婚約破棄で捨てられ聖女の私の虐げられ実態が知らないところで新聞投稿されてたんだけど～聖女投稿～

第三章 カーナ王国の混迷

カーナ王国に集う麗し一族

◇◇◇



　西の小国カーナ王国の王都、南地区の外れにあるトオン青年の古書店２階の部屋から出た、聖剣の聖者ルシウス・リースト。
　彼は北東地区に自分用の小さな家を買っていたのでそちらに移り、週に数回、アイシャやトオンたちの元に通ってこれまで通りの指導を続けることになった。

　それはそれとして、カーナ王国に今後もしばらく滞在することになるので、安定した収入を得る方法を考え始めた。
　弟子たちと毎週のように国内のダンジョンに潜ってはいたが、ダンジョンの討伐報酬は不安定で日雇い労働者と変わらない。

　故郷でやっていたような先物投資も考えた。
　実際、コーンや小麦などの穀物先物の市場があったのだが、何せカーナ王国自体が吹けば飛ぶような小国なので危なっかしくてさすがに手を出せなかった。

　そこでルシウスが考えたのは、王都にレストランを開くことだった。
　実家のリースト侯爵家は領地の特産品を作った飲食店を故郷の各地に展開している。そのノウハウはもちろんルシウス自身も持っていた。
　原資はそれこそダンジョン探索した冒険者活動で得た報酬を当てればいい。
　ちょうどカーナ王家が倒れて王都は程よく混乱中。土地値も建物価格も急落していた。

　まず王都の商業ギルドに保証金を払って登録し、紹介された不動産屋を覗いてみると、ちょうど大通りのテナントが空いたとのこと。
　期間限定で店舗を借りて試験的に飲食店を出してみることにした。



　タイミングの良いことに、この頃には故郷のアケロニア王国の実家から、リースト一族の者たちがルシウスを慕ってカーナ王国に到着したばかりだった。
　彼らは故郷での各々の職務を退いて整理し、カーナ王国で改めてルシウスの配下になった。

「というわけで、リースト一族うちの者たちだ。今後も頻繁に顔を合わせるだろうから紹介しておく」

　そう言ってルシウスに紹介されたアイシャとトオンは眼を丸くしてぽかーんと老若男女様々な８名の男女を見つめてしまった。
　内、５名の男女はルシウスと同じ青銀の髪と湖面の水色の瞳、そして麗しの容貌がよく似ている。
　残り３名も髪や目の色は違うものの、顔立ちはやはりルシウスにどことなく似ていた。

　中でも、故郷で長年ルシウスの秘書をしていたという男は、容貌も背格好もほぼルシウスと同じ。
　違うのはルシウスより数歳上の四十代というくらい。

「ユキレラ・リーストと申します。ルシウス様のお世話は大変だったでしょう？　今後は私ども共々、よろしくお願いします」

　にっこり微笑む声までそっくりときた。
　そしてリースト一族はまだまだルシウスの元に集まってくるという。

「うわあ。カーナ王国がルシウスさんの一族に侵食されてきてる！」

　金髪に蛍石の薄緑色の瞳の穏やかな青年、トオンが苦笑した。
　隣の黒髪のオカッパヘアーに茶の瞳の聖女アイシャもちょっとだけ困ったように笑った。

「でも他国の貴族家の人たちがいれば、旧王族や貴族たちへの牽制になるわ」
「それもあるが、彼らには王都で飲食店を運営してもらう予定なのだ」

　ルシウスの故郷、アケロニア王国のリースト侯爵領は鮭の名産地だ。実家の名産品の鮭を使ったサーモン料理専門店を開くのだという。

「王都周辺の河川でもサケ類の魚は獲れるから、少しずつ地元産の魚に変えていく予定だがな」
「あ、ノーザ湖の雪鮭もですか？」
「そうそう。あれも味の良い鮭だったものな」

　以前、ダンジョン近くの湖畔に出かけたときに食べた真っ白な鮭が思い出される。
　流通経路を確保して、スペシャルメニューにしても良いかもしれないとルシウスが呟いている。