31 / 292
第二章 お師匠様がやってきた
酒飲みにビールなしのイカフライはつらい
しおりを挟む
それから、夕飯のブリトーを食しつつ、魔力使いの世界での徒弟制度のことをもう少し突っ込んで聞いた。
「いつか、私たちも弟子を持つようになるのかしら」
クミンで炒めた海老入りのブリトーを食べ終えたアイシャが、未来のことに思いを馳せている。
ルシウスが言うには、弟子を育てるのは、楽しくて嬉しいというのもあるし、未熟な弟子たちを指導する中で己の反省点も多々見つかるのが大事なのだそうだ。
その恥ずかしさを克服し更に成長していけるので、環使いとして完成した後は、必ずどこかの時点で弟子を育てるよう勧められる。
そしてその弟子の成長に責任を持たされるとのこと。
「我らの系列の魔力使いたちは、円環大陸の全土に散らばっているから、機会があれば彼らを訪ねてみるといい。会えば現地での宿や食事の心配も要らぬし、多少なら小遣いだってくれる」
実際、今も旅をしているカズンに対しても、フリーダヤとロータスのファミリーがそのようにして支援をしているそうだ。
「ああ……それなんだけど」
ここでふたりはルシウスに、この地の穢れを浄化する際、力を得るためにアイシャが立てた誓いについて説明した。
「『このカーナ王国に骨を埋める』と誓約したのか。ほう、世界の外の“虚空”に? そんな大雑把な誓いでも“虚空”から力を引き出せるのか。ひとつ学んだぞ」
少し物足りなかったといって、新たに買い足してきた山盛りのイカフライにライムを絞りながらルシウスが言った。
「む。ビールの欲しいやつだな……」
「飲みますか。買ってきますよ?」
カーナ王国ではラガーもエールも、他国と比べてかなり安い。ふつうにジュースより少し高い程度。
国内に麦の産地があって、主要生産品のひとつのためだ。
「いや、今日はやめておこう。話に集中したい」
さっくり揚げたてのイカフライとライムの味に目を輝かせるも、少し残念そうな顔になりつつ、アイシャとトオンにも勧めてくれた。
「『この国に骨を埋める』以外の条件は?」
「いいえ、そういう条件設定はしていないわ。そんな時間もなかったし」
アイシャは半年前、このカーナ王国の地下にある邪悪な魔力と穢れの発生源である古代生物の化石を、聖なる魔力でもって浄化した。
その際、他者や外界から魔力を調達できる環を用いても魔力がまったく足りなかったので、本来、新世代の環使いならば必要ないはずの“代償”を用いて魔力を調達した。
それが、このカーナ王国に『己の骨を埋める』こと。
アイシャは当然、自分が死んだときこの国に墓を作って遺骨を埋めることを想定して、そのように誓約した。
己の環を通じて、世界の外にある“虚空”と呼ばれる無限の領域に向けて、誓いを立てる形で己の存在を今後、カーナ王国に捧げると。
「だから、私はもうこの国から出ることはできないと思うの。元々、この国の聖女で居続ける覚悟はあったし、」
「その内容のどこに、『この国から出られない』条件が入っているのだ?」
ないぞ、と言ってルシウスはイカフライを摘まんでいた指先の油を舌先で舐め取った。
「ふたりで、そのときの誓約にどういう条件が設定されたのか、詳細を調べてみるといい。文言が『このカーナ王国に骨を埋める』だけなら、ペナルティも不明のままだろう?」
アイシャはトオンと顔を見合わせた。
お師匠様から最初の課題が出た。
さっくり揚げたてイカフライにライムを添えて
--
なお、ルシウスおじさんの故郷はあんまり揚げ物のない健康的な食文化の国です。デブ活しにくい夢の国。
「いつか、私たちも弟子を持つようになるのかしら」
クミンで炒めた海老入りのブリトーを食べ終えたアイシャが、未来のことに思いを馳せている。
ルシウスが言うには、弟子を育てるのは、楽しくて嬉しいというのもあるし、未熟な弟子たちを指導する中で己の反省点も多々見つかるのが大事なのだそうだ。
