップになみなみと注がれる、トオンのあのコーヒー。
湯気が上がっている。ホットだ。暑くても、アイス用に冷ましても、飯マズは飯マズのままと以前実験の折に確認済みだった。
恐る恐るカップに口を付けた、かつての侍女の一人が固まった。他の罪人たちも続いたが、やはり同様に一口、口に入れるなり硬直している。
そのまま数分が経過した。
我を取り戻した罪人たちが、震えながら持っていたカップにまた口を近づけるも、何度も躊躇っては動きが止まる。
だが、飲まない限りこの見せしめは終わらない。
観客たちの熱気と怒号もとどまるところを知らなかった。
また一口。固まる。時間をかけて、また次の一口。硬直し、そのたびに観客から「止まるな、飲み干せ!」と叫ばれる。
「………………」
何とも酷い光景だった。
だが、旧王城でアイシャはこの何倍も、そして長期間に渡って彼らに汚染された飲食を強要され、嗤われていた。それもまた、事実だった。
「アイシャ。大丈夫か」
左からルシウスの大きく温かな手が、膝の上でかすかに震えていたアイシャの小さな手の上にそっと置かれた。
季節は六月下旬、暑い日も増えてきた頃だが、アイシャの手は冷たい。
「無理はせずとも良いと思う。退席するか?」
反対側からユーグレンも、腕にかすかに触れて心配する声をかけてくる。
だがアイシャは小さく首を振った。
大丈夫、と示すように二人それぞれの手に軽く触れてから、おもむろに立ち上がった。
舞台の右端、鮭の人のいる壇の奥に控えているトオンとカズンの姿が目に入った。やはりどちらも心配そうな顔でこちらを見ている。
彼らに向けて、頷いて見せた。
(大丈夫。心配は要らないわ)
「もう結構。そこまで」
ハッと罪人たちがコーヒーを飲む手を止めた。
カップの中のコーヒーはどれも、半分以上残っている。この時点で全部飲みきった者は一人もいなかった。
しん、と会場内は静まり返った。誰もが聖女アイシャの言葉を待っている。
アイシャは罪人たちに近づこうとしたが、それは彼らを監視する騎士たちに止められた。仕方ないので席の前に立ったまま話すことにする。
「旧王国時代、私がクーツ王太子の婚約者だった頃。最初は王城滞在時の食事が、私のものだけ不自然に冷めていた。それが始まりでした」
罪人たちから受けた仕打ちを語ることは、最初から決めていたことだ。
「王族や貴族たちとの会食の場でね。そのうち、料理は見るからに残り物の古い傷んだものになって、やがて腐った食材が混ざり、しまいには髪の毛や、ゴミらしきものまで入るようになった」
罪人たちは皆、カップを握り締めたまま俯いている。全員、何かしら思い当たることがあるはずだ。
「その汚された食事を、最初は無理して食べていました。もちろんすべてではありません。ほんの一口か二口かをこっそり清浄魔法をかけて、水で胃の中に流し込んでましたね。食事の量が少ない私を、国王や王妃は心配してくれることもありましたが、クーツや彼の取り巻きたちは殊更あげつらって馬鹿にしていた。その光景を、皆さんはおかしそうに笑って見ていましたね」
それらの出来事のいくつかは、かつての新聞記事『聖女投稿』でアイシャ自身のメモ書きとして皆が知っていた。
7
あなたにおすすめの小説
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。
なぜ、私に関係あるのかしら?
