210 / 252
第18章 ソチ騒乱
第208話 連中の計画を止める為なら何でも…、
しおりを挟む先生との特訓の後、すぐに受験はやってきた。
そして、合格発表の日も…。
結論から発表する。
僕は不合格だった!
と思ったら、繰り上げ合格になった。
AO入試でもそんなことあるんだ…。
私立だからかなぁ。
実は、不合格になってからも「まだなんか事件が起こって合格になれ!」って念じてた。
先生の言ってた、メンタルってやつ。
合格発表後に不合格って書いてあっても落ち込まずに「一般入試じゃ無理なんで、AOで繰り上げ合格する」って念じてた。
それで、本当に合格しちゃったわけだ。
自分でも笑っちゃうよ。
先生に「繰り上げ合格しました!」って報告した。
「そんなの嘘ね。」と先生は僕を信じていなかったみたいだけど、事実だ。
合格が嬉しくて有頂天の僕は、すぐに理科教員室に向かって、先生に大声で合格の自慢をしたのだった。
「先生。僕、大学合格したんでご褒美もらってもいいですか?」
「ご褒美?まぁ、考えてやらなくもないけど、今すぐは無理よ。一般入試が終わるまで忙しいの。」
確かに、僕は暇になるけど、これから先生は忙しくなると思う。
ちょっと寂しいものの、ここは、面倒な子どもだと思われたくないので潔く引くことにした。
「別にいつでもいいんで、お願いします!」
珍しく、理科教員室に先生1人しかいなかったので本当はこの場に入り浸りたかったのだけれど、先生の周りにはあらゆる書類と荷物が散乱していた。
多分、相当忙しいのだと思う。
ちょっと先生、ドライ対応だったし。
僕は、放課後で人がいない生物室に向かった。
教室の1番後ろの席に座る。
今はともかく喜びが大きく、踊り出したい気分である。
その一方で、大きな不安もある。
例えば、先生との関係について。
卒業まで残り何日あるのだろう?
先生と、学校で会えるのは後何日くらいかな?
卒業して会えなくなった、僕たちの関係はどうなるのだろうか。
嬉しさが今は大きいものの、先々のことを考えると、不安になる。
このままでいたい。
けれど、時間は止めることができない。
(もう、このままの暮らしのままでいいのに…)
今まで、特に先生のことを好きになってからは早く卒業したくて、大人になりたくて堪らなかった。だから、時間が早く進めばいいと思っていた。
それなのに、今は時間が止まって欲しいと思っている。
(僕ってわがままだな…)
まだ、離れ離れになると決まったわけじゃないのに、先生との別れの事を考えて涙が一粒だけ溢れる。
センチメンタルな気持ちのまま、僕は生物室に居るともっとセンチメンタルになった。
だって、ここは、先生とたくさんの時間を過ごした場所だから。
この場所で、僕は先生を好きになったんだと思う。
先生とまだ付き合う前のことを、今になってから思い返すと恥ずかしいな。
一生懸命に、先生に好きアピールをしてた。ちょっと女々しかったかなぁ。
けれど、先生は僕より想いに応えてくれた。
今も充分に子供だけれど、その頃は今よりももっと子供だった。
「だいすき…。」
呟いてみる。
誰もいない教室に、僕の小さい声が反響した。
外は生徒達の声で賑やかだ。
ただ、この生物室だけが静まり返っている。
「なんか言った?」
「うわぁぁぁっ!」
突然の声に僕は驚く。
「なんか声が聞こえたんだけど。」
先生が、教室のドアの隙間からひょっこり顔を覗かせて僕を見ている。
「な、何も言ってないです!」
本当は言ったけど、僕はシラを切ることにした。なぜなら、恥ずかしいから。
「大好きとかなんとか言ってたよね?」
「聞こえてたんですか…。」
ちゃんと聞かれていたのか…。
「はい…。言いましたよ。」
「ふーん。」
「興味ないなら聞かないでください。」
「あるよ、もちろん。だって君、目が腫れているし。気になるに決まってるわ。」
さっきちょっと泣いちゃったから目が腫れていたのかもしれない。
「ちょっと感傷に浸ってたんです。」
「君もそんなことするの?意外すぎるわ。」
「失礼ですね。僕だっておセンチな気分の日もあります!」
「んで、誰のことが好きなわけ?」
そんなの決まってる…。
先生は、目をキラキラさせながら僕を見てくる。
「ほら、言ってみてごらん。誰のことかなぁ?」
先生は、僕を見てニヤニヤしながら生物室に入って来た。
(もう逃げられない…。)
「先生ですよ…。」
僕が観念して答えると、先生はパッと笑顔になった。
とても可愛らしいと思った。
先生はいつもちょっとドライでクールな事が多いから。
「あら、どうも。それで、泣いてたのは?」
僕は知っている。先生はちょっとしつこい。
多分、僕が泣いていた理由を知りたがるはず。
「先生とずっと一緒にいたいんです。でも、卒業したら一緒に居られなくなるかもしれないです。端的に言えば、それが不安です。」
「誰も離れるなんて言ってないよね?」
「はい…。でも、不安なんです。先生は忙しいし。何より僕は子供だから。」
「そんな事で泣いたの?本当に子供ね。」
先生は呆れたように言った。
「大丈夫よ…。」
先生は、僕が座っている席の前に座って僕の方を向いた。
「絶対に離れないですか?一緒にいられますか?」
「もちろん。」
微笑む先生が、僕の頭に手を伸ばす。
優しく頭を撫でてくれる。
「大丈夫。私も君の事が好きだから。」
先生は、僕にだけ聞こえる小さな声でつぶやいた。
0
お気に入りに追加
7
あなたにおすすめの小説