その恥ずかしさを克服し更に成長していけるので、環使いとして完成した後は、必ずどこかの時点で弟子を育てるよう勧められる。
そしてその弟子の成長に責任を持たされるとのこと。
「我らの系列の魔力使いたちは、円環大陸の全土に散らばっているから、機会があれば彼らを訪ねてみるといい。会えば現地での宿や食事の心配も要らぬし、多少なら小遣いだってくれる」
実際、今も旅をしているカズンに対しても、フリーダヤとロータスのファミリーがそのようにして支援をしているそうだ。
「ああ……それなんだけど」
ここでふたりはルシウスに、この地の穢れを浄化する際、力を得るためにアイシャが立てた誓いについて説明した。
「『このカーナ王国に骨を埋める』と誓約したのか。ほう、世界の外の“虚空”に? そんな大雑把な誓いでも“虚空”から力を引き出せるのか。ひとつ学んだぞ」
少し物足りなかったといって、新たに買い足してきた山盛りのイカフライにライムを絞りながらルシウスが言った。
「む。ビールの欲しいやつだな……」
「飲みますか。買ってきますよ?」
カーナ王国ではラガーもエールも、他国と比べてかなり安い。ふつうにジュースより少し高い程度。
国内に麦の産地があって、主要生産品のひとつのためだ。
「いや、今日はやめておこう。話に集中したい」
さっくり揚げたてのイカフライとライムの味に目を輝かせるも、少し残念そうな顔になりつつ、アイシャとトオンにも勧めてくれた。
「『この国に骨を埋める』以外の条件は?」
「いいえ、そういう条件設定はしていないわ。そんな時間もなかったし」
アイシャは半年前、このカーナ王国の地下にある邪悪な魔力と穢れの発生源である古代生物の化石を、聖なる魔力でもって浄化した。
その際、他者や外界から魔力を調達できる環を用いても魔力がまったく足りなかったので、本来、新世代の環使いならば必要ないはずの“代償”を用いて魔力を調達した。
それが、このカーナ王国に『己の骨を埋める』こと。
アイシャは当然、自分が死んだときこの国に墓を作って遺骨を埋めることを想定して、そのように誓約した。
己の環を通じて、世界の外にある“虚空”と呼ばれる無限の領域に向けて、誓いを立てる形で己の存在を今後、カーナ王国に捧げると。
「だから、私はもうこの国から出ることはできないと思うの。元々、この国の聖女で居続ける覚悟はあったし、」
「その内容のどこに、『この国から出られない』条件が入っているのだ?」
ないぞ、と言ってルシウスはイカフライを摘まんでいた指先の油を舌先で舐め取った。
「ふたりで、そのときの誓約にどういう条件が設定されたのか、詳細を調べてみるといい。文言が『このカーナ王国に骨を埋める』だけなら、ペナルティも不明のままだろう?」
アイシャはトオンと顔を見合わせた。
お師匠様から最初の課題が出た。
さっくり揚げたてイカフライにライムを添えて
--
なお、ルシウスおじさんの故郷はあんまり揚げ物のない健康的な食文化の国です。デブ活しにくい夢の国。
30
お気に入りに追加
3,953
あなたにおすすめの小説
初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と叫んだら長年の婚約者だった新妻に「気持ち悪い」と言われた上に父にも予想外の事を言われた男とその浮気女の話
ラララキヲ
恋愛
長年の婚約者を欺いて平民女と浮気していた侯爵家長男。3年後の白い結婚での離婚を浮気女に約束して、新妻の寝室へと向かう。
初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と愛する夫から宣言された無様な女を嘲笑う為だけに。
しかし寝室に居た妻は……
希望通りの白い結婚と愛人との未来輝く生活の筈が……全てを周りに知られていた上に自分の父親である侯爵家当主から言われた言葉は──
一人の女性を蹴落として掴んだ彼らの未来は……──