シエル
ファンタジー
「初めまして、アシュフォード公爵家一女、セシリア・アシュフォードと申します」
彼女は、つい先日までこの国の王太子殿下の婚約者だった。
そして今日、このトレヴァント辺境伯家へと嫁いできた。
「…レオンハルト・トレヴァントだ」
非道にも自らの実妹を長年にわたり虐げ、婚約者以外の男との不適切な関係を理由に、王太子妃に不適格とされ、貴族学院の卒業式で婚約破棄を宣告された。
そして、新たな婚約者として、その妹が王太子本人から指名されたのだった。
「私は君と夫婦になるつもりはないし、辺境伯夫人として扱うこともない」
この判断によって、どうなるかなども考えずに…
※ 中世ヨーロッパ風の世界観です。
※ ご都合主義ですので、ご了承下さい、
※ 画像はAIにて作成しております
公爵令嬢は結婚式当日に死んだ
白雲八鈴
恋愛
今日はとある公爵令嬢の結婚式だ。幸せいっぱいの公爵令嬢の前に婚約者のレイモンドが現れる。
「今日の結婚式は俺と番であるナタリーの結婚式に変更だ!そのドレスをナタリーに渡せ!」
突然のことに公爵令嬢は何を言われたのか理解できなかった。いや、したくなかった。
婚約者のレイモンドは番という運命に出逢ってしまったという。
そして、真っ白な花嫁衣装を脱がされ、そのドレスは番だという女性に着させられる。周りの者達はめでたいと大喜びだ。
その場所に居ることが出来ず公爵令嬢は外に飛び出し……
生まれ変わった令嬢は復讐を誓ったのだった。
婚約者とその番という女性に
『一発ぐらい思いっきり殴ってもいいですわね?』
そして、つがいという者に囚われた者の存在が現れる。
*タグ注意
*不快であれば閉じてください。
白い結婚の末、離婚を選んだ公爵夫人は二度と戻らない』
鍛高譚
恋愛
白い結婚の末、「白い結婚」の末、私は冷遇され、夫は愛人を溺愛していた――ならば、もう要らないわ」
公爵令嬢 ジェニファー・ランカスター は、王弟 エドワード・クラレンス公爵 のもとへ政略結婚として嫁ぐ。
だが、その結婚生活は冷たく空虚なものだった。夫は愛人 ローザ・フィッツジェラルド に夢中になり、公爵夫人であるジェニファーは侮辱され、無視され続ける日々。
――それでも、貴族の娘は耐えなければならないの?
何の愛もなく、ただ飾り物として扱われる結婚に見切りをつけたジェニファーは 「離婚」 を決意する。
しかし、王弟であるエドワードとの離婚は容易ではない。実家のランカスター家は猛反対し、王宮の重臣たちも彼女の決断を 「公爵家の恥」 と揶揄する。
それでも、ジェニファーは負けない。弁護士と協力し、着々と準備を進めていく。
そんな折、彼女は北方の大国 ヴォルフ公国の大公、アレクサンダー・ヴォルフ と出会う。
温かく誠実な彼との交流を通じて、ジェニファーは 「本当に大切にされること」 を知る。
そして、彼女の決断は、王都の社交界に大きな波紋を呼ぶこととなる――。
「公爵夫人を手放したことを、いつか後悔しても遅いわ」
「私はもう、あなたたちの飾り人形じゃない」
離婚を巡る策略、愛人の凋落、元夫の後悔――。
そして、新たな地で手にした 「愛される結婚」。
わたくしがお父様に疎まれている?いいえ、目に入れても痛くない程溺愛されております。
織り子
ファンタジー
王国貴族院の卒業記念パーティーの場で、大公家の令嬢ルクレツィア・アーヴェントは王太子エドワードから突然の婚約破棄を告げられる。
父であるアーヴェント大公に疎まれている――
噂を知った王太子は、彼女を公衆の面前で侮辱する。
『スキルなし』だからと婚約を破棄されましたので、あなたに差し上げたスキルは返してもらいます
七辻ゆゆ
恋愛
「アナエル! 君との婚約を破棄する。もともと我々の婚約には疑問があった。王太子でありスキル『完全結界』を持つこの私が、スキルを持たない君を妻にするなどあり得ないことだ」
「では、そのスキルはお返し頂きます」
殿下の持つスキル『完全結界』は、もともとわたくしが差し上げたものです。いつも、信じてくださいませんでしたね。
(※別の場所で公開していた話を手直ししています)
【完結】氷の令嬢は愛を請わない - 捨て子の『義妹』に愛も家族も奪われたマリーローズの逆襲
恋せよ恋
恋愛
銀髪紫眼の美貌の侯爵令嬢、マリーローズ。
完璧な淑女に育った彼女だったが、母は捨て子ジュリエットを寵愛。
婚約者の公爵家嫡男アレックスも、友人も、次々に奪われる――。
家族に裏切られ、すべてを失った彼女が下した決断は、
家族を見かぎり、国を捨て、自らの人生を取り戻すこと。
理不尽な悲恋を力に変え、運命をひっくり返す令嬢の逆転劇!
🔶登場人物・設定は筆者の創作によるものです。
🔶不快に感じられる表現がありましたらお詫び申し上げます。
🔶誤字脱字・文の調整は、投稿後にも随時行います。
🔶今後もこの世界観で物語を続けてまいります。
🔶 『エール📣』『いいね❤️』励みになります!
五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~
放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」
大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。
生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。
しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。
「すまない。私は父としての責任を果たす」
かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。
だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。
これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。