上 下
795 / 798

795 セイヤハウス

しおりを挟む
 
「絶対的な力、そして絶望的な死を見せて、裏切る気を無くさせるのだ」


 ゼーレネイマスのこの一言に、全員がフリーズした。
 でも次の瞬間、怒涛のツッコミが入った。


「いやいやいや!そりゃ裏切る気が失せたのは間違いないでしょうけど・・・」
「こんなの師匠にしか出来ない力技じゃないですか!」
「全然参考にならなかった!」
「うん」


 絶対的な力を見せつけるって方向性は真似出来なくもないが、こんな事が出来るのは大魔王くらいだし!

 ああ、パメラクラスの魔法の達人が指輪ドーピングすりゃ可能かもしれんけど、少なくともケンちゃんとセイヤが参考にできる方法じゃないな。

 ただ野盗達には効果覿面だったようで、無数の槍が突き刺さった氷の壁を見て驚愕している。魔王からは逃げられないってことがよく分かっただろう。


「もう十分だろ。草木が死んでしまうから早く消せ!」
「うむ」


 ズズズズズズ

 聳え立った氷の壁が地面に沈んでいき元の美しい森に戻ったかと思ったが、地面が凍ったままだったので、ロードヒーティングで氷を溶かした。


「なんて凄まじい魔法なんだ・・・。えーと、蒼髪の旦那がボスなんですか?」
「次の近江大名はその二人の何方かだ」
「え?あ、そうだったのか・・・」
「その人は俺らの師匠だ。今んとこボスなんだけど、大名になる気はまったく無いみたいなんで、俺とセイヤで、レザルドをぶちのめした方が大名かな?」
「師匠の方が圧倒的に強いのに、俺らが大名候補でいいのかって気はするけどな」
「あ、自己紹介がまだだったな。俺はケン」
「セイヤだ!」


 あの二人が大名候補だって流れで話が進んでいるので、その配下となる野盗達の前で先輩ヅラするわけにはいくまい。

 ケンちゃんとセイヤが一番下っ端だとバレないよう、俺やレミィはボソッと控え目に自己紹介しておいた。ゼーレネイマスは圧倒的強者感しかないが、師匠なんだしそれくれいなら問題無かろう。


「・・・ってなわけで、俺達はこのままイルミラの街とヴェルメスの街で暴れて、レザルド軍を弱らせてからディグダムに戻って来る予定だ」
「えーと、アタシ達はどうすればいいんだい?」
「俺達が戻って来るまでは、今までと同じようにしていてくれ」
「それって、どれくらいかかるんだい?」
「ん~、どれくらいだ?さっぱりわかんねーな」

 近江の広さも何となくしか分からんし、琵琶湖の迂回ルートでの距離だって当然分からん。なのでしっかりした答えは出せないな。

「野盗の副長は誰だ?」

 ゼーレネイマスの斜め上からの質問に、全員が頭に『?』を浮かべた。

「あ、俺ですが・・・」

 そう言ったのは、背が高くガタイの良い30歳くらいの男だった。

「グライアード、貴様にコイツをくれてやろう」

 ゼーレネイマスがマジックバッグから骨剣を取り出して副長に手渡した。
 ってかこの男、自己紹介した14人全ての名前を覚えてるんかい!


「こ、これは!・・・なんて素晴らしい剣なんだ!!」


 突然骨剣を授かった野盗の副長が、目を輝かせて興奮を隠せないでいる。
 俺も最初驚いたくらい質の高い剣だし、気持ちはすごく良く分かる。


「あ、興奮して礼を言ってなかった!ありがとうございます!!」
「ちょ、ちょっと待って!なんでアタシじゃなくグライアなのさ!?」

 確かに、リーダーをスルーしてサブリーダーに剣を渡したのは意味不明だな。

「パトラン、貴様は我らと同行しろ。そこの女に弟子入りしてもらう」
「ふぁっ!?」
「ちょっと!何勝手に弟子増やしてんのよ!
「グライアード、我らが戻るまで貴様が野盗を率いるのだ。レザルド軍の荷馬車を襲うのはやめ、仲間に剣の腕を磨かせろ。一心不乱に剣を振れ」


 ホント何なんだよこの男は!

