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第二章 お師匠様がやってきた
お師匠様の本当のお役目
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麗しの男前ルシウス・リーストがカーナ王国に来た目的は、アイシャやトオンへの料理指南や食生活改善といった日常の世話、魔力使いとしての修行の指導、個人的なスローライフ堪能のためのバカンスなど様々ある。
だが一番の理由はアイシャとトオンを守るためだ。
ルシウスは魔力使いとして強かった。恐らく、戦闘力だけでも現在の円環大陸で最強のひとりだ。
故郷では有力貴族の一員として軍属で、家の騎士団の副司令官でもあったから、物事を俯瞰する能力にも長けている。
カズンや彼の師匠でもある魔術師フリーダヤが、ルシウスにカーナ王国の聖女アイシャとその恋人トオンのもとへ向かうよう要請したのは、単純に彼ひとりいれば万能で、あらゆる局面に対応できることを買われてのものである。
多少大雑把なところはあったが、本人もそこは自覚していて己の言動を冷静に観察するだけの力量があるため、欠点となるほどではなかった。
魔術師フリーダヤと聖女ロータスのファミリー所属の環使いたちは力の強い者が集まる傾向にあるため、他の魔力使いたちに戦いを挑まれることが多い。
これまで、聖女アイシャはカーナ王国という“国”に所属する聖女だから、この手の挑戦がなかった。
だが、王妃も辞めて市井に降りた現在ではそうもいかない。
アイシャが普通の真っ当な聖女だったなら、ルシウスとてここまで世話を焼こうとは思わなかったし、そもそもカーナ王国まで来ることもなかった。
だが、カズンから聖女アイシャが国の上層部から意図的に虐げられ、聖女としての役割を歪められた存在と聞いて、さすがに憐憫の感情を覚えた。
ルシウスは魔法の大家リースト家の者で、自身が比類なき魔力使い、聖剣の魔法剣士だ。
ただこの場合、重要なのは彼が“聖者”であることだろう。
聖なる魔力を持つ、魔力量の多い存在。
そういう生物のもとにいることで、聖女アイシャへ良い感化を与えることこそが、ルシウスに期待されている役割のひとつだった。
だからルシウスは、基本的にアイシャとトオンと同じ建物の中で寝起きして、一緒に食事や会話を楽しむことが第一である。
環使いとしての修行というのも、実のところ方便のようなところがある。
一度、環を自在に自分の意思で自由に出せるところまでくれば、あとは世界や、世界の理と繋がった環そのものが術者を導いていく。
そうはいってもルシウスは身内や身内と認めた者にとても親切で情の深い男だったので、自分にできるありとあらゆる教えを授けると最初から決めていた。
そして、できることならば。
(聖女アイシャ。その世話役トオン。……我が愛しの甥っ子の大事なカズン様を助けてやってほしい)
ひとり孤独な旅を続けている彼の仲間として、ふたりを育て上げられれば良いと考えていた。
「お前たち。うちの子たちが起きてしまうではないか」
屋上から赤レンガの建物に侵入しようとした刺客をルシウスが捉える。
「な、何奴!?」
「お前が知る必要はない」
ダイヤモンドの聖剣の圧力で三人の刺客たちを圧倒する。
怯んだところで聖剣以外に創り出した魔力の長釘を相手の眉間に次々飛ばして刺していき、あっという間にとどめをさした。
倒れる刺客たちは即座に魔法樹脂に封入して、自分の腰回りの環の中に放り込んでいく。
「大した魔力はないな。おやつにもならぬ」
刺客の死体は、聖女アイシャが所属する教会に引き渡せば多少の報奨金が出るそうだが、面倒なので自分の環の中で魔力に還元することにしたルシウスだ。
そういう術式をルシウスは自分の環に組み込んである。
倫理道徳的に褒められたやり方ではないが、死体の処理が楽で良い。
他の魔力使いがやればただの死者への冒涜だが、ルシウスは聖者だ。
彼を通じて世界の外の“虚空”へと還るだけである。
(こういうやり方は旧世代の魔力使いのものだが、……アイシャには教える必要はないな)
ルシウスからしたら、住人全員が環使いで、聖女と聖者が二人もいる場所に襲撃してくるなど舐めているのか、という話だ。
しかもルシウスもアイシャも、円環大陸有数の武闘派だ。自殺願望があるとしか思えない。
「そろそろ、ふたりを実践で鍛えていくとしようか」
ルシウスとて、そういつまでもカーナ王国に居続けるわけにはいかない。
魔術師フリーダヤからの読書課題とて、その気になれば数ヶ月で終わる。はずだ。
それまでに、アイシャとトオンをセットで一人前に育て上げる必要があった。
