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59 ミスフィート軍への勧誘

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 みんな無茶苦茶飢えていたようで、涙を流しながら食べている者も1人や2人どころではなかった。

 まあ、そりゃそうだよな。こんな鉱山で死ぬまで働かされる所だったんだから。
 食事だって、碌なものを食わせてもらえなかっただろうし。


 ほとんどの人の腹が満たされたのを見計らって、肝心な話を持ち掛ける。


「みんな聞いてくれ!」


 まだ食べている人もいるが、大半の人が俺に注目した。


「この後、ココにいる全員を安全な場所へ連れて行くと言ったが、どうせならばみんな反乱軍に入らないか?俺は反乱軍のリーダーであるミスフィートさんを、この尾張の国の大名にしようと思っている」

「反乱軍に、俺達が?」
「でもそれってジャバルグ軍と戦うって事だろ?」
「うーむ・・・」

「ジャバルグ軍の統治は、みんな知っての通り地獄だ。しかしミスフィートさんは違う!誰もが笑って暮らせるような素晴らしき理想を掲げているんだ。俺は彼女の素晴らしき人柄、そして圧倒的な強さに憧れて反乱軍に入った!」

「ほう」
「しかし理想だけじゃなあ」
「その人は、ジャバルグよりも強いのか?」

「みんな先程の戦いを見ただろう?あの強いドワーフ達も反乱軍に入ったのだ!そして今や反乱軍の全員が、俺が丹精込めて鍛え上げた最強の武器を所持している!」


 小屋の横に積んであった太い丸太を持って来て、地面に突き刺す。


「これは『刀』という最新型の武器だ。普通の剣より細くて頼りなく感じるかもしれないが、今からこの丸太を斬ってみせるんで、その凄さを己の眼で見て感じてくれ」


 抜刀術の構えをし、精神を集中する。


 ザンッザンッザンッザンッ!

 チンッ

 訓練所では、目で追えない一之太刀を披露したんだけど、今回はアピールすることがメインなので、速度は落ちるけど見た目は派手な4連撃だ。
 
 ドスドスドスドスッ!

 四分割された丸太が地面に落ちる。

「すげええええええ!!」
「なんという斬れ味だ・・・」
「あんなに細いのに、凄まじい剣だな」
「いやはや、本当に見事じゃの」


「見ての通り、刀は戦況を一変する!そして、この凄まじい武器を持った戦士達の中に、屈強なドワーフ達も加わったのだ!最早ジャバルグ軍に負けることなど有り得ない!」

「確かにその通りかもしれん」
「でも俺にあの武器が使いこなせるのか?」

「ココにいる皆は、鉱山で過酷な労働を耐え抜いたのだろう?その鍛え上げられた筋力は、一般の民衆を遥かに凌駕しているハズだ!刀の特訓さえすれば、短期間で優れた戦士になるのも夢じゃないぞ!」

 あと一息だ。
 表情を一変し、ニヤリと笑ってみせる。

「しかもだ、総大将のミスフィートさんは、とんでもなく美しい女性なのだ!そして軍にいるメンバーの大半も美しい女性ばかりという、普通じゃ考えられないほどの華やかな軍なのだよ!」

「「な、なんだってーーー!?」」

「ずっとこんな所にいたんだ。みんな所帯を持つことなんて諦めていただろう?ぶっちゃけて言おう!これは貴方達にとっても好機なのだ!上手くいけば、お嫁さんが見つかるかもしれない」

 俺の大演説により、男達の目に炎が宿る。

「決めたぞ!俺は反乱軍に入る!」
「俺もだ!是非軍に入れてくれ!」
「私も入るぞ!」
「嫁が・・・、俺にも嫁が・・・!」

「しかーし!一つだけ警告しておこう。彼女達は無茶苦茶強い!幾たびの戦を経験した一騎当千の猛者ばかりだ!正直な所、雑魚には見向きもしないだろう。彼女達を振り向かせるには、訓練に訓練を重ね、戦いで漢を見せなければならない!」

「やる!俺はやってやるぞ!」
「弱ければ強くなるまでのことよ!」
「ドワーフはいないのじゃろなあ・・・」
「なぁに、こがらす殿が言ったじゃろ?戦功を上げて街を作ればいいんじゃ!」

 よし!俺の弁舌は完璧だ!最後にダメ押しと行こう。


「ハイハイ、みなさん静粛に!!最後にとびっきりの朗報がある!」


 よし、静まったな?


「過酷な労働で皆の身体はボロボロだろう?だがしかし、俺はみんなの健康を一瞬で回復させることが出来るのだ!」

「健康を?」
「確かにそこが心配だったのだが」


 マジックバッグからコップを取り出し、聖水を入れる。


「これは聖水といい、一杯飲むだけで怪我や病気が治り、そして疲労が一瞬で吹き飛ぶ奇跡の水だ!軍への入隊を希望するが健康に自信が無い人、1人だけ前に出て来てくれ」


 それを聞いた1人の男が足を引き摺りながら前へ出てきた。

「あの、軍には入りたいのですが、僕の足は治るのでしょうか?」

 いいね。これが治れば誰の目にも効果が明らかだ。

「大丈夫だ。聖水を飲めば一瞬で完治する!」

 男にコップを渡す。


 ―――足の悪い男が、意を決して聖水を飲んだ。



「・・・え?」


 男は自分の身体をじっと見つめた後、2度飛び跳ねた。
 さっきまで足を引き摺っていたハズなのに、もうすでにピンピンしている。

「あ、足の痛みが完全に消え去りました!それに身体の疲れまで・・・、す、凄い!凄すぎる!!!」

「ほ、本当なのか!?」
「いや、でも普通に歩いてるぞ?」
「もうかなり前から足が悪かったのは、皆が知ってる事だろ!」

「聖水の凄まじい効果は見ての通りだ!しかし効果が絶大ってことは、非常に貴重なモノだというのもわかるだろう?故に残念ながら、ミスフィート軍に入らない人にまで飲ませてやる余裕は無い。ジャバルグ軍との戦いで絶対必要だからな」


 刀の鞘で、地面に線を引く。


「・・・最後の確認をしよう。ミスフィート軍に入る人だけこの線を越えてくれ。俺達は勇敢な戦士を歓迎する!」


 そして俺の目論見通り、全員がミスフィート軍に入隊することになった。
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