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第三章 カーナ王国の混迷

ルシウスは泣いて教会へ

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※食品の扱いに不衛生で不愉快な表現があります。ご注意ください。







 だが、しかし。
 ホテルでの優雅な朝食をぶち壊す勢いでやってきた秘書のユキレラに連れられて、レストラン・サルモーネに駆けつけたルシウスが見たものとは。
 
「どうやら人気を妬んだ他店の者が、夜中のうちに店を荒らしてしまったようで……」

 秘書ユキレラが申し訳なさそうに頭を下げている。

 サルモーネは店のドアが破壊され、窓ガラスがほとんど叩き割られている。

「……何と……」

 店内は客席のテーブルや椅子も破損している。いや壊されたのだ。
 厨房を確認すると、食材のストックどころか、使用する調味料などもすべて厨房の床に投げ出され、念入りに踏み潰されている。

 そして何とも痛ましいことに、この店の売りである鮭が、丸のまま何匹もレストルームの便器の中に頭から突っ込まれていた。

「………………」

 ルシウスは無言だ。
 とそこまで確認し終えたところで、連絡を受けた弟子のアイシャとトオンがやってきた。

「うわ、もったいな! ……これ、何とかリカバリーできないものかな?」
「用を足した後の便器に突っ込まれた食い物を、お前なら口にできるのか?」

 言われて便器を覗き込むと、鮭の頭から突っ込まれた便器の中には糞便が浮いている。
 カーナ王国の王都は一応、水洗トイレが主流だが、意図的に流さないままにされたようだ。

「何つうことやらかすんだ……酷い」
「食べ物の恨みは恐ろしいのよ。こんなことをしでかした者たちは関係者まとめて呪われてしまえばいい」
「アイシャが怖いこと言ってる……」

 だがアイシャの腰回りにリンクは出ていないから、口で言っているだけだ。
 これでリンクが出現してしまっているときの発言だったらとても危ない。

「メアリー……ロバート……お前たちが丹精込めて加工した鮭を……済まない」
「メアリーとロバートって?」
「この鮭を加工した故郷の業者夫妻だ。格別美味い鮭を取り扱うことで有名なのだぞ」

 そして片手で目元を覆って、嗚咽しだした。

「あああ……寄付だ、寄付して来なくては。寄付でもしなければこの動揺を抑えきれぬ……」
「ルシウスさん、そういうとこ貴族っぽいわねえ」

 庶民なら憂さ晴らしで暴飲暴食に走ったり、人や物に八つ当たりしてるところだろう。
 どこか良い寄付の当てはないかと聞かれてアイシャとトオンは顔を見合わせた。

「やっぱり教会じゃないかしら。孤児院や救貧院も運営しているから、今いちばん必要としているところに使ってくれると思うわ」
「商店街でもいいんだけど、そうだね、教会がいいのかな」



 レストラン・サルモーネはひとまずマネージャーの秘書ユキレラに任せて、アイシャの紹介で教会へ行くことにした。
 まずはルシウスを落ち着かせるのが先だ。

 王都教会では、提示した寄付金額の大きさと、聖女アイシャの紹介ということもあり、司祭が直接応対してくれた。
 事情を聞いた司祭から、まずは寄付金云々の前に王都の顔役を紹介された。

「商店街組合の顔役に話を通しておかないと、また同じことが起こりかねませんから。紹介状を出すので早めに相談しに行かれると良いでしょう」

 それが何と、以前聖女投稿でアイシャへの叱責を暴露された教会の元世話役ミズスィーマ氏と知って、アイシャの顔から表情が消えた。

「ごめんなさい。私、その人のところに行くならここで失礼するわ」

 トオンが引き止める間もなかった。
 そのままアイシャは教会から出て帰ってしまった。

「どうします? ルシウスさん」
「確かその者、新聞掲載された聖女投稿の中で唯一、その後の足跡が不明のままだったか。気になってたんだ、相談がてら本人の顔を見てくる。トオン、お前は?」
「商店街の会合で俺の南地区もお世話になった方なんです。お供させてください」

 トオンによるとミズスィーマ氏は王都の西地区の顔役で、自身も商会を経営しているという。
 その実績を買われて教会の世話役に就任しており、市井の人格者として知られていた。

 ところが聖女投稿によると、アイシャが慕っていた教会本部の大司祭、聖者ビクトリノとの交流を「身の程知らず」と叱責して、アイシャがビクトリノに会えないよう裏から手を回したそうなのだ。
 これには本人を直接知るトオンもビックリしてしまった。同じように驚いた王都民は多かったはずだ。



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