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第二章 お師匠様がやってきた
お師匠様、そろそろお役御免
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「すべては必然だ、とわかってしまうのよね。聖女って」
アイシャが溜め息をついた。
自分がカーナ王国の聖女となったこと。
国王の奸計で家族を殺されたこと。
王太子の婚約者とさせられたこと。相手やその取り巻きたちから虐げられたこと。
王宮内で不遇に苦しんだこと。
王宮から追放され、絶望を抱えながらも赤レンガの建物の古書店に辿り着き、トオンやカズンと出逢ったこと。
そして今はカズンが繋いでくれた縁で、他国の貴族だったルシウスが師匠となってくれたことまで。
「必然だが、感情の問題は残る。それが処理できたとき、我らは魔力使いとして旧世代と新世代の掛け合わせから次の段階に行くのではないかな」
聖者のルシウスも、環を発現させているにも関わらず、新世代の環使いに特化できなかった理由がある。
慕っていた兄の死への苦しみを克服できていないせいだ。
それが本人の中に影を落としているが、莫大な魔力を持つ聖者でありハイヒューマンでもあることから、能力発揮に問題がない。
結果として旧世代としても新世代としても稀有なほど強く、また優秀だった。
魔力使いとしても。一社会人としても。
永遠の国から『無欠』なる称号を頂戴しているルシウスだが、それは単に魔力量が多くて何でもそつなくこなせてしまうことへの皮肉ではないかとルシウスは思っている。
聖者のルシウスが見たところ、環に関して、アイシャにはほとんど問題がなかった。
彼女の場合は、もう環を通して自分の課題を見出し、己の道を歩いていけるものと思う。
そもそもアイシャは魔力使いとして見た場合、新旧掛け合わせのことを抜きしても、とても状態が良い。
(アイシャの場合、感情を抑圧ぎみにコントロールしているのが特徴だな。幼い頃から施された訓練の結果だろう。本来はもっと激情家ではなかろうか?)
実際には人並外れた憤怒や貪欲さを持つが、そんな自分の特性を理解した上で管理し、己の魔力の基として利用している。
その在り方は、旧世代魔力使いの理想的な姿といえた。
(ただ、それをやりすぎたせいで、己を虐げる元婚約者たちへの素早い対処ができなかったか)
当時はまだ百年に一度カーナ王国を襲う魔物の大侵攻スタンピードに対処する前のことだ。
アイシャ本人に対処する余裕がなかったとも推察できる。
ようやくスタンピードを片付けて王都に帰還してこれからだ、というときに元婚約者のクーツ王太子に追放されたことは『聖女投稿』が伝えている通りだ。
莫大な魔力を持つ聖女でも、消耗すると実力を発揮できず環境に振り回される。
聖女アイシャの実例は貴重なサンプルでもあった。
「うーん。前に食べたチーズケーキは美味しかったんだけど」
アイシャが難しい顔をして、レモンタルトのレモンスライスを齧っている。
レモン風味のクリームタルトだが、あまりお気に召す味ではなかったらしい。
そんなアイシャに、ルシウスはふっと相好を崩した。
「アイシャ。調理スキルがあれば菓子も作れるぞ。自分好みの菓子を作ってみたらどうだ?」
その菓子の出来で、調理訓練の指導に一区切りつけてもいいかもしれない。
そう伝えると、アイシャは恥ずかしそうに小声で、
「お菓子。自分でも作れたらいいなあって思って、ミーシャおばさんにレシピだけ教えてもらってたの。……私に作れると思う?」
「作る前に、たくさん食べてみたらいいさ」
トオンと。デートで。
これまで不遇だった分までたくさん。
この王都にもカフェはいくつもあるし、ケーキ屋など菓子店だってどの地区にもある。
それこそ、ミーシャおばさんのいるパン屋でも甘い菓子パンや焼き菓子は毎日店頭に並んでいる。
そうして楽しい日々を送りながら養生していれば、アイシャの止まったままの月経も戻るかもしれない。
仮に戻らなかったとしても、トオンならアイシャから離れることもなく側に居続けることだろう。
