203 / 302
第四章 出現! 難易度SSSの新ダンジョン
王太子の護衛
しおりを挟む
アイシャたちが王都地下ダンジョンに向かっている一方で。
トオンたちが留守にしている古書店に襲撃があった。
「おやおや。来ると思ってたよ」
襲撃者たちが白昼堂々と表の入口から建物に侵入しようとして、ルシウスが張った強固な結界に阻まれ舌打ちしていたところ。
凍えるような色味の銀髪と、アイスブルーの瞳。目が悪いのだろうか、分厚めのレンズの入った銀縁眼鏡をかけた、中年と呼ぶには少し早い青年が古書店入口から出てきた。
グレーの略装だが〝軍服〟姿の紳士だ。身体を支える杖を持っている。
青年が指をパチンと鳴らすと、襲撃者たちは痺れたように動かなくなった。
「今です。騎士とご近所の皆さん、お願いします」
言うなり、古書店の周囲からカーナ王国軍の騎士たちと、近所の住人男性たち十数名が飛び出して襲撃者を押さえつけた。
すぐさま手足を縄で拘束し、上から魔導具の拘束具を嵌めて万全だ。
「魔法を使うかもしれません。呪文を唱えさせてはなりません。舌を動かせないよう猿ぐつわも」
「はい、グロリオーサ卿!」
「手印で発動する術もありますから、指も動かせないよう固定しておいてください」
「了解です!」
襲撃者は男二名。南地区の外れにある古書店は昼間でも人通りが少ない。
そのため、隠密スキルなどで身を隠すことなく、堂々と侵入しようとしたところを現行犯逮捕だった。
「このまま魔力使い専門の尋問官に尋問させてください。命の危険がない程度の拷問なら許可されています。共犯者や協力者を必ず吐かせるように」
「もちろんです」
「国際司法官の手配も既に済んでいます。それまでは牢屋に放り込んで拘束を」
「はい!」
それから青年は、近隣の住人たちに簡単に現状を説明した。
「今、この王都には聖女様を害そうとする凶悪な侵入者が潜伏しています。聖女のアイシャ様ご自身が、対処に当たってくれています」
「せ、聖女様は大丈夫なんですか!?」
「師の聖者ビクトリノ様や聖剣の聖者ルシウス様たちも一緒だそうですよ。どちらも武に優れた方々ですから、アイシャ様を守ってくれるはずです」
青年は皆を安心させるように、笑って見せた。
銀髪もアイスブルーの瞳も凍えるような色味の男だったが、笑うと思いのほか優しげな雰囲気が出る。
ビクトリノは有名人だし、南地区の住人はルシウスがトオンの古書店に滞在して世話を焼いていたことを知っている。
皆の顔が安堵に緩み、溜め息が漏れた。
「騎士はこのまま南地区の警備と巡回を。住人の皆さんは引き続き警戒体制を取ってください。夜間外出は禁止、昼間でも一人で出歩かない」
一通り注意してから、後は騎士たちに任せてグロリオーサ卿と呼ばれた青年は騎士団が手配した馬車に乗った。
向かう先は旧王城だ。そこに彼の警護対象が先に聖女たちと向かっていると、既に報告を受けて把握していた。
(王太子殿下にも困ったものだ。次期国王となられる尊い御身、誰よりも何よりも安全な場所にいるべきだろうに)
彼、グロリオーサ伯爵オネストは、カズンやユーグレンの故郷アケロニア王国の貴族だ。
実家は侯爵家で、兄は現宰相である。
オネスト本人はユーグレンの母親である現女王グレイシア直属の部下だ。
今回、ユーグレン王太子が出奔するにあたり、極秘に付けられた護衛だった。
また諜報部の所属でもあることから、今回カーナ王国での現地調査も命じられている。
「まあ、ルシウス様に会えるのは役得、か」
アケロニア王国では、あのルシウスと同い年で同じ学園に通う同級生だった。親しい友人なのだ。
本来ならルシウスも女王の配下なのだが、聖女アイシャの師匠となるべく国を出てしまい、女王の手から離れてしまった。
オネストの使命は主に三つだ。
まずユーグレン王太子の護衛。
次にカーナ王国の調査。
そして、聖剣の聖者ルシウス・リーストが余計な〝やらかし〟を仕出かしていないかの、お目付け役。
もっとも、オネストはルシウスと元から親しいので、ユーグレンと同時期にカーナ王国の王都入りした後はすぐルシウスに連絡を取っている。
