時刻、24:00:01

草牡丹

文字の大きさ
上 下
16 / 17

第16話 ”受肉”とは

しおりを挟む
 そうこうしているとガウラが戻ってきた。

「お、アーゲラ君もいるね。丁度いい。さっきはすまなかった。感情的になってしまったよ。」
 頭を下げたガウラにアーゲラが続く。

「私からも謝りたいことがあるんです。」
 アーゲラは椅子から立ち上がり、戻ってきたらガウラに向かってそう言った。

「ん?僕にかい?」
「はい。とはいえ、エノコとカルノーサにもなんですけれど。」
「ん?なんすか?」「え、なに?」
 3人とも思い当たる節がないそうだ。


 そんな3人とは対照的に神妙な面持ちのアーゲラが口を開いた。
「私は、ガウラさんを信じることができませんでした。エノコさんに諭されて尚、信じたくないと願ってしまいました。それが人を傷つける原因となりました。本当にすみませんでした。」
 深く頭を下げるアーゲラ。
 ガウラは、アーゲラの言葉の意味を理解するとともに、アーゲラの人となりを少しだけ理解した。

「なるほど、そう言うことか。司祭に憑いた怪異が自傷していた時のことだね?」
「はい。」
「あれは仕方のないないことだったと思うぞ。外から来て今日会ったばかりの男と親同然の人間。どちらの言葉を信じたいかは明らかだ。私だってそうしたかもしれない。むしろ僕の言葉に耳を傾けてくれたエノコちゃんがすごかったんだよ。だから、するべきは謝罪ではなく感謝だよ。」

 アーゲラはガウラの言葉に頷き、エノコに感謝する。
「エノコ、ありがとう。」
「どういたしまして。」
 エノコはにっこりと笑顔で返す。

「それを言うんなら自分方こそ不甲斐なかったっす。先生の思惑はわかってたっすから。でも何にもできなかったす。」
 それを言うならと話し始めたカルノーサは、申し訳なさそうにそう告げる。アーゲラ同様にもっとやれたのではないかという想いが胸につっかえていたようだ。
 申し訳なさそうに言ったカルノーサをガウラは、明るく慰める。

「そんなことはないさ、あの場は静観でいいと思うぞ。俺を助けたら部外者二人で余計怪しくなる。それより呼びかけに反応してよくエノコちゃんを助けた。」カルノーサの顔がパアっと明るくなった。

「それよりも、エノコちゃんに振りほどかれたのはいただけないなかったな。」
 ガウラは、カルノーサが笑顔になったのを見計らって冗談半分で毒づく。


「そ、それはそうっすね。エノコちゃんめっちゃ力強かったっす…」
「あれは、死んじゃうと思って。。。ご迷惑をおかけしました。」
 "じぶんだけじゃないっすよね!"とエノコに対して言い、エノコも申し訳なかったと伝える。二人はすでに冗談を言い合えるほどに仲良くなっていたようだ。

 冗談はさておきと、誰にだって間違いはあったのだからそこまで落ち込む必要はないとガウラは、アーゲラに伝える。
「まあ何はともあれ君だけのせいではない。私にも落ち度はあったさ。司祭に憑いた怪異を刺激してしまったしな。何度繰り返しても同じ決断をすると思えるなら、信念に合った決断だったと思えばいい。あまり気に病むことはない。アーゲラ、君は間違っていなかったぞ。」
「はい。ありがとうございます。」

慰めはしたもののアーゲラの表情が晴れたというわけではなかった。ガウラは、大変そうだなと思いつつ、そっとしておくことにした。
「ほかに何か聞きたいことがある人はいる?」


「あのそういえば、受肉ってよくあることなんですか?」
 エノコからの質問にガウラが答える。

 「受肉自体はそこまで珍しいものではない。ところで司祭、いつごろからなどは覚えていらっしゃいますか?」
「そうですねえ、おそらくですが、彼が7歳か8歳の時からだと思います。」
「え!、てことは8年以上も前のことなんですか?!」
 目を丸くして驚くガウラとカルノーサ。その反応に司祭は、自分の記憶を疑いながら話を続ける。

「ええ、おそらくは。彼が7歳か8歳の時に一度、怪異に襲われたのに傷一つ負わなかったことがあったんです。それから少しずつ体調を崩していたなと今になって思うので。おそらくはその辺りかと。」
「長いんですか?」ガウラの驚きようにエノコは恐る恐る尋ねる。
「長いっすね。」「ああ。あまり例をみない。正直初めて聞いた。2-3年ほどの長期間なのかとは考えていたがそこまで長いとはな。」
「そもそも怪異が人に憑く理由とは、親しい人間に成り代わることで無警戒な人間を襲いやすいというのがが主な理由になる。ほかにも人間であれば同じ人間からの警戒心が弱くなり、効率よく襲いやすくなるとか。まあ結果として不自然な行方不明は増えるから、通常1-2か月もあれば、情報は入ってくる。長くても2-3年とかなんだ。」

「ほかに類を見ない例なので司祭にもいろいろ聞かなければならないと思われます。ご同行を願うことになるので、その際はよろしくお願いします。」
自分の知見が浅いせいかは分からないが指示を仰ぐ必要はありそうだと考え、ガウラは司祭に同行の旨を伝え、司祭はそれを快諾した。
「ええ。わかりました。」

「ほかになにかある?司祭も何かありますか?子供たちも聞いてくれていいぞ?」
 皆の顔の見まわし、質問が無いことを確認したガウラは今後について話を始めた。

「それじゃ、これからやってもらうことを話す。」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

[恥辱]りみの強制おむつ生活

rei
大衆娯楽
中学三年生になる主人公倉持りみが集会中にお漏らしをしてしまい、おむつを当てられる。 保健室の先生におむつを当ててもらうようにお願い、クラスメイトの前でおむつ着用宣言、お漏らしで小学一年生へ落第など恥辱にあふれた作品です。

性転換マッサージ2

廣瀬純一
ファンタジー
性転換マッサージに通う夫婦の話

RUBBER LADY 屈辱の性奴隷調教

RUBBER LADY
ファンタジー
RUBBER LADYが活躍するストーリーの続編です

日本帝国陸海軍 混成異世界根拠地隊

北鴨梨
ファンタジー
太平洋戦争も終盤に近付いた1944(昭和19)年末、日本海軍が特攻作戦のため終結させた南方の小規模な空母機動部隊、北方の輸送兼対潜掃討部隊、小笠原増援輸送部隊が突如として消失し、異世界へ転移した。米軍相手には苦戦続きの彼らが、航空戦力と火力、機動力を生かして他を圧倒し、図らずも異世界最強の軍隊となってしまい、その情勢に大きく関わって引っ掻き回すことになる。

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

13歳女子は男友達のためヌードモデルになる

矢木羽研
青春
写真が趣味の男の子への「プレゼント」として、自らを被写体にする女の子の決意。「脱ぐ」までの過程の描写に力を入れました。裸体描写を含むのでR15にしましたが、性的な接触はありません。

勝負に勝ったので委員長におっぱいを見せてもらった

矢木羽研
青春
優等生の委員長と「勝ったほうが言うことを聞く」という賭けをしたので、「おっぱい見せて」と頼んでみたら……青春寸止めストーリー。

処理中です...