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第四章 出現! 難易度SSSの新ダンジョン
ラスボス攻略
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カーナ王国の冒険者ギルド、王都支部にて。
アイシャたちから事態を聞かされた冒険者ギルドの女マスター、ロディオラは愕然としていた。
だがさすがにギルマスを務めるだけのことはある。すぐに気を取り戻して指示を出してきた。
「ダンジョンはボスを倒せば踏破完了です。どのような形でも良いので、ルシウスさんを倒してください。一度ボスを討伐できれば、あとはダンジョンそのものが自ずと最適な状態に整いますので」
「ルシウスさんを……」
「倒す……?」
ユーグレンが悲鳴のような声を上げた。
「無理だ! ルシウス様の強さを知らないのか!? 彼はその気になればこんな小さな国、一瞬で壊滅できるのだぞ!?」
「そりゃ確かに、そんな話は聞いてたけど」
だが更に詳しい話を聞いたトオンたちは青ざめた。
ルシウスが持つ〝聖剣〟が極めて高火力、高出力であること。その威力は地形を一瞬で変えるほどだという。
「ほ、本当だったんですか。その話」
「そうだ。ルシウス様は前当主だった兄を暗殺されている。関わった貴族は家屋敷と敷地ごと聖剣で蒸発させられているんだ」
「……そういう重めの話、思えばルシウスさんはあんまり私たちにはしなかったわね」
時折、さらっと何かの話のついでにされることはあったが、それだけだった。
しかも、美味しいごはんやおやつのときが大半だったので、アイシャやトオンはちょっとした雑談感覚で流していた気がする。
思えば、彼がハイヒューマンであることや、永遠の国から来た神人ジューアの弟であることも、詳しいと言えるほど把握しているわけでもなかった。
「トオン。この辺が無事に片付いたなら、私たちやルシウスさんの周囲のことも一度ちゃんと整理しましょ」
「だな。呑気にやってる場合じゃなくなってきたよ」
その後、アイシャたちは連日幾度もダンジョン最奥に向かったが、ルシウスをダンジョンから引き剥がして地上に連れ戻ることはできなかった。
今は神人ジューアが側に付いて、外部にボス化したルシウスが出ないよう抑制してくれている。
それでも一定の距離より近づくと、ルシウスが反射的に攻撃してきてしまう。
とてもとても、連れ戻すどころではなかった。
「環を通じてルシウスさんと意思の疎通も取れなくなっちゃったね」
「アイテムボックスから物品も送れないわ。……お腹空かせてないといいんだけど」
今日もダンジョン最奥部に向かったが、駄目だった。
一応、携帯食を毎回ルシウスの分も料理人ゲンジに用意してもらって持参しているのだが、渡そうとすると攻撃されるので、仕方なくジューアに預けている。
ジューアが言うには、ダンジョンボスとなったことで瑞獣のユキノごとダンジョンそのものに生かされている状態だという。
今のところ飲食は必要ないと言っていた。
「本当にダンジョンボスになっちゃったんだな……」
今はまだ人の意識を保っているが、早く救出しないと魔物化の危険もある。
冒険者ギルドが主導して、アイシャたちはスキルなどの強化を行なった。
特にユーグレンは、環に目覚めたことで発生した盾役タンクの能力を、カーナ王国の宝物の盾を借りて一気に伸ばした。
結果、アケロニア王族として血筋に持っている防具バックラーの防御力が飛躍的にアップした。元からバックラーとは名ばかりの剣付きの大盾ではあったが。
「よし。ユーグレンさんの大盾に、アイシャの結界術があれば、とりあえずルシウスさんの攻撃は防げる! ……だ、だよな?」
「防御力だけ伸ばしてもな……地味で済まない」
「何言ってるんですか。王太子なんだから防御力にステータス全振りでも良いぐらいですよ!」
「だがそれだと自分しか守れぬし……」
などとユーグレンとトオンが不安でブレブレな会話をしている横で、アイシャは自分に可能なスキル強化と装備の準備を淡々と進めていた。
「アイシャ様。聖女のあなたに戦わせてしまうこと、本当に申し訳なく思います。本当なら他国の高ランク冒険者たちを呼び寄せれば良かったのですが……」
「仕方ないことです、ギルマス。そもそも、西部は魔物も魔獣もこの国に集中していて、他国のダンジョンもランクは低めでしたから」
ギルマスとして招集はかけてくれているそうだが、ラスボスが聖剣の持ち主だと聞いて尻込みする者が大半で、なかなか集まらないのだそうだ。
何回か、アイシャもカーナ王国の宝物を装備してルシウスに挑んだ。
しかし敵わずだ。剣士の修行をしていない女のアイシャでは一番の武器である神剣を装備できなかったのも痛かった。
かといって大剣士のユーグレンは他国人のため、そもそも装備の資格がなかった。
トオンに至っては元一般人だ。剣を持って振るえるだけの筋力がそもそもない。
「困ったわ。有象無象の魔物や魔獣なら倒せても、あそこまで強い相手だと太刀打ちできない」
「ダンジョンボスではあっても、ルシウス本人は邪悪じゃねえからなあ。俺の破邪スキルでも無理だろありゃあ」
ルシウスがボス化した後から、ビクトリノも何度かダンジョンに同行してくれている。
