婚約破棄で捨てられ聖女の私の虐げられ実態が知らないところで新聞投稿されてたんだけど~聖女投稿~

真義あさひ

文字の大きさ
186 / 306
第四章 出現! 難易度SSSの新ダンジョン

料理人ゲンジの話の本題

しおりを挟む
「カーナ王国は物価が安くていいよね。食料品も同じ値段で他国の三、四割増しの分量を買えてさ」

 それで市場に行くたびついつい買い込んじゃう、とゲンジが笑っている。

「さて。綿毛竜コットンドラゴンたち用は少し材料を変えないとね」

 ユキノたち綿毛竜コットンドラゴンは草食の竜種だ。
 ゲンジが言うには、植物性の材料なら何でも食べられるが、人間が好むローストナッツやシロップ類は与え過ぎるとお腹を壊すことがあるらしい。

「生ナッツやドライフルーツだけを粘りのあるデーツや柿のペーストで固めるんだ。あんまり日持ちはしないけどね」

 それと一緒に動物性のミルクやバターを使わない生チョコレートを使うそうな。

「ココナッツのバージンオイルに、カカオパウダーを加えてよく混ぜる。ドラゴンたちはこれだけで良いけど、人間様用には甘味料を加えておこうか」

 砂糖でも良かったがカーナ王国には蒸留酒テキーラと同じ材料から取れて、砂糖よりさっぱりしながらも甘みの強いアガベシロップが流通している。
 こちらを混ぜて、キャンディやチョコレート用の型に流し込んだ。ココナッツオイルベースなので数分冷蔵庫に入れるだけですぐに固まる。

「はい、こちらもお味見をどうぞ」

 シェル型から取り外したローチョコレートを渡された。手の熱ですぐ溶け出してきたので、慌てて口に含む。

 ミルクを加えていない分、市販のチョコレートのようなまろやかさはなかったが、代わりにカカオのコクと苦味がガツンと来る。
 アイシャは酒は飲まないが、ブランデーやテキーラなどと合わせると酒好きには堪らない味かもしれない。

 そんなアイシャに面白そうに笑って、ゲンジは休憩と言って厨房にあったティーバッグで簡単にお茶を入れてくれた。
 他のエナジーバーは冷蔵庫へ。お茶を飲み終わる頃にはすべて冷えて固まっているはずだ。



「アイシャちゃん、俺が渡したポーションは飲んでくれてるんだよね?」
「毎週ひと瓶ペースで間違いなく」

 椅子に座って小休止だ。お茶を飲みながら話をした。
 アイシャがゲンジを紹介されたのは去年の年末。調理師の彼は魔術師フリーダヤと聖女ロータスファミリーの薬師リコの弟子で、彼自身薬師スキルを持っているという。

「体調はかなり良くなりました。でも生理はやっぱり戻りません」

 ゲンジがアイシャにくれたのは、ポーションとはいえジャム瓶に入った甘いペーストだった。
 生姜に黒糖を加えて煮詰めたもので、いわゆる生姜茶だ。お湯に溶かして飲むと全身がポカポカ温まるのでこの冬は毎日朝晩飲んでいた。

「それなんだけどね。実はこの万能薬エリクサーが入ってたんだ。ごく少量だけどね。それで大抵の体調不良なら治るはずだったんだけど、治ってない」
「……はい」
「俺のお師匠さんに報告したら、過去の身体への負担以外の原因があるんじゃないかって」

 その後しばらく無言が続いた。伝えようか伝えまいか迷っているらしい。
 アイシャはじっとゲンジの人の良さそうな顔を見つめた。

「アイシャちゃんはとても力の強い聖女様なんだって聞いてるよ。そういう魔力使いには〝時を壊す〟っていう現象が起こることがあるらしい」
「そ、それは」

 滅多に起こらないが、伝説と言いきるほど稀でもない現象のことだ。
 力のある魔力使いには、原因は不明だがあるときを境にして寿命を消失することがある。それを〝時を壊す〟といった。

