婚約破棄で捨てられ聖女の私の虐げられ実態が知らないところで新聞投稿されてたんだけど~聖女投稿~

真義あさひ

文字の大きさ
上 下
166 / 302
第三章 カーナ王国の混迷

王太子様の初タコス体験

しおりを挟む
 翌日、朝一番で宰相から伝令が来た。
 他国の王太子ユーグレンが顧問になったので、メンバーへのお披露目を兼ねて本日、緊急で共和制実現会議を開催するとのこと。

「あ、良かった午後だ」
「なら一度ルシウスさんのとこ行ってからにしましょ」

 朝食は屋台広場でさっと済ませることにして、出発前に一度食堂に集まった。

「よく眠れましたか、ユーグレンさん」
「ああ。というよりあの部屋、ルシウス様の芳香で満ちていたのだが……」

 松の樹木の芳香だ。ルシウスの放つ聖者の芳香である。

「ユーグレンさんの前はルシウスさんが使ってました。その前はカズン」

 ともあれ外出着に着替えたユーグレンを見ると、ここに来たときと同じ旅装は良いとして、背中に鞘に入った大剣を背負っていた。

「あ、そうかアイテムボックス! アイシャ、ユーグレンさんのリンクに組み込める?」
「やってみるわ」
「?」

 話がわからないユーグレンの胸元を、アイシャが指先でトンと突いた。
 即座に現れた真紅の魔力を帯びた光のリンクの中に細い腕を突っ込む。

「えっ!? あっ!?」
「聞いたことない? リンク使いだけがアイテムボックス機能を持てるって」
「あ、いや、話には聞いていた……が……」

 他人にリンクを触られる感触が衝撃的だったらしい。何とも感性豊かな反応だった。

「随分と容量が大きいわ。これなら木箱十箱分ってところかしら」
「カズンが二箱だから五倍。俺なんて一箱だもん、すげえ」

 そこからふたりで簡単にアイテムボックスの使い方をレクチャーした。

「その大剣もアイテムボックスを意識するだけで出し入れできるよ」
「えっ、こんな一瞬で!?」
「同じ系列のリンク使い同士だと物品を送り合うことも可能なの」

 アイシャは食卓の上にあった小さなカゴからキャンディを一個取って自分のリンクに入れた。
 するとユーグレンのリンクから同じキャンディが飛び出てくる。

「く、空間転送だと……!?」

 反応が大袈裟で面白い。

「そうか、アケロニア王国は旧世代魔力使いの国だもんなー」
「しばらくいろいろ試してみるといいわよ」

 今はひとまずここまでだ。まずは朝食のため屋台広場へ向かうことにした。



 屋台広場は王都内に数ヶ所ある。
 トオンの古書店のある南地区は早朝から夜中まで屋台が開いているので利用しやすく便利だ。

 ささっと立ち食いのタコスで朝食を済ませたが、初タコス経験のユーグレンは感激していた。

「屋台でこんなに新鮮な野菜が食べられるとは良いな! しかも真冬なのに生野菜まで!」

 生野菜とはいえ玉ねぎや香菜のみじん切りだが、旅の間は偏った食事が多かったそうで嬉しそうにコーントルティーヤごと口に運んでいた。
 一番多いのは焼いた牛肉を削ぎ切りにして、焼いた唐辛子やトマトをペーストにしたサルサで食べるもの。オプションでアボガドも追加できる。
 海老や牡蠣、帆立、白身魚などシーフードも人気だ。こちらはチポトレという燻製唐辛子を入れたマヨネーズを加えたものも人気である。

 どれも小型のライムを絞って、熱々の出来立てを口に運ぶ。

「カーナ王国の庶民グルメってやつです。なかなかでしょ?」
「カズンも大好きでしたよ」
「美味い。これは本気で美味い」

 屋台では一枚の皿に小型のタコスが三つでワンセット。アイシャとトオンは一皿ずつだったが、ユーグレンは二皿平らげていた。
 サービスのチキンスープを紙コップで飲みながら、満足そうに胃の辺りを押さえている。

「小腹が空いたらここに来ればすぐ食べられます。夜は酒も飲めるので」
「ルシウスさんはビールでイカフライが好きね。朝と夜だとお店のメニューも少し変わるからまた来てみましょ」