ユーグレンが古書店二階の宿屋にいたときは、ルシウスが王都に持っている小さな家に滞在させてもらい。
ユーグレンがトオンと一緒にルシウス邸に避難した後は、ルシウスから頼まれて、不審者に狙われている古書店の建物に移って警備を担っていた。
(意外と早かったな。長丁場になることも覚悟していたのだが)
元々、護衛とはいえユーグレン王太子のことは心配していなかった。
あのルシウスの加護があり、身近で守られているのだ。それに親しい聖女アイシャも聖なる魔力持ちにしては例外的に強いと聞いていた。他国の王太子なのだ、守ってくれるはず。
ユーグレン本人も、身体強化なしで大剣を振り回せる程度には強い。アケロニア王族特有の防具を魔力で作れるし、体術も免許皆伝レベルまでしっかり修めている。
(仕事が長引けば、それだけルシウス様の側にいられるし)
オネストは学生時代からルシウスのファンなのだ。
当時、オネストは実家の宰相家絡みで困難な立場に置かれていて、学園でもいじめに遭って辛い境遇だった。
そこから助け出してくれたのが、クラスメイトのルシウスだった。最終的に女王直属の臣下となる助けまでしてくれている。
以来ずっとルシウスはオネストにとって憧れの人物で、恩義を感じていた。
ほとんど毎日のように彼や、彼がプロデュースするレストラン・サルモーネが差し入れしてくれるのも嬉しかった。
飯ウマ持ちのルシウスの料理はとにかく美味しい。
(それに……)
馬車の窓から王都の街並みを眺める。
オネストがこの国に来た目的のうち、個人的理由の四つめがある。
今、この国にはオネストの恋人がいる。
居場所は特定している。
別れ話をした覚えはなかったのだが、気づくと連絡が取れなくなっていた人物だ。
(このぼくから逃げたつもりなのか? 甘いんだよ)
グロリオーサ伯爵オネスト。
得意分野は〝呪術〟。
長年、邪法の温床だったカーナ王国の数多の呪術の解析を任された彼は、任務もそこそこに、逃亡した恋人と修羅場る気満々でいた。
※オネスト君、聖女投稿にも来た。どの作品が初出か書くとネタバレになるので、お口チャックします!🤐
トオンたちが留守にしている古書店に襲撃があった。
「おやおや。来ると思ってたよ」
襲撃者たちが白昼堂々と表の入口から建物に侵入しようとして、ルシウスが張った強固な結界に阻まれ舌打ちしていたところ。
凍えるような色味の銀髪と、アイスブルーの瞳。目が悪いのだろうか、分厚めのレンズの入った銀縁眼鏡をかけた、中年と呼ぶには少し早い青年が古書店入口から出てきた。
グレーの略装だが〝軍服〟姿の紳士だ。身体を支える杖を持っている。
青年が指をパチンと鳴らすと、襲撃者たちは痺れたように動かなくなった。
「今です。騎士とご近所の皆さん、お願いします」
言うなり、古書店の周囲からカーナ王国軍の騎士たちと、近所の住人男性たち十数名が飛び出して襲撃者を押さえつけた。
すぐさま手足を縄で拘束し、上から魔導具の拘束具を嵌めて万全だ。
「魔法を使うかもしれません。呪文を唱えさせてはなりません。舌を動かせないよう猿ぐつわも」
「はい、グロリオーサ卿!」
「手印で発動する術もありますから、指も動かせないよう固定しておいてください」
「了解です!」
襲撃者は男二名。南地区の外れにある古書店は昼間でも人通りが少ない。
そのため、隠密スキルなどで身を隠すことなく、堂々と侵入しようとしたところを現行犯逮捕だった。
「このまま魔力使い専門の尋問官に尋問させてください。命の危険がない程度の拷問なら許可されています。共犯者や協力者を必ず吐かせるように」
「もちろんです」
「国際司法官の手配も既に済んでいます。それまでは牢屋に放り込んで拘束を」
「はい!」
それから青年は、近隣の住人たちに簡単に現状を説明した。
「今、この王都には聖女様を害そうとする凶悪な侵入者が潜伏しています。聖女のアイシャ様ご自身が、対処に当たってくれています」
「せ、聖女様は大丈夫なんですか!?」
