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325 時は来た!それだけだ

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「来たぞ!聖帝軍だ!!」
「なにッ!?」
「ほ、本当だ!まだ遠すぎてよく見えないが、たぶんアレが聖帝軍だ」


 セルヴィアス城から大軍が移動を開始したとの報告から約二ヶ月。
 とうとう聖帝軍が伊勢の地まで進軍して来たと物見から連絡が入った。


「ミスフィートさん!聖帝軍が来たようです」
「やっとか!長いこと待たせおって!」

 待ち遠しかったんかい!!
 ウチの大将は、結構なバトルジャンキーだからなあ・・・。でも前線には行かせませんよ?聖帝との一騎打ちがしたいのは間違いないのでしょうけどね!

「じゃあカトレアとチェリンに通信して準備させますので、ミスフィートさんは全軍の鼓舞をお願いします!」
「了解だ!」


 カトレアとチェリンは、別動隊として動いて聖帝軍の背後から攻撃する役目だ。

 しかし尾張軍師は、森の中に隠れて待機なんて普通の指示は出さない。
 障害物など何も無い原っぱに巨大地下室を作り、そこに大量の兵と共に待機させている。

 聖帝が来るまでたっぷり時間があったので、大規模な罠を仕掛けることも可能だったわけですよ。
 それに別動隊が動くのはまだまだ先のことなので、森の中で待機させておくのが可哀相ってのもあった。そういう怪しい場所は聖帝軍も警戒するだろうしな。

 なので準備をさせると言っても、デカい音をたてないようにしてもらうくらいだ。
 あとは時が来るまで楽にしてもらってて構わん。今更バタバタしなくとも準備は万端だからな。


「「オオオオーーーーーーーーーーーーーーー!!!」」


 通信機で二人と話をしていると、勇ましい声が聞こえて来た。
 どうやらミスフィートさんの鼓舞が炸裂したようだな。

 俺もちょっと聞きたかったなあ・・・。

 いや、俺に鼓舞など無用。軍師は高揚なんぞしてちゃあいかん!一人だけ冷静に戦況を見つめるのだ。

 どちらかというと感情で動くタイプなんですけどね!





 ************************************************************





「お、おい!なんだよ?あの壁は!」
「ここって確かレイリアの砦がある場所だよな?」
「おかしいぞ!?前見た時はこんな巨大な壁じゃなかった筈だ!」
「違う場所なんじゃねえのか?」
「いや、ホルルの街の先はレイリアだ。街は無人だったが間違いない」
「せ、聖帝様に報告してくる!」



 ―――――馬車内・聖帝視点―――――



『聖帝様に報告です!前方にとても巨大な壁が見えました!』

「・・・巨大な壁だと?馬鹿かお前は!砦に壁があるなど当然であろうが!」

 何を言っているのだ、こ奴は。
 次またくだらん事を報告して来たら殺すぞ?

『い、いえ、その、おっしゃる通りなのですが、尋常ならざる壁なのです!私は今まであのような防壁など見たことがありません!』

 む?こ奴が怖気づいて狂ったのではなく、誠か?・・・チッ、見てみるか。



 馬車の扉を開いて身を乗り出してみると、本当に巨大な壁が聳え立っていた。


「なんだと!?」


 前に伊勢を従属させに来た時も此処を通ったが、この様な防壁ではなかった筈だ。

 ・・・たかが2年程の間に、これほどの壁を?

 しかし我が軍に従属している立場でありながら、なぜレイリアの防御を固める?
 やるならば尾張や近江との国境であろう?

 ハッ!?まさか、最初から裏切るつもりでいたのか!?
 ヒューリックの小童が!計りおったな!?

 しかし、今伊勢を支配しているのはミスフィート軍だ。
 堅牢な砦を作ったとて、得をするのは尾張ではないか!

 許せぬ!直ぐ主人を変える小賢しい犬め!
 あ奴を見つけたら、真っ先に叩き斬ってくれる!

「ヒ、ヒイィィ!!」

 ん?まだいたのか、こ奴は。

「とっとと持ち場へ帰れ!」
「ハ、ハイィィィ!」

 兵士が逃げるように馬を走らせて行くのを横目で見ながら扉を閉めた。


 しかしあの壁は邪魔だな・・・。

 此処が決戦の地となるのは予想していたので砦を攻める準備はしてあるが、アレは想定以上だ。
 初っ端から魔術師部隊を前面に出して、壁を破壊するか?

 ・・・いや、それだと貴重な戦力が弓で殺られるな。
 先ずは雑兵共を突っ込ませて、敵の動きを探るか。
 ぬるい攻撃が来たならば、一気に壁を破壊すればよい。

 だが手強ければどうする?

 死者は増えるが、強引に力攻めでもするか?
 矢も無限ではないだろうし守備兵も疲れる。そこを狙って極大魔法をぶち込めば、何とでもなるだろう。雑兵が邪魔になればそれごと燃やすまで!

 問題は三河が援軍に来ているのかどうかだ。
 確か尾張と三河は同盟を結んでいると聞いた。

 尾張の軍勢と伊勢の残党くらいならばどうという事はないが、そこに三河と遠江の兵が加われば多少厄介だ。今回四国の兵は連れて来ていないからな。
 戦が長引くようなら一度撤退し、全軍をもって叩き潰さなければならぬ。

 まあそれでも6万の軍勢だ。小国を踏みつぶす程度、造作も無い。
 我が聖帝軍の使者を斬った報いは、必ず受けてもらうぞ!



 ―――だが聖帝は知らない。


 今回の戦で、尾張は三河に助けなど求めていないことを。
 決戦に備えて、数々の罠がそこら中に張り巡らされていることを。
 ミスフィート軍全ての兵が、二人の付与魔法使いによって強化されていることを。
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