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289 ヒューリックの覚悟

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 ―――――伊勢・ヒューリック視点―――――



「これが奴らの剣だと!?こんな貧弱な剣で我らと戦ってるというのか!」

「間違いありません!倒した敵兵が使っていた剣です。私が倒したのは雑兵ですが、敵兵の全員が、あの仮面の男も同じ武器を使っていました!」


 酷い惨敗ながらも、戻って来た別動隊が戦場から拾って来たミスフィート軍の剣。
 見ればやけに細くて、とてもじゃないが戦闘に耐えられるモノではない。

 手に取ってみる。


 ヒュン


「軽いな」


 確かにこの軽さなら疲労もしないだろう。
 しかしこの様な貧弱な剣で戦い続けるのは正気の沙汰ではない。

 何となく鑑定をしてみる。


「なッ!?」


[刀]
 :織田小烏丸作の刀。魔法が付与されている。評価A
 :斬撃強化(大)
 :衝撃耐性++


 その異常なまでの性能を見て驚愕する。

 斬撃強化(大)に衝撃耐性++だと!?
 武器にこれほどまでの性能を付与することが出来るもんなのか!!!
 しかも敵全員がこの武器を持っているだと!?


「・・・・・・恐ろしい剣だ」
「へ???」
「敵兵全員がこの武器を所持していたのだな?」
「は、はい!間違いありません!」
「お前、鑑定は出来るか?」
「いえ、私は出来ませんが・・・」

 それもそうか。内容を知っていれば、真っ先にそれを報告している筈だ。

「この細い剣には強大な魔法が付与されておる。斬撃強化(大)と衝撃耐性++だ。そして冷静になってじっくり見てみると、良質な鋼で作られているのがわかる。我らの剣と打ち合った場合、破壊されるのは間違いなく我らの武器の方であろうな」

「斬撃強化(大)に衝撃耐性++!?」


 ・・・待て。これを所持していたのは雑兵だとか言ってなかったか!?


「これを所持していた持ち主は雑兵で間違い無いか?」
「えーと・・・、敵軍には派手な服を着た者が仮面の男以外にも数人いましたが、その数人が武将だと思われます。そして倒した兵士は、周りにいた兵士と同じ普通の服を着ていたので、おそらく一般兵かと思われます」

「・・・・・・たかが雑兵でこの武器か!そもそも奴らは鎧すら着ていないから、変だとは思っていたのだ。恐らく着ている服にも強大な付与が施されているに違いなかろう」
「あの普通の服にも付与魔法をですか!?なんと勿体ない!!」
「どんだけの大金をつぎ込んだものやら・・・。そして武将の着ている服には、きっとそれ以上の強大な付与がされているのだろうな」
「・・・そ、そんな相手に勝てるのですか?」


 我は完全に敵の強さを見誤った。
 尾張は恐るべき相手だった。

 ジャバルグを倒したのはまぐれか何かだと思っていたのだが、これを見てしまうとあの男が倒されたのは偶然でも何でもなく必然。
 大将の強さが互角ならば、より優れた武器を持った者が勝つ。

 確かジャバルグはオリハルコンの大剣を持っていた筈だが、普通に考えてこれほどの強化はされていなかっただろう。
 だが、敵がこの剣を持っていたならば、オリハルコンの剣と互角に戦える可能性がある。だが十中八九、現在の尾張大名はこれ以上の武器を所持しているに違いない。

 自慢の装備が通用しない相手。ジャバルグも驚愕したであろうな・・・。

 実際に戦ってみてよくわかった。
 たぶん尾張は聖帝軍よりも強い。


 ―――絶望的な状況に震えてくる。


 ・・・どうすればいい?

 このまま戦えば無駄に自軍の兵を殺すだけ。
 しかし負ければ伊勢を失う。

 聖帝軍に援軍を求めた所で、すぐに動くとは到底思えん。
 もう我らだけで何とかするしかないのだ。

 いや待て、逆ならどうだ?

 宣戦布告して攻め込んだのだ。尾張と組むのはもう不可能だろう。
 あの時、仮面の男は伊勢を取られる覚悟を問うて来た。旗色が悪くなってからの和平交渉に応じるわけがない。
 そして聖帝軍の先鋒として仕掛けた以上、今更ミスフィート軍に従属すると言った所で信用もされまい。

 聖帝軍の強大さに恐れをなした我の失態だ。
 尾張を舐めた我の失態だ。

 もう少し尾張のことを調べるべきだった。さすれば尾張と組んで聖帝軍と戦う道も開けただろうに。


 ―――残された道は二つ。


 伊勢大名としての威厳にかけて玉砕するか、もしくは・・・。


 伊勢大名・ヒューリックは覚悟を決めた。





 ************************************************************





 ―――――尾張・小烏丸視点―――――


「・・・もう9時過ぎたんだけど、何で攻めて来ないんだ???」
「ずっと横に広がったままですね」


 敵が全く攻め込んで来ないので、ルシオが俺の傍まで歩いて来た所だ。

 昨日は確か、午前7時前には攻め込んで来たハズ。
 別動隊の壊滅で懲りたんだろか?敗残兵から援軍が来たって情報も聞いただろうからな。
 でも安心はできない。何かの到着を待ってる可能性もある。


 そのまま昼12時を過ぎた。


「何かを待ってるにしてもさ、時間かかりすぎじゃね?」
「また別動隊が攻め込むの待ってるのでしょうか?」
「その場合ヴォルフから連絡が入るんで、まだ壁すら突破してないハズだ」
「海から船で来るとか?」
「一応その可能性もあるな・・・」


 しかし何事もなく時計は15時を回った。


「すっげー暇だな」
「なんかもうこっちから攻め込みたくなりますね・・・」
「もしかするとそれを待ってるのかもな?」


 そんな会話をしていると、後ろから大声が聞こえて来た。


「ルーサイアから本隊が到着しました!!」


 おお!?ミスフィートさんが来たか!

 ルシオと共に階段を駆け下りる。

 下へ降りると、ミスフィート軍本隊5000が駆けつけて来た所だった。


「小烏丸!!戦況はどうだ!?」

「それがですねえ・・・、今日は全く攻めて来ないんですよ」

「・・・は?」


 急いで駆けつけたミスフィートさんの呆然とした顔が印象的だった。
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