上 下
288 / 726

288 二人の密偵

しおりを挟む
 防壁に元気な守備兵を1000人残し、俺達はメシを食いに簡易施設に戻って来ていた。
 しかし『さあ食うぞー』って時に、施設内に獣人二人が飛び込んで来た。


「只今伊勢より帰還しました!」
「戻ったにゅ」

「お?」

 この二人は、二ヶ月も前に伊勢を探るように放った密偵だ。

「ヴェンダーにミュルモ!素晴らしいタイミングじゃないか!伊勢の情報はしっかり探れたか?」

「伊勢に存在する全ての街・城と砦・鉱山の数、ほぼ把握出来たと思います!」
「伊勢の武将も調べてきたにゅ」
「よくやった!ならば攻め込んだ時の道案内も頼めるか?」
「お任せ下さい!」
「でも少し疲れたにゅ~」


 二ヶ月も伊勢国内を歩き続けたんだもんな。そりゃあ疲れもするわ。
 マジックバッグからコップを二つ取り出し聖水を注ぐ。


「二ヶ月もの旅、本当にご苦労だった。とりあえず聖水を飲んで回復するがいい」
「おおっ!いいんですか!?」
「聖水ならあっちも持ってるにゅ」
「手持ちの聖水はそのまま手を付けずに持っててくれ。このコップの聖水はサービスだからグビっといっていいぞ」


 二人とも喉が渇いていたのだろう。一気に聖水を飲み干した。


「おおおおおっ!!凄い!本当に一瞬で疲れが消えた!!」
「にゅ~~~~!!体が軽くなったにゅ!!」
「ハハハッ!すごいだろう?これが聖水の力だ」

 まだ大量にあるとはいえ貴重な聖水。飲んだことがない兵士もいっぱいいるのだ。

「足の痛みまで無くなってます!」
「すごいにゅ!!!」
「効き目が凄まじい故に本当に貴重な水なんだ。聖水の量にも限りがあるからココ一番って時にしか使えないが、まあ今回は大サービスだ!」

 節約中とはいえ、これくらいはいいだろう。それにまた道案内で伊勢に行くことになるのだからな。

「今すぐ話を詳しく聞きたい気持ちもあるが、腹も減ってるだろう?まずはメシにしよう!」
「おおっ!正直無茶苦茶腹が減ってたんですよ!」
「食いまくるにゅ~~~!!」


 ってことで、とりあえずはメシだ。

 今日の夕食は、なんと全員トンカツだった!戦争中だから奮発したな?

 トンカツと言っても、正確にはブタじゃくてボアという名の猪みたいな魔物の肉なんだけどね。当然腹が減っていたので死ぬほど美味かった!



 ・・・・・



 メシを食った後ヴェンダーとミュルモから詳しく話を聞き、その後はシャワーで汗を流した。
 夜勤前半はカーラとチェリン。俺とルシオが夜勤後半なので、夜勤に備えて一眠りしようと思ったら、ヴォルフが部屋の前で待っていた。


「ヴォルフじゃないか。どうしたんだ?」
「敵兵を10名捕らえて来ました!」

 あっ!そういや余裕があったら、敵を倒すか捕まえるよう言ったんだった!

「おおおお!それはご苦労だった!無理はしてないよな?」
「最初に逃げて来た敵兵は200人ほどいたので、それは見逃しました。全員壁を越えて普通に退却したようです。その後また敗残兵が20人ほど来たので100人で戦闘を仕掛けたのですが、10人倒した所で敵兵が降伏して来ました。軽い怪我人は出ましたが死者は出ていません」
「素晴らしい判断だ!それでいい。捕らえた敵兵はどうした?」
「全員の装備を剥いだ後、2人ずつ別々の牢に入れています」
「なるほど。その中に部隊長みたいのはいたか?」
「マーガスという名の足軽大将がいました」
「わかった。後のことは任せて偵察部隊は全員メシにするといい。今日はトンカツだから美味いぞ!」
「トンカツですか!!それは楽しみです!」


 ヴォルフは喜び勇んで駆けて行った。

 さてどうすっか・・・。今から牢に行って話を聞くにも、もう外は真っ暗なんだよなー。
 たぶん連れて来たばかりなのでメシもあたってないだろうけど、捕虜にそこまで気を遣う必要はないよな?明日の朝には何か食わせてやるつもりだから、まあそこは我慢してもらうか。

 すぐにでも情報を聞き出したいとこなんだけど、この後夜勤なんだよ。
 今日はガッツリ斬り合いをしたから、少しくらい寝ないと体が持たん。

 よし、牢に行くのは明日の朝にしよう。

 今日の残りのトンカツをプレートで温めて持ってって、食わせる前に料理の前で尋問すりゃ口も軽くなると思う。
 ヴェンダー達が情報を持ち帰ってるから、どうしても伊勢の情報が必要ってほどでもないんだよね。口が堅いようなら必要最低限の食事だけ与えて放置でもいい。トンカツは口の軽い奴にしか食わせん!

 捕らえたのが戦争の捕虜じゃなく犯罪者とかだったら、そんなヌルいことしないで痛めつける方向でいいんだが、捕虜はそれなりの待遇で接しないといかんのだ。
 展開によってはミスフィート軍の兵士になる可能性だってあるのだから。

 まあいいや、考えててもしゃーない。とっとと寝よう。


 そのまま部屋に入ってすぐ毛皮に包まった。





 ************************************************************





 深夜、交代を告げに来た兵士に起こされ、洗顔して歯を磨いてすぐルシオと共に防壁へ向かった。


「カーラ、チェリン、夜勤お疲れ!ここは俺達が引き継ぐんでゆっくり寝てくれ」
「く~~~~っ!さすがにちょっと疲れたわ。んじゃ後は任せた!」
「敵に変わった動きは何も無かったけど、気を付けてね~!」
「おう!明日あたり本体が到着するだろうから、それまで耐え抜くぞ」


 その夜は結局、日が昇るまで敵の攻撃はなかった。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

新妻・遥の欲情~義父の手ほどきで絶頂に溺れ逝く肉体

大衆娯楽 / 完結 24h.ポイント:411pt お気に入り:19

氷の騎士は、還れなかったモブのリスを何度でも手中に落とす

恋愛 / 完結 24h.ポイント:276pt お気に入り:1,041

決められたレールは走りません

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:0pt お気に入り:43

【完結】王子妃教育1日無料体験実施中!

恋愛 / 完結 24h.ポイント:56pt お気に入り:414

異世界で【スキル作成】を使って自由に生きる!

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:2,308pt お気に入り:26

幸せな番が微笑みながら願うこと

恋愛 / 完結 24h.ポイント:1,036pt お気に入り:5,022

処理中です...