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第五章 鮭の人無双~環《リンク》覚醒ハイ進行中
三つのコーヒーカップ
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「『聖女アイシャの聖女投稿事件』は他国人だったオレにも衝撃的でしたよ。聖女の虐待だなんてありえない大事件でした。当然、この国の人々にとってはもっと辛かったでしょうね」
アイシャとトオンが、聖者ビクトリノに派遣されてきた魔術師カズンの助けを借りて旧王都地下の邪悪な古代生物を浄化した後。
元々王家の非人道的な在り方に疑問を抱いていた当時のベルトラン宰相を中心に、速やかに王国解体のための共和政実現会議が組織された。
そしてそれまで新聞に投稿された『聖女投稿』の記事を元に実態調査を本格的に開始。聖女アイシャを虐げ被害を与えた者たちを捕らえて収監していった。
「待って。その話は私たちも聞いてるけど、でもほとんどの人たちは反省して、罰金刑や労働刑での償いを終えているって」
慌てるアイシャに、「ああ……」とカズンとユーグレンから納得したような嘆息が漏れた。
「反省しなかった連中が残ったのだな」
「十三名だって? 多いのか少ないのか、判断に迷うところだ」
「え? え?」
ゴリ……ゴリゴリ、……ガリッ
よくわからず混乱するアイシャに、トオンも眉間に皺を寄せて難しい顔をしている。コーヒー豆を挽く音もちょっと乱れがちだ。
「そんな。あの事件からもう一年以上が経ってるのよ? まだ牢に入ってる人たちがいたの!?」
「いたんですよ。全員、元々アイシャ様が嫌いで気に食わないとか、死んだ国王や王太子らの命令だったとか責任転嫁して反省の様子ゼロ。だから牢から出せないんですよね」
「そう……でしたか……」
「法務部でも処遇をどうするか結論がつかなかったそうなんです」
人数は男女十三名。まだ聖女投稿事件は解決していなかったということだ。
だが、鮭の人はアイシャを落ち込ませたままではいさせてくれなかった。
「囚人のままにしておいても余計な費用がかかるばかりなので、トオン君のコーヒーが良い刺激になりました。『反省するまで毎日このコーヒーを飲ませる』と伝えたら、全員必死で自供と弁解をし始めたので」
「……それでどうなったんです?」
ゴリ……、とさすがにミルのハンドルを回す手を止めてトオンが訊いた。
「アイシャ様の前でコーヒーを一杯飲みきれたら牢から出すことにしました。後は罪状によって罰金か奉仕労働で償ってもらいましょう」
言って、鮭の人はまたトン、と爪先で床付近にある自分の環を叩いた。
ポン、ポン、ポン、と三連続で飛び出してきたのはコーヒーカップである。
三脚のコーヒーカップが木のテーブルの上に素早く並べられた。
「大中小、三つのサイズどれを使おうかなあって。アイシャ様、どうされます?」
「……うっ」
思わずアイシャは言葉に詰まった。
一番小さなコーヒーカップは、ティーカップサイズのものだ。白磁で薄く、持ち手も華奢な高級カップである。
中サイズはここ古書店の食堂でも使っているマグカップと同じサイズだった。一般的に最も流通している大きさである。
一番大きなサイズが問題だった。
中サイズの三倍はある。素朴な陶器に緑の釉薬がかかったそれは、手作り風のマグカップだ。
サイズ感的に、陶器製のビアジョッキといっても通るサイズである。
「あっ、こ、これは!」
「ふふ、懐かしいでしょ、カズン様」
黒い目を輝かせてカズンが大きなマグカップを取った。
「それは何か曰くがあるのか? カズン」
「これはアケロニアの王都で人気の喫茶店が使ってた手作りカップだ。店主の趣味が陶芸でな。微妙に一つ一つ形が違うんだ」
懐かしげにカップを撫でる。表面の少しざらざらした感触も、よく通っていた学生時代の記憶のままだった。
「カズン様はコーヒーがお好きでしたから。大容量で専門店の焙煎コーヒーが飲めるお店がお気に入りだったんです」
「なるほどー」
その店で購入したカップらしい。
「……馬鹿者、こんなサイズでコーヒーなど飲み過ぎだ!」
「休日の昼間、読みかけの本を抱えて端っこの席でまったりするのが僕の至福だったのだ!」
「もちろんオレもお供してました。店主の奥様お手製のチョコレートケーキ、美味しかったですよねえ」
ユーグレンは叱ったが、カズンと鮭の人は地元ネタで盛り上がっている。