「師の聖者ビクトリノ様や聖剣の聖者ルシウス様たちも一緒だそうですよ。どちらも武に優れた方々ですから、アイシャ様を守ってくれるはずです」
青年は皆を安心させるように、笑って見せた。
銀髪もアイスブルーの瞳も凍えるような色味の男だったが、笑うと思いのほか優しげな雰囲気が出る。
ビクトリノは有名人だし、南地区の住人はルシウスがトオンの古書店に滞在して世話を焼いていたことを知っている。
皆の顔が安堵に緩み、溜め息が漏れた。
「騎士はこのまま南地区の警備と巡回を。住人の皆さんは引き続き警戒体制を取ってください。夜間外出は禁止、昼間でも一人で出歩かない」
一通り注意してから、後は騎士たちに任せてグロリオーサ卿と呼ばれた青年は騎士団が手配した馬車に乗った。
向かう先は旧王城だ。そこに彼の警護対象が先に聖女たちと向かっていると、既に報告を受けて把握していた。
(王太子殿下にも困ったものだ。次期国王となられる尊い御身、誰よりも何よりも安全な場所にいるべきだろうに)
彼、グロリオーサ伯爵オネストは、カズンやユーグレンの故郷アケロニア王国の貴族だ。
実家は侯爵家で、兄は現宰相である。
オネスト本人はユーグレンの母親である現女王グレイシア直属の部下だ。
今回、ユーグレン王太子が出奔するにあたり、極秘に付けられた護衛だった。
また諜報部の所属でもあることから、今回カーナ王国での現地調査も命じられている。
「まあ、ルシウス様に会えるのは役得、か」
アケロニア王国では、あのルシウスと同い年で同じ学園に通う同級生だった。親しい友人なのだ。
本来ならルシウスも女王の配下なのだが、聖女アイシャの師匠となるべく国を出てしまい、女王の手から離れてしまった。
オネストの使命は主に三つだ。
まずユーグレン王太子の護衛。
次にカーナ王国の調査。
そして、聖剣の聖者ルシウス・リーストが余計な〝やらかし〟を仕出かしていないかの、お目付け役。
もっとも、オネストはルシウスと元から親しいので、ユーグレンと同時期にカーナ王国の王都入りした後はすぐルシウスに連絡を取っている。
ユーグレンが古書店二階の宿屋にいたときは、ルシウスが王都に持っている小さな家に滞在させてもらい。
ユーグレンがトオンと一緒にルシウス邸に避難した後は、ルシウスから頼まれて、不審者に狙われている古書店の建物に移って警備を担っていた。
(意外と早かったな。長丁場になることも覚悟していたのだが)
元々、護衛とはいえユーグレン王太子のことは心配していなかった。
あのルシウスの加護があり、身近で守られているのだ。それに親しい聖女アイシャも聖なる魔力持ちにしては例外的に強いと聞いていた。他国の王太子なのだ、守ってくれるはず。
ユーグレン本人も、身体強化なしで大剣を振り回せる程度には強い。アケロニア王族特有の防具を魔力で作れるし、体術も免許皆伝レベルまでしっかり修めている。
(仕事が長引けば、それだけルシウス様の側にいられるし)
オネストは学生時代からルシウスのファンなのだ。
当時、オネストは実家の宰相家絡みで困難な立場に置かれていて、学園でもいじめに遭って辛い境遇だった。
そこから助け出してくれたのが、クラスメイトのルシウスだった。最終的に女王直属の臣下となる助けまでしてくれている。
以来ずっとルシウスはオネストにとって憧れの人物で、恩義を感じていた。
ほとんど毎日のように彼や、彼がプロデュースするレストラン・サルモーネが差し入れしてくれるのも嬉しかった。
飯ウマ持ちのルシウスの料理はとにかく美味しい。
(それに……)
馬車の窓から王都の街並みを眺める。
オネストがこの国に来た目的のうち、個人的理由の四つめがある。
今、この国にはオネストの恋人がいる。
居場所は特定している。
別れ話をした覚えはなかったのだが、気づくと連絡が取れなくなっていた人物だ。
(このぼくから逃げたつもりなのか? 甘いんだよ)
グロリオーサ伯爵オネスト。
得意分野は〝呪術〟。
長年、邪法の温床だったカーナ王国の数多の呪術の解析を任された彼は、任務もそこそこに、逃亡した恋人と修羅場る気満々でいた。
