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第五章 鮭の人無双~環《リンク》覚醒ハイ進行中

38:05 同格の実力者たち

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 何年にも渡って魔物の脅威から旧カーナ王国を守り続けてきた、〝戦う聖女〟アイシャの戦闘スタイルは独特である。

 彼女単独で戦うことは滅多になかったという。すべての出動で騎士団と兵団を伴い、戦闘を行う彼らと国土を守るのが仕事だった。

 すべての攻守は、最も得意な防御術から展開している。

 デビルズサーモンの巨体に囲まれたアイシャはまず、両手を左右に大きく広げて、自分の周囲に無数の光の糸を出現させた。
 光の糸は、彼女の魔力のネオングリーンを帯びている。太さは太めの毛糸ぐらい。
 先ほど、序盤の雑魚敵ユキレラをきゅっと締め上げたものと同じものだ。

 その一本一本をピンと長く伸ばして、自分の前後左右に面を作った。
 すると、面はどしどし歩いて突進してきたデビルズサーモンをゴムの被膜のように勢いよく弾き飛ばした。

(結界術の応用なんだよね、あれ)
(光の紐の長さや形状を変えることで、結界の範囲を自在に設定できる、か。なかなか応用が効きそうな術だ)
(カーナ神国の外周の結界もあの紐で作ってるのだろう?)
(そうそう、五重のね)

 旧王国時代の聖女アイシャの仕事は、その結界のメンテナンスが重要任務だったそうだ。

「遅い!」

 絶妙なタイミングで結界の紐を解き、敵がよろめいた隙を見逃さずに身体強化した拳を振るった。

 五匹いたデビルズサーモンは、一匹ずつ着実に仕留められていく。

(ああああ。あんな細腕で殴り飛ばしてるなんて。いつ見ても心臓に悪い!)
(アイシャは物理的に強かったんだなあ)

 彼氏のトオンがハラハラしながら見守る中、アイシャは小柄な少女の身体からは想像もできないほどパワフルにデビルズサーモンたちを倒している。

 アイシャの拳に吹き飛ばされたサーモンたちは床や壁に激突した。
 更にアイシャがダメ押しのパンチを頭部に喰らわせると、どの個体も動かなくなった。

(デビルズサーモンは食えると聞いていたのだが……あれらは回収しても良いだろうか?)
(食うの? あれを!?)
(大味らしいがそれなりに美味いらしい)
(お前本当に食い気だけは一人前だな、カズン……)

 調理する気満々のカズンと呆れるトオンやユーグレンたちの前で、いよいよ聖女アイシャと中ボス鮭の人との対戦スタートである。



38:05

 デビルズサーモンこそ素手だけで叩きのめしたアイシャだったが、さすがに中ボス相手には苦戦していた。

 中ボス〝鮭の人〟は大魔道士だ。魔法や魔術による攻撃の他に、ダンジョンと同じ透明な魔法樹脂の魔法剣による高威力の攻撃もあり、とにかく手数が多い。
 防御術に長けたアイシャとは三十分以上が経過しても、決着が着かなかった。

 アイシャも鮭の人も息を乱し始めている。

「強いですね、ヨシュアさん。さすがは魔法の大家、リースト家のご当主というべきですか」
「君こそ。まさかオレに張り合える魔力使いがいるとは思わなかった」

(決着つかないね……)
(この二人、実力拮抗か。……そうか、聖女アイシャはヨシュア並の実力者……)

 戦う二人の周囲には、アイシャに倒されたデビルズサーモンの巨体が死屍累々と血の池に沈んでいる。
 小さな子供が見たら、怖くて泣き出しそうなホラーな光景だった。

(よし、スタッフに許可を貰ったぞ! あれらは後で美味しくいただくとしよう)
(えっ、本当にあれ食えるの? 脚生えてるよ!?)
(脚はヒレが変化しただけで、歩行させる術を解けば元に戻るそうだ。デビルズサーモン自体はルシウス様が冒険者時代によく狩って食していたと聞いたことがある。身の脂を落とせばそれなりだそう)
(へえ~)

 戦闘はまだ続いている。外野も雑談しながらのんびりしたものだった。



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