129 / 252
第10章 惑星創成法の謎。
第127話 惑星創成法を調べる度に…、
しおりを挟むレウスの手によりモンドが支配される少し前。
ギルメスド王国王城。
その中のある一室はただならぬ空気感で埋め尽くされていた。
「············」
「············」
向かい合う者達はつい先日まで命のやり取りをしていた者である。
席に着いてからベオウルフとラグナルクは目を合わせようとせず別の方向を向き黙り込む。ラグナルクの隣にはベイガルとギシャルの二人が座る。互いに恨みを持つ者達が同じ空間にいる今、いつ剣が抜かれたとしてもおかしくはないという状況だった。
そんな張り詰めた空気の中、長い沈黙にグラムは耐え切れなくなっていた。
「ハハハッ!! 気っまず!!」
そうしてグラムの高らかな声によりその長い沈黙は終わりの時を迎えたのだ。
「まあ····そうだな。確かに気まずい。このままじゃ埒が明かねえ。話す前にもう一度確認だ」
その時、ようやく二人の目が合った。
「お前らに俺の仲間は大勢殺された。たとえどんな理由があろうとも許すつもりはねえ。もちろんそれは分かってるだろうな?」
「許しを乞うつもりはない。だが昔もそして今も貴様のことは好かん、故に馴れ合うつもりもない」
「おぅ、珍しく気が合うな。俺もお前のこと嫌いだぜ」
(まあ······変に距離を詰めてくるよりかはマシか)
「まず初めに俺の仲間は今何処にいる。仲間を返すなら味方になってやってもいいぜ」
「ほう、助けられた分際で随分な物言いだな。私達が来なければお前は今頃死んでいたぞ」
「····ああそうだな。だが今はどうでもいい、お前に感謝なんてねえよ。それで俺の条件はのむのか」
「構わない」
ラグナルクは考えるような素振りも見せずに即答した。
「嘘はねえな?」
「嘘も何も、今日来た目的はお前の仲間とやらを返すことだ。ギシャル」
「クシャシャシャ!! 了解」
ギシャルが横に目をやるとその先に黒い空間が現れる。
ハルトとシャドは警戒し剣に手を当てたが中から歩いて出てきたのはゼーラ達四人だった。そして四人はベオウルフの姿を見つけるとすぐさま駆け寄り跪いた。
「ベオウルフ様、どうかこの度の御無礼を私の首一つでお許しくださいませッ」
「いいや、俺の首一つでどうかご勘弁を」
ゼーラだけでなくバルバダ達も頭を下げた。その様子を見るに疑うまでもなく、四人は正常に戻っていた。
「ミルファちゃッ——」
そしてシャドはミルファの姿を見つけた瞬間、分かりやすく赤面しバッと立ち上がった。
「まあ待てシャド」
ベオウルフは跪く四人に手を向け天使の存在を確認する。
(完全に分離されてるか······嘘はねえみたいだな)
「首一つって俺がお前らにそんなことするかよ。一つ聞いておくがこいつらは味方か?」
そう言われゼーラ達の視線はラグナルク達三人へと向かう。
その目は決して味方を見るような目ではない。
ラグナルク達によりギルメスド王国の騎士からは多数死者が出た。
ゼーラに至って言えば目の前にいるベイガルはラダルスの仇なのだ。
「感謝する気はありませんが、この者達の手により私たちが解放されたのは確かです。ですが、私はこのもの達を許すつもりはありません」
ゼーラはベイガルの顔を睨みつけそう言い放った。
見下したようなその視線に容赦はない。ベイガルは先程から目を閉じ何一つ動じるような素振りはない。
「まあ約束は約束だ。勝手にしろ。それとお前ら四人とも疲れただろ。今は休んでこい、後でまた呼ぶ」
「い、いえ。天使に操られていたとはいえ私達の行動はあまりにも·····」
「いいや、休まねえことの方が駄目だ。シャド、四人を連れていけ」
「はっ、はい!」
シャドは先程から落ち着きはない。いいや、ミルファの姿を見た途端落ち着きを失ったのだ。
というのもミルファ達がベオウルフを裏切ったという事実をシャドは途中までドッキリと思っていたのだ。
そうではないと分かったのはペルシャとの戦い、その最中である。
ミルファの自我が奪われたという事実はシャドを激昂させそれによりペルシャと互角の戦いを繰り広げられたのだ。
そして五人が部屋に出た後、ベオウルフは改めて話しを始める。
