250 / 302
第五章 鮭の人無双~環《リンク》覚醒ハイ進行中
三つのコーヒーカップ
しおりを挟む
「『聖女アイシャの聖女投稿事件』は他国人だったオレにも衝撃的でしたよ。聖女の虐待だなんてありえない大事件でした。当然、この国の人々にとってはもっと辛かったでしょうね」
アイシャとトオンが、聖者ビクトリノに派遣されてきた魔術師カズンの助けを借りて旧王都地下の邪悪な古代生物を浄化した後。
元々王家の非人道的な在り方に疑問を抱いていた当時のベルトラン宰相を中心に、速やかに王国解体のための共和政実現会議が組織された。
そしてそれまで新聞に投稿された『聖女投稿』の記事を元に実態調査を本格的に開始。聖女アイシャを虐げ被害を与えた者たちを捕らえて収監していった。
「待って。その話は私たちも聞いてるけど、でもほとんどの人たちは反省して、罰金刑や労働刑での償いを終えているって」
慌てるアイシャに、「ああ……」とカズンとユーグレンから納得したような嘆息が漏れた。
「反省しなかった連中が残ったのだな」
「十三名だって? 多いのか少ないのか、判断に迷うところだ」
「え? え?」
ゴリ……ゴリゴリ、……ガリッ
よくわからず混乱するアイシャに、トオンも眉間に皺を寄せて難しい顔をしている。コーヒー豆を挽く音もちょっと乱れがちだ。
「そんな。あの事件からもう一年以上が経ってるのよ? まだ牢に入ってる人たちがいたの!?」
「いたんですよ。全員、元々アイシャ様が嫌いで気に食わないとか、死んだ国王や王太子らの命令だったとか責任転嫁して反省の様子ゼロ。だから牢から出せないんですよね」
「そう……でしたか……」
「法務部でも処遇をどうするか結論がつかなかったそうなんです」
人数は男女十三名。まだ聖女投稿事件は解決していなかったということだ。
だが、鮭の人はアイシャを落ち込ませたままではいさせてくれなかった。
「囚人のままにしておいても余計な費用がかかるばかりなので、トオン君のコーヒーが良い刺激になりました。『反省するまで毎日このコーヒーを飲ませる』と伝えたら、全員必死で自供と弁解をし始めたので」
「……それでどうなったんです?」
ゴリ……、とさすがにミルのハンドルを回す手を止めてトオンが訊いた。
「アイシャ様の前でコーヒーを一杯飲みきれたら牢から出すことにしました。後は罪状によって罰金か奉仕労働で償ってもらいましょう」
言って、鮭の人はまたトン、と爪先で床付近にある自分の環を叩いた。
ポン、ポン、ポン、と三連続で飛び出してきたのはコーヒーカップである。
三脚のコーヒーカップが木のテーブルの上に素早く並べられた。
「大中小、三つのサイズどれを使おうかなあって。アイシャ様、どうされます?」
「……うっ」
思わずアイシャは言葉に詰まった。
一番小さなコーヒーカップは、ティーカップサイズのものだ。白磁で薄く、持ち手も華奢な高級カップである。
中サイズはここ古書店の食堂でも使っているマグカップと同じサイズだった。一般的に最も流通している大きさである。
一番大きなサイズが問題だった。
中サイズの三倍はある。素朴な陶器に緑の釉薬がかかったそれは、手作り風のマグカップだ。
サイズ感的に、陶器製のビアジョッキといっても通るサイズである。
「あっ、こ、これは!」
「ふふ、懐かしいでしょ、カズン様」
黒い目を輝かせてカズンが大きなマグカップを取った。
「それは何か曰くがあるのか? カズン」
「これはアケロニアの王都で人気の喫茶店が使ってた手作りカップだ。店主の趣味が陶芸でな。微妙に一つ一つ形が違うんだ」
懐かしげにカップを撫でる。表面の少しざらざらした感触も、よく通っていた学生時代の記憶のままだった。
「カズン様はコーヒーがお好きでしたから。大容量で専門店の焙煎コーヒーが飲めるお店がお気に入りだったんです」
「なるほどー」
その店で購入したカップらしい。
「……馬鹿者、こんなサイズでコーヒーなど飲み過ぎだ!」
「休日の昼間、読みかけの本を抱えて端っこの席でまったりするのが僕の至福だったのだ!」
「もちろんオレもお供してました。店主の奥様お手製のチョコレートケーキ、美味しかったですよねえ」
