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第二章 お師匠様がやってきた
食べ過ぎはいけないこと
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アイシャとトオンの魔力使いの師匠となるべく、カーナ王国へやってきた男。
青銀の髪に、湖面の水色の瞳を持つ麗しの男前、ルシウス・リースト。
彼はあの魔術師カズンの料理その他の師匠でもあった。
話好きで、大好きだった亡くなった兄のことや、カズンの幼馴染みでもある“鮭を送ってきた人”こと甥っ子のこととなると止まらない。
話題も豊富で、聞いているととても楽しい。
かと思えば、こういうタイプだから自分だけが話して満足する性格かと思いきや、アイシャやトオンの話もしっかり拾い上げて聞いてくれるところがとても嬉しかった。
トオンもアイシャも、この圧力は強いが、麗しくも男前の大人が大好きになった。
(カズン。あなたは正しかった。この人、本当に愉快で楽しくて大好きになる人だったわ)
そしてトオンにはバッドステータス“飯マズ”があるから素質なしとして、アイシャに調理スキルが発生するよう、できるだけ料理を一緒に作らせてもらえることになった。
調理スキルは、既にスキルを持っている人間から調理を習い続けていれば、どこかの時点でステータスに発生するという。
あとは場数をこなすのみとのこと。
ただ、ルシウスのごはんはとても美味しかったのだが、お腹いっぱいになるまでは食べさせてくれなかった。
その辺はカズンとは明確な違いがある。
悲しい顔をしてアイシャとトオンが空の皿を見つめていても、食べ過ぎはいけない、と注意を繰り返してくる。
今日も夕食後、ホーリーバジルのハーブティーを飲みながらルシウスの話を聞いていた。
「カズン様がなかなか環が安定しなかった理由を知っているか? “食べ過ぎ”だ」
「「は?」」
驚くふたりに、なるほど彼は自分の恥は言わなかったかとルシウスが笑っている。
「食べたものを消化するエネルギーにも魔力が関わっているのさ。逆にいえば、魔力が豊富なら、ある程度までは食べることができずとも、保つ」
「……そうね。以前の私がそうだった」
クーツ元王太子の婚約者時代のアイシャは、嫌がらせで食事を汚され食べられないことがあり、常にお腹を減らしている状態だった。
それでも生きていられたのは、彼女が聖女という、格別、魔力の多い存在だからだった。
「彼は幼い頃から食いしん坊でな……もちろん溺愛されていた王族だから過度に太るようなこともなく、その辺はきちんと管理されていたのだが」
カズンが使命を帯びて故郷を出奔することになったとき、必要な準備は何もできない状況だったという。
荷物も何もない、文字通り身ひとつで旅に出ることになった。
資金も持っていなかったから、旅先でダンジョンに入るなど冒険者ギルドの依頼をこなしながら生活費を稼いでいくことになるが、慣れるまでは相当に苦労したようだ。
それまでは、ほとんど箱入りで大事に大事に守られていた一番若い王族が、だ。
そんな状況だったから、旅に出てしばらく経つと食うにも困る状況に置かれたわけだが、それがかえって本人にとっては良い状況を生んだ。
飢餓を覚えることも多かった出奔一年目の時点で、食の節制効果により魔力が増加して、結果として環を安定して自分の意思で出せるようになった。
「当時の彼からの手紙を読んだご家族は、涙で枕を濡らさぬ日はなかったと聞く。うちの甥っ子など今にも家を飛び出ていきそうで、抑えつけるのに苦労した」
当時を思い出して、しみじみとルシウスが言った。
「そういえば、何で甥っ子さんの“鮭の人”はカズンに会えてないんです? 半年前この国に来てくれたときも、ほんの少しの時間の差ですれ違ってて、タイミングの悪さに驚いたもんです」
これはトオンが一度聞いてみたかったことだ。
ルシウスとよく似た、青銀の髪に湖面の水色の瞳に、黒縁眼鏡をかけていた麗しの青年のことを。
リースト侯爵ヨシュアという名前で、カズンの幼馴染みだと聞いていた。
「うちの甥っ子は、基本ステータスの幸運値が低いんだ。そのせいで何かと後手に回りやすくてな……」
不憫な子なのだ、とルシウスは呟いた。