そろそろ自分の役目の終わりを感じながら、ルシウスはパフェの最後の一口を食べ終えるのだった。
アイシャが溜め息をついた。
自分がカーナ王国の聖女となったこと。
国王の奸計で家族を殺されたこと。
王太子の婚約者とさせられたこと。相手やその取り巻きたちから虐げられたこと。
王宮内で不遇に苦しんだこと。
王宮から追放され、絶望を抱えながらも赤レンガの建物の古書店に辿り着き、トオンやカズンと出逢ったこと。
そして今はカズンが繋いでくれた縁で、他国の貴族だったルシウスが師匠となってくれたことまで。
「必然だが、感情の問題は残る。それが処理できたとき、我らは魔力使いとして旧世代と新世代の掛け合わせから次の段階に行くのではないかな」
聖者のルシウスも、環を発現させているにも関わらず、新世代の環使いに特化できなかった理由がある。
慕っていた兄の死への苦しみを克服できていないせいだ。
それが本人の中に影を落としているが、莫大な魔力を持つ聖者でありハイヒューマンでもあることから、能力発揮に問題がない。
結果として旧世代としても新世代としても稀有なほど強く、また優秀だった。
魔力使いとしても。一社会人としても。
永遠の国から『無欠』なる称号を頂戴しているルシウスだが、それは単に魔力量が多くて何でもそつなくこなせてしまうことへの皮肉ではないかとルシウスは思っている。
聖者のルシウスが見たところ、環に関して、アイシャにはほとんど問題がなかった。
彼女の場合は、もう環を通して自分の課題を見出し、己の道を歩いていけるものと思う。
そもそもアイシャは魔力使いとして見た場合、新旧掛け合わせのことを抜きしても、とても状態が良い。
(アイシャの場合、感情を抑圧ぎみにコントロールしているのが特徴だな。幼い頃から施された訓練の結果だろう。本来はもっと激情家ではなかろうか?)
実際には人並外れた憤怒や貪欲さを持つが、そんな自分の特性を理解した上で管理し、己の魔力の基として利用している。
その在り方は、旧世代魔力使いの理想的な姿といえた。
(ただ、それをやりすぎたせいで、己を虐げる元婚約者たちへの素早い対処ができなかったか)
当時はまだ百年に一度カーナ王国を襲う魔物の大侵攻スタンピードに対処する前のことだ。
アイシャ本人に対処する余裕がなかったとも推察できる。
ようやくスタンピードを片付けて王都に帰還してこれからだ、というときに元婚約者のクーツ王太子に追放されたことは『聖女投稿』が伝えている通りだ。
莫大な魔力を持つ聖女でも、消耗すると実力を発揮できず環境に振り回される。
聖女アイシャの実例は貴重なサンプルでもあった。
「うーん。前に食べたチーズケーキは美味しかったんだけど」
アイシャが難しい顔をして、レモンタルトのレモンスライスを齧っている。
レモン風味のクリームタルトだが、あまりお気に召す味ではなかったらしい。
そんなアイシャに、ルシウスはふっと相好を崩した。
「アイシャ。調理スキルがあれば菓子も作れるぞ。自分好みの菓子を作ってみたらどうだ?」
その菓子の出来で、調理訓練の指導に一区切りつけてもいいかもしれない。
そう伝えると、アイシャは恥ずかしそうに小声で、
「お菓子。自分でも作れたらいいなあって思って、ミーシャおばさんにレシピだけ教えてもらってたの。……私に作れると思う?」
「作る前に、たくさん食べてみたらいいさ」
トオンと。デートで。
これまで不遇だった分までたくさん。
この王都にもカフェはいくつもあるし、ケーキ屋など菓子店だってどの地区にもある。
それこそ、ミーシャおばさんのいるパン屋でも甘い菓子パンや焼き菓子は毎日店頭に並んでいる。
そうして楽しい日々を送りながら養生していれば、アイシャの止まったままの月経も戻るかもしれない。
仮に戻らなかったとしても、トオンならアイシャから離れることもなく側に居続けることだろう。
そろそろ自分の役目の終わりを感じながら、ルシウスはパフェの最後の一口を食べ終えるのだった。
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