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第二章 お師匠様がやってきた

お師匠様はごはんを奢ってくれるタイプの人でした

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 私物を馬車5台分持参していたルシウスだったが、2階の宿屋の部屋に入りきらないことが判明し、他に家を借りて一時的に保管するとのこと。

 そして故郷の正装姿のままでは、どこにいても浮くこと間違いなしだ。
 いっそ貴族街や富裕層たちの住む地区の高級宿に移動してはどうかと、本気でトオンは勧めたのだが、本人はカズンに頼まれたのだから面倒を見るにはともに暮らすのがベストだと言って譲らなかった。

 ただ、本人が持参していた衣服はどう見ても貴族の仕立ての良いものばかりなので、トオンはこの建物で長期滞在するなら、もう少し庶民に馴染む装いに抑えてくれと頼んだ。
 ならばと、ルシウスはその日のうちに王都の仕立て屋へ向かい、適当な既製服を一揃え、自分のサイズに仕立て直させてきた。

 例えば、今はまだ下旬とはいえ8月だから暑い時期だ。
 ジャケット代わりにもなる薄手の麻の襟付きシャツやインナーのTシャツ、皺になりにくい生地のデニムブルーのパンツ、そして動きやすい焦茶色の革のサンダルに着替えと履き替えて、また赤レンガの建物まで戻ってきた。

 着ている本人から溢れ出す貴族っぽさは隠せない。
 それでも、こういったカジュアルな格好になって、それまで整髪料で軽く整えていた前髪を額にかかるままにすると、案外若く見えて本人の醸し出す威圧感が多少薄れる。多少。

「あら。ルシウスさん、そういう格好も似合いますねえ」
「昔、まだ若い頃には旅をしていたこともあるのだ。その頃はよくこのような格好をしていたものだ」

 当時は遠く離れた異国で冒険者活動をしていて、一本きりの魔法剣でどこまでも魔物討伐に明け暮れていたものだった。らしい。

 だが、たとえ衣服が庶民と同じでも本人の持つ麗しの美貌や気品、何より貫禄と覇気は隠せない。
 ご近所の間では、「トオンのところの宿屋に他国のお忍び貴族がやって来たみたい」と、あっという間にバレてしまった。
 まだご近所さんたちはこちらを遠巻きにしているようだったが、ルシウス本人はいずれは挨拶に行こうかなどと、呑気に話している。



 さっそく今日からずっと美味しいごはんだ!

 と浮かれていたアイシャとトオンだったが、予想に反してルシウスは、しばらくは地元の食事を試してみたいと言い出した。

「そんなにいいお店、俺たちも知らないですよ?」
「このカーナ王国で一般的な料理が知りたいのだ。私の故郷とは食文化も違うだろうし」

 彼はカーナ王国を訪れたのが初めてなので、ご当地の料理や食材を知りたいのだという。

「庶民的なお店や屋台でもいいんですか?」
「そうだな、普段のお前たちが使う店があれば、そこを中心に頼めるか?」

 言われて、アイシャとトオンは顔を見合わせた。

(トオン、予算は平気?)
(うーん、まあいざとなったら宰相からぶん獲ってきた金を崩そう。ルシウスさんが外食続けるようなら店だけ教えて、独りで行ってもらうとかでもいいし)

 などと、お財布事情をひそひそ相談していたふたりだったが、そこは杞憂だった。
 昼に三人で定食屋に行って、シーフードのタコスプレートのセットを頼んだときも、夕飯に屋台の出る広場へブリトーを食べに行ったときも、この麗しの男前はふたりが財布を出す前にスマートに勘定を済ませてしまったからだ。

 昼間は暑くて人気の少ない広場も、夜はぐっと気温が下がって過ごしやすくなるから、それなりに人でごった返している。
 広場に設置されているテーブル席をひとつ三人で陣取って、注文してきたブリトーやドリンクなど片手に、恐る恐るトオンが申し出た。

「あの、ルシウスさん。俺たちも自分でちゃんと出しますから」
「なぜだ? 私はお前たちの師匠になるのだから、弟子たちの費用を出すのは当然だろう?」

 不思議そうに首を傾げられてしまった。

「あの。それなんですけど、逆に俺たちがあなたに指導料を払う必要があるのでは?」
「???」

 また不思議そうな顔をされる。
 だが、何かに思い至ったのか、それから自分の行動の理由について説明を始めた。




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