120 / 292
第二章 お師匠様がやってきた
番外編1前編
しおりを挟む
※全2話、タイトルは後半にて
--
以前、カズンがトオンの古書店の赤レンガの建物に滞在していたとき、アイシャの恩人でもある聖者ビクトリノを招いて焼き鳥を振る舞ったそうな。
「あの褐色のタレを付けて焼いた焼き鳥、美味かったよなー」
「ショウユ、だったかしら? 珍しい調味料だったわよね。カズンの手持ちの調味料だったとかで」
いつもの食堂で雑談しているとき、カズンが作った料理の話になった。
話をしたところ、その焼き鳥なる料理は、カズンの料理の師匠である麗しの男前ルシウスから伝えられたものだったことが判明する。
「醤油は大豆を塩に漬けて発酵させたものでな。異世界からの転生者が持ち込んだものと言われている」
「「異世界からの転生者?」」
これは初めて聴く話だ。
「たまにいるんだ。我々のいるこの世界の外に、また別の世界があって。そこで暮らしていた人間の魂がこの世界に生まれ変わるとき、前の人生での記憶を持ち越していることがある」
「まさか」
「カズンもその転生者だったり?」
ルシウスは頷いた。
「ちょうど、醤油を使う米食文化圏の出身だったらしい。まあもっとも、朧げな記憶があるぐらいで、食の好みが前世に引き摺られているぐらいの影響しかなかったようだが」
次にカズンに会えたときは、ぜひその話も聞いてみたいものだった。
カーナ王国では、チキンスープをよく作って飲む。
畜産の養鶏が盛んで、卵も肉も国民の貴重なタンパク質だ。
「卵を産まなくなった年取った鶏は安いんだよね。廃鶏っていうんだけど。肉は固いけどスープの出汁にする分には問題ないから」
とトオンから話を聞いて、さっそく彼やアイシャと市場に出てきたルシウスだ。
廃鶏の肉の使い方ならルシウスも心得ている。
「私の故郷の領地も養鶏をやっていてな。最近では便利な濃縮スープも開発していて」
「へえ~。鮭だけじゃないのねえ」
廃鶏は確かに安かった。
皮をむしって内臓を取り除くなど下処理したもの一羽で、通常の鶏の約半分の値段しかしない。
試しに三羽購入し、他に夕飯と明日の朝食の材料になりそうな野菜類も買って帰路につくことに。
安かった廃鶏三羽のうち、二羽分は魔法樹脂に封印して保存。
残りの一羽はせっかくなので、カズンが作ったという焼き鳥にしてみることにした。
「む。やはり固いな」
平飼いの上に、卵を産まなくなった老いた鶏の肉だ。皮を剥いで骨から肉を削ぐ時点で、ふつうの鶏と比べて明らかに指で触る肉質が固い。
これだと、普通に肉を切って焼いただけだと固過ぎて食べにくいだろう。
「どうする? ルシウスさん」
「調味液に漬け込ん柔らかくしても良いだろうが、今回はミンチにしてみようか」
生姜があったので、ざっとすりおろして、ミンチにした鶏肉に、ネギのみじん切りや塩少々と一緒に混ぜ込んだ。
「これを小さなハンバーグのように丸めて串に刺して焼くのだが……」
「串、数が足りないわ。買ってくる?」
「いや、足りない分は骨を串代わりに使おう」
後でスープストック用に使おうと取っておいた鶏の骨を串に見立てて、軽く捏ねてあった鶏肉ミンチを楕円に細長く成形して差し込んでいく。
アイシャも見よう見真似で鳥のつくねを作っていく。まだ作業にぎこちなさはあるが、調理スキルを獲得しただけあって失敗などはなくなっていた。
「これを油を引いたフライパンで両面焼いて、タレを絡めるわけだ」
厨房の冷蔵庫の中には、カズンの置き土産と思しき醤油の瓶が入っていた。
アイシャもトオンも気になってはいたが、聞けばカーナ王国にない調味料なので使い方がわからず放置状態だったらしい。
「醤油、ライスワイン、それにみりんという餅米で甘く作った酒を同量混ぜておく」
ライスワインはカーナ王国にも嗜好品として他国からの輸入品で流通している。
みりんはアイシャは知らなかったが、これまたカズンの置き土産が残っていた。
つくねを焼いているフライパンへ、タレの合わせ調味料を投入。
じゅわーと醤油入りの合わせ調味料が一気に沸騰していく。この時点でもう美味しいのが丸わかりの良い匂いがする。
あとは煮詰めながらつくねに絡めていく。
--
以前、カズンがトオンの古書店の赤レンガの建物に滞在していたとき、アイシャの恩人でもある聖者ビクトリノを招いて焼き鳥を振る舞ったそうな。
「あの褐色のタレを付けて焼いた焼き鳥、美味かったよなー」
「ショウユ、だったかしら? 珍しい調味料だったわよね。カズンの手持ちの調味料だったとかで」
