午後のはなし

てふ102

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患者A

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シンと静まった病室は、真っ白に黒と月の光が混ざり不気味な色を濃く映し出していた。視認した途端、遠い昔眺めたホラービデオに現状が重ねられ身震いする。背後に感じる気配も、普段の何倍も低く感じる温度も体を這うように撫でる布団の感覚も、意識すれば全てが超常現象と言われても納得できるほどのものだ。入院生活となって未だ一週間も経たない程度。慣れたと言うにはまだ早いが、病室が怖いと喚けるほどの歳もしていない。常に監視されているかのような気味の悪さを胸に、想像の中繰り広げられるまさかの事態に合わせてナースコールを手にした。大丈夫。いつでも助けは呼べるのが病院だ。いつも落ち着かせるため意識的に大袈裟に行う深呼吸も、今はナニカへ己の存在を知らしめるきっかけになりそうで、碌に呼吸も出来ず息を殺すように自身をも静寂に溶かした。
いやしかし。気味の悪い静けさを持つ病室に呑まれてひとり考える。仮に幽霊なるものが存在したとして、彼らは自分に何をしてくるのだろうか。どこか違う世界へ引きずり込まれるのか、はたまたこの命を刈り取られるのか良いように乗っ取られるのか。何にせよ不健康生活を重ねに重ねたこの体ではそう命も長続きするわけあるまい。ならば何を恐れるか、いつだって消えて良いという考えは囚われていた感情を解放し楽観的にした。素敵な考え方だ、なんて独りごちて我に返る。なにが楽観的だ、自暴自棄と、諦念とそれを喰い違うな。死は怖い。いつだってそうだ。「生きてください」なんて、どこぞの感動ストーリーならば大きな糧となるであろう言葉は生憎受け取っていなかった。それならば今の自分から明日の自分へ送ろう。生きる糧を送りいきる目標を作るための時間稼ぎを手伝おう。キリキリと痛む胃も、慢性的に続いていた頭痛もここへ来ると少しばかりはましになる。ならばここは天国かなにかだ。キズを癒やすこの場を不気味なんて言わないように。と半ば思い込ませ刷り込むように反復した。



























夏の終わり、生きたいと願いたいひとりの夜
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