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294 昨日の敵は今日の友

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「兵達の説得に成功致しました!!」


 おおおっ!部下だったんだから当たり前のようだけど、状況を考えると快挙だぞ!
 伊勢の兵達をあっさりと説き伏せただけでも、ヒューリックを生かした甲斐があったってもんだ。

 それにしても、尾張に恭順した直後でもう敬語になってるのな。
 聖帝軍に従属していたわけだから、そういうのに慣れているのかもしれん。


「そうか!やはり大名、いや、元大名の言葉には従ってくれるようだな。これで反乱に警戒すること無く、思う存分聖帝軍と戦えるぞ!」
「しかしこの後の動きはどうします?伊勢の敗北を知った聖帝が、すぐにでも行動を起す可能性が一応ありますけど」
「そうだなあ・・・、とりあえずもう暗くなって来たから夕食にしないか?その後皆で考えよう!」
「あー、確かにもうそんな時間か・・・。ではメシにしましょう。あ、そうだ!ヒューリック殿」
「『殿』はやめて頂きたく存じます!私はもう大名ではなく新兵みたいなモノ。呼び捨てでお頼み申す」
「なるほど、それもそうか・・・。ではヒューリック、戦での重傷者がいる場所に俺を案内してくれ」
「重傷者の所に?」
「彼らはもうヒューリック軍ではなく、ミスフィート軍の兵士になったんだ。ならば苦しんでいる味方を助けなければならない」

 その言葉を聞いたヒューリックが、ハッと察する。

「なるほど!あの切り札か!!急ぎ案内します!」
「そういうことならば私も行こう」


 ヒューリックの案内で、俺とミスフィートさんは怪我人のいる場所へと移動した。

 案内された現場は、これぞ正しく野戦病院って状況だった。


「うはぁ~、やったのはウチらなんだけど酷いことになってんな・・・」
「瀕死の者から順に助けるぞ!」
「お頼み申す!!」


 聖水さえあれば、どれほどの瀕死状態でも生きてさえいれば助けることが出来る。

 しかし矢が刺さったままの人とかもいて、治療するのにそれを引っこ抜くのが大変だった。どうしても抜けない場合は脇差しで傷口を開く必要もあったりと、本当にてんやわんやだ。

 軽い問診をして、軽症の者には我慢してもらうことにした。

 本来ならばいつでも戦えるように全回復させてやりたいのだが、全兵士で2万人ともなると聖水の残量に不安が残る。これから聖帝軍とぶつかることになるから、聖水の一滴も無駄にはできないのだ。

 でも傷口が痛くて歩けない人とかには、聖水を少しだけ傷口にかけたりして、生活に支障がないくらいには回復させたぞ。


「よし!これでもう大丈夫だ!」
「本当に感謝します!こんな貴重な物を惜しげもなく使ってもらえるとは!」
「感謝する必要などない!もう我が軍の兵士なのだから当然だ!」


 怪我の癒えた兵達が、キラキラした目でミスフィートさんを見つめている。
 まあ、これから主君となる大名が自ら助けに来てくれたのだから当然こうなるか。

 俺もちょー頑張ったんですけど!?
 つっても俺はさっきまで誰よりも憎むべき敵将だったからなあ。恨みしかないか。

 まあ、少し経って落ち着いたら、きっと俺の頑張りも思い出してくれるさ・・・。


「とりあえず今日は、兵にメシを食わせてゆっくり休ませてやってくれ。明日の予定はこれから話し合って決めておく。ヒューリックは一度尾張の首都に連れて行く必要があるので、伊勢の城で代理が務まる者を一人選んでおいて欲しい。あと尾張に連れて行くお供も一人な」

「承知致しました!」


 今伝えておくことはこんなもんかな?ホントは全員の服も預かりたいんだけど、裸でいさせるわけにもイカンので、それは一旦家に帰してからにするしかない。
 まあその辺の話は、代理の者に伝えとけば良いだろう。


 みんなの所に戻って来た。


「元伊勢軍の重傷者は全て治療してきた。では、とっとと帰ってメシにしよう!」

「「ひゃっほおおおおおおう!!」」


 ミスフィートさんの一言で皆は大はしゃぎだ。
 疲れたのもあるだろうけど、これ以上ないほどの大勝利だからな。

 メシ食ってシャワーを浴びたら、皆でこの後の予定を話し合おう。





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 シャワーでスッキリした後、会議室に重臣が集められた。
 進行役はもちろん軍師である俺だ。


「んじゃ、これからの方針を決めます」

 まずはココに集まった2万の兵をどうするかだ。

「現在この地には、ミスフィート軍が1万、そして元ヒューリック軍が1万います。しかし聖帝軍が動き出すのは、今回の戦の結末を偵察兵が報告しに戻ってからになるハズですので、まだ兵を一ヶ所に集めておく必要は無いと思います」
「確かに2万もの兵が一ヶ所に集まると食事が大変だな。シロネコ城に移動しても寝る場所が無いし風呂も混雑するから全く寛げない!」
「そうなんですよね。なので集まった兵士は一旦解散しようと思います。伊勢の兵も一度伊勢に帰還させて、身辺整理させる必要がありますし」
「それでいいんじゃない?」
「問題は伊勢の国をどうするかですわね~」

 それを解決する為に、俺はルーサイアに行く必要があるのだ。

「なので俺は明日、本隊と一緒にルーサイアに戻ってから、ドワーフの街に伊勢国内に線路を敷く依頼をしに行こうと思っています。それと、ミケネコ城に置いてある骨剣を回収せねばなりません。伊勢の兵士に刀を訓練させる時間などありませんから、慣れ親しんだ普通の剣が必要なのです。そして運が良いことに、和泉が付与魔法の練習で使った骨剣がミケネコ城に大量にある状態なんですよ!」
「あー!そういえば空き部屋がいくつか骨剣で埋まってしまって、イズミにどうしたらいいか相談されていたのだった!」
「練習用にどんだけ出したか覚えてないけど、たぶん2000本以上ありますよね?」
「私も1000本くらい渡したと思うぞ?」


 ミスフィートさんも渡してたんかい!しかし今となってはファインプレーだ。1万の兵全員には行き渡らないけど、強い兵士に良質な剣を持たせられるからな。

 その他の兵士は普通の剣で戦ってもらうしかないだろう。時間も無いんで軽い付与しかできないけど、間違いなく今よりは強くなるハズだ。

 しかし、アリアダンジョンって本当に全てがお宝だよな~。
 最初の雑魚敵を倒して手に入る剣と魔石のくせに、大活躍しすぎだろ!
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