婚約破棄で捨てられ聖女の私の虐げられ実態が知らないところで新聞投稿されてたんだけど~聖女投稿~

真義あさひ

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第四章 出現! 難易度SSSの新ダンジョン

お昼ごはんはオープンサンド

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 雛竜すべてに振られてしまったユーグレンは、皆と食堂に来て、席に着いてもヘコみ気味だった。
 落ち込みながらも、手帳に何やら書き込んでいる。

「何書いてるんだい? 殿下」
「ああ、これは先ほどドラゴンたちに袖にされて悲しかったので……書き出して感情の整理をしているのです」
「へえ~マメだねえ」

 そんなユーグレンとビクトリノの話を聞いて、「ん?」と引っかかったのはトオンだ。
 思わずゲンジと談笑しているアイシャを見るが、彼女は気づいてないようだ。

 カズンがいた一年前、彼はこんなことをアイシャにアドバイスしていた。


『アイシャ。僕の親戚はメンタルが危なくなる前に、自分の気持ちを紙に書き出して整理する習慣を持っていたんだ。君も同じようにしてみたらどうだ?』


(そうだ。確かカズンがいたときそんな話をしていた。それでアイシャにストレス発散で書くようにって促したんだっけ。ということは……)

 なるほど、『聖女投稿』が生まれる大本は、カズンの親戚ユーグレンのメンタル整理の手帳習慣だったわけだ。

(俺たちってとことん、カズンやあいつの関係者の恩恵受けまくり)

 案外このまま生涯、彼らの故郷アケロニア王国には頭が上がらないかもしれない。



 料理人ゲンジがお昼に用意してくれたのは、オープンサンドと野菜のスープだ。
 オープンサンドはどっしり重めのライ麦パンをごく薄~くスライスしてバターを塗った上に、好きな具をのせてくれるという。

 まずリースト一族の故郷の特産品のスモークサーモンのスライス。
 カーナ王国の近海で獲れた小海老を茹でたもの。
 それに同じく今朝入荷した新鮮なイワシのソテー、あとは茹で卵やカーナ王国でよく食べられているアボカドがある。

「この春からレストラン・サルモーネのランチメニューに入れたら、もう大人気でねえ。見た目も豪華だし、単純だけど美味しいからね」

 ニコニコ笑顔のゲンジがひとつ見本に盛り付けてくれたのは、小海老とアボカドバージョンだ。
 バターを塗ったライ麦パンの上に鮮やかな葉野菜を敷いた。サニーレタスや緑の濃いケールの葉っぱだ。
 その上に、薄くスライスして斜めにずらした飾り切りのアボカドを美しく、敷き詰めるように。
 更に、茹でた小海老をどっさり。文字通り小山になるほど。上には自家製マヨネーズをぽてっとやや多めに垂らし、カットレモンを添えて出来上がり。

 二つめはライ麦パンに同じように葉野菜とアボカドスライスを敷き、スモークサーモンをのせたもの。
 手際よく菜箸で薔薇のように飾り付け、生のハーブのディルを飾る。こちらにもカットレモンだ。

 イワシのソテーは脂っ気の多い魚なので、脂質の多いアボカドではなく、生の玉ねぎとトマトのスライスを合わせてある。

「俺は茹で卵とアボカドのが好きでねえ。マヨネーズ多めで。荒めの胡椒をかけるとほんと最高」

 他のバリエーションだと、ルシウス邸の厨房に常備している生ハムや、茹でて割いたチキンでもいけるらしい。
 スモークサーモンや小海老には黄身が半熟のポーチドエッグや、反対に揚げたフライドエッグを合わせても美味しいとのこと。

「で、今日は特別。生チーズとトマトもおすすめ」
「生チーズ、ですか?」

 カーナ王国ではあまり聞いたことがない。動物の生乳は土地の穢れで変質しやすく、その前にすぐに加工してしまうからだった。
 だからこの国ではバターも庶民にとっては高めで、日常的に使うのはココナッツオイルやオリーブオイルなどだ。逆に、品質の安定した精製バターギーのほうが手に入りやすい。
 ゲンジの手元を見ると、真っ白でやや厚めにスライスされた物体がバットの上にある。

「ほら、この間ルシウス君がお世話した子たちがいたろ?」
「ああ、カズンやユーグレンさんの同級生だっていう剣聖さんね」
「その恋人のご家族から、迷惑かけたお詫びにって特産品が送られてきたんだ。酪農が盛んなおうちらしくて、チーズ中心に乳製品をたくさん」

 生チーズことモッツァレラチーズは新鮮な生乳から作る、塩を混ぜて固め、練り上げたチーズだ。日持ちしないためこの世界では産地以外にはあまり流通していない。

 さあ、どのオープンサンドを選ぶ? とニコニコ顔でオーダーを聞かれて、アイシャたちは究極の選択に悩んだ。

「あ、私はパン二枚にハーフ&ハーフ、生チーズとトマトは単品で、オリーブオイルと塩でお願いしたい」
「それだ!」

 ユーグレンのオーダーに他の男たちも追随した。具沢山オープンサンドを四枚五枚は多すぎるが、二枚なら腹分量的にちょうどいい。

 反面、アイシャとジューアの女子組は考え込んでしまった。

「二枚でも多いですよね?」
「ゲンジ。パンのスライス一枚に全部の具をのせられるか? 生チーズは私たちも単品で」
「了解です。でも、お代わりもありますから遠慮なくどうぞ」

 手際よく盛り付けられたオープンサンドの、スモークサーモンと小海老には鮮やかなオレンジみの強い赤色の小粒が散りばめられている。
 鮭の魚卵、イクラだ。

「懐かしいな、この魚卵。これをヨシュアの故郷で食した翌日に、……いろいろあったのだっけ」

 しみじみ呟いてユーグレンが手帳を懐にしまい、ランチタイムが始まった。





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