※そろそろタグに「逆飯テロ」でも追加しておくか……と思ったらタグの空きがなかったでござる。何を削るか。ハッピーエンド……イケオジ……(削っちゃだめなやつ)
アイシャとトオンが、聖者ビクトリノに派遣されてきた魔術師カズンの助けを借りて旧王都地下の邪悪な古代生物を浄化した後。
元々王家の非人道的な在り方に疑問を抱いていた当時のベルトラン宰相を中心に、速やかに王国解体のための共和政実現会議が組織された。
そしてそれまで新聞に投稿された『聖女投稿』の記事を元に実態調査を本格的に開始。聖女アイシャを虐げ被害を与えた者たちを捕らえて収監していった。
「待って。その話は私たちも聞いてるけど、でもほとんどの人たちは反省して、罰金刑や労働刑での償いを終えているって」
慌てるアイシャに、「ああ……」とカズンとユーグレンから納得したような嘆息が漏れた。
「反省しなかった連中が残ったのだな」
「十三名だって? 多いのか少ないのか、判断に迷うところだ」
「え? え?」
ゴリ……ゴリゴリ、……ガリッ
よくわからず混乱するアイシャに、トオンも眉間に皺を寄せて難しい顔をしている。コーヒー豆を挽く音もちょっと乱れがちだ。
「そんな。あの事件からもう一年以上が経ってるのよ? まだ牢に入ってる人たちがいたの!?」
「いたんですよ。全員、元々アイシャ様が嫌いで気に食わないとか、死んだ国王や王太子らの命令だったとか責任転嫁して反省の様子ゼロ。だから牢から出せないんですよね」
「そう……でしたか……」
「法務部でも処遇をどうするか結論がつかなかったそうなんです」
人数は男女十三名。まだ聖女投稿事件は解決していなかったということだ。
だが、鮭の人はアイシャを落ち込ませたままではいさせてくれなかった。
「囚人のままにしておいても余計な費用がかかるばかりなので、トオン君のコーヒーが良い刺激になりました。『反省するまで毎日このコーヒーを飲ませる』と伝えたら、全員必死で自供と弁解をし始めたので」
「……それでどうなったんです?」
ゴリ……、とさすがにミルのハンドルを回す手を止めてトオンが訊いた。
「アイシャ様の前でコーヒーを一杯飲みきれたら牢から出すことにしました。後は罪状によって罰金か奉仕労働で償ってもらいましょう」
言って、鮭の人はまたトン、と爪先で床付近にある自分の環を叩いた。
ポン、ポン、ポン、と三連続で飛び出してきたのはコーヒーカップである。
三脚のコーヒーカップが木のテーブルの上に素早く並べられた。
「大中小、三つのサイズどれを使おうかなあって。アイシャ様、どうされます?」
「……うっ」
思わずアイシャは言葉に詰まった。
一番小さなコーヒーカップは、ティーカップサイズのものだ。白磁で薄く、持ち手も華奢な高級カップである。
中サイズはここ古書店の食堂でも使っているマグカップと同じサイズだった。一般的に最も流通している大きさである。
一番大きなサイズが問題だった。
中サイズの三倍はある。素朴な陶器に緑の釉薬がかかったそれは、手作り風のマグカップだ。
サイズ感的に、陶器製のビアジョッキといっても通るサイズである。
「あっ、こ、これは!」
「ふふ、懐かしいでしょ、カズン様」
黒い目を輝かせてカズンが大きなマグカップを取った。
「それは何か曰くがあるのか? カズン」
「これはアケロニアの王都で人気の喫茶店が使ってた手作りカップだ。店主の趣味が陶芸でな。微妙に一つ一つ形が違うんだ」
懐かしげにカップを撫でる。表面の少しざらざらした感触も、よく通っていた学生時代の記憶のままだった。
「カズン様はコーヒーがお好きでしたから。大容量で専門店の焙煎コーヒーが飲めるお店がお気に入りだったんです」
「なるほどー」
その店で購入したカップらしい。
「……馬鹿者、こんなサイズでコーヒーなど飲み過ぎだ!」
「休日の昼間、読みかけの本を抱えて端っこの席でまったりするのが僕の至福だったのだ!」
「もちろんオレもお供してました。店主の奥様お手製のチョコレートケーキ、美味しかったですよねえ」
ユーグレンは叱ったが、カズンと鮭の人は地元ネタで盛り上がっている。
※そろそろタグに「逆飯テロ」でも追加しておくか……と思ったらタグの空きがなかったでござる。何を削るか。ハッピーエンド……イケオジ……(削っちゃだめなやつ)
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