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第三章 カーナ王国の混迷

聖女は悪人を見抜いた……が

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 そしてルシウスの店を荒らしたのが、同じ地区にある別の繁盛店オーナーから依頼を受けた下町のごろつきたちだったことが判明する。

 ルシウスが仕掛けていた防犯用の撮影録画の魔導具には、彼らの姿も、彼らが口にした他店のオーナーの名前もはっきりと記録されていた。

「さて、憲兵諸君。揺るぎのない証拠を提示したわけだが、どのように動いてくれる? まさか私が他所から来た他国民だからといって、このような暴挙を見過ごすかね?」
「いえ、他国の方とはいえ、この国の商業ギルド会員の店が荒らされたわけですから、きちんと捜査して犯人たちを処罰しますよ。こちらの魔導具? はお借りしても?」
「もちろん」

 そう、ルシウスはカーナ王国の商業ギルドに登録して、ギルドを通じて店舗の賃貸契約や諸々の手続きを進めてレストラン・サルモーネを開店している。
 通常ならどの国、どの地域でもそれで問題なく商売ができるはずなのだ。

 ルシウスは故郷で実家がやっていた商売の感覚で、地域の有力者たちへの挨拶は商業ギルドを通して行うつもりでいた。
 ギルド主催の会合は定期的にあるし、そこで自分が他国の貴族であることなど紹介してもらおうと考えていた。
 非常にクリーンで正当的なやり方なのだが、今回見舞われたトラブルの性質を考えると、どうもそれ以外の場所で地区の有力者たちへの賄賂などの“挨拶”が必要だったようだ。

「その辺はおいおい考えていくとしよう」

 見慣れぬ他国人がいきなり儲けだしたら目立つし、反感を買うのは仕方がない。
 今後は少しルシウスも慎重になろうと思った。



「ははは、ルシウス様ったら人が良すぎです!」

 そのルシウスのそっくりさんな秘書ユキレラは一連の事態に朗らかに笑っていた。
 オーナーはルシウスだが、店舗のマネージャーはユキレラだ。以降、トラブルの件は彼が全面的に引き受けるそうだ。

 そんな秘書ユキレラを見て、アイシャが複雑そうな顔をしている。

「どうしたの? アイシャ」
「あのユキレラさんって、多分ものすごい悪人よ」
「え?」

 彼はルシウスの遠縁の男爵令息だそうだ。血縁なのはほとんど同じ外見から一目瞭然。
 ルシウスが実家から独立した十代後半からずっと秘書として一番近くにいたと聞いている。
 故郷アケロニア王国ではルシウスの自宅に同居して、ここカーナ王国でもルシウスの家で彼の世話を焼いているそうだ。

 ルシウスが憲兵たちと話している間に、その秘書ユキレラがアイシャたちのほうに来た。
 しまった、話を聞かれてしまったか? と焦るアイシャとトオンに、彼はにっこりと笑って言った。

「さすがは聖女様です。悪人、間違いありません。でもルシウス様にはオレみたいな品のない番犬がいてちょうどいいんです」
「ルシウスさん、なんだかんだいってお人好しですもんね」
「そうそう。なのでオレが裏方を担当して周りを牽制するわけですよ。ですからオレのことは悪人じゃなく忠犬と呼んでくださ……アタッ!」

 話し込んでいたら、後ろから秘書ユキレラが殴られた。

「駄犬の間違いじゃないのか? ユキレラ」
「ルシウス様……躾は程々にしてほしいワン」

 軽口を叩き合っている。どうやらこれが彼らの日常らしかった。



 それから店舗のことは秘書ユキレラに任せて、三人は次の訓練の日程を相談するため近くのカフェに入った。

「ルシウスさんがいつ聖剣ぶっ放すかと思って冷や冷やしたなあ」
「ははは。市井でそのようなことをすれば、辺り一帯は更地になるではないか」
「冗談言ってます?」
「言ってない。……こういうのは、きちんと社会的な文脈で処理すべきなのさ」

 ルシウスも、もう37歳といい年の大人だ。
 いつまでも物理的な腕力や魔力にものを言わせるようなやんちゃができない年齢になった。らしい。



 そうしてレストランを荒らした真犯人からたんまり賠償金をせしめたルシウスは、それを原資として土地と店舗を正式に購入することにした。

 王都滞在中の資金源ひとつ、丸々ゲットである。

 かくして、レストラン・サルモーネ、カーナ王国支店は大々的にリニューアルして再出発したのだった。







※秘書ユキレラとルシウスの出会いと本作第三章までの裏側は別作品「ユキレラ」にて。
カズン君と鮭の人の可愛い幼児時代もそちらで。
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