午後のはなし

バイト初心者A

高校2年生手前にして、自分は今更ながら初バイトなるものをを経験したのだった。
フィクションにありがちな、面白くするための装飾だと思っていたおばあちゃんズの小言祭りは実在していたし、そんな彼女らをたしなめるような面倒見のよい大学生のお姉さんも実在した。詳しくは知らないが親しげな関係の男女もいたし、人のいい苦労人くろうにん気質な責任者もいる。悲しきかな優しい教育係のお姉さんは存在しなかったが、喜ばしいことにお菓子をくれるしわくちゃおばあちゃんは存在した。
バリバリと煎餅を咀嚼しながらにこやかに語られるおばあちゃんの話に耳を傾ける。
アッハッハ、なんて見た目に反して豪快な笑い声を響かせるおばあちゃんに、釣られるようにして笑みを零すのだ。

なんだかんだ想像通りとも言える温かな職場は、どうやら友人談ではありふれたものではないアタリの職場らしかった。
楽しくはないが、苦痛でもない。これで金が稼げるならば両腕が上がる。
当たり前の温度を忘れないように、温かな温度だと身に刻む。
意図して幸せだと錯覚させることは、なにも恥ずべきことでも可哀想なことでもないのだ。
あぁ、よかった。このバイトで正解だ。
──あー、幸せだ。
ベッドの中で反芻した言葉の裏には気に留めるほどでもない不安感がちらつく。
不安を消すには、どうかやばいミスだけはしないように、と未来の自分へ願うだけでいい。
そうして瞳を閉じて、束の間の温い平穏に浸かるのだ。





































冬の終わり、肌寒い体を温める低温の温もりに浸る夜