※オネスト君、聖女投稿にも来た。どの作品が初出か書くとネタバレになるので、お口チャックします!🤐
8
お気に入りに追加
3,933
あなたにおすすめの小説
政略より愛を選んだ結婚。~後悔は十年後にやってきた。~
つくも茄子
恋愛
幼い頃からの婚約者であった侯爵令嬢との婚約を解消して、学生時代からの恋人と結婚した王太子殿下。
政略よりも愛を選んだ生活は思っていたのとは違っていた。「お幸せに」と微笑んだ元婚約者。結婚によって去っていた側近達。愛する妻の妃教育がままならない中での出産。世継ぎの王子の誕生を望んだものの産まれたのは王女だった。妻に瓜二つの娘は可愛い。無邪気な娘は欲望のままに動く。断罪の時、全てが明らかになった。王太子の思い描いていた未来は元から無かったものだった。後悔は続く。どこから間違っていたのか。
他サイトにも公開中。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
〖完結〗私は旦那様には必要ないようですので国へ帰ります。
藍川みいな
恋愛
辺境伯のセバス・ブライト侯爵に嫁いだミーシャは優秀な聖女だった。セバスに嫁いで3年、セバスは愛人を次から次へと作り、やりたい放題だった。
そんなセバスに我慢の限界を迎え、離縁する事を決意したミーシャ。
私がいなければ、あなたはおしまいです。
国境を無事に守れていたのは、聖女ミーシャのおかげだった。ミーシャが守るのをやめた時、セバスは破滅する事になる…。
設定はゆるゆるです。
本編8話で完結になります。
【完結】「私は善意に殺された」
まほりろ
恋愛
筆頭公爵家の娘である私が、母親は身分が低い王太子殿下の後ろ盾になるため、彼の婚約者になるのは自然な流れだった。
誰もが私が王太子妃になると信じて疑わなかった。
私も殿下と婚約してから一度も、彼との結婚を疑ったことはない。
だが殿下が病に倒れ、その治療のため異世界から聖女が召喚され二人が愛し合ったことで……全ての運命が狂い出す。
どなたにも悪意はなかった……私が不運な星の下に生まれた……ただそれだけ。
※無断転載を禁止します。
※朗読動画の無断配信も禁止します。
※他サイトにも投稿中。
※表紙素材はあぐりりんこ様よりお借りしております。
「Copyright(C)2022-九頭竜坂まほろん」
※小説家になろうにて2022年11月19日昼、日間異世界恋愛ランキング38位、総合59位まで上がった作品です!
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
契約破棄された聖女は帰りますけど
基本二度寝
恋愛
「聖女エルディーナ!あなたとの婚約を破棄する」
「…かしこまりました」
王太子から婚約破棄を宣言され、聖女は自身の従者と目を合わせ、頷く。
では、と身を翻す聖女を訝しげに王太子は見つめた。
「…何故理由を聞かない」
※短編(勢い)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
【完】お義母様そんなに嫁がお嫌いですか?でも安心してください、もう会う事はありませんから
咲貴
恋愛
見初められ伯爵夫人となった元子爵令嬢のアニカは、夫のフィリベルトの義母に嫌われており、嫌がらせを受ける日々。
そんな中、義父の誕生日を祝うため、とびきりのプレゼントを用意する。
しかし、義母と二人きりになった時、事件は起こった……。
最愛の側妃だけを愛する旦那様、あなたの愛は要りません
abang
恋愛
私の旦那様は七人の側妃を持つ、巷でも噂の好色王。
後宮はいつでも女の戦いが絶えない。
安心して眠ることもできない後宮に、他の妃の所にばかり通う皇帝である夫。
「どうして、この人を愛していたのかしら?」
ずっと静観していた皇后の心は冷めてしまいう。
それなのに皇帝は急に皇后に興味を向けて……!?
「あの人に興味はありません。勝手になさい!」
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。