 自宅でアイシャが作るのも良いが、しばらくはカーナ王国の食文化に慣れてもらうよう屋台や地元の店に連れて行くのも良いかもしれない。




しおりを挟む
感想 1,048

あなたにおすすめの小説

聖女の私が追放されたらお父さんも一緒についてきちゃいました。

重田いの
ファンタジー
聖女である私が追放されたらお父さんも一緒についてきちゃいました。 あのお、私はともかくお父さんがいなくなるのは国としてマズイと思うのですが……。 よくある聖女追放ものです。

【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました

ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。

「聖女はもう用済み」と言って私を追放した国は、今や崩壊寸前です。私が戻れば危機を救えるようですが、私はもう、二度と国には戻りません【完結】

小平ニコ
ファンタジー
聖女として、ずっと国の平和を守ってきたラスティーナ。だがある日、婚約者であるウルナイト王子に、「聖女とか、そういうのもういいんで、国から出てってもらえます?」と言われ、国を追放される。 これからは、ウルナイト王子が召喚術で呼び出した『魔獣』が国の守護をするので、ラスティーナはもう用済みとのことらしい。王も、重臣たちも、国民すらも、嘲りの笑みを浮かべるばかりで、誰もラスティーナを庇ってはくれなかった。 失意の中、ラスティーナは国を去り、隣国に移り住む。 無慈悲に追放されたことで、しばらくは人間不信気味だったラスティーナだが、優しい人たちと出会い、現在は、平凡ながらも幸せな日々を過ごしていた。 そんなある日のこと。 ラスティーナは新聞の記事で、自分を追放した国が崩壊寸前であることを知る。 『自分が戻れば国を救えるかもしれない』と思うラスティーナだったが、新聞に書いてあった『ある情報』を読んだことで、国を救いたいという気持ちは、一気に無くなってしまう。 そしてラスティーナは、決別の言葉を、ハッキリと口にするのだった……

だから聖女はいなくなった

澤谷弥(さわたに わたる)
ファンタジー
「聖女ラティアーナよ。君との婚約を破棄することをここに宣言する」 レオンクル王国の王太子であるキンバリーが婚約破棄を告げた相手は聖女ラティアーナである。 彼女はその婚約破棄を黙って受け入れた。さらに彼女は、新たにキンバリーと婚約したアイニスに聖女の証である首飾りを手渡すと姿を消した。 だが、ラティアーナがいなくなってから彼女のありがたみに気づいたキンバリーだが、すでにその姿はどこにもない。 キンバリーの弟であるサディアスが、兄のためにもラティアーナを探し始める。だが、彼女を探していくうちに、なぜ彼女がキンバリーとの婚約破棄を受け入れ、聖女という地位を退いたのかの理由を知る――。 ※7万字程度の中編です。

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

【完結】陛下、花園のために私と離縁なさるのですね?

ファンタジー
ルスダン王国の王、ギルバートは今日も執務を妻である王妃に押し付け後宮へと足繁く通う。ご自慢の後宮には3人の側室がいてギルバートは美しくて愛らしい彼女たちにのめり込んでいった。 世継ぎとなる子供たちも生まれ、あとは彼女たちと後宮でのんびり過ごそう。だがある日うるさい妻は後宮を取り壊すと言い出した。ならばいっそ、お前がいなくなれば……。 ざまぁ必須、微ファンタジーです。

婚約破棄……そちらの方が新しい聖女……ですか。ところで殿下、その方は聖女検定をお持ちで?

Ryo-k
ファンタジー
「アイリス・フローリア! 貴様との婚約を破棄する!」 私の婚約者のレオナルド・シュワルツ王太子殿下から、突然婚約破棄されてしまいました。 さらには隣の男爵令嬢が新しい聖女……ですか。 ところでその男爵令嬢……聖女検定はお持ちで?

聖女追放 ~私が去ったあとは病で国は大変なことになっているでしょう~

白横町ねる
ファンタジー
聖女エリスは民の幸福を日々祈っていたが、ある日突然、王子から解任を告げられる。 王子の説得もままならないまま、国を追い出されてしまうエリス。 彼女は亡命のため、鞄一つで遠い隣国へ向かうのだった……。 #表紙絵は、もふ様に描いていただきました。 #エブリスタにて連載しました。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。