ユーグレンは叱ったが、カズンと鮭の人は地元ネタで盛り上がっている。
※そろそろタグに「逆飯テロ」でも追加しておくか……と思ったらタグの空きがなかったでござる。何を削るか。ハッピーエンド……イケオジ……(削っちゃだめなやつ)
アイシャとトオンが、聖者ビクトリノに派遣されてきた魔術師カズンの助けを借りて旧王都地下の邪悪な古代生物を浄化した後。
元々王家の非人道的な在り方に疑問を抱いていた当時のベルトラン宰相を中心に、速やかに王国解体のための共和政実現会議が組織された。
そしてそれまで新聞に投稿された『聖女投稿』の記事を元に実態調査を本格的に開始。聖女アイシャを虐げ被害を与えた者たちを捕らえて収監していった。
「待って。その話は私たちも聞いてるけど、でもほとんどの人たちは反省して、罰金刑や労働刑での償いを終えているって」
慌てるアイシャに、「ああ……」とカズンとユーグレンから納得したような嘆息が漏れた。
「反省しなかった連中が残ったのだな」
「十三名だって? 多いのか少ないのか、判断に迷うところだ」
「え? え?」
ゴリ……ゴリゴリ、……ガリッ
よくわからず混乱するアイシャに、トオンも眉間に皺を寄せて難しい顔をしている。コーヒー豆を挽く音もちょっと乱れがちだ。
「そんな。あの事件からもう一年以上が経ってるのよ? まだ牢に入ってる人たちがいたの!?」
「いたんですよ。全員、元々アイシャ様が嫌いで気に食わないとか、死んだ国王や王太子らの命令だったとか責任転嫁して反省の様子ゼロ。だから牢から出せないんですよね」
「そう……でしたか……」
「法務部でも処遇をどうするか結論がつかなかったそうなんです」
人数は男女十三名。まだ聖女投稿事件は解決していなかったということだ。
だが、鮭の人はアイシャを落ち込ませたままではいさせてくれなかった。
「囚人のままにしておいても余計な費用がかかるばかりなので、トオン君のコーヒーが良い刺激になりました。『反省するまで毎日このコーヒーを飲ませる』と伝えたら、全員必死で自供と弁解をし始めたので」
「……それでどうなったんです?」
ゴリ……、とさすがにミルのハンドルを回す手を止めてトオンが訊いた。
「アイシャ様の前でコーヒーを一杯飲みきれたら牢から出すことにしました。後は罪状によって罰金か奉仕労働で償ってもらいましょう」
言って、鮭の人はまたトン、と爪先で床付近にある自分の環を叩いた。
ポン、ポン、ポン、と三連続で飛び出してきたのはコーヒーカップである。
三脚のコーヒーカップが木のテーブルの上に素早く並べられた。
「大中小、三つのサイズどれを使おうかなあって。アイシャ様、どうされます?」
「……うっ」
思わずアイシャは言葉に詰まった。
一番小さなコーヒーカップは、ティーカップサイズのものだ。白磁で薄く、持ち手も華奢な高級カップである。
中サイズはここ古書店の食堂でも使っているマグカップと同じサイズだった。一般的に最も流通している大きさである。
一番大きなサイズが問題だった。
中サイズの三倍はある。素朴な陶器に緑の釉薬がかかったそれは、手作り風のマグカップだ。
サイズ感的に、陶器製のビアジョッキといっても通るサイズである。
「あっ、こ、これは!」
「ふふ、懐かしいでしょ、カズン様」
黒い目を輝かせてカズンが大きなマグカップを取った。
「それは何か曰くがあるのか? カズン」
「これはアケロニアの王都で人気の喫茶店が使ってた手作りカップだ。店主の趣味が陶芸でな。微妙に一つ一つ形が違うんだ」
懐かしげにカップを撫でる。表面の少しざらざらした感触も、よく通っていた学生時代の記憶のままだった。
「カズン様はコーヒーがお好きでしたから。大容量で専門店の焙煎コーヒーが飲めるお店がお気に入りだったんです」
「なるほどー」
その店で購入したカップらしい。
「……馬鹿者、こんなサイズでコーヒーなど飲み過ぎだ!」
「休日の昼間、読みかけの本を抱えて端っこの席でまったりするのが僕の至福だったのだ!」
「もちろんオレもお供してました。店主の奥様お手製のチョコレートケーキ、美味しかったですよねえ」
ユーグレンは叱ったが、カズンと鮭の人は地元ネタで盛り上がっている。