<【ざまぁ編】【イリーナ編】【コザック第二の人生編(ザマァ有)】となりました>
◇テンプレ浮気クソ男女。
◇軽い触れ合い表現があるのでR15に
◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。
◇ご都合展開。矛盾は察して下さい…
◇なろうにも上げてます。
※HOTランキング入り(1位)!?[恋愛::3位]ありがとうございます!恐縮です!期待に添えればよいのですがッ!!(;><)
〖完結〗私は旦那様には必要ないようですので国へ帰ります。
藍川みいな
恋愛
辺境伯のセバス・ブライト侯爵に嫁いだミーシャは優秀な聖女だった。セバスに嫁いで3年、セバスは愛人を次から次へと作り、やりたい放題だった。
そんなセバスに我慢の限界を迎え、離縁する事を決意したミーシャ。
私がいなければ、あなたはおしまいです。
国境を無事に守れていたのは、聖女ミーシャのおかげだった。ミーシャが守るのをやめた時、セバスは破滅する事になる…。
設定はゆるゆるです。
本編8話で完結になります。
破壊のオデット
真義あさひ
恋愛
麗しのリースト伯爵令嬢オデットは、その美貌を狙われ、奴隷商人に拐われる。
他国でオークションにかけられ純潔を穢されるというまさにそのとき、魔法の大家だった実家の秘術「魔法樹脂」が発動し、透明な樹脂の中に封じ込められ貞操の危機を逃れた。
それから百年後。
魔法樹脂が解凍され、親しい者が誰もいなくなった時代に麗しのオデットは復活する。
そして学園に復学したオデットには生徒たちからの虐めという過酷な体験が待っていた。
しかしオデットは負けずに立ち向かう。
※思春期の女の子たちの、ほんのり百合要素あり。
「王弟カズンの冒険前夜」のその後、
「聖女投稿」第一章から第二章の間に起こった出来事です。
【完結】公爵令嬢は、婚約破棄をあっさり受け入れる
櫻井みこと
恋愛
突然、婚約破棄を言い渡された。
彼は社交辞令を真に受けて、自分が愛されていて、そのために私が必死に努力をしているのだと勘違いしていたらしい。
だから泣いて縋ると思っていたらしいですが、それはあり得ません。
私が王妃になるのは確定。その相手がたまたま、あなただった。それだけです。
またまた軽率に短編。
一話…マリエ視点
二話…婚約者視点
三話…子爵令嬢視点
四話…第二王子視点
五話…マリエ視点
六話…兄視点
※全六話で完結しました。馬鹿すぎる王子にご注意ください。
スピンオフ始めました。
「追放された聖女が隣国の腹黒公爵を頼ったら、国がなくなってしまいました」連載中!
婚約者が私以外の人と勝手に結婚したので黙って逃げてやりました〜某国の王子と珍獣ミミルキーを愛でます〜
平川
恋愛
侯爵家の莫大な借金を黒字に塗り替え事業を成功させ続ける才女コリーン。
だが愛する婚約者の為にと寝る間を惜しむほど侯爵家を支えてきたのにも関わらず知らぬ間に裏切られた彼女は一人、誰にも何も告げずに屋敷を飛び出した。
流れ流れて辿り着いたのは獣人が治めるバムダ王国。珍獣ミミルキーが生息するマサラヤマン島でこの国の第一王子ウィンダムに偶然出会い、強引に王宮に連れ去られミミルキーの生態調査に参加する事に!?
魔法使いのウィンロードである王子に溺愛され珍獣に癒されたコリーンは少しずつ自分を取り戻していく。
そして追い掛けて来た元婚約者に対して少女であった彼女が最後に出した答えとは…?
完結済全6話
あなたをかばって顔に傷を負ったら婚約破棄ですか、なおその後
アソビのココロ
恋愛
「その顔では抱けんのだ。わかるかシンシア」 侯爵令嬢シンシアは婚約者であるバーナビー王太子を暴漢から救ったが、その際顔に大ケガを負ってしまい、婚約破棄された。身軽になったシンシアは冒険者を志して辺境へ行く。そこに出会いがあった。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。