 野盗と出会ってから1時間程しか経っていないのに、女リーダーのパトランに剣が合っておらず、これ以上の成長が見込めないと判断しての武器チェンジ。

 レミィに弟子入りさせるっつーことは刀を持たせようとしているわけで、それなら同行させた方がいいと判断。代わりにサブリーダーに部下達を鍛えさせようと考え、ごにょごにょ言い出す前に、その気にさせる為に骨剣を渡す。

 『リーダーを連れて行かれるのは・・・』とか『自信がありません』みたいな流れになる前に、その気にさせる事で時間短縮に成功ってわけだ。

 誰も気が付いていないようだけど、軍師をやっている俺にはコイツの恐ろしさが分かっちまうんだよ!自己紹介での14人分の名前なんて普通覚えられねえよ!

 まああれだ。いっぱい貸し作っといて良かったぜ!


 野盗達のアジトはそう遠い場所じゃないらしいので、そこまで案内してもらい食料を分け与えた。

 ディグダムに戻ったらアジトまで迎えに来るから、それまで必死に鍛えていろと任務を与え、俺達は野盗のアジトを出た。

 ちなみにパトランの剣と鎧は置いてこさせたんで、完全に丸腰状態でメチャメチャ不安がっている。


「安心しろ。後で武器と服を渡すから」
「本当かい!?ところでずっと聞きたかったんだけど、アンタって人間なの?」
「どう見ても人間だろうが!」
「いや、全身が鉄で出来ているじゃないのさ!」
「触れてもいないのに決めつけるのは良くないな」

 ぺたぺた

「やっぱり鉄じゃない!」
「な、なんだってーーーーーーーーーー!?」
「驚き方がわざとらしいのよ!ちなみにこのピカピカ、あと三人いるから」
「え?」
「明日になったら誰かと入れ替わるんですよね?」
「うむ。明日はサイダーとスピルバーンの番だ。俺は仕事に戻る」

 それで思い出し、レミィに懐中時計を渡してあるんで時間を聞いた。
 宇宙刑事だと腕時計が見れないのですよ。
 ちなみに懐中時計は、清光さんとのバトルの時に手に入れたヤツだ。

「えーと、午後3時過ぎだね」
「いかん。今日は早めに帰らなきゃならんのだ」
「あ~、言ってたね!じゃあそろそろセイヤに家を建ててもらおうか」


 前を歩くゼーレネイマス達に事情を話し、まだ休むには少し早いんだけど、一泊する家を作ることになった。

 森の中に入り、いい感じの場所を見つけた。


「んじゃセイヤハウスを建てるんで、ちょっと待っててくれ!」


 ゴゴゴ・・・ゴゴ・・・


「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」」


 土魔法の出力がよわよわで、家が完成するまでメッチャ時間が掛かるって事だけは分かった。


「セイヤハウス、暗くなるまでに完成するんだろな!?」
「自信満々だったのに、へなちょこじゃないの!」
「頑張ってるんだから話し掛けるな!!」


 ゴゴゴゴ


 これ絶対、俺が帰る時間までに完成しないだろ!

 清光さんが作った凄まじい家を見た後で、よくもまあ『俺に任せてくれ!』なんてデカい口を叩けたもんだな!!
 
しおりを挟む
感想 418

あなたにおすすめの小説

転生の果てに

北丘 淳士
ファンタジー
先天性の障害を持つ本条司は、闘病空しく命を落としてしまう。 だが転生した先で新しい能力を手に入れ、その力で常人を逸した働きを見せ始める。 果たして彼が手に入れた力とは。そしてなぜ、その力を手に入れたのか。 少しミステリ要素も絡んだ、王道転生ファンタジー開幕!

