上 下
166 / 252
第13章 イタリア5つ星戦線。

第164話 ローマに戻った平和。

しおりを挟む
どうして子供のころはあんなに肝試しが好きなのかねえ?
あんたもやったことはないかい?
ちょうど私が十一の時だったよ。
今から六十年以上前の話さ。
私が住んでいた町内には観音様とお稲荷様と天王様があってね。
この天王様を八雲神社というんだが…………
天王様ってのは牛頭天王、すなわち素戔嗚神のことらしい。
私もなかなか学があるだろう?
といっても旦那の受け売りだけどね。
一説には素戔嗚神はあの世の神様だというよ。
もっとも、子供のころはそんなこと気にもならなかったんだがねえ。
あれは7月の暑い盛りだったよ。
近所のAが肝試しに行こうと言い出したのさ。
ちょうど夏祭りの稽古があって、近所の子供は夜に外出する予定があった。
そのついでに、というわけさ。
すぐに数人がはしゃいで、行こう行こうという話になった。
どこに行く? となったら真っ先にあがるのは天王様さ。
あそこには社殿の奥に、すり鉢状の沼がある。
普段はフェンスで囲まれて、子供は入れないようにしてるんだ。
フェンスの上は鉄条網で登れないようにしている念の入れようさね。
どうしてそんな厳重に囲っているのか、子供たちはみんな知っていた。
もう五、六年前になるか。
一人の女性がそこで自殺したからなんだ。
なんでも男と別れたせいらしい。
が、この話には続きがあってね。
女性が好きだった男性というのは実の兄だった。
その兄が結婚することが決まり兄が他人のものになることに耐えられなかったらしい。
だから兄はまだ存命で、命日にはきちんと花束を供えに来るそうだよ。
とはいえ、それはすべて後でわかったことだ。
子供だった当時はそんなこと何も知らなかったからね。
稽古もそこそこに適当な理由をつけてみんなで天王様に集まったのは夜の八時ごろだった。
みんなはしゃいでいたよ。
当時は今みたいにLEDライトなんてないし、鳥居の近くの電柱に街路灯があるだけ。
鳥居の先の階段をあがれば真っ暗さ。
懐中電灯片手に天王様の社殿を通り抜けると、ちょうど左後ろに沼がある。
もともと不気味なところだったけど、夜の暗闇に浮かぶそこは本当に気味が悪かったよ。
水面が暗くて、底なしのように見えたからね。
だが怖いというのは同時に楽しいということでもあるんだ。
友達とキャーキャーいいながら水面に懐中電灯を向けるのは楽しかったね。
あれ?
ふと何かにきづいて声を上げたのは近所のAだった。
うわ!花が置いてあるじゃん!
よしなよ、と止めるまもなくAは花束をつかんで振り回し始めた。
さすがに罰当たりだと幼心に思ったね。
でも止めるとますますAは調子にのって、花束をバンバンとご神木に叩きつけた。
さすがにその場にいたみんなが止めた。
もうそれ以上はやばい。
そしたらAの奴、ムキになってその花束を沼の中に放り投げやがった。
そのときだよ。
ひいいいいいいいいいいいいい!
泣き声ともうめき声ともつかぬ女の悲鳴。
子供たちはもうパニックさ!
慌てて逃げようとしたら、ご神木の前にずぶ濡れの女がいるじゃないか!
兄さんの!兄さんの!兄さんの!
そういいながら女はAだけを睨みつけていた。
あとは無我夢中で逃げて、ぼろぼろになってみんな泣いて帰ったよ。
当然大人にバレて、しこたま怒られた。
親に叩かれたところが痛くて、また泣いてしまった。
翌朝、肝試しにいった子供たちは親同伴で神社にお参りにいくことになった。
罰当たりなことしてごめんなさい
あそこまで真剣に神様に祈ったのは後にも先にもあのときだけさ。
もうこんなことは二度とするんじゃないぞ?
親にそう諭された帰り道、Aが突然泣き出した。
ちょうど鳥居をくぐったあたりのときだった。
ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい……
泣きながらそう繰り返すAに、母親がなだめるように言った。
ちゃんと謝ったんだから大丈夫よ。
でもAは泣きながら首を振る。
お姉ちゃんがさっきから、そこでお前だけは許さないから!って叫んでる!
Aが鳥居の方向を指さして、誰もが一斉に鳥居の方を向いた。
次の瞬間、交差点の陰から一時停止を無視して飛び出してきた軽トラックに跳ねられて、Aは死んだ。
いいかい?
子供だから、とか、偶然事故で、とか、言い訳は霊には通用しないんだよ。
やったことがすべてで、大抵は取り返しがつかないんだ。
触らぬ神に祟りなしってのはそういうことさ。
何かあってからじゃ遅いんだからね。
ひっひっひっ……
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

異世界帰りの元勇者、日本に突然ダンジョンが出現したので「俺、バイト辞めますっ!」

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
俺、結城ミサオは異世界帰りの元勇者。 異世界では強大な力を持った魔王を倒しもてはやされていたのに、こっちの世界に戻ったら平凡なコンビニバイト。 せっかく強くなったっていうのにこれじゃ宝の持ち腐れだ。 そう思っていたら突然目の前にダンジョンが現れた。 これは天啓か。 俺は一も二もなくダンジョンへと向かっていくのだった。

システムバグで輪廻の輪から外れましたが、便利グッズ詰め合わせ付きで他の星に転生しました。

大国 鹿児
ファンタジー
輪廻転生のシステムのバグで輪廻の輪から外れちゃった! でも神様から便利なチートグッズ(笑)の詰め合わせをもらって、 他の星に転生しました!特に使命も無いなら自由気ままに生きてみよう! 主人公はチート無双するのか!? それともハーレムか!? はたまた、壮大なファンタジーが始まるのか!? いえ、実は単なる趣味全開の主人公です。 色々な秘密がだんだん明らかになりますので、ゆっくりとお楽しみください。 *** 作品について *** この作品は、真面目なチート物ではありません。 コメディーやギャグ要素やネタの多い作品となっております 重厚な世界観や派手な戦闘描写、ざまあ展開などをお求めの方は、 この作品をスルーして下さい。 *カクヨム様,小説家になろう様でも、別PNで先行して投稿しております。

聖女の妹は無能ですが、幸せなので今更代われと言われても困ります!

