上 下
51 / 292
第二章 お師匠様がやってきた

聖女聖者の“忠告”3

しおりを挟む
 苛々しているトオンの態度からそれ以上何かを汲み取るでなく、ルシウスはあえて空気を読まなかった。

 彼はカズンから、聖女アイシャやその恋人トオンにまつわる、カーナ王国で半年前に起こった出来事の概要を手紙で教えられ、全体像を把握済みだった。

「初代聖女エイリー。私にとっては尊敬すべき女だぞ」
「はあ?」

 トオンが眉間に皺を寄せた。
 いったい何を言い出すというのか?

「500年、ただひとりを愛し続けたその執念。素晴らしい。我が最愛の兄への愛などまだ37年だ。ンッフフ……人は500年、誰かを愛し続けることができる。その実例を示してくれたことをもって、私は聖女エイリーを肯定する。全力で肯定するとも! ワハハハハハ!」

 高笑いするルシウスを、アイシャとトオンは呆気に取られながら見つめるしかできなかった。

(これ、本気?)
(本気みたい……)

 力のある魔力使いは、生涯のどこかの時点で“時を壊す”といって寿命が止まる現象が起こることがある。
 彼の場合はスペシャル級の魔力量の持ち主だから、この調子なら本気で聖女エイリー並の長寿を目指すだろう。
 そして超ブラコンを極めると。

「なにそれこわい」

 トオンは新旧掛け合わせハイブリッドだというルシウスの底知れなさろくでもなさの一端を垣間見た。
 なるほど、こういうところが旧世代でもある彼の特徴か、とトオンは納得した。

(そりゃ、この熱量で慕われたらルシウスさんのお兄さんも嫌になるよ)

 心の中で、既に亡くなっているという彼の兄の冥福を祈るトオンだった。
 500年も付きまとわれなくて良かったですね、とこの目の前の男とよく似ていただろう麗しの人物に語りかけながら。



「あっ。ルシウスさん、お酒飲み過ぎよ!」

 テキーラの瓶の中身が半分減っている。
 炭酸水とライムで割って話しながら少しずつ飲んでいたはずだが、いつの間にこんなに。

「途中からライム齧って原液で飲んでたよ、この人」
「トオン! 気づいてたなら止めてあげて!」

 どうやらこの麗しの男前、出来上がるまでの酒量からすると普通の人よりは酒に強いが、酒豪というほどでもなさそうだ。

「今後はちゃんと見ててあげなきゃダメね」

 アイシャが嘆息して、酒瓶を取り上げた。
 今夜はもう、ルシウスはグラスに残ったライム入りの炭酸割りで酒は最後だ。

 誰が決めた? 聖女様に決まっている!




--
聖女さまが見てる|・ω・*)チラ
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と叫んだら長年の婚約者だった新妻に「気持ち悪い」と言われた上に父にも予想外の事を言われた男とその浮気女の話

ラララキヲ
恋愛
 長年の婚約者を欺いて平民女と浮気していた侯爵家長男。3年後の白い結婚での離婚を浮気女に約束して、新妻の寝室へと向かう。  初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と愛する夫から宣言された無様な女を嘲笑う為だけに。  しかし寝室に居た妻は……  希望通りの白い結婚と愛人との未来輝く生活の筈が……全てを周りに知られていた上に自分の父親である侯爵家当主から言われた言葉は──  一人の女性を蹴落として掴んだ彼らの未来は……── <【ざまぁ編】【イリーナ編】【コザック第二の人生編(ザマァ有)】となりました> ◇テンプレ浮気クソ男女。 ◇軽い触れ合い表現があるのでR15に ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇ご都合展開。矛盾は察して下さい… ◇なろうにも上げてます。 ※HOTランキング入り(1位)!?[恋愛::3位]ありがとうございます!恐縮です!期待に添えればよいのですがッ!!(;><)