お荷物認定を受けてSSS級PTを追放されました。でも実は俺がいたからSSS級になれていたようです。

幌須 慶治
ファンタジー
S級冒険者PT『疾風の英雄』 電光石火の攻撃で凶悪なモンスターを次々討伐して瞬く間に最上級ランクまで上がった冒険者の夢を体現するPTである。 龍狩りの一閃ゲラートを筆頭に極炎のバーバラ、岩盤砕きガイル、地竜射抜くローラの4人の圧倒的な火力を以って凶悪モンスターを次々と打ち倒していく姿は冒険者どころか庶民の憧れを一身に集めていた。 そんな中で俺、ロイドはただの盾持ち兼荷物運びとして見られている。 盾持ちなのだからと他の4人が動く前に現地で相手の注意を引き、模擬戦の時は2対1での攻撃を受ける。 当然地味な役割なのだから居ても居なくても気にも留められずに居ないものとして扱われる。 今日もそうして地竜を討伐して、俺は1人後処理をしてからギルドに戻る。 ようやく帰り着いた頃には日も沈み酒場で祝杯を挙げる仲間たちに報酬を私に近づいた時にそれは起こる。 ニヤついた目をしたゲラートが言い放つ 「ロイド、お前役にたたなすぎるからクビな!」 全員の目と口が弧を描いたのが見えた。 一応毎日更新目指して、15話位で終わる予定です。 作品紹介に出てる人物、主人公以外重要じゃないのはご愛嬌() 15話で終わる気がしないので終わるまで延長します、脱線多くてごめんなさい 2020/7/26

ド底辺から始める下克上! 〜神に嫌われ無能力となった男。街を追放された末、理を外れた【超越】魔法に覚醒し、一大領主へ成り上がる。

たかたちひろ【令嬢節約ごはん23日発売】
ファンタジー
この世界では、18の歳になると、創造神・ミーネより皆に魔力が授けられる。 捨て子だったハイネは教会に拾われたこともあり、どれだけ辛いことがあっても、ミーネを信奉し日々拝んできたが………   魔力付与式当日。 なぜかハイネにだけ、魔力が与えられることはなかった。日々の努力や信仰は全く報われなかったのだ。 ハイネは、大人たちの都合により、身体に『悪魔』を封印された忌み子でもあった。 そのため、 「能力を与えられなかったのは、呪われているからだ」 と決めつけられ、領主であるマルテ伯爵に街を追放されてしまう。 その夜、山で魔物に襲われ死にかけるハイネ。 そのとき、『悪魔』を封印していた首輪が切れ、身体に眠る力が目覚めた。 実は、封印されていたのは悪魔ではなく、別世界を司る女神だったのだ。 今は、ハイネと完全に同化していると言う。 ハイネはその女神の力を使い、この世には本来存在しない魔法・『超越』魔法で窮地を切り抜ける。 さらに、この『超越』魔法の規格外っぷりは恐ろしく…… 戦闘で並外れた魔法を発動できるのはもちろん、生産面でも、この世の常識を飛び越えたアイテムを量産できるのだ。 この力を使い、まずは小さな村を悪徳代官たちから救うハイネ。 本人は気づくよしもない。 それが、元底辺聖職者の一大両者は成り上がる第一歩だとは。 ◇  一方、そんなハイネを追放した街では……。 領主であるマルテ伯爵が、窮地に追い込まれていた。 彼は、ハイネを『呪われた底辺聖職者』と厄介者扱いしていたが、実はそのハイネの作る護符により街は魔物の侵略を免れていたのだ。 また、マルテ伯爵の娘は、ハイネに密かな思いを寄せており…… 父に愛想を尽かし、家を出奔し、ハイネを探す旅に出てしまう。 そうして、民や娘からの信頼を失い続けた伯爵は、人生崩壊の一途を辿るのであった。