ユウ
ファンタジー
侯爵令嬢のサーシャは平凡な令嬢だった。 姉は国一番の美女で、才色兼備で聖女と謡われる存在。 対する妹のサーシャは姉とは月スッポンだった。 能力も乏しく、学問の才能もない無能。 侯爵家の出来損ないで社交界でも馬鹿にされ憐れみの視線を向けられ完璧を望む姉にも叱られる日々だった。 人は皆何の才能もない哀れな令嬢と言われるのだが、領地で自由に育ち優しい婚約者とも仲睦まじく過ごしていた。 姉や他人が勝手に憐れんでいるだけでサーシャは実に自由だった。 そんな折姉のジャネットがサーシャを妬むようになり、聖女を変われと言い出すのだが――。

女性として見れない私は、もう不要な様です〜俺の事は忘れて幸せになって欲しい。と言われたのでそうする事にした結果〜

流雲青人
恋愛
子爵令嬢のプレセアは目の前に広がる光景に静かに涙を零した。 偶然にも居合わせてしまったのだ。 学園の裏庭で、婚約者がプレセアの友人へと告白している場面に。 そして後日、婚約者に呼び出され告げられた。 「君を女性として見ることが出来ない」 幼馴染であり、共に過ごして来た時間はとても長い。 その中でどうやら彼はプレセアを友人以上として見れなくなってしまったらしい。 「俺の事は忘れて幸せになって欲しい。君は幸せになるべき人だから」 大切な二人だからこそ、清く身を引いて、大好きな人と友人の恋を応援したい。 そう思っている筈なのに、恋心がその気持ちを邪魔してきて...。 ※ ゆるふわ設定です。 完結しました。

侯爵家の愛されない娘でしたが、前世の記憶を思い出したらお父様がバリ好みのイケメン過ぎて毎日が楽しくなりました

下菊みこと
ファンタジー
前世の記憶を思い出したらなにもかも上手くいったお話。 ご都合主義のSS。 お父様、キャラチェンジが激しくないですか。 小説家になろう様でも投稿しています。 突然ですが長編化します!ごめんなさい!ぜひ見てください!

第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。

黒ハット
ファンタジー
 前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。  

異世界に召喚されたけど、聖女じゃないから用はない? それじゃあ、好き勝手させてもらいます!

明衣令央
ファンタジー
 糸井織絵は、ある日、オブルリヒト王国が行った聖女召喚の儀に巻き込まれ、異世界ルリアルークへと飛ばされてしまう。  一緒に召喚された、若く美しい女が聖女――織絵は召喚の儀に巻き込まれた年増の豚女として不遇な扱いを受けたが、元スマホケースのハリネズミのぬいぐるみであるサーチートと共に、オブルリヒト王女ユリアナに保護され、聖女の力を開花させる。  だが、オブルリヒト王国の王子ジュニアスは、追い出した織絵にも聖女の可能性があるとして、織絵を連れ戻しに来た。  そして、異世界転移状態から正式に異世界転生した織絵は、若く美しい姿へと生まれ変わる。  この物語は、聖女召喚の儀に巻き込まれ、異世界転移後、新たに転生した一人の元おばさんの聖女が、相棒の元スマホケースのハリネズミと楽しく無双していく、恋と冒険の物語。 2022.9.7 話が少し進みましたので、内容紹介を変更しました。その都度変更していきます。

間違い転生!!〜神様の加護をたくさん貰っても それでものんびり自由に生きたい〜

舞桜
ファンタジー
「初めまして!私の名前は 沙樹崎 咲子 35歳 自営業 独身です‼︎よろしくお願いします‼︎」  突然 神様の手違いにより死亡扱いになってしまったオタクアラサー女子、 手違いのお詫びにと色々な加護とチートスキルを貰って異世界に転生することに、 だが転生した先でまたもや神様の手違いが‼︎  神々から貰った加護とスキルで“転生チート無双“  瞳は希少なオッドアイで顔は超絶美人、でも性格は・・・  転生したオタクアラサー女子は意外と物知りで有能?  だが、死亡する原因には不可解な点が…  数々の事件が巻き起こる中、神様に貰った加護と前世での知識で乗り越えて、 神々と家族からの溺愛され前世での心の傷を癒していくハートフルなストーリー?  様々な思惑と神様達のやらかしで異世界ライフを楽しく過ごす主人公、 目指すは“のんびり自由な冒険者ライフ‼︎“  そんな主人公は無自覚に色々やらかすお茶目さん♪ *神様達は間違いをちょいちょいやらかします。これから咲子はどうなるのか?のんびりできるといいね!(希望的観測っw) *投稿周期は基本的には不定期です、3日に1度を目安にやりたいと思いますので生暖かく見守って下さい *この作品は“小説家になろう“にも掲載しています

処理中です...