悪役令嬢の去った後、残された物は

たぬまる
恋愛
公爵令嬢シルビアが誕生パーティーで断罪され追放される。 シルビアは喜び去って行き 残された者達に不幸が降り注ぐ 気分転換に短編を書いてみました。

破壊のオデット

真義あさひ
恋愛
麗しのリースト伯爵令嬢オデットは、その美貌を狙われ、奴隷商人に拐われる。 他国でオークションにかけられ純潔を穢されるというまさにそのとき、魔法の大家だった実家の秘術「魔法樹脂」が発動し、透明な樹脂の中に封じ込められ貞操の危機を逃れた。 それから百年後。 魔法樹脂が解凍され、親しい者が誰もいなくなった時代に麗しのオデットは復活する。 そして学園に復学したオデットには生徒たちからの虐めという過酷な体験が待っていた。 しかしオデットは負けずに立ち向かう。 ※思春期の女の子たちの、ほんのり百合要素あり。 「王弟カズンの冒険前夜」のその後、 「聖女投稿」第一章から第二章の間に起こった出来事です。

〖完結〗私は旦那様には必要ないようですので国へ帰ります。

藍川みいな
恋愛
辺境伯のセバス・ブライト侯爵に嫁いだミーシャは優秀な聖女だった。セバスに嫁いで3年、セバスは愛人を次から次へと作り、やりたい放題だった。 そんなセバスに我慢の限界を迎え、離縁する事を決意したミーシャ。 私がいなければ、あなたはおしまいです。 国境を無事に守れていたのは、聖女ミーシャのおかげだった。ミーシャが守るのをやめた時、セバスは破滅する事になる…。 設定はゆるゆるです。 本編8話で完結になります。

断罪されたので、私の過去を皆様に追体験していただきましょうか。

下菊みこと
恋愛
悪役令嬢が真実を白日の下に晒す最高の機会を得たお話。 小説家になろう様でも投稿しています。

【完結】公爵令嬢は、婚約破棄をあっさり受け入れる

櫻井みこと
恋愛
突然、婚約破棄を言い渡された。 彼は社交辞令を真に受けて、自分が愛されていて、そのために私が必死に努力をしているのだと勘違いしていたらしい。 だから泣いて縋ると思っていたらしいですが、それはあり得ません。 私が王妃になるのは確定。その相手がたまたま、あなただった。それだけです。 またまた軽率に短編。 一話…マリエ視点 二話…婚約者視点 三話…子爵令嬢視点 四話…第二王子視点 五話…マリエ視点 六話…兄視点 ※全六話で完結しました。馬鹿すぎる王子にご注意ください。 スピンオフ始めました。 「追放された聖女が隣国の腹黒公爵を頼ったら、国がなくなってしまいました」連載中!

婚約者が私以外の人と勝手に結婚したので黙って逃げてやりました〜某国の王子と珍獣ミミルキーを愛でます〜

平川
恋愛
侯爵家の莫大な借金を黒字に塗り替え事業を成功させ続ける才女コリーン。 だが愛する婚約者の為にと寝る間を惜しむほど侯爵家を支えてきたのにも関わらず知らぬ間に裏切られた彼女は一人、誰にも何も告げずに屋敷を飛び出した。 流れ流れて辿り着いたのは獣人が治めるバムダ王国。珍獣ミミルキーが生息するマサラヤマン島でこの国の第一王子ウィンダムに偶然出会い、強引に王宮に連れ去られミミルキーの生態調査に参加する事に!? 魔法使いのウィンロードである王子に溺愛され珍獣に癒されたコリーンは少しずつ自分を取り戻していく。 そして追い掛けて来た元婚約者に対して少女であった彼女が最後に出した答えとは…? 完結済全6話

あなたをかばって顔に傷を負ったら婚約破棄ですか、なおその後

アソビのココロ
恋愛
「その顔では抱けんのだ。わかるかシンシア」 侯爵令嬢シンシアは婚約者であるバーナビー王太子を暴漢から救ったが、その際顔に大ケガを負ってしまい、婚約破棄された。身軽になったシンシアは冒険者を志して辺境へ行く。そこに出会いがあった。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。