異世界転生した時に心を失くした私は貧民生まれです
ぐるぐる
ファンタジー
前世日本人の私は剣と魔法の世界に転生した。
転生した時に感情を欠落したのか、生まれた時から心が全く動かない。
前世の記憶を頼りに善悪等を判断。
貧民街の狭くて汚くて臭い家……家とはいえないほったて小屋に、生まれた時から住んでいる。
2人の兄と、私と、弟と母。
母親はいつも心ここにあらず、父親は所在不明。
ある日母親が死んで父親のへそくりを発見したことで、兄弟4人引っ越しを決意する。
前世の記憶と知識、魔法を駆使して少しずつでも確実にお金を貯めていく。

二度目の転生は傍若無人に~元勇者ですが二度目『も』クズ貴族に囲まれていてイラッとしたのでチート無双します~
K1-M
ファンタジー
元日本人の俺は転生勇者として異世界で魔王との戦闘の果てに仲間の裏切りにより命を落とす。
次に目を覚ますと再び赤ちゃんになり二度目の転生をしていた。
生まれた先は下級貴族の五男坊。周りは貴族至上主義、人間族至上主義のクズばかり。
…決めた。最悪、この国をぶっ壊す覚悟で元勇者の力を使おう…と。
※『小説家になろう』様、『カクヨム』様にも掲載しています。
うちの冷蔵庫がダンジョンになった
空志戸レミ
ファンタジー
一二三大賞3:コミカライズ賞受賞
ある日の事、突然世界中にモンスターの跋扈するダンジョンが現れたことで人々は戦慄。
そんななかしがないサラリーマンの住むアパートに置かれた古びた2ドア冷蔵庫もまた、なぜかダンジョンと繋がってしまう。部屋の借主である男は酷く困惑しつつもその魔性に惹かれ、このひとりしか知らないダンジョンの攻略に乗り出すのだった…。
30代社畜の私が1ヶ月後に異世界転生するらしい。
ひさまま
ファンタジー
前世で搾取されまくりだった私。
魂の休養のため、地球に転生したが、地球でも今世も搾取されまくりのため魂の消滅の危機らしい。
とある理由から元の世界に戻るように言われ、マジックバックを自称神様から頂いたよ。
これで地球で買ったものを持ち込めるとのこと。やっぱり夢ではないらしい。
取り敢えず、明日は退職届けを出そう。
目指せ、快適異世界生活。
ぽちぽち更新します。
作者、うっかりなのでこれも買わないと!というのがあれば教えて下さい。
脳内の空想を、つらつら書いているのでお目汚しな際はごめんなさい。
手乗りドラゴンと行く異世界ゆるり旅 落ちこぼれ公爵令息ともふもふ竜の絆の物語
さとう
ファンタジー
旧題:手乗りドラゴンと行く追放公爵令息の冒険譚
〇書籍化決定しました!!
竜使い一族であるドラグネイズ公爵家に生まれたレクス。彼は生まれながらにして前世の記憶を持ち、両親や兄、妹にも隠して生きてきた。
十六歳になったある日、妹と共に『竜誕の儀』という一族の秘伝儀式を受け、天から『ドラゴン』を授かるのだが……レクスが授かったドラゴンは、真っ白でフワフワした手乗りサイズの小さなドラゴン。
特に何かできるわけでもない。ただ小さくて可愛いだけのドラゴン。一族の恥と言われ、レクスはついに実家から追放されてしまう。
レクスは少しだけ悲しんだが……偶然出会った『婚約破棄され実家を追放された少女』と気が合い、共に世界を旅することに。
手乗りドラゴンに前世で飼っていた犬と同じ『ムサシ』と名付け、二人と一匹で広い世界を冒険する!