「取り敢えず聞きてぇことは山ほどあるが今は三つだけ聞かせろ」
「構わん」
「俺は帝王だから今も生きてるが、天生前のただの人間のお前が何故生きていた」
「身体の腐敗は魔法で阻止している。臓器は全てつくりものだ」
「ハッ、そこまでして俺に復讐しにきたのかよ。なら二つ目だ。お前ら全員、天生した天使はどうなってんだよ」
「見ての通り自我の強い個性的な者達だ。此奴らだけでなく私の配下は全員天使を支配下に置いた。完全なる天生体となった状態で自我を取り戻せば天使の力を我が物とすることができる。天使どもは単に利用したのみだ」
「はあ······信じられねえが目の前に三人もいるなら仕方ねえか。なら最後だ。こちら側についた理由を具体的に言え」
「······よかろう。だが理由を説明する前に天生体となった私が得た力について説明する必要がある」
そう言うとラグナルクは窓の方を指差した。
「二秒後、日の光が差し込む」
「———?」
その言葉にベオウルフ達三人は黙り込み自然と窓の方へと視線が向かった。
何も説明は無かったが無意識のまま気づけば二秒間待っていた。
するとラグナルクの言った通り窓からは日の光が差し込んだ。
「おお! やるねおじいちゃん! 長年の勘ってやつかい?」
「いやちげえだろ。要するに未来予知ってことだな。ならその力でこの戦争の勝敗を見たってことか?」
「いいや。数秒程の未来ならば明確に見ることができるが遠い未来はぼやけてはっきりとは見ることができない」
「じゃあ何だよ、ただの自慢か? 俺が聞いてるのはお前がこっちに寝返った理由だ」
「元はお前に復讐するため私はここまで生きてきた。故に寝返るつもりなど全く無かった。だが······私が天使を支配し完全なる天生体となった時、私の目の前に誰かが現れた。顔はぼやけ実体は薄れている。まるでこの世の者とは思えないほどの神秘的なその存在は私の能力に干渉した。そして一時だけ私の眼には遠い未来の光景が目に入った。その時に見た未来が私の求める未来だっただけだ」
「ハッ、そんな何処の誰かも分からねえやつの未来を見てここまで行動に移したってか?」
「お前は、自分が目の前で見殺しにした女の名を覚えているか」
「······何が言いてえ」
「私の見た未来でフィオーレはある者の手により助けられあの戦争で生き延びた」
「ッ———」
淡々と述べられたその言葉に一切の嘘は感じられない。
ベオウルフは数秒間小さく口を開けたまま固まった。
勿論、グラムやハルトは何についての話であるのか見当もつかない。だがこれ程動揺しているベオウルフを見るのは初めてだった。しかしその表情はすぐさま元に戻った。
「未来だ? あの戦争が何年前に起こったのか覚えてねえのか、お前は」
「いいや、”未来を生きる者”によりフィオーレは救われる。たとえその確率が一兆分の一であろうとも私にとってはあまりにも大きい。その”未来を生きる者”がお前の側にいる、私が女神を裏切った理由はそれだけだ」
「············」
「そして力に干渉した者は『きっと私なら』そう言い残して消えていった」
到底信じられることではなかったがラグナルクには確かな根拠があった。
この状況でラグナルクを否定することはできなかった。そして確かめるようにラグナルクを見つめる。
「それで、フィオーレは誰が助けんだよ」
「名は———」
「······そんな気もしたがな。分かった、信じてやる」
「そうか、随分と素直なものだな······ならば行くぞ、恩人を救いに」
0
お気に入りに追加
7
あなたにおすすめの小説
神様、ちょっとチートがすぎませんか?
ななくさ ゆう
ファンタジー
【大きすぎるチートは呪いと紙一重だよっ!】
未熟な神さまの手違いで『常人の“200倍”』の力と魔力を持って産まれてしまった少年パド。
本当は『常人の“2倍”』くらいの力と魔力をもらって転生したはずなのにっ!!
おかげで、産まれたその日に家を壊しかけるわ、謎の『闇』が襲いかかってくるわ、教会に命を狙われるわ、王女様に勇者候補としてスカウトされるわ、もう大変!!
僕は『家族と楽しく平和に暮らせる普通の幸せ』を望んだだけなのに、どうしてこうなるの!?
