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795 セイヤハウス
しおりを挟む「絶対的な力、そして絶望的な死を見せて、裏切る気を無くさせるのだ」
ゼーレネイマスのこの一言に、全員がフリーズした。
でも次の瞬間、怒涛のツッコミが入った。
「いやいやいや!そりゃ裏切る気が失せたのは間違いないでしょうけど・・・」
「こんなの師匠にしか出来ない力技じゃないですか!」
「全然参考にならなかった!」
「うん」
絶対的な力を見せつけるって方向性は真似出来なくもないが、こんな事が出来るのは大魔王くらいだし!
ああ、パメラクラスの魔法の達人が指輪ドーピングすりゃ可能かもしれんけど、少なくともケンちゃんとセイヤが参考にできる方法じゃないな。
ただ野盗達には効果覿面だったようで、無数の槍が突き刺さった氷の壁を見て驚愕している。魔王からは逃げられないってことがよく分かっただろう。
「もう十分だろ。草木が死んでしまうから早く消せ!」
「うむ」
ズズズズズズ
聳え立った氷の壁が地面に沈んでいき元の美しい森に戻ったかと思ったが、地面が凍ったままだったので、ロードヒーティングで氷を溶かした。
「なんて凄まじい魔法なんだ・・・。えーと、蒼髪の旦那がボスなんですか?」
「次の近江大名はその二人の何方かだ」
「え?あ、そうだったのか・・・」
「その人は俺らの師匠だ。今んとこボスなんだけど、大名になる気はまったく無いみたいなんで、俺とセイヤで、レザルドをぶちのめした方が大名かな?」
「師匠の方が圧倒的に強いのに、俺らが大名候補でいいのかって気はするけどな」
「あ、自己紹介がまだだったな。俺はケン」
「セイヤだ!」
あの二人が大名候補だって流れで話が進んでいるので、その配下となる野盗達の前で先輩ヅラするわけにはいくまい。
ケンちゃんとセイヤが一番下っ端だとバレないよう、俺やレミィはボソッと控え目に自己紹介しておいた。ゼーレネイマスは圧倒的強者感しかないが、師匠なんだしそれくれいなら問題無かろう。
「・・・ってなわけで、俺達はこのままイルミラの街とヴェルメスの街で暴れて、レザルド軍を弱らせてからディグダムに戻って来る予定だ」
「えーと、アタシ達はどうすればいいんだい?」
「俺達が戻って来るまでは、今までと同じようにしていてくれ」
「それって、どれくらいかかるんだい?」
「ん~、どれくらいだ?さっぱりわかんねーな」
近江の広さも何となくしか分からんし、琵琶湖の迂回ルートでの距離だって当然分からん。なのでしっかりした答えは出せないな。
「野盗の副長は誰だ?」
ゼーレネイマスの斜め上からの質問に、全員が頭に『?』を浮かべた。
「あ、俺ですが・・・」
そう言ったのは、背が高くガタイの良い30歳くらいの男だった。
「グライアード、貴様にコイツをくれてやろう」
ゼーレネイマスがマジックバッグから骨剣を取り出して副長に手渡した。
ってかこの男、自己紹介した14人全ての名前を覚えてるんかい!
「こ、これは!・・・なんて素晴らしい剣なんだ!!」
突然骨剣を授かった野盗の副長が、目を輝かせて興奮を隠せないでいる。
俺も最初驚いたくらい質の高い剣だし、気持ちはすごく良く分かる。
「あ、興奮して礼を言ってなかった!ありがとうございます!!」
「ちょ、ちょっと待って!なんでアタシじゃなくグライアなのさ!?」
確かに、リーダーをスルーしてサブリーダーに剣を渡したのは意味不明だな。
「パトラン、貴様は我らと同行しろ。そこの女に弟子入りしてもらう」
「ふぁっ!?」
「ちょっと!何勝手に弟子増やしてんのよ!
「グライアード、我らが戻るまで貴様が野盗を率いるのだ。レザルド軍の荷馬車を襲うのはやめ、仲間に剣の腕を磨かせろ。一心不乱に剣を振れ」
ホント何なんだよこの男は!
野盗と出会ってから1時間程しか経っていないのに、女リーダーのパトランに剣が合っておらず、これ以上の成長が見込めないと判断しての武器チェンジ。
レミィに弟子入りさせるっつーことは刀を持たせようとしているわけで、それなら同行させた方がいいと判断。代わりにサブリーダーに部下達を鍛えさせようと考え、ごにょごにょ言い出す前に、その気にさせる為に骨剣を渡す。
『リーダーを連れて行かれるのは・・・』とか『自信がありません』みたいな流れになる前に、その気にさせる事で時間短縮に成功ってわけだ。
誰も気が付いていないようだけど、軍師をやっている俺にはコイツの恐ろしさが分かっちまうんだよ!自己紹介での14人分の名前なんて普通覚えられねえよ!
まああれだ。いっぱい貸し作っといて良かったぜ!
野盗達のアジトはそう遠い場所じゃないらしいので、そこまで案内してもらい食料を分け与えた。
ディグダムに戻ったらアジトまで迎えに来るから、それまで必死に鍛えていろと任務を与え、俺達は野盗のアジトを出た。
ちなみにパトランの剣と鎧は置いてこさせたんで、完全に丸腰状態でメチャメチャ不安がっている。
「安心しろ。後で武器と服を渡すから」
「本当かい!?ところでずっと聞きたかったんだけど、アンタって人間なの?」
「どう見ても人間だろうが!」
「いや、全身が鉄で出来ているじゃないのさ!」
「触れてもいないのに決めつけるのは良くないな」
ぺたぺた
「やっぱり鉄じゃない!」
「な、なんだってーーーーーーーーーー!?」
「驚き方がわざとらしいのよ!ちなみにこのピカピカ、あと三人いるから」
「え?」
「明日になったら誰かと入れ替わるんですよね?」
「うむ。明日はサイダーとスピルバーンの番だ。俺は仕事に戻る」
それで思い出し、レミィに懐中時計を渡してあるんで時間を聞いた。
宇宙刑事だと腕時計が見れないのですよ。
ちなみに懐中時計は、清光さんとのバトルの時に手に入れたヤツだ。
「えーと、午後3時過ぎだね」
「いかん。今日は早めに帰らなきゃならんのだ」
「あ~、言ってたね!じゃあそろそろセイヤに家を建ててもらおうか」
前を歩くゼーレネイマス達に事情を話し、まだ休むには少し早いんだけど、一泊する家を作ることになった。
森の中に入り、いい感じの場所を見つけた。
「んじゃセイヤハウスを建てるんで、ちょっと待っててくれ!」
ゴゴゴ・・・ゴゴ・・・
「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」」
土魔法の出力がよわよわで、家が完成するまでメッチャ時間が掛かるって事だけは分かった。
「セイヤハウス、暗くなるまでに完成するんだろな!?」
「自信満々だったのに、へなちょこじゃないの!」
「頑張ってるんだから話し掛けるな!!」
ゴゴゴゴ
これ絶対、俺が帰る時間までに完成しないだろ!
清光さんが作った凄まじい家を見た後で、よくもまあ『俺に任せてくれ!』なんてデカい口を叩けたもんだな!!
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