上 下
12 / 44

王太女様より、殺っちまいなとの仰せです

しおりを挟む
「って感じで、うちの一族に舐めた真似してくれた奴がいるのです。ちょっと痛めにお仕置きしてやろうって思ってて」

 依頼されていた仕事の報告書を持って、子爵ルシウスは王宮の上司の執務室を訪れていた。
 上司、即ちこの国の王太女グレイシアの。

 このアケロニア王国の王族は、黒髪黒目が特徴だ。
 グレイシア王太女も豊かな黒髪の持ち主で、豪快な印象の端正な顔立ちの美女である。

 その王太女様の眉間に、どんどん皺が寄り始める。

「仮にも義兄だった男を男娼館に売り飛ばす。そうその女は言ったのか?」
「はい、報告ではそのように」

 グレイシア王太女が持っていたペンを折った。

「生温い。お仕置きなどと言わず徹底的に潰せ!」
「えええ。相手は平民ですよ? 制裁なんて言ったってたかが知れてます」
「……私のカレイド王国の友人はな、婚約者の男に同じように『娼館に売り飛ばしてやろう』と笑いながら言われたことがあるのだ。現地に視察に行ったとき、私もその発言をこの耳で聞いた」
「はあ」

 その話ならもう十年以上前に、飽きるほど聞いた。

 同い年で親友の他国の女王様が学生時代、クズ男の婚約者にふざけて言われた場面に、現地に短期留学していたグレイシアが偶然居合わせたことがあると。

 怒り狂ったグレイシアは「そんなクズ男は屑籠に捨ててしまえ!」と親友に迫ったのだが、次期女王だった相手は何を考えたものか、そのまま卒業後にクズ男と結婚してしまったという。

 以来、現在までグレイシア王太女とカレイド王国の女王は不仲のままだ。
 国交も微妙になってしまっていた。
 ただし、つい先日までの話だ。

「何の罪もない者を私欲で娼館に沈めて笑う者など、我が国の民には要らん。構わん、ルシウス。わたくしが許可する。徹底的にやるがよい!」
「うわー。頼んでもないのに許可出して来たー」

 まあやりますけどね、とルシウスは小さく呟いた。
 リースト一族は身内を害する者に容赦しないのだ。



 その後、ルシウスはグレイシア王太女の執務室を辞した後、頼まれて彼女の一人息子のユーグレン王子と軽く遊んでから子爵邸に帰ることにした。

 ユーグレン王子はアケロニア王族だけあって、母親のグレイシア王太女そっくりな端正な顔立ちと黒髪黒目の4歳児だ。

 あの血の気の多いグレイシア王太女の息子とは思えないくらい、優しくおとなしくお行儀も良く、勉強が大好きという出来の良さ。
 アケロニア王国の次の次の国王になる王子だ。この国の未来は明るいだろう。

「ルシウスさま、いらっしゃい! ぼうけんしゃじだいのおはなし、またきかせてくださいませんか!」
「はあい、喜んで!」

 ルシウスは5年ほど前、多感な14歳のとき、一年弱の期間、他国で冒険者活動をしていたことがある。

 以前、そのときの話をしてみたら、ユーグレン王子がとても喜んでくれて、顔を見せたときに繰り返し話をせがまれるようになったのだ。

 真っ黒な瞳をキラキラ輝かせて見上げてくる王子をよいせっと抱き上げて、王子の私室のソファに腰掛ける。

「さあ、どこまで話しましたっけ?」
「おさかなさん! おさかなさんモンスターがおしよせてきたときのおはなし!」
「ああ、それは……」

 そうして、ユーグレン王子と軽くのつもりが、思いっきりおしゃべりして遊んでから帰宅した。




--
ルシウス君様の冒険者時代のお話は「家出少年ルシウスNEXT」にて(飯テロ注意ファンタジー
そして王家のこの方々が出てきたということは……
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

