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第三章 カーナ王国の混迷
番外編 聖女様と綿毛竜2~もふもふドラゴンは〝へそ天〟に憧れる
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それからパン屋で貰ったココナッツの実の入った木箱を、大型化したユキノが前脚で抱えやすいよう縄の持ち手を付けてもらって、ルシウス邸に帰宅した。
仔竜たちはまだ元々の身体が小さいから一口でぱくりとはいかない。
食べるときは世話役が砕いて中身の胚乳だけを与えることになるだろう。
「ピュイッ(見て、アイシャちゃん)」
「なあに?」
ルシウス邸では綿毛竜たちは竜舎にいることもあれば、庭を駆け回ったり、あるいはルシウスが用意した遊び部屋で遊んでいることもある。
遊び部屋ではまだ生まれて一年未満の身体の小さな仔竜たちが思い思いに跳ねたり飛んだりしていた。
いま、ルシウス邸にはユキノ以外に五体の仔竜がいる。
ルシウスが各個体の素質を見抜いて、適したスキルを授けるため、孵化してから一年は面倒を見ているのだそうで。
カーナ王国に来てから大きな屋敷を準備できたので、故郷で世話していた綿毛竜たちも続々と集まってきている。
(もふもふが、たくさん)
皆、全身真っ白でふわふわ。
アイシャは自分の顔がゆるゆると綻んでくるのがわかった。
そのうちの一体をユキノがひょいっと両脚で掴んで、床に置かれていた大きなクッションの上にぽいっと投げた。
「ピゥ?」
何が起こったかわからない仔竜は赤い目をぱちぱち瞬かせて、背中側からクッションに落ちた。
仔竜はもちろん背中にまだ小さな翼があるが、ふわふわの羽毛が生えているので仰向けに寝ても緩衝材になる。
翼が潰れたり折れたりすることもなく、そのままうとうととして微睡んでいった。
「ピュウ……(ボクは翼が硬いからこの仔たちみたいに〝へそ天〟で休めないのがちょっと悲しい)
「へそ天? ああ、そういうこと?」
クッションの上で〝へそ天〟してる仔竜はとても気持ち良さそうだ。
ぷーぷー愛らしい寝息を立てて、前脚や後ろ脚を天井に向けて、卵生でなかったらあったはずの〝へそ〟のあるお腹を出して眠っている。
「ユキノ君、ちょっと待ってて」
アイシャは遊び部屋を出てルシウス邸の中を探し回った。
リースト一族の家人たちからは一抱えほどの深めのカゴを借り、庭の作業小屋にいた神人ジューアからは、魔導具を輸送するとき梱包に使う緩衝材の木屑を貰ってカゴに詰めた。
「そんなもの何に使うのだ?」
不思議そうに神人ジューアに聞かれて、経緯を話すとそれなら、とアドバイスをくれた。
「あの透明な翼、取り外しするにはもう遅いものね」
礼を言ってまた屋敷の中に戻っていくアイシャを見送って、ジューアが呟いた。
「欠損を修復できればあの魔法樹脂の翼を、本来の羽根の生えた翼に戻せるのだろうが。……今はもう難しいか」
「ピューピュイッ(アイシャちゃん、おかえりー!)」
「「「「「ピュイッピ!(おかえりなさーい!)」」」」」
遊び部屋に戻るなり、ユキノや仔竜たちに出迎えられた。
視界一面の白い、ふわふわなもふもふ。
至福である。ここが天の国か。いいや、こここそが地上の楽園だ。
「ユキノ君。皆も。床に落ちてる羽を拾ってこのカゴに集めてくれますか?」
「ピュイッ(はーい!)」
皆、良い子のお返事で羽毛を拾い始めた。綿毛竜はどの個体も素直だ。
ごっそり、というほどではなかったが、何せ密に生えているので身動きするだけで羽が抜けていく。
全員分を集めるだけでもかなりの量になった。
綿毛竜はいわゆる竜種で、後ろ脚はトカゲなど爬虫類に似ているが、前脚が長めで手も指があって器用に動く。
物を掴んで持ち運んだりはお手のものだ。
たまにルシウスや秘書ユキレラが飲みすぎてぐったりしているのを、ユキノがお酒くさーいと言いながら抱えて部屋まで連れて行った姿を何回か見ている。
「うん、量はじゅうぶんね。ユキノくん、いつもみたいに小さくなってみて」
「ピ?(こう?)」
室内では大人の成人男性くらいのサイズに抑えていたユキノが、仔犬サイズになった。
そのユキノをそっと両手で持ち上げて、そーっと、ゆーっくり、真っ白な羽毛を柔らかめに詰めたカゴの中に仰向けで寝かせてやった。
ふわあ、っと柔らかな羽毛がユキノの硬くて透明な翼を受け止める。
普通のクッションだと、カバーの布がどうしてもユキノの翼には突っ張ってしまうのだが、これは上手く翼と身体の間に羽毛が入り込んで柔らかく受け止めてくれる。
それでいて、底に敷いた木屑がしっかり弾力のあるベースになっていて、柔らかいだけでないのも良い。
「ピュアーッ!?(こ、これはーっ!?)」
「ふふ。〝へそ天〟初体験、どう?」
ちょん、と指先でもふもふのお腹を突っついた。
「ピゥ……(だ、だんだん眠くなっ……て……)」
