婚約破棄で捨てられ聖女の私の虐げられ実態が知らないところで新聞投稿されてたんだけど~聖女投稿~

真義あさひ

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第四章 出現! 難易度SSSの新ダンジョン

賎民呪法の終わり

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 カーナ姫の息子の亡骸から飛び出してきたたくさんの光の球は、消えたかと思っていたが、サラマンダーピアディの周りに希薄な存在となって漂っていたようだ。

 それらはカーナ姫の虹色を帯びた真珠色の魔力に触れた途端、再び光って存在を現した。

「ピアディ、おいで」
「ぷぅ」

 ヨシュアに引っ付いてユーグレンに睨まれていたピアディは、さすがに兄嫁カーナ姫には従って、差し出された手のひらに乗り移った。

 すると、大小様々な光の球は、半透明の魚など海の生き物の形に変わった。
 一体一体、ピアディの半透明で柔らかな身体やカーナ姫の顔や髪に触れたり、口づけたりしたものからスーッと消えていった。

 最後に一つだけ、一際輝いた大人の拳大の光の球が残った。カーナ姫の肩の辺りに浮かんで離れない。

「さて、何から説明したものかな」

 再び魔法樹脂の棺の中に封入された、若い黒髪の青年の亡骸を指差した。
 黒髪で、男性体だったときの神人カーナと同じ顔をしている、ミスラル銀の鎧を身につけた青年だ。

 死体だからか、紙のように真っ白な肌の色をした美貌の男だ。
 その亡骸は、よくよく見てみると手や足の指などが一部欠けていた。巨大な魚人の化石だったとき、カーナ王家が削り取った部分に相当すると思われる。
 カーナ王家は邪悪な古代生物の化石を削り、賎民呪法の媒体として使っていたことを、今はこの場にいる皆が知っていた。

「この、カーナ様のご子息の身体から切り出した化石が、王家と聖女の契約の魔導具だったのですよね?」
「ああ。俺のお袋の聖女エイリーがやったことだ」
「エイリーには私が許可を出していたよ。そこは問題じゃない」

 カーナ姫は穏やかに言ってくれた。
 説明してくれたのは、永遠の国から調査を命じられていたルシウスだ。

「化石となったご子息の遺体の一部は……楔に加工して、国土の外周と、内部の主要な土地や街道に埋め込まれていてな。その数が尋常じゃない。百や二百ではきかんのだ。下手すると数万単位だった」
「そう。カーナ王国が呪術の媒体として五百年かけてやったことだ。エイリーが一人で賎民呪法の解除ができなかった理由だろう。いくら何でも彼女一人の手に余る」

 姉のジューアも頷いていた。

 ルシウスは姉ジューアとそこまでは調査していたが、楔の除去に頭を抱えていた。
 人の住む町や村の下に埋まっていることも多く、完全に除去するには住民を避難させて建物や設備を撤去する必要があったためだ。
 その費用と労力を考えると莫大なものになる。カズンの言葉ではないが「無理ゲー」レベルだった。

「この子の身体から切り出した楔の回収は難しそうだ。残った亡骸はこのまま地に返す」



「ぷぅ」

 サラマンダーピアディがひと鳴きすると、カーナ姫の肩に付いていた光の球が離れて床に落ちた。

 と思ったら、カーナ姫の息子とはまた別の、鎧姿の青年の姿に変化した。

「おっと。ひとまず魔法樹脂に入れておくぞ」

 ジューアが横から青年を魔法樹脂の棺に封入して、カーナ姫の息子の隣に置いた。

 新たに現れた青年は瞼が閉じていて目の色はわからないが、髪は淡い金髪で背は高めだ。
 鎧は黄金色をしている。金の上位金属と言われるオリハルコンやその合金の鮮やかな色合いだ。
 特に外傷などはなかったが……

「クレイス=トオンというんだ。魚人族最後の王で、ピアディの兄になる。私の伴侶だった男だ。巨大な魚人と化した息子に食べられてしまったと聞いていたが……腹の中でピアディと同じように存在を保っていたのだね」

 だが残念ながら既に彼の命は失われている。

 クレイスなる青年の顔を見た一同は、カーナ姫がなぜカーナ王族にこの土地の蹂躙と支配を半ば黙認していたかを理解した。

「トオンに似てますね」
「そう。カーナ王族は魚人族の末裔だ。人間との混血が進んで限りなく血は薄まっていたけれど、この地に来て数代経つと祖先によく似た外見に戻ってきた」