「カズン様が故郷を出奔する前に立てた誓いも良くなかった。己の敵を滅ぼすまで故郷に戻ることはないと環を発動させたまま誓ったそうなのだが……故郷とは生まれた国や地域、そして人だ」
カズンが故郷アケロニア王国を出奔することになったのは、自分の敵を追いかけるためだったという。
そのとき、敵を追うための魔力を得ようとしたが足りず、自分の環を通じて世界の外の“虚空”から力を引き出すために、己自身に誓いを立てていた。
「うちの甥っ子は一番仲が良かったから、カズン様にとっての“故郷”の範囲内らしくて」
「だから、会えない?」
「そう。カズン様の家族も、手紙のやり取りはできているのだが、会えてないんだ。別の友人は国外でなら会えたらしいのだが」
カズンは冒険者登録をしていたから、冒険者ギルド経由で足取りを掴むことができた。
冒険者ギルドは円環大陸全土にあって、これも教会と同じで本部が神秘の国と呼ばれる永遠の国にあるため、すべての支部で情報を共有している。
ルシウスの甥っ子は、自分が行けない代わりに冒険者ギルド間のネットワークを利用して、カズンの行先に支援物資などを送るようになった。
その結果が、半年前、アイシャとトオンがカズンに食べさせてもらった美味しい鮭などであったわけだ。
「ある程度は私の環を通じて手紙や物品を送れたのだが、我が師フリーダヤからは『修行中の者をあまり甘やかすな』と言われていて。全力のバックアップをできないのが痛いところだ」
ルシウスの甥っ子も魔力使いだが、旧世代とのこと。
環が出せるよう研鑽を積んでいるらしいが、あまり素質がないようでまだ果たせていないらしい。
「……鮭の人、環が出せるようになればカズンに会えるわね」
「そうだろうな、私もそう見ている。本人も頭ではわかってるのだが、カズン様へのこだわりがネックになって、環が使えない。聖者の私の甥で、同じ家に住んでともに生活していながら、なかなか感化も受けてくれない」
困ったものだ、とルシウスが嘆息している。
「あの人、そんなに頑固な人なんです? そうは見えなかったけど」
「我らは、ほら。外面が良いのでな」
自分で自分の顔を指差してルシウスが笑う。
顔が良い。
間違いない、この顔なら周りは皆騙される。
--
ファーストシーズンのほうでカズン君をリアルorzにさせた話題。
青銀の髪に、湖面の水色の瞳を持つ麗しの男前、ルシウス・リースト。
彼はあの魔術師カズンの料理その他の師匠でもあった。
話好きで、大好きだった亡くなった兄のことや、カズンの幼馴染みでもある“鮭を送ってきた人”こと甥っ子のこととなると止まらない。
話題も豊富で、聞いているととても楽しい。
かと思えば、こういうタイプだから自分だけが話して満足する性格かと思いきや、アイシャやトオンの話もしっかり拾い上げて聞いてくれるところがとても嬉しかった。
トオンもアイシャも、この圧力は強いが、麗しくも男前の大人が大好きになった。
(カズン。あなたは正しかった。この人、本当に愉快で楽しくて大好きになる人だったわ)
そしてトオンにはバッドステータス“飯マズ”があるから素質なしとして、アイシャに調理スキルが発生するよう、できるだけ料理を一緒に作らせてもらえることになった。
調理スキルは、既にスキルを持っている人間から調理を習い続けていれば、どこかの時点でステータスに発生するという。
あとは場数をこなすのみとのこと。
ただ、ルシウスのごはんはとても美味しかったのだが、お腹いっぱいになるまでは食べさせてくれなかった。
その辺はカズンとは明確な違いがある。
悲しい顔をしてアイシャとトオンが空の皿を見つめていても、食べ過ぎはいけない、と注意を繰り返してくる。
今日も夕食後、ホーリーバジルのハーブティーを飲みながらルシウスの話を聞いていた。
「カズン様がなかなか環が安定しなかった理由を知っているか? “食べ過ぎ”だ」
「「は?」」
驚くふたりに、なるほど彼は自分の恥は言わなかったかとルシウスが笑っている。
「食べたものを消化するエネルギーにも魔力が関わっているのさ。逆にいえば、魔力が豊富なら、ある程度までは食べることができずとも、保つ」
「……そうね。以前の私がそうだった」
クーツ元王太子の婚約者時代のアイシャは、嫌がらせで食事を汚され食べられないことがあり、常にお腹を減らしている状態だった。