※そろそろタグに「逆飯テロ」でも追加しておくか……と思ったらタグの空きがなかったでござる。何を削るか。ハッピーエンド……イケオジ……(削っちゃだめなやつ)
9
お気に入りに追加
3,933
あなたにおすすめの小説
政略より愛を選んだ結婚。~後悔は十年後にやってきた。~
つくも茄子
恋愛
幼い頃からの婚約者であった侯爵令嬢との婚約を解消して、学生時代からの恋人と結婚した王太子殿下。
政略よりも愛を選んだ生活は思っていたのとは違っていた。「お幸せに」と微笑んだ元婚約者。結婚によって去っていた側近達。愛する妻の妃教育がままならない中での出産。世継ぎの王子の誕生を望んだものの産まれたのは王女だった。妻に瓜二つの娘は可愛い。無邪気な娘は欲望のままに動く。断罪の時、全てが明らかになった。王太子の思い描いていた未来は元から無かったものだった。後悔は続く。どこから間違っていたのか。
他サイトにも公開中。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
〖完結〗私は旦那様には必要ないようですので国へ帰ります。
藍川みいな
恋愛
辺境伯のセバス・ブライト侯爵に嫁いだミーシャは優秀な聖女だった。セバスに嫁いで3年、セバスは愛人を次から次へと作り、やりたい放題だった。
そんなセバスに我慢の限界を迎え、離縁する事を決意したミーシャ。
私がいなければ、あなたはおしまいです。
国境を無事に守れていたのは、聖女ミーシャのおかげだった。ミーシャが守るのをやめた時、セバスは破滅する事になる…。
設定はゆるゆるです。
本編8話で完結になります。
【完結】「私は善意に殺された」
まほりろ
恋愛
筆頭公爵家の娘である私が、母親は身分が低い王太子殿下の後ろ盾になるため、彼の婚約者になるのは自然な流れだった。
誰もが私が王太子妃になると信じて疑わなかった。
私も殿下と婚約してから一度も、彼との結婚を疑ったことはない。
だが殿下が病に倒れ、その治療のため異世界から聖女が召喚され二人が愛し合ったことで……全ての運命が狂い出す。
どなたにも悪意はなかった……私が不運な星の下に生まれた……ただそれだけ。
※無断転載を禁止します。
※朗読動画の無断配信も禁止します。
※他サイトにも投稿中。
※表紙素材はあぐりりんこ様よりお借りしております。
「Copyright(C)2022-九頭竜坂まほろん」
※小説家になろうにて2022年11月19日昼、日間異世界恋愛ランキング38位、総合59位まで上がった作品です!
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
契約破棄された聖女は帰りますけど
基本二度寝
恋愛
「聖女エルディーナ!あなたとの婚約を破棄する」
「…かしこまりました」
王太子から婚約破棄を宣言され、聖女は自身の従者と目を合わせ、頷く。
では、と身を翻す聖女を訝しげに王太子は見つめた。
「…何故理由を聞かない」
※短編(勢い)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
【完】お義母様そんなに嫁がお嫌いですか?でも安心してください、もう会う事はありませんから
咲貴
恋愛
見初められ伯爵夫人となった元子爵令嬢のアニカは、夫のフィリベルトの義母に嫌われており、嫌がらせを受ける日々。
そんな中、義父の誕生日を祝うため、とびきりのプレゼントを用意する。
しかし、義母と二人きりになった時、事件は起こった……。
最愛の側妃だけを愛する旦那様、あなたの愛は要りません
abang
恋愛
私の旦那様は七人の側妃を持つ、巷でも噂の好色王。
後宮はいつでも女の戦いが絶えない。
安心して眠ることもできない後宮に、他の妃の所にばかり通う皇帝である夫。
「どうして、この人を愛していたのかしら?」
ずっと静観していた皇后の心は冷めてしまいう。
それなのに皇帝は急に皇后に興味を向けて……!?
「あの人に興味はありません。勝手になさい!」
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。