上 下
84 / 292
第二章 お師匠様がやってきた

ファミリー世代解説とカズンからの手紙

しおりを挟む
「うちのファミリーだと、お前たちの世代から見て祖父母がフリーダヤとロータスになる。彼らの子世代になる親世代になると、そのうちのひとりが私だな」
「親世代って他にどんな魔力使いがいるの?」

 魔術師フリーダヤと聖女ロータスは円環大陸で最も有名な魔力使いだ。
 そのファミリーたちもよく知られていたが、ファミリー内での序列までは世間に広まっていない。

「今残っているのは……数はそう多くない。お前たちの知る教会大司祭の聖者ビクトリノも親世代だ」

 他の有名どころでは、魔術師フリーダヤの後継者と言われる黒髪の魔女メルセデス。
 酒好きで男好きだが、子供好きで面倒見が良い。

 姉妹でフリーダヤの弟子となったガブリエラと占い師ハスミン。
 彼女たちは元は資産家の娘だ。
 妹ハスミンは金髪で派手好きの買い物好き、酒好き、男好き。
 対する藍色の髪の姉ガブリエラは才色兼備で男嫌い。いつも鬱屈した顔つきの影のある女だ。

 ポーション開発の名手、薬師リコ。彼は聖女ロータスの直弟子と言われている。
 人好きのする恰幅の良い赤ら顔の老年の男で、薬師として腕が良いから大陸中で引っ張りだこだ。

「他は魔力使いとして活動しているか定かでない道化師ファウストや、他の魔力使いの執事をしているハビエルという男がいる。……こうして挙げてみると、やはり数は少ないな」

 魔術師フリーダヤがいまだ現役で動き回っている理由でもある。
 ついでにいえば、フリーダヤとロータスのファミリーが、仲間の勧誘に積極的な理由でもあった。何をするにも人数が足りない。

 “時を壊す”を果たした者はやはり少なく、ファミリーに加入しても数十年で寿命が来れば自然脱退だ。それは仕方がない。



「お前たちは子世代だな。他は魔術師カズンと彼の親友の剣豪ライル。彼らの後輩で最近リンクに目覚めた魔導具師カレン。三人ともアケロニア王国出身だ」

 他の子世代は円環大陸中に散らばっている。

「北部でファミリー所有の屋敷の管理人をしているのが、北の悪女セレサ。彼女の他には男女のペアで三対。彼らは皆、魔女メルセデスの弟子筋にあたる」

 将来的には、ファミリー全員と面通ししておくのが良いというのが、ルシウスの意見だった。



「甥っ子は……誰が師匠になるのが良いのだろうな。私以外の選択肢が数えるほどしかないのが何とも」
「一番穏当なのは良識派のビクトリノ様じゃないかしら」
「ビクトリノの正論を聞くかと言われれば、微妙な気がする」
「フリーダヤ様は?」
「彼が何か話すたびに舌打ちする甥っ子の顔が浮かぶ。相性は最悪ではなかろうか」

 本人とは、新国王と王妃として一度顔を合わせただけでほとんど会話もしていないのに、どんどん鮭の人に詳しくなっていくアイシャとトオンだ。
 早くカズンに追いついて、彼と一緒にカーナ王国まで来てくれればいいのに。