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
――前世で大人になれなかった少年は、新たな世界で幸せを求める。
しかし、『幸せになりたい』という夢をかなえるの難しさを、彼はまだ知らない。
自分自身の幸せを追い求める少年は、やがて世界に幸せをもたらす『勇者』となる――
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
本文中&表紙のイラストはへるにゃー様よりご提供戴いたものです(掲載許可済)。
へるにゃー様のHP:http://syakewokuwaeta.bake-neko.net/
---------------
※カクヨムとなろうにも投稿しています

どうも、命中率0%の最弱村人です 〜隠しダンジョンを周回してたらレベル∞になったので、種族進化して『半神』目指そうと思います〜
サイダーボウイ
ファンタジー
この世界では15歳になって成人を迎えると『天恵の儀式』でジョブを授かる。
〈村人〉のジョブを授かったティムは、勇者一行が訪れるのを待つ村で妹とともに仲良く暮らしていた。
だがちょっとした出来事をきっかけにティムは村から追放を言い渡され、モンスターが棲息する森へと放り出されてしまう。
〈村人〉の固有スキルは【命中率0%】というデメリットしかない最弱スキルのため、ティムはスライムすらまともに倒せない。
危うく死にかけたティムは森の中をさまよっているうちにある隠しダンジョンを発見する。
『【煌世主の意志】を感知しました。EXスキル【オートスキップ】が覚醒します』
いきなり現れたウィンドウに驚きつつもティムは試しに【オートスキップ】を使ってみることに。
すると、いつの間にか自分のレベルが∞になって……。
これは、やがて【種族の支配者(キング・オブ・オーバーロード)】と呼ばれる男が、最弱の村人から最強種族の『半神』へと至り、世界を救ってしまうお話である。

伯爵夫人のお気に入り
つくも茄子
ファンタジー
プライド伯爵令嬢、ユースティティアは僅か二歳で大病を患い入院を余儀なくされた。悲しみにくれる伯爵夫人は、遠縁の少女を娘代わりに可愛がっていた。
数年後、全快した娘が屋敷に戻ってきた時。
喜ぶ伯爵夫人。
伯爵夫人を慕う少女。
静観する伯爵。
三者三様の想いが交差する。
歪な家族の形。
「この家族ごっこはいつまで続けるおつもりですか?お父様」
「お人形遊びはいい加減卒業なさってください、お母様」
「家族?いいえ、貴方は他所の子です」
ユースティティアは、そんな家族の形に呆れていた。
「可愛いあの子は、伯爵夫人のお気に入り」から「伯爵夫人のお気に入り」にタイトルを変更します。
アロマおたくは銀鷹卿の羽根の中。~召喚されたらいきなり血みどろになったけど、知識を生かして楽しく暮らします!
古森真朝
ファンタジー
大学生の理咲(りさ)はある日、同期生・星蘭(せいら)の巻き添えで異世界に転移させられる。その際の着地にミスって頭を打ち、いきなり流血沙汰という散々な目に遭った……が、その場に居合わせた騎士・ノルベルトに助けられ、どうにか事なきを得る。
怪我をした理咲の行動にいたく感心したという彼は、若くして近衛騎士隊を任される通称『銀鷹卿』。長身でガタイが良い上に銀髪蒼眼、整った容姿ながらやたらと威圧感のある彼だが、実は仲間想いで少々不器用、ついでに万年肩凝り頭痛持ちという、微笑ましい一面も持っていた。
世話になったお礼に、理咲の持ち込んだ趣味グッズでアロマテラピーをしたところ、何故か立ちどころに不調が癒えてしまう。その後に試したノルベルトの部下たちも同様で、ここに来て『じゃない方』の召喚者と思われた理咲の特技が判明することに。
『この世界、アロマテラピーがめっっっっちゃ効くんだけど!?!』
趣味で極めた一芸は、異世界での活路を切り開けるのか。ついでに何かと手を貸してくれつつ、そこそこ付き合いの長い知人たちもびっくりの溺愛を見せるノルベルトの想いは伝わるのか。その背景で渦巻く、王宮を巻き込んだ陰謀の行方は?

【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~
シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。
木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。
しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。
そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。
【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】

転生したら、伯爵家の嫡子で勝ち組!だけど脳内に神様ぽいのが囁いて、色々依頼する。これって異世界ブラック企業?それとも社畜?誰か助けて
ゆうた
ファンタジー
森の国編 ヴェルトゥール王国戦記
大学2年生の誠一は、大学生活をまったりと過ごしていた。
それが何の因果か、異世界に突然、転生してしまった。
生まれも育ちも恵まれた環境の伯爵家の嫡男に転生したから、
まったりのんびりライフを楽しもうとしていた。
しかし、なぜか脳に直接、神様ぽいのから、四六時中、依頼がくる。
無視すると、身体中がキリキリと痛むし、うるさいしで、依頼をこなす。
これって異世界ブラック企業?神様の社畜的な感じ?
依頼をこなしてると、いつの間か英雄扱いで、
いろんな所から依頼がひっきりなし舞い込む。
誰かこの悪循環、何とかして!
まったりどころか、ヘロヘロな毎日!誰か助けて
転生の水神様ーー使える魔法は水属性のみだが最強ですーー
芍薬甘草湯
ファンタジー
水道局職員が異世界に転生、水神様の加護を受けて活躍する異世界転生テンプレ的なストーリーです。
42歳のパッとしない水道局職員が死亡したのち水神様から加護を約束される。
下級貴族の三男ネロ=ヴァッサーに転生し12歳の祝福の儀で水神様に再会する。
約束通り祝福をもらったが使えるのは水属性魔法のみ。
それでもネロは水魔法を工夫しながら活躍していく。
一話当たりは短いです。
通勤通学の合間などにどうぞ。
あまり深く考えずに、気楽に読んでいただければ幸いです。
完結しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる