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第三章 カーナ王国の混迷
聖なる力のその先
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アイシャはカーナ王国の聖女として受け継いだ四つ葉のブローチを持っている。
黄金のオリハルコンの台座に、雫型のエメラルドが四個。中央にはダイヤモンドの上位鉱物アダマンタイトがポイントで一個嵌っている。
宝飾品としても超一級品で、これだけはクーツ王太子に奪われまいとアイシャも必死で隠し、守り通していた。
このブローチは記憶媒体の魔導具にもなっている。
記録する、後の世代の聖女聖者に伝えるべき自分の体験を、情報として整理するのが日課になっている。
主に日記にまとめて、月に数度、内容を精査してはブローチに記録させていた。
一度記録して刻み込んだ記憶や情報は、本人なら何度でも上書き修正や追加が可能だ。
アイシャのこれまでの人生で特徴的な出来事がある。
聖女のアイシャが聖なる魔力を発揮すればするほど、反比例するように反発する人間関係が発生していたことだ。
例えばアイシャが嫌っていた、あの教会の元世話役ミズスィーマ氏など。邪や魔に堕落するほどではなかったが、人間性は悪かった。
彼はアイシャが聖女としてスキルを磨き、魔力を高めて実力を上げていくほどアイシャへの態度が悪くなっていた人物である。
なかなか表沙汰にならなかったのは、彼が無礼な態度を取るのは他人がいないか、人々の耳目が逸れているとき限定だったためだ。
実際、トオンも彼のことは地域のまとめ役であり、人格者だとずっと思っていたそうで、聖女投稿でアイシャのメモを見たときはとても驚いたと言っていた。
「……クーツも同じだったわね」
最初の顔合わせのときから態度の悪い男だったが、アイシャが聖女の修行を積んで力を強めるほど、彼のアイシャへの言動は過酷さを増していた。
その話をビクトリノに話してみると。
「聖なる力には邪悪が対応する。力が強いほど邪悪が来るともいえるんだよな」
しみじみ、溜め息をつくように教えてくれた。
「どこかの時点で邪悪を許容して、統合なり超越なりしていく段階があるんじゃねえかって俺は思ってるのよ」
聖者ビクトリノは破邪スキルの中でも、邪悪な人間の命を奪うことで根こそぎ浄化する特殊な攻撃スキルの持ち主だ。
実際、カーナ王国の前国王アルターにトドメを刺すことで魂を救済している。
こんなことができるのは、聖者といえどビクトリノだけだ。
本人は魔力量こそアイシャに及ばないが、究極の救済手段を持つ、文字通りの〝聖者〟だった。
だが、彼自身、更にその先を予感しているのだそうだ。
ビクトリノ自身が対応できた邪や魔のケースでも、幾つかは破邪スキルで滅殺するのでなく、対象と自分自身を混ぜ合わせるような意識で対応したときに問題が問題でなくなった経験があるという。
「永遠の国のハイヒューマンたち、特に神人に顕著なんだが思考回路がどうも二元論になってねえのよ。見た目は人間と変わらねえし個性として自分の好き嫌いは皆持ってるが、物事を善悪で分けて片方だけに偏ってねえの」
代表的なのがカーナ王国の地下の穢れを長年放置していた神人カーナ姫だという。
「本来自分の持ち物のはずのカーナ王国の問題を五百年も放置していた。周りは当然、何ですぐ対処しねえんだって責めてたが、取り合わず宥める側に回ってた。そんで今、アイシャが見事に解決しただろ。多分神人カーナが対処するよりずっと良い形で」
「そうでしょうか。本当ならエイリー様だって消えずに済んだかもしれないのに」
地下の邪悪な古代生物を浄化したことは偉業だったが、トオンの大事な母親を失ってしまったことは痛かった。
「神人カーナが動いたら国土が揺れた。上に載ってる王都を引っぺがして地下の古代生物を引き上げてたはずだから、カーナ王国はただじゃ済まなかったと思うぜ。初代聖女エイリーについては……まあ俺には何も言えないんだが」
生き延びた彼女とはもっと話し合いが必要だった。
しかし彼女はもういないし、本人が何を考えていたかは残された日記を読むか、直接交流していた宰相から聞くしかない。
「本当の意味での浄化ってのは一方的に攻撃して滅殺するもんじゃないのかもしんねえ。少なくとも理想としては」
ビクトリノが言うには、邪気や穢れも、魔の類も、清浄な聖なる魔力の持ち主に集まる傾向があるとのこと。
「だから元々、聖者や聖女には良くないものが寄ってきやすい。浄化してほしいって期待があるからだろうし、……単純に対称的な聖なるものが気に食わねえ可能性もある」
あるいは、聖なるものを汚染したいかだ。
「邪気も魔も、もっと本格的に研究したいとずっと思ってたんだが、教会の大司祭は死ぬほど忙しくてな。今回、カーナ王国が落ち着くまでって条件で教会の長に許可をもらって時間と心と魔力の余裕ができた。よろしく頼むぜ、アイシャ」