 その夜、トオンはカズンに手紙を書いた。

「俺もお前も飛んだときは玉ヒュンだったけど、ルシウスさんはさすがの貫禄。大喜びで飛んでましたよ、と」

 実はトオンはちょっとだけ、自分やカズンのようにルシウスが取り乱す姿を期待していたのだ。
 しかしあのお師匠様は残念ながらそんな可愛い“タマ”ではなかったようだ。

 カズンもちょうど時間に余裕のあるときだったようで、返事はすぐに返ってきた。


『我が友トオンへ

 実は僕も空中飛行の練習に励んでいる。』


 よほど、アイシャに連れられて空中飛行した際の自分の取り乱しようが悔しかったものと見える。

「お前もかよ!」

 突っ込み待ちのような返信であった。
 なお、基本の魔力量が足りなくて、今はまだ木箱ひとつ分程度浮くのが精一杯らしい。

 ちなみに、彼を追いかけている鮭の人についても尋ねてみた。
 カズン本人のコメントはといえば。


『ヨシュアか。あいつ、何やってるんだろうな?
 まだリンクが使えてないとルシウス様から教えられてビックリした。
 そんなに出来の悪いやつじゃないんだけど。 

 僕だって会いたいのに』


「鮭の人。カズンの感触、そんなに悪くないんじゃないか?」

 早く会えたらいいですねと、カズンからの手紙を仕舞いながら祈るトオンなのだった。




しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と叫んだら長年の婚約者だった新妻に「気持ち悪い」と言われた上に父にも予想外の事を言われた男とその浮気女の話

ラララキヲ
恋愛
 長年の婚約者を欺いて平民女と浮気していた侯爵家長男。3年後の白い結婚での離婚を浮気女に約束して、新妻の寝室へと向かう。  初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と愛する夫から宣言された無様な女を嘲笑う為だけに。  しかし寝室に居た妻は……  希望通りの白い結婚と愛人との未来輝く生活の筈が……全てを周りに知られていた上に自分の父親である侯爵家当主から言われた言葉は──  一人の女性を蹴落として掴んだ彼らの未来は……── <【ざまぁ編】【イリーナ編】【コザック第二の人生編(ザマァ有)】となりました> ◇テンプレ浮気クソ男女。 ◇軽い触れ合い表現があるのでR15に ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇ご都合展開。矛盾は察して下さい… ◇なろうにも上げてます。 ※HOTランキング入り(1位)!?[恋愛::3位]ありがとうございます!恐縮です!期待に添えればよいのですがッ!!(;><)

私が死んで満足ですか?

マチバリ
恋愛
王太子に婚約破棄を告げられた伯爵令嬢ロロナが死んだ。 ある者は面倒な婚約破棄の手続きをせずに済んだと安堵し、ある者はずっと欲しかった物が手に入ると喜んだ。 全てが上手くおさまると思っていた彼らだったが、ロロナの死が与えた影響はあまりに大きかった。 書籍化にともない本編を引き下げいたしました

【完結】魅了が解けたあと。

恋愛
国を魔物から救った英雄。 元平民だった彼は、聖女の王女とその仲間と共に国を、民を守った。 その後、苦楽を共にした英雄と聖女は共に惹かれあい真実の愛を紡ぐ。 あれから何十年___。 仲睦まじくおしどり夫婦と言われていたが、 とうとう聖女が病で倒れてしまう。 そんな彼女をいつまも隣で支え最後まで手を握り続けた英雄。 彼女が永遠の眠りへとついた時、彼は叫声と共に表情を無くした。 それは彼女を亡くした虚しさからだったのか、それとも・・・・・ ※すべての物語が都合よく魅了が暴かれるとは限らない。そんなお話。 ______________________ 少し回りくどいかも。 でも私には必要な回りくどさなので最後までお付き合い頂けると嬉しいです。

