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第四章 出現! 難易度SSSの新ダンジョン

もふもふ一体増えました

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「へー。隣国の博物館から宝剣の盗難だって。小規模な組織的グループの犯行、か。……あれ、そういえばこの国の宝物は結局あの後どうなったんだっけ?」

 朝食後、歓談室のサロンに移動してダンジョン探索前に食後のお茶を飲んでいた。
 トオンは今日の新聞を読んで首を捻っている。

「ブローチ以外は全部ジューア様にお預けしてあるわ。修復が終わり次第、神殿に収蔵してもらうつもり」
「ならこっちは盗まれる恐れはなさそうだね」

 とそこへ秘書ユキレラがやってきて報告があると言ってきた。

「ほら、トオン君の古書店付近に不審者が出たって言ってたでしょう? あれの続報」

 美味しい朝食の余韻でゆるゆるに緩んでいたサロンの空気が一気に引き締まった。

「ユキレラ、それで?」
「騎士団からの報告では、古書店のある南地区やサルモーネのある中央通り、それにこのルシウス様の屋敷付近にも目撃情報が出たみたいです。昼間は人通りが途切れたところ。あとは夕方以降の暗い時間帯」
「……捕獲はできていないのだろう?」
「そのようです。ただ、フード付きの外套姿で冒険者っぽいそうですね」

 背格好から冒険者ギルドの登録者と利用者の照合依頼を出して、本格的に探し始めたようだ。

「何か気味が悪いな。何が目的かよくわからないところが」
「誘拐や襲撃目的だと厄介ですよねえ」

 今のところ、アイシャはもちろん、トオンやユーグレンも単独で出歩くことはまずないので専属の護衛などは付けていなかった。
 宰相は聖女のアイシャはもちろん、前王の息子のトオンや他国の王太子ユーグレンには護衛騎士を付けたがったが、悪目立ち過ぎるからと断っている。

「んんん。だけど俺とユーグレンさんは冒険者ランクもまだまだだし……特に俺」

 この中ではトオンがCランクと一番低い。
 刺客に狙われた場合、足手まといになるのはまずトオンだ。

「大丈夫。トオン、私が一緒にいるわ」

 隣からアイシャがトオンの手に触れた。

 周囲から微笑ましげな視線を感じる。
 恥ずかしかったがトオンはアイシャの手を振り払うことはなく、自分の手を重ね返した。



 報告はもう一件あるそうで。

「トオン君の弟王子様を殺害した貴族いましたよね。あれに面会してる者がいるみたいですよ」
「ゆ、ユキレラさん、見せて!」

 報告書を受け取って、アイシャとトオンは書面を覗き込んだ。

 去年の年末、トオンの異母弟だったレイ王子とその母親を、逃亡先で凍死に追い込んだ貴族がいる。
 名前をノーダ男爵という。中年の男性貴族で、過激な聖女アイシャ派だった。
 現在は元王族を死に至らせた罪で共謀者たちと一緒に王城の敷地内にある貴族牢に入れられていた。

 レイ王子は身分的には崩壊したカーナ王家の〝元王子〟だが、だからといって殺して良いなどと言っては理屈が通らない。れっきとした殺人事件だ。
 今、ノーダ男爵たちは収監されたまま裁判待ちとなっている。

「男爵の処遇も困るんだよな。法務官は、レイ王子の血縁者は今のところ俺だけだから、俺の意見が反映されるって言うんだけど」

 動機を抜きにしても、死亡に追い込んだやり口が悪質だった。
 トオンが口を挟んでも挟まなくても、首謀者のノーダ男爵は極刑の見込みである。



 秘書ユキレラの報告はその二件だけだったので、今日はそのまま戻ってきたルシウスを再びリーダーに据えてダンジョン探索だ。

 姉の神人ジューアはまだ寝ているようなので起こさず、留守番を任せることにした。

 聖者のビクトリノを神殿に送り、アイシャたちはそのまま王城内の庭園から地下ダンジョンに潜ることになる。

 屋敷の外に出てからピューッとルシウスが高い音で口笛を吹くと、まだ竜舎にいたユキノたち綿毛竜コットンドラゴンが勢いよく集まってきた。

「ピュイッ(お呼びですか!)」
「ユキノ君、ダンジョンだ。一緒に行くかい?」
「ピューウ!(もちろんお供するよ!)」

 おとも、おとも♪ と五体の雛竜たちもウキウキ浮かれている。

「あれ。何か増えてない?」

 トオンが目敏く気づいた。
 まだ仔竜の雛竜たちに混ざって、一体だけ灰色の竜がいる。

「新顔? でも羽毛の色が違うよね」
「ピュイッ(親戚です!)」
「ピュイッ(しんせき!)」
「ピュイッ(ふるいりゅう!)」
「ピュイッ(とおくからきた!)」

 灰色の羽竜は雛竜たちより一回りほど大きい。首に魔法樹脂が連なったネックレスを着けていた。
 もふもふ度は綿毛竜コットンドラゴンたちと同じふわふわである。

「野生の羽竜なのかしら。でもそれにしては人懐っこいし……」

 首を傾げながらも皆で小型化したユキノを含めて抱え、ダンジョンに向かうべく馬車に乗ろうとしたところ。
 庭の端に人が倒れているのが見えた。

「ふ、不審者か!?」

 最近ではルシウス邸周辺でも不審者の目撃情報が出ていると聞いたばかりだ。

 警戒しながら近づいてみると、黒髪のまだ若い男性がうつ伏せで倒れていた。
 ルシウスやユキレラと張るほど長身だ。旅装や庶民の衣服ではなく、貴族っぽい略礼装姿だった。

 男の周囲には灰色の羽毛が散らばっている。
 思わず皆の視線が灰色羽竜に向いた。

「ピウ?」

 羽竜が小首を傾げている。その様子は大変可愛らしかったが、どうやらこの男性に関係があるようだ。

 まだユキノたちのような意思の疎通ができない。
 この様子ならしばらく一緒にいて信頼されれば、ユキノたちと同じように鳴き声に重なる形で声なき声を理解できるはずだ。

「う、うう……」
「あっ、気づかれましたか?」
「に、西の魔王殿にこれを……」

 消耗して身体を動かすのも辛い様子だったが、男性は懐から手紙を取り出して差し出してきた。
 真っ直ぐ、ルシウスに向けて。

「魔王とは私のことか?」
「甥御殿のヨシュアから預かったのです。私は、あなたに、相談……を……」
「あっ、危ない!」

 そのまま意識を失った男性をトオンやユーグレンが慌てて支えた。

「ヨシュアの字だ。間違いない」

 ルシウスはその場で手紙を開封して中身を読んだ。
 見る見るうちに、麗しの顔の眉間に深い皺が刻まれていく。

「皆、済まないが今日の探索は取り止めだ。彼は東南国家の王族らしい。このままにはしておけぬ」

 見た感じ、男性は命に別状はなさそうだ。
 ひとまず屋敷の中に運んで介抱することにした。








※この彼と鮭の人のエピソードは「炎上乙女ゲー聖杯伝説」にて。わりと活躍していた鮭の人🐟
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