人生に脇役はいないと言うけれど。

月芝
BL
剣? そんなのただの街娘に必要なし。 魔法? 天性の才能に恵まれたごく一部の人だけしか使えないよ、こんちくしょー。 モンスター? 王都生まれの王都育ちの塀の中だから見たことない。 冒険者? あんなの気力体力精神力がズバ抜けた奇人変人マゾ超人のやる職業だ! 女神さま? 愛さえあれば同性異性なんでもござれ。おかげで世界に愛はいっぱいさ。 なのにこれっぽっちも回ってこないとは、これいかに? 剣と魔法のファンタジーなのに、それらに縁遠い宿屋の小娘が、姉が結婚したので 実家を半ば強制的に放出され、住み込みにて王城勤めになっちゃった。 でも煌びやかなイメージとは裏腹に色々あるある城の中。 わりとブラックな職場、わりと過激な上司、わりとしたたかな同僚らに囲まれて、 モミモミ揉まれまくって、さあ、たいへん! やたらとイケメン揃いの騎士たち相手の食堂でお仕事に精を出していると、聞えてくるのは あんなことやこんなこと……、おかげで微妙に仕事に集中できやしねえ。 ここにはヒロインもヒーローもいやしない。 それでもどっこい生きている。 噂話にまみれつつ毎日をエンジョイする女の子の伝聞恋愛ファンタジー。    

婚約破棄が始まる前に、割と早急にざまぁが始まって終わる話(番外編あり)

雷尾
BL
魅了ダメ。ゼッタイ。という小話。 悪役令息もちゃんと悪役らしいところは悪役しています多分。 ※番外編追加。前作の悪役があんまりにも気の毒だという人向け

婚約破棄されたから伝説の血が騒いでざまぁしてやった令息

ミクリ21 (新)
BL
婚約破棄されたら伝説の血が騒いだ話。

好きな人の婚約者を探しています

迷路を跳ぶ狐
BL
一族から捨てられた、常にネガティブな俺は、狼の王子に拾われた時から、王子に恋をしていた。絶対に叶うはずないし、手を出すつもりもない。完全に諦めていたのに……。口下手乱暴王子×超マイナス思考吸血鬼 *全12話+後日談1話

学園の俺様と、辺境地の僕

そらうみ
BL
この国の三大貴族の一つであるルーン・ホワイトが、何故か僕に構ってくる。学園生活を平穏に過ごしたいだけなのに、ルーンのせいで僕は皆の注目の的となってしまった。卒業すれば関わることもなくなるのに、ルーンは一体…何を考えているんだ? 【全12話になります。よろしくお願いします。】

白い結婚をしたら相手が毎晩愛を囁いてくるけど、魔法契約の破棄は御遠慮いたします。

たまとら
BL
魔道具のせいでイケメンハイスペックなのにチェリー道をいくヴォルフと、ちょっとズレてるレイトの汗と涙とこんちくしょうな白い結婚の物語

捕まえたつもりが逆に捕まっていたらしい

ひづき
BL
話題の伯爵令息ルーベンスがダンスを申し込んだ相手は給仕役の使用人(男)でした。

当たって砕けていたら彼氏ができました

ちとせあき
BL
毎月24日は覚悟の日だ。 学校で少し浮いてる三倉莉緒は王子様のような同級生、寺田紘に恋をしている。 教室で意図せず公開告白をしてしまって以来、欠かさずしている月に1度の告白だが、19回目の告白でやっと心が砕けた。 諦めようとする莉緒に突っかかってくるのはあれ程告白を拒否してきた紘で…。 寺田絋 自分と同じくらいモテる莉緒がムカついたのでちょっかいをかけたら好かれた残念男子 × 三倉莉緒 クールイケメン男子と思われているただの陰キャ そういうシーンはありませんが一応R15にしておきました。 お気に入り登録ありがとうございます。なんだか嬉しいので載せるか迷った紘視点を追加で投稿します。ただ紘は残念な子過ぎるので莉緒視点と印象が変わると思います。ご注意ください。 お気に入り登録100ありがとうございます。お付き合いに浮かれている二人の小話投稿しました。

処理中です...