しばらく前脚や後ろ脚をばたばたと動かしていたが、やがて心地よい姿勢を見つけたようだ。万歳のポーズで前脚を上に伸ばしたポーズでそのまま眠ってしまった。
「ふふふ。かわいい」
もう永遠に見ていられる。
仔竜たちはまだ元々の身体が小さいから一口でぱくりとはいかない。
食べるときは世話役が砕いて中身の胚乳だけを与えることになるだろう。
「ピュイッ(見て、アイシャちゃん)」
「なあに?」
ルシウス邸では綿毛竜たちは竜舎にいることもあれば、庭を駆け回ったり、あるいはルシウスが用意した遊び部屋で遊んでいることもある。
遊び部屋ではまだ生まれて一年未満の身体の小さな仔竜たちが思い思いに跳ねたり飛んだりしていた。
いま、ルシウス邸にはユキノ以外に五体の仔竜がいる。
ルシウスが各個体の素質を見抜いて、適したスキルを授けるため、孵化してから一年は面倒を見ているのだそうで。
カーナ王国に来てから大きな屋敷を準備できたので、故郷で世話していた綿毛竜たちも続々と集まってきている。
(もふもふが、たくさん)
皆、全身真っ白でふわふわ。
アイシャは自分の顔がゆるゆると綻んでくるのがわかった。
そのうちの一体をユキノがひょいっと両脚で掴んで、床に置かれていた大きなクッションの上にぽいっと投げた。
「ピゥ?」
何が起こったかわからない仔竜は赤い目をぱちぱち瞬かせて、背中側からクッションに落ちた。
仔竜はもちろん背中にまだ小さな翼があるが、ふわふわの羽毛が生えているので仰向けに寝ても緩衝材になる。
翼が潰れたり折れたりすることもなく、そのままうとうととして微睡んでいった。
「ピュウ……(ボクは翼が硬いからこの仔たちみたいに〝へそ天〟で休めないのがちょっと悲しい)
「へそ天? ああ、そういうこと?」
クッションの上で〝へそ天〟してる仔竜はとても気持ち良さそうだ。
ぷーぷー愛らしい寝息を立てて、前脚や後ろ脚を天井に向けて、卵生でなかったらあったはずの〝へそ〟のあるお腹を出して眠っている。
「ユキノ君、ちょっと待ってて」
アイシャは遊び部屋を出てルシウス邸の中を探し回った。
リースト一族の家人たちからは一抱えほどの深めのカゴを借り、庭の作業小屋にいた神人ジューアからは、魔導具を輸送するとき梱包に使う緩衝材の木屑を貰ってカゴに詰めた。
「そんなもの何に使うのだ?」
不思議そうに神人ジューアに聞かれて、経緯を話すとそれなら、とアドバイスをくれた。
「あの透明な翼、取り外しするにはもう遅いものね」
礼を言ってまた屋敷の中に戻っていくアイシャを見送って、ジューアが呟いた。
「欠損を修復できればあの魔法樹脂の翼を、本来の羽根の生えた翼に戻せるのだろうが。……今はもう難しいか」
「ピューピュイッ(アイシャちゃん、おかえりー!)」
「「「「「ピュイッピ!(おかえりなさーい!)」」」」」
遊び部屋に戻るなり、ユキノや仔竜たちに出迎えられた。
視界一面の白い、ふわふわなもふもふ。
至福である。ここが天の国か。いいや、こここそが地上の楽園だ。
「ユキノ君。皆も。床に落ちてる羽を拾ってこのカゴに集めてくれますか?」
「ピュイッ(はーい!)」
皆、良い子のお返事で羽毛を拾い始めた。綿毛竜はどの個体も素直だ。
ごっそり、というほどではなかったが、何せ密に生えているので身動きするだけで羽が抜けていく。
全員分を集めるだけでもかなりの量になった。
綿毛竜はいわゆる竜種で、後ろ脚はトカゲなど爬虫類に似ているが、前脚が長めで手も指があって器用に動く。
物を掴んで持ち運んだりはお手のものだ。
たまにルシウスや秘書ユキレラが飲みすぎてぐったりしているのを、ユキノがお酒くさーいと言いながら抱えて部屋まで連れて行った姿を何回か見ている。
「うん、量はじゅうぶんね。ユキノくん、いつもみたいに小さくなってみて」
「ピ?(こう?)」
室内では大人の成人男性くらいのサイズに抑えていたユキノが、仔犬サイズになった。
そのユキノをそっと両手で持ち上げて、そーっと、ゆーっくり、真っ白な羽毛を柔らかめに詰めたカゴの中に仰向けで寝かせてやった。
ふわあ、っと柔らかな羽毛がユキノの硬くて透明な翼を受け止める。
普通のクッションだと、カバーの布がどうしてもユキノの翼には突っ張ってしまうのだが、これは上手く翼と身体の間に羽毛が入り込んで柔らかく受け止めてくれる。
それでいて、底に敷いた木屑がしっかり弾力のあるベースになっていて、柔らかいだけでないのも良い。
「ピュアーッ!?(こ、これはーっ!?)」
「ふふ。〝へそ天〟初体験、どう?」
ちょん、と指先でもふもふのお腹を突っついた。
「ピゥ……(だ、だんだん眠くなっ……て……)」
しばらく前脚や後ろ脚をばたばたと動かしていたが、やがて心地よい姿勢を見つけたようだ。万歳のポーズで前脚を上に伸ばしたポーズでそのまま眠ってしまった。
「ふふふ。かわいい」
もう永遠に見ていられる。
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