俺しか使えない『アイテムボックス』がバグってる
十本スイ
ファンタジー
俗にいう神様転生とやらを経験することになった主人公――札月沖長。ただしよくあるような最強でチートな能力をもらい、異世界ではしゃぐつもりなど到底なかった沖長は、丈夫な身体と便利なアイテムボックスだけを望んだ。しかしこの二つ、神がどういう解釈をしていたのか、特にアイテムボックスについてはバグっているのではと思うほどの能力を有していた。これはこれで便利に使えばいいかと思っていたが、どうも自分だけが転生者ではなく、一緒に同世界へ転生した者たちがいるようで……。しかもそいつらは自分が主人公で、沖長をイレギュラーだの踏み台だなどと言ってくる。これは異世界ではなく現代ファンタジーの世界に転生することになった男が、その世界の真実を知りながらもマイペースに生きる物語である。

プラス的 異世界の過ごし方
seo
ファンタジー
日本で普通に働いていたわたしは、気がつくと異世界のもうすぐ5歳の幼女だった。田舎の山小屋みたいなところに引っ越してきた。そこがおさめる領地らしい。伯爵令嬢らしいのだが、わたしの多少の知識で知る貴族とはかなり違う。あれ、ひょっとして、うちって貧乏なの? まあ、家族が仲良しみたいだし、楽しければいっか。
呑気で細かいことは気にしない、めんどくさがりズボラ女子が、神様から授けられるギフト「+」に助けられながら、楽しんで生活していきます。
乙女ゲーの脇役家族ということには気づかずに……。
#不定期更新 #物語の進み具合のんびり
#カクヨムさんでも掲載しています

当て馬悪役令息のツッコミ属性が強すぎて、物語の仕事を全くしないんですが?!
犬丸大福
ファンタジー
ユーディリア・エアトルは母親からの折檻を受け、そのまま意識を失った。
そして夢をみた。
日本で暮らし、平々凡々な日々の中、友人が命を捧げるんじゃないかと思うほどハマっている漫画の推しの顔。
その顔を見て目が覚めた。
なんと自分はこのまま行けば破滅まっしぐらな友人の最推し、当て馬悪役令息であるエミリオ・エアトルの双子の妹ユーディリア・エアトルである事に気がついたのだった。
数ある作品の中から、読んでいただきありがとうございます。
幼少期、最初はツラい状況が続きます。
作者都合のゆるふわご都合設定です。
1日1話更新目指してます。
エール、お気に入り登録、いいね、コメント、しおり、とても励みになります。
お楽しみ頂けたら幸いです。
***************
2024年6月25日 お気に入り登録100人達成 ありがとうございます!
100人になるまで見捨てずに居て下さった99人の皆様にも感謝を!!
2024年9月9日 お気に入り登録200人達成 感謝感謝でございます!
200人になるまで見捨てずに居て下さった皆様にもこれからも見守っていただける物語を!!
2025年1月6日 お気に入り登録300人達成 感涙に咽び泣いております!
ここまで見捨てずに読んで下さった皆様、頑張って書ききる所存でございます!これからもどうぞよろしくお願いいたします!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる