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440 ボンタン狩り

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 ゴマちゃんが俺の側まで寄って来て、疑問に思ってたことを口にする。


「んで、ボンタンガリって何?」


 うぐっ!現場を見られていたのならば当然の疑問か。
 もう隠し通せる状況じゃねえ。素直に白状するしかなさそうだ・・・。


「えーとだな、最初に絡んで来た奴らみたいなガラの悪い奴らのことを『ツッパリ』と呼ぶんだが、そのツッパリ共の履いてるズボンが『ボンタン』ってヤツなんだ。それを狩るからボンタン狩り」

 ここのツッパリは学生服なんて着てないし普通のズボンを履いているから、正確には全然違うんだけどね。
『ボンタン』ってのは、とび職が履いている足首がシュッと締まった感じの『ニッカ』みたいな、ダボダボの学生ズボンのことだ。

「へーーー!要するにズボンだろ?んなもんいっぱい集めてどうすんだ?」
「別にズボンなんかいらん」
「じゃあなんでコイツらのズボン脱がしてるわけ??」

 ぐぬぬぬ・・・、ちゃんと説明しないと変質者みたいに思われそうだな。

「コイツらは10人で囲んで脅しをかけ、俺から金品を巻き上げようとしたわけだ。まあ残念ながらそれは失敗に終わったようだが、襲われた俺の立場からすると、落とし前をつけないと納得いかんだろ?」
「まあ、返り討ちにしても腹が立つのはわかるぜ!」
「だからボンタン狩りをしてたわけですよ!」
「でもそんなにズボン集めたって邪魔なだけだろ」

 もちろんコイツらのズボンなんか俺だっていらねえよ!

「邪魔だな。ぶっちゃけズボンなんていらん!でもそういう問題じゃねえんだよ。ズボンを取られたコイツらはこの後どうすると思う?」
「そりゃあ・・・、パンツを隠しながら家に帰るんじゃね?」
「屈辱だろ?」
「あーーーーーーーー!そういうことか!!」
「そういうことだ。パンツ姿で街を歩いてる奴がいたら、それは『ボンタン狩りされました』っていう恥ずかしい証拠になるわけだ」
「あはははははははははははははははは!!」


 ふ~~~、ようやく理解してくれたみたいだな。
 ってことでボンタン狩りの再開だ!


「ボンタン脱がんかい!!」


 チンピラからボンタンを剥いでいたのだが、ゴマちゃんにジーっと見られているので少し恥ずかしくなってきた。


「やる?」
「やる!!」


 ゴマちゃんが縦縞ジャケットの男のボンタンを脱がしてる姿を見て、なんか違うと感じた。


「ゴマちゃん、それじゃあダメだ!」
「ええええーーーーーーーッ!?」
「ボンタン狩りってのはな、『ボンタン寄越さんかいコラ!』といったセリフを吐きながら、荒々しく豪快にやるモノだ!じゃないとちょっと変質者っぽいだろ?」
「あーーーーーーーーーーー!こがっちの言う通りだぜ!!」


 ってことで俺もボタン狩りの続きだ。


「ボンタン狩りじゃあああ!!」
「ボンタン寄越さんかいハゲ!!」

 そしてボンタンを剥ぎ取った後は高笑いだ。

「ガッハッハッハッハーーーーーーーー!!」
「あーーーっはっはっはっはっはっはっは!!」



 ―――ようやく全員のボンタンを剥ぎ終わった。


「これに懲りたら、もう二度と絡んで来んじゃねえぞ!!」
「あたいは部外者だけどな!!」



 最後にちゃんと捨て台詞を吐いてから裏路地を後にした。



 ・・・・・



「なんかさあ、あたいらの方が悪者っぽくねえか?」
「最後だけ人に見られてたら完全に悪者に間違われそうだけど、俺は思いっきり被害者側だからな?」


 歩いていると、ボンタンを1枚落とした。


「あーもう!ボンタン邪魔!!」
「ってかどうすんだよ?このボンタン」

 マジでどうすっか・・・。こんなもんラビラビ亭に持ち帰りたくはない。

「しゃーねえ!東門の兵士に渡そう。『落とし物デーーース』って」
「いやいやいやいや!10人もズボンを落とすとかおかしいだろ!!」
「アイツらみんなベルトを着けて来るの忘れたんだろな~。だからズボンなんか落とすんだよ」
「あはははははははははは!それじゃ頭悪すぎだろ!!」


 東門へ向かって歩いていると、店の前にいるニャルルを見つけた。
 まだ買い物中だったらしい。


「おーいニャルル!何か良い物でも見つかったのか?」


 真剣な顔をしていたニャルルがこちらを振り向いた。


「あ!こがにゃんにゃ!ゴマにゃんも一緒にゃか!」


 側まで行くと、そこは魚屋だった。


「何を真剣な顔で見てるのかと思ったら魚かい!」
「魚ならまだこがっちがいっぱい持ってるだろ。買う必要無くねえか?」
「うにゃっ!鮮度はイマイチにゃけど、見たことにゃいヤツがいたんにゃ!」

 マジか!

 ニャルルの指差した場所を見てみると、ザルの中に赤い魚が入っていた。

「おおおおーーー!こりゃあ確かに気になるわ。名前はなんだっけかな~」

 それを聞いた店主が俺を見た。

「お前さん他国の人かい?そいつぁ『のどぐろ』だ。越後の魚と言えば『のどぐろ』よ!!」

 ああ、そうだ『のどぐろ』だ!新潟名物の高級魚じゃないか!!っていうか越後では魚にちゃんと名前があるんだな?ミスフィート領では全部俺が名付けたのに。

 ・・・あれ?名前も俺が知ってるのと一致してるな。不思議なもんだ。

「すげー美味いって聞いたことあるぞ!でもこの後、大福大会があるんだよな~」
「美味いにゃか!?買うにゃ!!」
「今から大福を食いまくるんだぞ?絶対満腹になるし、その間に鮮度も落ちてしまうから、買うのは後にしないか?」
「あ~~、にゃるほど・・・。それにゃら後にするにゃ」
「店主すまん。そういうわけなんで俺らは大福を食いまくって来るわ」

「わははははははは!大福には勝てねえな!!」


 まあそんなわけで、ニャルルが加わり三人パーティーとなった。
 そのまま東門へと向かう。


「ノドグロ?めっちゃ気ににゃるにゃ・・・」
「ああそれな~、俺から見ても鮮度がイマイチだったからさ、だったら自分らで漁をした方が良いと思ったんだよ。一応アレ高級魚だから鮮度が悪くてもたぶん高いぞ?」
「今から漁に出るにゃか!?」
「これからダイフク大会だって、こがっちが言ったばっかだろ!」
「残念ながら漁に出るのはこの街を出発してからだ。まだ陸奥から越後に入ったばかりの位置だから海までは結構距離がある。だから魚の鮮度が悪かったんだよ」
「そうだったにゃか!じゃあもう少し我慢するにゃ!」


 ニャルルの期待に応えるためにも海側を目指して進んでみるか~。
 尾張を目指すには遠回りになるけども、少しくらい旅を楽しみたいからな!
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