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345 初めての・・・
しおりを挟む―――――ミスフィート視点―――――
戦場一帯がその重圧に覆われた時、私はすぐにダンジョンのボスを思い出した。
小烏丸とイズミと一緒に行った、あのゴブリンダンジョンだ。
でも、あの時感じた恐怖よりは弱いかな?
あの時身につけた恐怖耐性のお陰でそう感じる可能性もあるが、ダンジョンの黒いボスの恐ろしさはもっと凄まじかったと思う。
とにかく恐怖耐性があるので、これくらいなら全く問題無い。
だが周りを見渡すと、味方が全員恐怖に震えているのがわかった。
「これは拙いな」
恐怖を感じる方向を探る。
・・・向こう側か!
きっと、この恐怖の発生源は聖帝。
おそらく聖帝を倒せばこの恐怖も消え去る筈だ!
ダッ
重圧を強く感じる方向に走り出す。
「く、来るな!!」
「悪いな。動けない敵兵を殺すのは本意ではないが、この機を逃せば我らの方が全滅する。これも運命と思って受け入れよ」
「いや、嫌だ!こ、こんな死に方なんて・・・」
拙い、あのままじゃ殺されてしまう!
ダッ ジャキン!
「ごへぁ!!」
味方の兵士に襲い掛かっていた敵兵を斬り伏せる。
だが周囲には、窮地に陥っている兵士だらけだった。
くっ!!
今すぐ聖帝を倒しに行かねばならないのに、私は一体どうしたらいいのだ!?
恐怖の発生源を何とかしないと、味方の窮地はいつまでも終わらない。
しかし殺されそうな兵士を見捨てて行くのか?
駄目だ!そんな割り切り方など私には出来ない!!
目に入った仲間達を助けながら聖帝の所に向かう。もうそれしかない!
とにかく今は敵兵を素早く倒すことに集中だ!
・・・・・
味方の兵士を助けながら、敵兵を何十と斬り伏せた。
本来ならば総大将は全体を見通して行動しなければならないのに、目の前で殺されそうになっている味方を全て助けようとしてしまう私は大名失格なのだろう。
目先のことに捉われれば、結果的に大勢を殺してしまうかもしれない。
でも、それでも私は・・・、そんな決断なんか出来ない!
もし仲間を見殺しにしてしまったら、きっと死ぬまで後悔し続けるだろう。
・・・その様な生き方、私には到底無理だ。
自問自答を繰り返しながら少しずつ進んで行った先に、とうとう聖帝の姿を発見する。
「小烏丸だ!」
流石は小烏丸!私の代わりに聖帝と闘ってくれていた!!
もし危うければ助けに入らないとな!
・・・いや、勝負の邪魔をするのは無粋か。私ならば横槍が入ったら怒る。
とりあえずは、様子見してから考えよう。
敵兵を倒しながら、二人が対峙する場へ近付いて行く。
ん?
今、私の名を呼ばれたような気が・・・。
そしてやっとのことで視界が開け、二人の闘う姿が間近に見えた。
ガンッ ギンッ ガシュッ!
―――その闘いを見た途端、心が震えた。
「ゴフッ!き、貴様アアアァァァ!!」
ガスッ ガギン ゴシャッ
―――凄まじい小烏丸の猛攻。しかし劣勢になった聖帝が魔法を使う。
「雷撃掌!」
バリバリバリバリッ!
「ぐ、かハッ・・・」
・・・え?・・・小烏丸が、やられた!?
嘘だ・・・、だって、、え?小烏丸がやられ、そんな馬鹿なッッ!!
なぜ私は傍観していた!?すぐ飛び込んで行くことも出来たのに!
自分の愚かな行いに後悔している時だった。
小烏丸が立ち上がったのは。
「認めたくないものだな、若さ故の過ちというものを」
嘘!?小烏丸が・・・、生きていたッ!!
喜びのあまり、小烏丸に駆け寄りそうになった。
でもギリギリで思い止まる。
今私が余計な真似をしたら、研ぎ澄まされた精神が緩んでしまうと思ったから。
そして二人は軽く会話をし、また戦闘が再開された。
「ダークネス」
「ファイア」
その闘いは、剣に優れた者が勝利するような生易しいモノではなかった。
体術も交えた激しい斬り合いの中で魔法を放ち、視力すら失われた状態でまた斬り合う。
「ファイア」
「ダークネス」
聖帝は恐ろしく強い。
「ファイア」
「ダークネス」
だが小烏丸は、その聖帝をも凌ぐ程の驚異的な強さだった。
ドクン
私は今まで、自分よりも強いと思った人物に出会ったことが無い。
―――いた。とても身近な所に、私よりも強い人が!!
ドクン
剣の腕なら、聖帝にも負けない自信はある。
しかしあの『ダークネス』という魔法。
名前からして闇の魔法だ。恐らく効果は暗闇。
そんな魔法を受けながら、斬撃を避け切れるだろうか?
多分、今の私ではあの攻撃に対処出来ない。
ドクン
でも小烏丸は、暗闇の中で聖帝と斬り合っている。
滅多に見せない火の魔法を駆使しながら。
もう聖帝には、勝ち目など無い。
「ヘルファイア!」
特大のファイヤーボールが聖帝に向かって放たれる。
ビュオン
「ごああああああッッッ!!!」
小烏丸の勝利だ!
・・・・・
「フ、フヒー、フヒー、せ、聖帝、様、こんな、所で、死んで、は、いけない・・・」
致命傷を与えた筈の男はそう言い残し、今度こそ死んだ。
敵軍の総大将も、既にこの戦場から姿を消した。
これでもう、間違いなく私達の勝利だ。
支援魔法を受けた味方の軍勢が、聖帝軍を駆逐して行く。
でも私は、喪失感で何もする気が起きない。
「小烏丸・・・、キミはどこへ行ってしまったのだ?」
彼のことは、出会った頃から好ましく感じていた。
でもそれは、家族に向ける愛情のようなモノだった。
それは、今の感情とは全然違うモノ。
―――そうか。私は・・・、生まれて初めて、恋をしたんだ。
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