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338 恐慌
しおりを挟む―――――カーラ視点―――――
戦闘中になぜか突然空気が重くなり、恐怖で身体が震えて来る。
「こハっ、ひッ!!これ、は・・・、な、何なの!?」
どういうわけか、身体が勝手に震えて止まらない。
ただ何となく、左前方にその恐怖の対象がいる様な気がする。
「ふ、ふははハハハッ!お前等は聖帝様を怒らせた!!」
「せ、聖帝の仕業なの!?」
「どうだ?お主がどれだけ強くとも、この恐怖には、た、耐えられまい?」
「ひ、ひュ、あ、あンただって、声が震えてるじゃないの!」
「あ、当たり前だ!聖帝様の怒りに耐えられる者など、この世に、ひ、1人もおらぬわ!」
「よく、そ、そんな奴の、部下、なんかやってられる、わね」
「聖帝様こそ、が、最強だからよ!さて・・・、この様な状況で悪いが、お主には死んでもらうぞ。部下達を殺された仇は取らせてもらう!!」
「く、くそおお!!!で、でも、そんなに震えてて、できるの、かい?」
「ワシらがこれを過去に何度経験したと思っておるのだ!!未だに恐怖はあるが、お主らよりは耐えられる!」
はーーー、どうやらアタシの命もここまでのようね・・・。
相手が一般の兵士だったのならまだしも、よりによって重臣クラスと戦ってる最中にこんなことになるなんて、ホント運が悪い。
「さらばだ小娘!これもまた運命。己の死を受け入れろ」
・・・・・・最後に、小烏丸と逢いたかったな。
ザンッ
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―――――小烏丸視点―――――
恐怖で身動きの取れないミスフィート軍の兵士達が、なすすべもなく敵兵に殺されていく。
「これは拙いぞ、今まともに動けるのは俺だけか!?」
アリアのダンジョンで死神相手に恐怖耐性を上げまくったのが、こんな所で生きてくるとはな!
・・・いや待てよ?ってことはだ、ミスフィートさんも平気なんじゃないか!?
少なくとも、大将が抵抗も出来ずに殺される事態にはならないかもしれない。
だが他のみんなは、恐怖耐性なんてモノは持っていないだろう。
一刻も早く聖帝を倒さなきゃ、みんな殺られちまう!!
恐怖の波動を強く感じる方向に向かって、全力で走り出す。
敵兵は全て無視だ。
殺されかけている味方の兵も助けない。
許してくれ。
1人の命ではなく、俺は大勢の命を救わなければならない!
糞がッ!!聖帝だけは絶対に俺の手で殺してやる!!!
そして数分後、やっと俺の眼が聖帝の姿を捉えた。
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―――――三人称視点―――――
「クハハハハハハ!!よくも我が聖帝兵を大量に殺してくれたなァ?貴様らも、何も出来ずに殺される気持ちを味わうがいい!!」
ゴウッ!
「ギャアアアアアアアアッッ!!」
「あガッ!」
「ヒイイイィィィィ!!」
聖帝の大剣が、恐怖で身動きの取れない味方の兵を何人も殺していく。
誰もがこの場から逃げ出したかった。
だが、逃げようにも足が動かないのだ。
そして聖帝の青い瞳に、黒い軍服を着た金髪の男が映った。
「ほう?お前は随分と立派な服を着ているな。尾張の重臣か?」
「ヒ、や、来ない、でくだ、さい」
「それは聞けぬな。・・・ん?もしや、お前が尾張の軍師か!?」
「ち、ちが、い」
「フン、まあどちらでも良いわ。少なくとも軍師だけは絶対に生かしておけぬ!死ねい!!!」
聖帝の大剣がルシオに振り下ろされた。
「ルシオ!!!」
ザシュッ!
「ガハッッ!!」
聖帝の大剣が、ルシオを突き飛ばしたボヤッキーの右腕を斬り飛ばす。
「クッ!!・・・・・・え??」
横から突き飛ばされて地面に倒れたルシオが、ボヤッキーの死にゆく姿を認識した。
「そ、そんな!ボヤッキーさん!!!」
「なぜ我の邪魔をするか!死ね!!」
ギンッ!
しかしその斬撃はボヤッキーに届かず、刀によって軌道を変えられ地面を抉る。
「やらせねえよ?」
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―――――小烏丸視点―――――
「ぬ!?なんだ貴様は!!!」
ボヤッキーの斬られた腕を拾い、ルシオに放り投げる。
「ルシオ、治療は任せたぞ!!前に言ったことを覚えてるな?1ミリのズレも無く正確にくっつけるんだ!」
昔、訓練中に腕を切断してしまった兵士がいて、その時に部位接合を試したことがある。物は試しと、腕をしっかりくっつけた状態で、聖水を飲ませて腕にもぶっかけたのだ。
少しくらいの誤差なら聖水さんサイドが自動的に修正してくれるようで、綺麗な切断面ならば腕も元の様に動かせるようになることがその時判明したのだが、潰れてグチャグチャな場合はどうかるかわからないままだ。そういう事故でもなけりゃ試せないからなあ。
ルシオに1ミリのズレもなくって言ったのは、それくらい繊細にやってくれってことだ。変なくっつき方しちまうと取り返しがつかん。
「ボヤッキーさん、僕のせいですみません!すぐ治療をします!!」
「ぎ、うぐぐ!・・・ハ、ハハッ、危なかったな?」
「本当に、本当にありがとうございます!」
ルシオが必死にボヤッキーの治療をしているが、いつまでも後ろを気にしてはいられない。
俺の目の前には、聖帝がいるのだからな!!・・・聖帝だよな?すげえ鎧だし。
「赤い服を着ていてマスクをした男。どこかで見たような、いや、聞いたのか?」
なんか聖帝がブツブツ言ってるぞ?
「そうか、密偵の報告だ!赤い流星とか言っていたか。おい!貴様が赤い流星なのか!」
「その呼ばれ方は少々不本意だが、確かに俺が尾張軍師、赤い流星」
「軍師だと!?貴様が尾張の軍師なのか!!!」
その瞬間、聖帝が強烈な殺気を放ち、恐怖の波動がさらに強まった。
なんか軍師って知ったらスゲー怒ってない?でも怒りたいのはコッチなんだよ!!
―――聖帝vs赤い流星。それは後世にまで語り継がれる伝説の闘い。
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