--
この人、故郷じゃあだ名が「魔王」で亡兄や甥っ子の鮭の人の敵を殲滅しまくって人々を恐怖のどん底へ叩き落とした破壊神でした。
だが一番の理由はアイシャとトオンを守るためだ。
ルシウスは魔力使いとして強かった。恐らく、戦闘力だけでも現在の円環大陸で最強のひとりだ。
故郷では有力貴族の一員として軍属で、家の騎士団の副司令官でもあったから、物事を俯瞰する能力にも長けている。
カズンや彼の師匠でもある魔術師フリーダヤが、ルシウスにカーナ王国の聖女アイシャとその恋人トオンのもとへ向かうよう要請したのは、単純に彼ひとりいれば万能で、あらゆる局面に対応できることを買われてのものである。
多少大雑把なところはあったが、本人もそこは自覚していて己の言動を冷静に観察するだけの力量があるため、欠点となるほどではなかった。
魔術師フリーダヤと聖女ロータスのファミリー所属の環使いたちは力の強い者が集まる傾向にあるため、他の魔力使いたちに戦いを挑まれることが多い。
これまで、聖女アイシャはカーナ王国という“国”に所属する聖女だから、この手の挑戦がなかった。
だが、王妃も辞めて市井に降りた現在ではそうもいかない。
アイシャが普通の真っ当な聖女だったなら、ルシウスとてここまで世話を焼こうとは思わなかったし、そもそもカーナ王国まで来ることもなかった。
だが、カズンから聖女アイシャが国の上層部から意図的に虐げられ、聖女としての役割を歪められた存在と聞いて、さすがに憐憫の感情を覚えた。
ルシウスは魔法の大家リースト家の者で、自身が比類なき魔力使い、聖剣の魔法剣士だ。
ただこの場合、重要なのは彼が“聖者”であることだろう。
聖なる魔力を持つ、魔力量の多い存在。
そういう生物のもとにいることで、聖女アイシャへ良い感化を与えることこそが、ルシウスに期待されている役割のひとつだった。
だからルシウスは、基本的にアイシャとトオンと同じ建物の中で寝起きして、一緒に食事や会話を楽しむことが第一である。
環使いとしての修行というのも、実のところ方便のようなところがある。
一度、環を自在に自分の意思で自由に出せるところまでくれば、あとは世界や、世界の理と繋がった環そのものが術者を導いていく。
そうはいってもルシウスは身内や身内と認めた者にとても親切で情の深い男だったので、自分にできるありとあらゆる教えを授けると最初から決めていた。
そして、できることならば。
(聖女アイシャ。その世話役トオン。……我が愛しの甥っ子の大事なカズン様を助けてやってほしい)
ひとり孤独な旅を続けている彼の仲間として、ふたりを育て上げられれば良いと考えていた。
「お前たち。うちの子たちが起きてしまうではないか」
屋上から赤レンガの建物に侵入しようとした刺客をルシウスが捉える。
「な、何奴!?」
「お前が知る必要はない」
ダイヤモンドの聖剣の圧力で三人の刺客たちを圧倒する。
怯んだところで聖剣以外に創り出した魔力の長釘を相手の眉間に次々飛ばして刺していき、あっという間にとどめをさした。
倒れる刺客たちは即座に魔法樹脂に封入して、自分の腰回りの環の中に放り込んでいく。
「大した魔力はないな。おやつにもならぬ」
刺客の死体は、聖女アイシャが所属する教会に引き渡せば多少の報奨金が出るそうだが、面倒なので自分の環の中で魔力に還元することにしたルシウスだ。
そういう術式をルシウスは自分の環に組み込んである。
倫理道徳的に褒められたやり方ではないが、死体の処理が楽で良い。
他の魔力使いがやればただの死者への冒涜だが、ルシウスは聖者だ。
彼を通じて世界の外の“虚空”へと還るだけである。
(こういうやり方は旧世代の魔力使いのものだが、……アイシャには教える必要はないな)
ルシウスからしたら、住人全員が環使いで、聖女と聖者が二人もいる場所に襲撃してくるなど舐めているのか、という話だ。
しかもルシウスもアイシャも、円環大陸有数の武闘派だ。自殺願望があるとしか思えない。
「そろそろ、ふたりを実践で鍛えていくとしようか」
ルシウスとて、そういつまでもカーナ王国に居続けるわけにはいかない。
魔術師フリーダヤからの読書課題とて、その気になれば数ヶ月で終わる。はずだ。
それまでに、アイシャとトオンをセットで一人前に育て上げる必要があった。
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この人、故郷じゃあだ名が「魔王」で亡兄や甥っ子の鮭の人の敵を殲滅しまくって人々を恐怖のどん底へ叩き落とした破壊神でした。
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