レベルが上がらずパーティから捨てられましたが、実は成長曲線が「勇者」でした

桐山じゃろ
ファンタジー
同い年の幼馴染で作ったパーティの中で、ラウトだけがレベル10から上がらなくなってしまった。パーティリーダーのセルパンはラウトに頼り切っている現状に気づかないまま、レベルが低いという理由だけでラウトをパーティから追放する。しかしその後、仲間のひとりはラウトについてきてくれたし、弱い魔物を倒しただけでレベルが上がり始めた。やがてラウトは精霊に寵愛されし最強の勇者となる。一方でラウトを捨てた元仲間たちは自業自得によるざまぁに遭ったりします。※小説家になろう、カクヨムにも同じものを公開しています。

母親に家を追い出されたので、勝手に生きる!!(泣きついて来ても、助けてやらない)

いくみ
ファンタジー
実母に家を追い出された。 全く親父の奴!勝手に消えやがって! 親父が帰ってこなくなったから、実母が再婚したが……。その再婚相手は働きもせずに好き勝手する男だった。 俺は消えた親父から母と頼むと、言われて。 母を守ったつもりだったが……出て行けと言われた……。 なんだこれ!俺よりもその男とできた子供の味方なんだな? なら、出ていくよ! 俺が居なくても食って行けるなら勝手にしろよ! これは、のんびり気ままに冒険をする男の話です。 カクヨム様にて先行掲載中です。 不定期更新です。

俺だけに効くエリクサー。飲んで戦って気が付けば異世界最強に⁉

まるせい
ファンタジー
異世界に召喚された熱海 湊(あたみ みなと)が得たのは(自分だけにしか効果のない)エリクサーを作り出す能力だった。『外れ異世界人』認定された湊は神殿から追放されてしまう。 貰った手切れ金を元手に装備を整え、湊はこの世界で生きることを決意する。

雑用係の回復術士、【魔力無限】なのに専属ギルドから戦力外通告を受けて追放される〜ケモ耳少女とエルフでダンジョン攻略始めたら『伝説』になった〜

霞杏檎
ファンタジー
「使えん者はいらん……よって、正式にお前には戦力外通告を申し立てる。即刻、このギルドから立ち去って貰おう!! 」 回復術士なのにギルド内で雑用係に成り下がっていたフールは自身が専属で働いていたギルドから、何も活躍がないと言う理由で戦力外通告を受けて、追放されてしまう。 フールは回復術士でありながら自己主張の低さ、そして『単体回復魔法しか使えない』と言う能力上の理由からギルドメンバーからは舐められ、S級ギルドパーティのリーダーであるダレンからも馬鹿にされる存在だった。 しかし、奴らは知らない、フールが【魔力無限】の能力を持っていることを…… 途方に暮れている道中で見つけたダンジョン。そこで傷ついた”ケモ耳銀髪美少女”セシリアを助けたことによって彼女はフールの能力を知ることになる。 フールに助けてもらったセシリアはフールの事を気に入り、パーティの前衛として共に冒険することを決めるのであった。 フールとセシリアは共にダンジョン攻略をしながら自由に生きていくことを始めた一方で、フールのダンジョン攻略の噂を聞いたギルドをはじめ、ダレンはフールを引き戻そうとするが、フールの意思が変わることはなかった…… これは雑用係に成り下がった【最強】回復術士フールと"ケモ耳美少女"達が『伝説』のパーティだと語られるまでを描いた冒険の物語である! (160話で完結予定) 元タイトル 「雑用係の回復術士、【魔力無限】なのに専属ギルドから戦力外通告を受けて追放される〜でも、ケモ耳少女とエルフでダンジョン攻略始めたら『伝説』になった。噂を聞いたギルドが戻ってこいと言ってるがお断りします〜」

フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる 

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ 25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。  目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。 ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。 しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。 ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。 そんな主人公のゆったり成長期!!

処理中です...