「それと、私の生理が止まっていることにどのような関係が?」
「お師匠さんが言うには、〝時を壊す〟を果たした魔力使いの中には生殖機能を失う者が一定数いるそうなんだ。でも全員じゃないから安心して」
「でも。それは、つまり」
「もしかしたら、肉体が〝時を壊す〟の準備に入っているかも。そうなっちまうのかねえ」
「………………」

 ゲンジが気遣うようにアイシャを見つめてくる。

「その可能性はどれくらいですか?」
「まだ予想の段階でしかないよ。そもそも〝時を壊す〟には不明点も多くて、確実なことは言えないらしいんだ。できたら実際に〝時を壊す〟を果たしたファミリーの人たちに会いに行くといいね」

 アイシャが知るリンクファミリーのメンバーは、まずリンク創成の魔術師フリーダヤと聖女ロータス。
 彼らが弟子にした者は多数いるようだが、アイシャが知るのはゲンジの師匠の薬師リコ。
 他は名前だけ聞いているが、実態はあまり知らない。
 ルシウスはまだ〝時を壊す〟は果たしていないと以前聞いた覚えがある。この料理人ゲンジもだ。

「おっと、そろそろ固まったかな。カットカット」

 話はそこでおしまいだ。
 冷え固まったエナジーバーを次々カットしては食用ペーパーで包んでいくと、大きめのカゴの中いっぱいに出来上がった。

「今日この後、ダンジョンに行くなら皆で食べて感想を教えてくれるかい?」

 しかしパーティーリーダーのルシウスがまだ戻って来ないのである。
 そろそろ昼食の時間だった。




しおりを挟む
感想 1,049

あなたにおすすめの小説

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

公爵家の末っ子娘は嘲笑う

たくみ
ファンタジー
 圧倒的な力を持つ公爵家に生まれたアリスには優秀を通り越して天才といわれる6人の兄と姉、ちやほやされる同い年の腹違いの姉がいた。  アリスは彼らと比べられ、蔑まれていた。しかし、彼女は公爵家にふさわしい美貌、頭脳、魔力を持っていた。  ではなぜ周囲は彼女を蔑むのか?                        それは彼女がそう振る舞っていたからに他ならない。そう…彼女は見る目のない人たちを陰で嘲笑うのが趣味だった。  自国の皇太子に婚約破棄され、隣国の王子に嫁ぐことになったアリス。王妃の息子たちは彼女を拒否した為、側室の息子に嫁ぐことになった。  このあつかいに笑みがこぼれるアリス。彼女の行動、趣味は国が変わろうと何も変わらない。  それにしても……なぜ人は見せかけの行動でこうも勘違いできるのだろう。 ※小説家になろうさんで投稿始めました

結婚初夜、「何故彼女が死んでお前が生きているんだ」と夫に言われました

ましゅぺちーの
恋愛
侯爵令嬢のアリサは婚約者だった王太子テオドールと結婚した。 ちょうどその半年前、アリサの腹違いの妹のシアは不慮の事故で帰らぬ人となっていた。 王太子が婚約者の妹のシアを愛していたのは周知の事実だった。 そんな彼は、結婚初夜、アリサに冷たく言い放った。 「何故彼女が死んでお前が生きているんだ」と。

遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。

沼野 花
恋愛
【3月中ーー完結!!】 私は、夫にも子供にも選ばれなかった。 二十年の裏切りの果て、その事実だけを抱え、離縁状を置いて家を出た。 そこで待っていたのは、凍てつく絶望――。 けれど同時に、それは残酷な運命の扉がひらく瞬間でもあった。 夫は愛人と共に好きに生きればいい。 今さら「本当に愛していたのは君だ」と縋られても、 死の淵を彷徨った私には、裏切ったあなたを許す力など残っていない。 「でも、子供たちの心だけは、 必ず取り戻す」 妻にも母にもなれなかった伯爵夫人イネス。 過去を悔い、歪な愛でもいいと手を伸ばした彼女が辿り着いた先。 それは、「歪で、完全な幸福」か、それとも――。 これは、"石"に翻弄された者たちの、狂おしい物語。