今回も彼の得意とする棒術で立ち向かってくれたのだが、如何せんルシウスの攻撃の火力が強すぎて、一撃必殺タイプのビクトリノとは相性が悪かった。
アイシャたちから事態を聞かされた冒険者ギルドの女マスター、ロディオラは愕然としていた。
だがさすがにギルマスを務めるだけのことはある。すぐに気を取り戻して指示を出してきた。
「ダンジョンはボスを倒せば踏破完了です。どのような形でも良いので、ルシウスさんを倒してください。一度ボスを討伐できれば、あとはダンジョンそのものが自ずと最適な状態に整いますので」
「ルシウスさんを……」
「倒す……?」
ユーグレンが悲鳴のような声を上げた。
「無理だ! ルシウス様の強さを知らないのか!? 彼はその気になればこんな小さな国、一瞬で壊滅できるのだぞ!?」
「そりゃ確かに、そんな話は聞いてたけど」
だが更に詳しい話を聞いたトオンたちは青ざめた。
ルシウスが持つ〝聖剣〟が極めて高火力、高出力であること。その威力は地形を一瞬で変えるほどだという。
「ほ、本当だったんですか。その話」
「そうだ。ルシウス様は前当主だった兄を暗殺されている。関わった貴族は家屋敷と敷地ごと聖剣で蒸発させられているんだ」
「……そういう重めの話、思えばルシウスさんはあんまり私たちにはしなかったわね」
時折、さらっと何かの話のついでにされることはあったが、それだけだった。
しかも、美味しいごはんやおやつのときが大半だったので、アイシャやトオンはちょっとした雑談感覚で流していた気がする。
思えば、彼がハイヒューマンであることや、永遠の国から来た神人ジューアの弟であることも、詳しいと言えるほど把握しているわけでもなかった。
「トオン。この辺が無事に片付いたなら、私たちやルシウスさんの周囲のことも一度ちゃんと整理しましょ」
「だな。呑気にやってる場合じゃなくなってきたよ」
その後、アイシャたちは連日幾度もダンジョン最奥に向かったが、ルシウスをダンジョンから引き剥がして地上に連れ戻ることはできなかった。
今は神人ジューアが側に付いて、外部にボス化したルシウスが出ないよう抑制してくれている。
それでも一定の距離より近づくと、ルシウスが反射的に攻撃してきてしまう。
とてもとても、連れ戻すどころではなかった。
「環を通じてルシウスさんと意思の疎通も取れなくなっちゃったね」
「アイテムボックスから物品も送れないわ。……お腹空かせてないといいんだけど」
今日もダンジョン最奥部に向かったが、駄目だった。
一応、携帯食を毎回ルシウスの分も料理人ゲンジに用意してもらって持参しているのだが、渡そうとすると攻撃されるので、仕方なくジューアに預けている。
ジューアが言うには、ダンジョンボスとなったことで瑞獣のユキノごとダンジョンそのものに生かされている状態だという。
今のところ飲食は必要ないと言っていた。
「本当にダンジョンボスになっちゃったんだな……」
今はまだ人の意識を保っているが、早く救出しないと魔物化の危険もある。
冒険者ギルドが主導して、アイシャたちはスキルなどの強化を行なった。
特にユーグレンは、環に目覚めたことで発生した盾役タンクの能力を、カーナ王国の宝物の盾を借りて一気に伸ばした。
結果、アケロニア王族として血筋に持っている防具バックラーの防御力が飛躍的にアップした。元からバックラーとは名ばかりの剣付きの大盾ではあったが。
「よし。ユーグレンさんの大盾に、アイシャの結界術があれば、とりあえずルシウスさんの攻撃は防げる! ……だ、だよな?」
「防御力だけ伸ばしてもな……地味で済まない」
「何言ってるんですか。王太子なんだから防御力にステータス全振りでも良いぐらいですよ!」
「だがそれだと自分しか守れぬし……」
などとユーグレンとトオンが不安でブレブレな会話をしている横で、アイシャは自分に可能なスキル強化と装備の準備を淡々と進めていた。
「アイシャ様。聖女のあなたに戦わせてしまうこと、本当に申し訳なく思います。本当なら他国の高ランク冒険者たちを呼び寄せれば良かったのですが……」
「仕方ないことです、ギルマス。そもそも、西部は魔物も魔獣もこの国に集中していて、他国のダンジョンもランクは低めでしたから」
ギルマスとして招集はかけてくれているそうだが、ラスボスが聖剣の持ち主だと聞いて尻込みする者が大半で、なかなか集まらないのだそうだ。
何回か、アイシャもカーナ王国の宝物を装備してルシウスに挑んだ。
しかし敵わずだ。剣士の修行をしていない女のアイシャでは一番の武器である神剣を装備できなかったのも痛かった。
かといって大剣士のユーグレンは他国人のため、そもそも装備の資格がなかった。
トオンに至っては元一般人だ。剣を持って振るえるだけの筋力がそもそもない。
「困ったわ。有象無象の魔物や魔獣なら倒せても、あそこまで強い相手だと太刀打ちできない」
「ダンジョンボスではあっても、ルシウス本人は邪悪じゃねえからなあ。俺の破邪スキルでも無理だろありゃあ」
ルシウスがボス化した後から、ビクトリノも何度かダンジョンに同行してくれている。
今回も彼の得意とする棒術で立ち向かってくれたのだが、如何せんルシウスの攻撃の火力が強すぎて、一撃必殺タイプのビクトリノとは相性が悪かった。
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