今さら後悔しても知りません 婚約者は浮気相手に夢中なようなので消えてさしあげます

神崎 ルナ
恋愛
旧題:長年の婚約者は政略結婚の私より、恋愛結婚をしたい相手がいるようなので、消えてあげようと思います。 【奨励賞頂きましたっ( ゚Д゚) ありがとうございます(人''▽`)】 コッペリア・マドルーク公爵令嬢は、王太子アレンの婚約者として良好な関係を維持してきたと思っていた。  だが、ある時アレンとマリアの会話を聞いてしまう。 「あんな堅苦しい女性は苦手だ。もし許されるのであれば、君を王太子妃にしたかった」  マリア・ダグラス男爵令嬢は下級貴族であり、王太子と婚約などできるはずもない。 (そう。そんなに彼女が良かったの)  長年に渡る王太子妃教育を耐えてきた彼女がそう決意を固めるのも早かった。  何故なら、彼らは将来自分達の子を王に据え、更にはコッペリアに公務を押し付け、自分達だけ遊び惚けていようとしているようだったから。 (私は都合のいい道具なの?)  絶望したコッペリアは毒薬を入手しようと、お忍びでとある店を探す。  侍女達が話していたのはここだろうか?  店に入ると老婆が迎えてくれ、コッペリアに何が入用か、と尋ねてきた。  コッペリアが正直に全て話すと、 「今のあんたにぴったりの物がある」  渡されたのは、小瓶に入った液状の薬。 「体を休める薬だよ。ん? 毒じゃないのかって? まあ、似たようなものだね。これを飲んだらあんたは眠る。ただし」  そこで老婆は言葉を切った。 「目覚めるには条件がある。それを満たすのは並大抵のことじゃ出来ないよ。下手をすれば永遠に眠ることになる。それでもいいのかい?」  コッペリアは深く頷いた。  薬を飲んだコッペリアは眠りについた。  そして――。  アレン王子と向かい合うコッペリア(?)がいた。 「は? 書類の整理を手伝え? お断り致しますわ」 ※お読み頂きありがとうございます(人''▽`) hotランキング、全ての小説、恋愛小説ランキングにて1位をいただきました( ゚Д゚)  (2023.2.3)  ありがとうございますっm(__)m ジャンピング土下座×1000000 ※お読みくださり有難うございました(人''▽`) 完結しました(^▽^)

破壊のオデット

真義あさひ
恋愛
麗しのリースト伯爵令嬢オデットは、その美貌を狙われ、奴隷商人に拐われる。 他国でオークションにかけられ純潔を穢されるというまさにそのとき、魔法の大家だった実家の秘術「魔法樹脂」が発動し、透明な樹脂の中に封じ込められ貞操の危機を逃れた。 それから百年後。 魔法樹脂が解凍され、親しい者が誰もいなくなった時代に麗しのオデットは復活する。 そして学園に復学したオデットには生徒たちからの虐めという過酷な体験が待っていた。 しかしオデットは負けずに立ち向かう。 ※思春期の女の子たちの、ほんのり百合要素あり。 「王弟カズンの冒険前夜」のその後、 「聖女投稿」第一章から第二章の間に起こった出来事です。

〖完結〗私は旦那様には必要ないようですので国へ帰ります。

藍川みいな
恋愛
辺境伯のセバス・ブライト侯爵に嫁いだミーシャは優秀な聖女だった。セバスに嫁いで3年、セバスは愛人を次から次へと作り、やりたい放題だった。 そんなセバスに我慢の限界を迎え、離縁する事を決意したミーシャ。 私がいなければ、あなたはおしまいです。 国境を無事に守れていたのは、聖女ミーシャのおかげだった。ミーシャが守るのをやめた時、セバスは破滅する事になる…。 設定はゆるゆるです。 本編8話で完結になります。

断罪されたので、私の過去を皆様に追体験していただきましょうか。

下菊みこと
恋愛
悪役令嬢が真実を白日の下に晒す最高の機会を得たお話。 小説家になろう様でも投稿しています。

【完結】公爵令嬢は、婚約破棄をあっさり受け入れる

櫻井みこと
恋愛
突然、婚約破棄を言い渡された。 彼は社交辞令を真に受けて、自分が愛されていて、そのために私が必死に努力をしているのだと勘違いしていたらしい。 だから泣いて縋ると思っていたらしいですが、それはあり得ません。 私が王妃になるのは確定。その相手がたまたま、あなただった。それだけです。 またまた軽率に短編。 一話…マリエ視点 二話…婚約者視点 三話…子爵令嬢視点 四話…第二王子視点 五話…マリエ視点 六話…兄視点 ※全六話で完結しました。馬鹿すぎる王子にご注意ください。 スピンオフ始めました。 「追放された聖女が隣国の腹黒公爵を頼ったら、国がなくなってしまいました」連載中!

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。