いつもの食堂で雑談しているとき、カズンが作った料理の話になった。
話をしたところ、その焼き鳥なる料理は、カズンの料理の師匠である麗しの男前ルシウスから伝えられたものだったことが判明する。
「醤油は大豆を塩に漬けて発酵させたものでな。異世界からの転生者が持ち込んだものと言われている」
「「異世界からの転生者?」」
これは初めて聴く話だ。
「たまにいるんだ。我々のいるこの世界の外に、また別の世界があって。そこで暮らしていた人間の魂がこの世界に生まれ変わるとき、前の人生での記憶を持ち越していることがある」
「まさか」
「カズンもその転生者だったり?」
ルシウスは頷いた。
「ちょうど、醤油を使う米食文化圏の出身だったらしい。まあもっとも、朧げな記憶があるぐらいで、食の好みが前世に引き摺られているぐらいの影響しかなかったようだが」
次にカズンに会えたときは、ぜひその話も聞いてみたいものだった。
カーナ王国では、チキンスープをよく作って飲む。
畜産の養鶏が盛んで、卵も肉も国民の貴重なタンパク質だ。
「卵を産まなくなった年取った鶏は安いんだよね。廃鶏っていうんだけど。肉は固いけどスープの出汁にする分には問題ないから」
とトオンから話を聞いて、さっそく彼やアイシャと市場に出てきたルシウスだ。
廃鶏の肉の使い方ならルシウスも心得ている。
「私の故郷の領地も養鶏をやっていてな。最近では便利な濃縮スープも開発していて」
「へえ~。鮭だけじゃないのねえ」
廃鶏は確かに安かった。
皮をむしって内臓を取り除くなど下処理したもの一羽で、通常の鶏の約半分の値段しかしない。
試しに三羽購入し、他に夕飯と明日の朝食の材料になりそうな野菜類も買って帰路につくことに。
安かった廃鶏三羽のうち、二羽分は魔法樹脂に封印して保存。
残りの一羽はせっかくなので、カズンが作ったという焼き鳥にしてみることにした。
「む。やはり固いな」
平飼いの上に、卵を産まなくなった老いた鶏の肉だ。皮を剥いで骨から肉を削ぐ時点で、ふつうの鶏と比べて明らかに指で触る肉質が固い。
これだと、普通に肉を切って焼いただけだと固過ぎて食べにくいだろう。
「どうする? ルシウスさん」
「調味液に漬け込ん柔らかくしても良いだろうが、今回はミンチにしてみようか」
生姜があったので、ざっとすりおろして、ミンチにした鶏肉に、ネギのみじん切りや塩少々と一緒に混ぜ込んだ。
「これを小さなハンバーグのように丸めて串に刺して焼くのだが……」
「串、数が足りないわ。買ってくる?」
「いや、足りない分は骨を串代わりに使おう」
後でスープストック用に使おうと取っておいた鶏の骨を串に見立てて、軽く捏ねてあった鶏肉ミンチを楕円に細長く成形して差し込んでいく。
アイシャも見よう見真似で鳥のつくねを作っていく。まだ作業にぎこちなさはあるが、調理スキルを獲得しただけあって失敗などはなくなっていた。
「これを油を引いたフライパンで両面焼いて、タレを絡めるわけだ」
厨房の冷蔵庫の中には、カズンの置き土産と思しき醤油の瓶が入っていた。
アイシャもトオンも気になってはいたが、聞けばカーナ王国にない調味料なので使い方がわからず放置状態だったらしい。
「醤油、ライスワイン、それにみりんという餅米で甘く作った酒を同量混ぜておく」
ライスワインはカーナ王国にも嗜好品として他国からの輸入品で流通している。
みりんはアイシャは知らなかったが、これまたカズンの置き土産が残っていた。
つくねを焼いているフライパンへ、タレの合わせ調味料を投入。
じゅわーと醤油入りの合わせ調味料が一気に沸騰していく。この時点でもう美味しいのが丸わかりの良い匂いがする。
あとは煮詰めながらつくねに絡めていく。
14
お気に入りに追加
3,953
あなたにおすすめの小説
初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と叫んだら長年の婚約者だった新妻に「気持ち悪い」と言われた上に父にも予想外の事を言われた男とその浮気女の話
ラララキヲ
恋愛
長年の婚約者を欺いて平民女と浮気していた侯爵家長男。3年後の白い結婚での離婚を浮気女に約束して、新妻の寝室へと向かう。
初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と愛する夫から宣言された無様な女を嘲笑う為だけに。
しかし寝室に居た妻は……