 そこからカーナ姫が話してくれた内容は、これまでのカーナ王国の歴史と王家の愚行を更に際立たせるものだった。

 この地はずっと、息子の亡骸が発する邪気で人が住めない穢れ地と化していた。
 不定期にその時代の聖女や聖者が訪れて、カーナ姫や他の永遠の国のハイヒューマンを召喚しては浄化と鎮魂の儀を行う。
 そうしてカーナ姫の息子の怨念が溶けていくのを待っていた。

 ――以前、そこまではアイシャが四つ葉ブローチの聖女の証を使って過去に飛び、確認している。

「私は最初、巡り巡って帰還した魚人族末裔の彼らが子孫としてこの地の所有を主張するなら、前向きに考慮するつもりだった。だが」

 他国で賎民に落とされた彼らは疑心暗鬼の塊だった。カーナ姫を出し抜くことばかり考えて、筋を何一つ通さなかったのだ。
 これでは永遠の国の長老たるカーナ姫は、その立場もあって彼らを表立って認めることはできない。

 結果、カーナ王国の歴史は五百年で終わった。
 数千年級の国がゴロゴロしている円環大陸の王政国家の中では短命といえる。

「数年ごとのサミットで代々の国王と話をしようとはしたんだ。でもどの代の王も私を見ると逃げていくばかりで」
「呼べば来るが、向こうから挨拶すらしに来ない。何とも無礼な王どもだった」

 先代のアルター国王も、カーナ姫が話しかけようとするとサミット後のパーティー参加をキャンセルしてすぐ帰国してしまっていたそうだ。

「やっぱりまだあった。この国の王家のクズエピソード」

 トオンが肩を落としている。
 今回の話は本当の本当に極め付けだ。カーナ王族が、ただ空回っていただけの愚か者たちの集団に過ぎなかったことが、土地の所有者であるカーナ姫本人の口から語られてしまったのだ。

「賎民呪法みたいな邪法で聖女を犠牲にする必要なんて、なかったんじゃないか」
「トオン……」

 項垂れてしまったトオンにアイシャが寄り添う。
 土地が穢れているから浄化を行える術者は必要だったはずだが、邪法で縛る必要まではなかったはずなのだ。

「エイリーが初代国王に離婚された原因もここにあってな。王は求婚した手前、エイリーを一応は王妃と扱ったが、婚儀の前にカーナに謝罪し国を興す許可を得よと言われて腹を立てた。その結果が」
「婚儀は挙げたけど、エイリー様を王妃として王統譜に載せなかった。そういうことなんですね」

 当時を知る神人ジューアの補足説明で、ようやくアイシャたちはカーナ王国にまつわる全体像を知ったのだった。



「ぷぅ~ぷぅぷぅ~♪」

 ダンジョンから地上に出ると、サラマンダーピアディが鼻歌を歌い出した。

 ご機嫌なピアディの、溜息のような空気が抜けるような音がメロディーを奏でている。
 小さな小さな半透明の身体から、虹色を帯びたネオンイエローの魔力が噴き出していく。

 甘くて新鮮なミルクやクリームに似た匂いが辺りに漂った。――聖なる芳香だ。

「あら、ピアディちゃん。魔力の色が付いたのね」

 アイシャはルシウスと顔を見合わせた後、ピアディを手に持って同時に垂直に空に浮き上がった。
 残った面々もユキノに抱えられたり、カーナ姫が黄金龍に変化した背中に乗せられたりして、高い位置から下を見下ろす。

 神人ピアディの虹色を帯びたネオンイエローの魔力が、今いる旧王城の庭園から広がり、王都を、そして国土全体を覆っていくのが見えた。

「これは……」
「歌聖か。性格は傲岸不遜なまいきだが、争いを好む性質ではなさそうだ」

 歌聖は歌に聖なる魔力を込めて、祝福をあまねく広げる魔力使いのことだ。当然ながら歌手など芸能人に多かった。

「ぷぅ!(この国はカーナたんの名前を残してカーナ神国とせよ! この地の正統後継者ピアディ=カーナが宣言す!)」
「!」

 ピアディが新生カーナ神国の宣言と正統後継者の名乗りを発した途端、国のあちこちから何か岩や金属質のものが破壊されるような破裂音が発生した。
 国中が一気にざわついたが、派手な音が鳴っているだけで害はない。すぐにその音も鎮静化した。

「賎民呪法の完全な解呪だ。これでもうこの国は完全に外界に開かれた」

 間違いだらけの建国から今日までのカーナ王国が、五百年の歴史に終わりを告げた瞬間だった。




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