それでも生きていられたのは、彼女が聖女という、格別、魔力の多い存在だからだった。
「彼は幼い頃から食いしん坊でな……もちろん溺愛されていた王族だから過度に太るようなこともなく、その辺はきちんと管理されていたのだが」
カズンが使命を帯びて故郷を出奔することになったとき、必要な準備は何もできない状況だったという。
荷物も何もない、文字通り身ひとつで旅に出ることになった。
資金も持っていなかったから、旅先でダンジョンに入るなど冒険者ギルドの依頼をこなしながら生活費を稼いでいくことになるが、慣れるまでは相当に苦労したようだ。
それまでは、ほとんど箱入りで大事に大事に守られていた一番若い王族が、だ。
そんな状況だったから、旅に出てしばらく経つと食うにも困る状況に置かれたわけだが、それがかえって本人にとっては良い状況を生んだ。
飢餓を覚えることも多かった出奔一年目の時点で、食の節制効果により魔力が増加して、結果として環を安定して自分の意思で出せるようになった。
「当時の彼からの手紙を読んだご家族は、涙で枕を濡らさぬ日はなかったと聞く。うちの甥っ子など今にも家を飛び出ていきそうで、抑えつけるのに苦労した」
当時を思い出して、しみじみとルシウスが言った。
「そういえば、何で甥っ子さんの“鮭の人”はカズンに会えてないんです? 半年前この国に来てくれたときも、ほんの少しの時間の差ですれ違ってて、タイミングの悪さに驚いたもんです」
これはトオンが一度聞いてみたかったことだ。
ルシウスとよく似た、青銀の髪に湖面の水色の瞳に、黒縁眼鏡をかけていた麗しの青年のことを。
リースト侯爵ヨシュアという名前で、カズンの幼馴染みだと聞いていた。
「うちの甥っ子は、基本ステータスの幸運値が低いんだ。そのせいで何かと後手に回りやすくてな……」
不憫な子なのだ、とルシウスは呟いた。
「カズン様が故郷を出奔する前に立てた誓いも良くなかった。己の敵を滅ぼすまで故郷に戻ることはないと環を発動させたまま誓ったそうなのだが……故郷とは生まれた国や地域、そして人だ」
カズンが故郷アケロニア王国を出奔することになったのは、自分の敵を追いかけるためだったという。
そのとき、敵を追うための魔力を得ようとしたが足りず、自分の環を通じて世界の外の“虚空”から力を引き出すために、己自身に誓いを立てていた。
「うちの甥っ子は一番仲が良かったから、カズン様にとっての“故郷”の範囲内らしくて」
「だから、会えない?」
「そう。カズン様の家族も、手紙のやり取りはできているのだが、会えてないんだ。別の友人は国外でなら会えたらしいのだが」
カズンは冒険者登録をしていたから、冒険者ギルド経由で足取りを掴むことができた。
冒険者ギルドは円環大陸全土にあって、これも教会と同じで本部が神秘の国と呼ばれる永遠の国にあるため、すべての支部で情報を共有している。
ルシウスの甥っ子は、自分が行けない代わりに冒険者ギルド間のネットワークを利用して、カズンの行先に支援物資などを送るようになった。
その結果が、半年前、アイシャとトオンがカズンに食べさせてもらった美味しい鮭などであったわけだ。
「ある程度は私の環を通じて手紙や物品を送れたのだが、我が師フリーダヤからは『修行中の者をあまり甘やかすな』と言われていて。全力のバックアップをできないのが痛いところだ」
ルシウスの甥っ子も魔力使いだが、旧世代とのこと。
環が出せるよう研鑽を積んでいるらしいが、あまり素質がないようでまだ果たせていないらしい。
「……鮭の人、環が出せるようになればカズンに会えるわね」
「そうだろうな、私もそう見ている。本人も頭ではわかってるのだが、カズン様へのこだわりがネックになって、環が使えない。聖者の私の甥で、同じ家に住んでともに生活していながら、なかなか感化も受けてくれない」
困ったものだ、とルシウスが嘆息している。
「あの人、そんなに頑固な人なんです? そうは見えなかったけど」
「我らは、ほら。外面が良いのでな」
自分で自分の顔を指差してルシウスが笑う。
顔が良い。
間違いない、この顔なら周りは皆騙される。
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