「はい! ビクトリノ様が一緒なら私も心強いです!」
同じ環使い同士でもある。
これ以上ない味方だった。
黄金のオリハルコンの台座に、雫型のエメラルドが四個。中央にはダイヤモンドの上位鉱物アダマンタイトがポイントで一個嵌っている。
宝飾品としても超一級品で、これだけはクーツ王太子に奪われまいとアイシャも必死で隠し、守り通していた。
このブローチは記憶媒体の魔導具にもなっている。
記録する、後の世代の聖女聖者に伝えるべき自分の体験を、情報として整理するのが日課になっている。
主に日記にまとめて、月に数度、内容を精査してはブローチに記録させていた。
一度記録して刻み込んだ記憶や情報は、本人なら何度でも上書き修正や追加が可能だ。
アイシャのこれまでの人生で特徴的な出来事がある。
聖女のアイシャが聖なる魔力を発揮すればするほど、反比例するように反発する人間関係が発生していたことだ。
例えばアイシャが嫌っていた、あの教会の元世話役ミズスィーマ氏など。邪や魔に堕落するほどではなかったが、人間性は悪かった。
彼はアイシャが聖女としてスキルを磨き、魔力を高めて実力を上げていくほどアイシャへの態度が悪くなっていた人物である。
なかなか表沙汰にならなかったのは、彼が無礼な態度を取るのは他人がいないか、人々の耳目が逸れているとき限定だったためだ。
実際、トオンも彼のことは地域のまとめ役であり、人格者だとずっと思っていたそうで、聖女投稿でアイシャのメモを見たときはとても驚いたと言っていた。
「……クーツも同じだったわね」
最初の顔合わせのときから態度の悪い男だったが、アイシャが聖女の修行を積んで力を強めるほど、彼のアイシャへの言動は過酷さを増していた。
その話をビクトリノに話してみると。
「聖なる力には邪悪が対応する。力が強いほど邪悪が来るともいえるんだよな」
しみじみ、溜め息をつくように教えてくれた。
「どこかの時点で邪悪を許容して、統合なり超越なりしていく段階があるんじゃねえかって俺は思ってるのよ」
聖者ビクトリノは破邪スキルの中でも、邪悪な人間の命を奪うことで根こそぎ浄化する特殊な攻撃スキルの持ち主だ。
実際、カーナ王国の前国王アルターにトドメを刺すことで魂を救済している。
こんなことができるのは、聖者といえどビクトリノだけだ。
本人は魔力量こそアイシャに及ばないが、究極の救済手段を持つ、文字通りの〝聖者〟だった。
だが、彼自身、更にその先を予感しているのだそうだ。
ビクトリノ自身が対応できた邪や魔のケースでも、幾つかは破邪スキルで滅殺するのでなく、対象と自分自身を混ぜ合わせるような意識で対応したときに問題が問題でなくなった経験があるという。
「永遠の国のハイヒューマンたち、特に神人に顕著なんだが思考回路がどうも二元論になってねえのよ。見た目は人間と変わらねえし個性として自分の好き嫌いは皆持ってるが、物事を善悪で分けて片方だけに偏ってねえの」
代表的なのがカーナ王国の地下の穢れを長年放置していた神人カーナ姫だという。
「本来自分の持ち物のはずのカーナ王国の問題を五百年も放置していた。周りは当然、何ですぐ対処しねえんだって責めてたが、取り合わず宥める側に回ってた。そんで今、アイシャが見事に解決しただろ。多分神人カーナが対処するよりずっと良い形で」
「そうでしょうか。本当ならエイリー様だって消えずに済んだかもしれないのに」
地下の邪悪な古代生物を浄化したことは偉業だったが、トオンの大事な母親を失ってしまったことは痛かった。
「神人カーナが動いたら国土が揺れた。上に載ってる王都を引っぺがして地下の古代生物を引き上げてたはずだから、カーナ王国はただじゃ済まなかったと思うぜ。初代聖女エイリーについては……まあ俺には何も言えないんだが」
生き延びた彼女とはもっと話し合いが必要だった。
しかし彼女はもういないし、本人が何を考えていたかは残された日記を読むか、直接交流していた宰相から聞くしかない。
「本当の意味での浄化ってのは一方的に攻撃して滅殺するもんじゃないのかもしんねえ。少なくとも理想としては」
ビクトリノが言うには、邪気や穢れも、魔の類も、清浄な聖なる魔力の持ち主に集まる傾向があるとのこと。
「だから元々、聖者や聖女には良くないものが寄ってきやすい。浄化してほしいって期待があるからだろうし、……単純に対称的な聖なるものが気に食わねえ可能性もある」
あるいは、聖なるものを汚染したいかだ。
「邪気も魔も、もっと本格的に研究したいとずっと思ってたんだが、教会の大司祭は死ぬほど忙しくてな。今回、カーナ王国が落ち着くまでって条件で教会の長に許可をもらって時間と心と魔力の余裕ができた。よろしく頼むぜ、アイシャ」
「はい! ビクトリノ様が一緒なら私も心強いです!」
同じ環使い同士でもある。
これ以上ない味方だった。
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