【完結】「神様、辞めました〜竜神の愛し子に冤罪を着せ投獄するような人間なんてもう知らない」

まほりろ
恋愛
王太子アビー・シュトースと聖女カーラ・ノルデン公爵令嬢の結婚式当日。二人が教会での誓いの儀式を終え、教会の扉を開け外に一歩踏み出したとき、国中の壁や窓に不吉な文字が浮かび上がった。 【本日付けで神を辞めることにした】 フラワーシャワーを巻き王太子と王太子妃の結婚を祝おうとしていた参列者は、突然現れた文字に驚きを隠せず固まっている。 国境に壁を築きモンスターの侵入を防ぎ、結界を張り国内にいるモンスターは弱体化させ、雨を降らせ大地を潤し、土地を豊かにし豊作をもたらし、人間の体を強化し、生活が便利になるように魔法の力を授けた、竜神ウィルペアトが消えた。 人々は三カ月前に冤罪を着せ、|罵詈雑言《ばりぞうごん》を浴びせ、石を投げつけ投獄した少女が、本物の【竜の愛し子】だと分かり|戦慄《せんりつ》した。 「Copyright(C)2021-九頭竜坂まほろん」 アルファポリスに先行投稿しています。 表紙素材はあぐりりんこ様よりお借りしております。 2021/12/13、HOTランキング3位、12/14総合ランキング4位、恋愛3位に入りました! ありがとうございます!

婚約破棄をされ、父に追放まで言われた私は、むしろ喜んで出て行きます! ~家を出る時に一緒に来てくれた執事の溺愛が始まりました~

ゆうき
恋愛
男爵家の次女として生まれたシエルは、姉と妹に比べて平凡だからという理由で、父親や姉妹からバカにされ、虐げられる生活を送っていた。 そんな生活に嫌気がさしたシエルは、とある計画を考えつく。それは、婚約者に社交界で婚約を破棄してもらい、その責任を取って家を出て、自由を手に入れるというものだった。 シエルの専属の執事であるラルフや、幼い頃から実の兄のように親しくしてくれていた婚約者の協力の元、シエルは無事に婚約を破棄され、父親に見捨てられて家を出ることになった。 ラルフも一緒に来てくれることとなり、これで念願の自由を手に入れたシエル。しかし、シエルにはどこにも行くあてはなかった。 それをラルフに伝えると、隣の国にあるラルフの故郷に行こうと提案される。 それを承諾したシエルは、これからの自由で幸せな日々を手に入れられると胸を躍らせていたが、その幸せは家族によって邪魔をされてしまう。 なんと、家族はシエルとラルフを広大な湖に捨て、自らの手を汚さずに二人を亡き者にしようとしていた―― ☆誤字脱字が多いですが、見つけ次第直しますのでご了承ください☆ ☆全文字はだいたい14万文字になっています☆ ☆完結まで予約済みなので、エタることはありません!☆

五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~

放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」 大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。 生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。 しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。 「すまない。私は父としての責任を果たす」 かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。 だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。 これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。

私と子供より、夫は幼馴染とその子供のほうが大切でした。

小野 まい
恋愛
結婚記念日のディナーに夫のオスカーは現れない。 「マリアが熱を出したらしい」 駆けつけた先で、オスカーがマリアと息子カイルと楽しげに食事をする姿を妻のエリザが目撃する。 「また裏切られた……」 いつも幼馴染を優先するオスカーに、エリザの不満は限界に達していた。 「あなたは家族よりも幼馴染のほうが大事なのね」 離婚する気持ちが固まっていく。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。