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第二章 お師匠様がやってきた
トオンの葛藤
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「あ、来た」
ウェイターがコーヒーとケーキを持ってくる。
アイシャもトオンもベイクドチーズケーキを注文していた。
アイシャはコーヒーにミルクと砂糖を。トオンはブラックのまま。
「俺はアイシャやルシウスさんみたいに、子供の頃から魔力使いの訓練してるわけじゃないしね。やっぱり、攻撃手段は覚えにくくて」
火や雷、氷の魔術など小規模な攻撃魔術は環を通じて覚えることができたのだが、戦闘訓練はやはり厳しかった。
身体強化をかけても、そもそも肉体が戦い方の基本を覚えていないので筋肉痛になるだけという悲しい結果に終わっている。
「カズンも最初は基本の剣術と護身術しか習ってなくて、旅の間に覚えていったと言ってたわね」
友人の魔術師カズンの場合、旅の先々に所属する魔術師フリーダヤと聖女ロータスのファミリーの仲間がいたので、彼らの得意なものを少しずつ吸収していったようだ。
「多少は剣も使えるようになって、ひとりでダンジョン探索もできるようになったらしいね」
「ふふ。この間、私が調理スキルゲットした後、初めて作ったサンドイッチを送ったんだけどね。ちょうどダンジョンに向かう前だったらしくて喜ばれたわ」
「え?」
チーズケーキを少しずつ味わうようにフォークですくっていたアイシャの言葉に、トオンが固まった。
「調理スキルゲット後初の……なに、サンドイッチって?」
「トオン、朝から外に出てしまったときがあったじゃない。お昼に戻って来なかったから、余ったトオンの分をカズンに送ったのよ」
環を通じて。
同じ系列に属する環使いは、環を通して物品の送り合いができる。その機能を利用して。
「ちなみに、夕飯にカニを食べに出た日のことよ」
「あの日かあ……」
確か朝食の後でルシウスに母親の話題を出されて気分を害し、次の日でも良かったはずの古紙回収に出た日だ。
帰りづらくて、適当に街で顔見知りの商店主と話をしたりして時間を潰したことが思い出される。
記念すべき調理スキル獲得後初の恋人の料理を逃してしまった。
無念だ。
「……やっぱり、まだマルタさんの話は辛い?」
「このままじゃダメだって俺もわかってるんだ。だけど……」
美味しそうに少しずつチーズケーキを口に運ぶアイシャを見つめる。
あの忌まわしきクーツ王太子から婚約破棄を突きつけられ、追放されてトオンの古書店にようやく辿り着いたアイシャの弱りきった姿は、トオンの脳裏に焼き付いている。
カーナ王国を百年に一度襲う魔物の大侵攻スタンピードを退け、極限の疲労状態の末の仕打ちだった。
あのときアイシャ本人が言うには、いつ死んでもおかしくないくらい消耗していたと。
(アイシャがそんな虐げを受ける羽目になった元凶じゃないか。どうしても、許せない)
トオンの葛藤はそこにある。
ふたりは恋人ではあったが、まだ結婚していない。
国王と王妃となったとき一度婚姻を結んでいるが、あれは形だけのもの。
アイシャが名残惜しげにチーズケーキの最後の一口を食べ切るかどうか悩んでいる。
トオンは微笑んで、自分の分のチーズケーキを差し出した。
嬉しげに、じゃあ半分だけ、と受け取ったアイシャのはにかむ様子に愛おしさを感じた。
(このわだかまりを解決するまでは、アイシャに求婚なんて、できない)
ウェイターがコーヒーとケーキを持ってくる。
アイシャもトオンもベイクドチーズケーキを注文していた。
アイシャはコーヒーにミルクと砂糖を。トオンはブラックのまま。
「俺はアイシャやルシウスさんみたいに、子供の頃から魔力使いの訓練してるわけじゃないしね。やっぱり、攻撃手段は覚えにくくて」
火や雷、氷の魔術など小規模な攻撃魔術は環を通じて覚えることができたのだが、戦闘訓練はやはり厳しかった。
身体強化をかけても、そもそも肉体が戦い方の基本を覚えていないので筋肉痛になるだけという悲しい結果に終わっている。
「カズンも最初は基本の剣術と護身術しか習ってなくて、旅の間に覚えていったと言ってたわね」
友人の魔術師カズンの場合、旅の先々に所属する魔術師フリーダヤと聖女ロータスのファミリーの仲間がいたので、彼らの得意なものを少しずつ吸収していったようだ。
「多少は剣も使えるようになって、ひとりでダンジョン探索もできるようになったらしいね」
「ふふ。この間、私が調理スキルゲットした後、初めて作ったサンドイッチを送ったんだけどね。ちょうどダンジョンに向かう前だったらしくて喜ばれたわ」
「え?」
チーズケーキを少しずつ味わうようにフォークですくっていたアイシャの言葉に、トオンが固まった。
「調理スキルゲット後初の……なに、サンドイッチって?」
「トオン、朝から外に出てしまったときがあったじゃない。お昼に戻って来なかったから、余ったトオンの分をカズンに送ったのよ」
環を通じて。
同じ系列に属する環使いは、環を通して物品の送り合いができる。その機能を利用して。
「ちなみに、夕飯にカニを食べに出た日のことよ」
「あの日かあ……」
確か朝食の後でルシウスに母親の話題を出されて気分を害し、次の日でも良かったはずの古紙回収に出た日だ。
帰りづらくて、適当に街で顔見知りの商店主と話をしたりして時間を潰したことが思い出される。
記念すべき調理スキル獲得後初の恋人の料理を逃してしまった。
無念だ。
「……やっぱり、まだマルタさんの話は辛い?」
「このままじゃダメだって俺もわかってるんだ。だけど……」
美味しそうに少しずつチーズケーキを口に運ぶアイシャを見つめる。
あの忌まわしきクーツ王太子から婚約破棄を突きつけられ、追放されてトオンの古書店にようやく辿り着いたアイシャの弱りきった姿は、トオンの脳裏に焼き付いている。
カーナ王国を百年に一度襲う魔物の大侵攻スタンピードを退け、極限の疲労状態の末の仕打ちだった。
あのときアイシャ本人が言うには、いつ死んでもおかしくないくらい消耗していたと。
(アイシャがそんな虐げを受ける羽目になった元凶じゃないか。どうしても、許せない)
トオンの葛藤はそこにある。
ふたりは恋人ではあったが、まだ結婚していない。
国王と王妃となったとき一度婚姻を結んでいるが、あれは形だけのもの。
アイシャが名残惜しげにチーズケーキの最後の一口を食べ切るかどうか悩んでいる。
トオンは微笑んで、自分の分のチーズケーキを差し出した。
嬉しげに、じゃあ半分だけ、と受け取ったアイシャのはにかむ様子に愛おしさを感じた。
(このわだかまりを解決するまでは、アイシャに求婚なんて、できない)
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