婚約破棄で捨てられ聖女の私の虐げられ実態が知らないところで新聞投稿されてたんだけど～聖女投稿～

第四章 出現！ 難易度ＳＳＳの新ダンジョン

プロローグ～鮭の人、絶賛遭難中

　その男は乾いていた。
　悪い魔女に大切なものを奪われて、気づいたら大山脈の山中で置き去りだ。

　山登りの準備などしていなかったから、水も食料も少なかった。
　数日何とか保たせたが、そこまでだ。
　歩けど歩けど川もなければ湖や池、泉、水溜まりすらない。乾いた山だった。
　現地の植生に詳しくないせいで、どれが食べられる水分の取れる草や果実かわからないのも痛かった。

　できるだけ体力を消耗しないよう気をつけていたが、ついに水筒の中の水も無くなって、小石を口に含んで唾液を出して乗りきっていた。
　しかし、ついに唾液すら出なくなって、もう口の中どころか唇までひび割れてきてしまった。

（ここは大陸の東南部だったか。ならばこの山はアヴァロン山脈。医聖アヴァロニス由来の地域だ）

　医聖は永遠の国の、教会本部の長と聞いたことがある。賢者の石や万能薬エリクシルを開発した魔道士だったとの説もあった。

「今ならどんなにクソ不味いポーションでも飲めるのになあ」

　ほとんど無声音で呟いて、逸れていた山道に戻ろうとした男の耳に、複数の男女の叫び声が聞こえた。
　ここから樹林の間を抜けた百メートルほど先だ。何か魔物と対戦しているらしい。

（人がいるなら水も！）

　気力を振り絞って、彼らの元へと急いだ。



　この人物こそが、アイシャたちが〝鮭の人〟と呼んで恩人として崇め奉っているルシウスの甥っ子にしてカズンの幼馴染み、リースト侯爵ヨシュアである。

　ルシウスと同じ青みがかった銀髪はホコリまみれ、湖面の水色の目はしょぼしょぼ。
　まだ若いのに、リースト一族特有の麗しの顔は血の気がなく、げっそりとやつれてしまっている。
　彼を溺愛する叔父のルシウスが見たら半狂乱になりそうな状態だった。

　そんな彼がカズンに辿り着くまで、あと少し。