希望通りの白い結婚と愛人との未来輝く生活の筈が……全てを周りに知られていた上に自分の父親である侯爵家当主から言われた言葉は──
一人の女性を蹴落として掴んだ彼らの未来は……──
<【ざまぁ編】【イリーナ編】【コザック第二の人生編(ザマァ有)】となりました>
◇テンプレ浮気クソ男女。
◇軽い触れ合い表現があるのでR15に
◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。
◇ご都合展開。矛盾は察して下さい…
◇なろうにも上げてます。
※HOTランキング入り(1位)!?[恋愛::3位]ありがとうございます!恐縮です!期待に添えればよいのですがッ!!(;><)
〖完結〗私は旦那様には必要ないようですので国へ帰ります。
藍川みいな
恋愛
辺境伯のセバス・ブライト侯爵に嫁いだミーシャは優秀な聖女だった。セバスに嫁いで3年、セバスは愛人を次から次へと作り、やりたい放題だった。
そんなセバスに我慢の限界を迎え、離縁する事を決意したミーシャ。
私がいなければ、あなたはおしまいです。
国境を無事に守れていたのは、聖女ミーシャのおかげだった。ミーシャが守るのをやめた時、セバスは破滅する事になる…。
設定はゆるゆるです。
本編8話で完結になります。
破壊のオデット
真義あさひ
恋愛
麗しのリースト伯爵令嬢オデットは、その美貌を狙われ、奴隷商人に拐われる。
他国でオークションにかけられ純潔を穢されるというまさにそのとき、魔法の大家だった実家の秘術「魔法樹脂」が発動し、透明な樹脂の中に封じ込められ貞操の危機を逃れた。
それから百年後。
魔法樹脂が解凍され、親しい者が誰もいなくなった時代に麗しのオデットは復活する。
そして学園に復学したオデットには生徒たちからの虐めという過酷な体験が待っていた。
しかしオデットは負けずに立ち向かう。
※思春期の女の子たちの、ほんのり百合要素あり。
「王弟カズンの冒険前夜」のその後、
「聖女投稿」第一章から第二章の間に起こった出来事です。
【完結】公爵令嬢は、婚約破棄をあっさり受け入れる
櫻井みこと
恋愛
突然、婚約破棄を言い渡された。
彼は社交辞令を真に受けて、自分が愛されていて、そのために私が必死に努力をしているのだと勘違いしていたらしい。
だから泣いて縋ると思っていたらしいですが、それはあり得ません。
私が王妃になるのは確定。その相手がたまたま、あなただった。それだけです。
またまた軽率に短編。
一話…マリエ視点
二話…婚約者視点
三話…子爵令嬢視点
四話…第二王子視点
五話…マリエ視点
六話…兄視点
※全六話で完結しました。馬鹿すぎる王子にご注意ください。
スピンオフ始めました。
「追放された聖女が隣国の腹黒公爵を頼ったら、国がなくなってしまいました」連載中!
側妃を迎えたいと言ったので、了承したら溺愛されました
ひとみん
恋愛
タイトル変更しました!旧「国王陛下の長い一日」です。書いているうちに、何かあわないな・・・と。
内容そのまんまのタイトルです(笑
「側妃を迎えたいと思うのだが」国王が言った。
「了承しました。では今この時から夫婦関係は終了という事でいいですね?」王妃が言った。
「え?」困惑する国王に彼女は一言。「結婚の条件に書いていますわよ」と誓約書を見せる。
其処には確かに書いていた。王妃が恋人を作る事も了承すると。
そして今更ながら国王は気付く。王妃を愛していると。
困惑する王妃の心を射止めるために頑張るヘタレ国王のお話しです。
ご都合主義のゆるゆる設定です。
婚約者が私以外の人と勝手に結婚したので黙って逃げてやりました〜某国の王子と珍獣ミミルキーを愛でます〜
平川
恋愛
侯爵家の莫大な借金を黒字に塗り替え事業を成功させ続ける才女コリーン。
だが愛する婚約者の為にと寝る間を惜しむほど侯爵家を支えてきたのにも関わらず知らぬ間に裏切られた彼女は一人、誰にも何も告げずに屋敷を飛び出した。
流れ流れて辿り着いたのは獣人が治めるバムダ王国。珍獣ミミルキーが生息するマサラヤマン島でこの国の第一王子ウィンダムに偶然出会い、強引に王宮に連れ去られミミルキーの生態調査に参加する事に!?
魔法使いのウィンロードである王子に溺愛され珍獣に癒されたコリーンは少しずつ自分を取り戻していく。
そして追い掛けて来た元婚約者に対して少女であった彼女が最後に出した答えとは…?
完結済全6話
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。