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第3話 黒夜2《コクヤ》
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怪異が飛び出てきた空間から、一人の男が飛び出して来た。その男は白を基調とした聖職服を身に纏っていた。
「ズザアァァッ」
同じ聖職服を纏う男、助けに来てくれたのだろうか。しかし、あんな惨劇を見てしまったのだ、ひとり増えたところで現状はなにも変わらないだろう。エノコは現れた男に叫んだ
「逃げて!それは、私たちにどうこうできる存在ではない!早く!!」
「ん?ああ、大丈夫っすよ。」
声に気づいた男がこちらを向いた。童顔の容姿としゃべり口調から同年代の少年だろうと思われる男からの回答は、あまりに拍子抜けする内容だった。何も知らないその少年には怒りすら覚える。
「あなた死にたいの?!いいから早く!!!」
「自分はむしろあいつを、、、」
怪異を指さした際にアーゲラの様子が目に映ったのだろうか。言葉を途中で切り、ものすごい勢いでアーゲラの元に近寄った。その速さは瞬間移動でもしたのかと思うほど早く、少年がその場を離れてから風が吹いた気がした。
少年はものすごい速さで移動し、怪異とアーゲラとの間に割って入った。
「大丈夫っすか?」
生きていることすら疑問に思うほどの重症を負っているように見えるのに、立ち上がっていることが、少年には純粋に疑問だった。
疑問に思うのは勝手だが、それを怪異がおとなしく待っていてくれるわけはないことは簡単に想像できる。怪異は腕を振り上げ、少年をめがけて振り下ろす。
「ゥゥゥワアオオ!」
「、、、にげ、ろ」
怪異の圧を感じたからかは不明だが、アーゲラは少年にそう告げた。
その声はもちろん少年に届いていた。届いてなお、少年はその場から離れる素振りを見せなかった。少年はこの期に及んでアーゲラから聞こえた声が、人を案ずるものだったことにただ驚き、「すごいっすね。」と口ずさんだ。
「早く逃げて!!!」
エノコも懸命に叫んだ。
「ドン。」
懸命に叫んだエノコの視界から少年とアーゲラの姿が消え、小さな鈍い音だけが胸を揺らした。エノコは恐る恐る頭を上げた。
そこには怪異の攻撃を目視すらせずに防ぐ少年が立っていた。
「うそ。。。」
土埃が上るわけでもなく、力と力がぶつかるような轟音を響かせるわけでもなかった。その光景は、少年を除く怪異を含めた全員にとって異様なものだった。怪異がもう一方の腕を振り下ろそうとしたときにはその巨体は宙を浮き、そのまま少年によって地面に叩きつけられた。
「ドーーン!」
激しく上がる土埃と轟音が鳴り響いた。
怪異は立ち上がりこそしたが、その表情は明らかに変わり、恐れを抱いているように見える。少年は、怪異に近づきながらその姿を凝視する、怪異は距離を取るために後ずさる。
少年が「逃がさないっす。」と一言呟いたのち、体勢を整え、拳を構えながら詠唱を始めた。
『力を受け継ぐは己にあらず、力を受け継ぐは意志にあり。…』全身を橙色のオーラのようなものが纏った。
怪異の表情が明らかに変わり、体を反転して逃げ出した。それを予期していたのか、男は地面を蹴って走り出し、怪異の正面に回り続く詠唱をする。
『…脚に宿れ可憐の滾り、拳に宿れ破壊の衝動…』全身を包んだ橙色のオーラが右の拳に集約される。
怪異は自分の死期を悟ったのか「グゥウワアアアア!!」と雄たけびを上げながら男を目掛けて両腕を振り下ろした。
「無駄」
男はそう言い拳を構え、拳を怪異の胸を目掛けて突き出した。
『破衝撃!』
「ボォォォォン!」
大きな音とともに怪異の胸を大きく貫通し、怪異は断末魔を上げながら霧散した。
余りにも圧倒的な力の差に、浮かんだ疑問をかき分けるように実感が湧き、少ししてからエノコはようやく安堵した。
「よ、よかった。」
「バタンッ」
怪異が倒れたことに安堵したのか、アーゲラは糸が切れたようにその場に倒れこんでしまった。
エノコはすぐさまアーゲラの元に駆け寄る。
「アーゲラ!!」
微かに聞こえる呼吸音に安堵し、エノコは意識のないアーゲラを町へと運んだ。
「ズザアァァッ」
同じ聖職服を纏う男、助けに来てくれたのだろうか。しかし、あんな惨劇を見てしまったのだ、ひとり増えたところで現状はなにも変わらないだろう。エノコは現れた男に叫んだ
「逃げて!それは、私たちにどうこうできる存在ではない!早く!!」
「ん?ああ、大丈夫っすよ。」
声に気づいた男がこちらを向いた。童顔の容姿としゃべり口調から同年代の少年だろうと思われる男からの回答は、あまりに拍子抜けする内容だった。何も知らないその少年には怒りすら覚える。
「あなた死にたいの?!いいから早く!!!」
「自分はむしろあいつを、、、」
怪異を指さした際にアーゲラの様子が目に映ったのだろうか。言葉を途中で切り、ものすごい勢いでアーゲラの元に近寄った。その速さは瞬間移動でもしたのかと思うほど早く、少年がその場を離れてから風が吹いた気がした。
少年はものすごい速さで移動し、怪異とアーゲラとの間に割って入った。
「大丈夫っすか?」
生きていることすら疑問に思うほどの重症を負っているように見えるのに、立ち上がっていることが、少年には純粋に疑問だった。
疑問に思うのは勝手だが、それを怪異がおとなしく待っていてくれるわけはないことは簡単に想像できる。怪異は腕を振り上げ、少年をめがけて振り下ろす。
「ゥゥゥワアオオ!」
「、、、にげ、ろ」
怪異の圧を感じたからかは不明だが、アーゲラは少年にそう告げた。
その声はもちろん少年に届いていた。届いてなお、少年はその場から離れる素振りを見せなかった。少年はこの期に及んでアーゲラから聞こえた声が、人を案ずるものだったことにただ驚き、「すごいっすね。」と口ずさんだ。
「早く逃げて!!!」
エノコも懸命に叫んだ。
「ドン。」
懸命に叫んだエノコの視界から少年とアーゲラの姿が消え、小さな鈍い音だけが胸を揺らした。エノコは恐る恐る頭を上げた。
そこには怪異の攻撃を目視すらせずに防ぐ少年が立っていた。
「うそ。。。」
土埃が上るわけでもなく、力と力がぶつかるような轟音を響かせるわけでもなかった。その光景は、少年を除く怪異を含めた全員にとって異様なものだった。怪異がもう一方の腕を振り下ろそうとしたときにはその巨体は宙を浮き、そのまま少年によって地面に叩きつけられた。
「ドーーン!」
激しく上がる土埃と轟音が鳴り響いた。
怪異は立ち上がりこそしたが、その表情は明らかに変わり、恐れを抱いているように見える。少年は、怪異に近づきながらその姿を凝視する、怪異は距離を取るために後ずさる。
少年が「逃がさないっす。」と一言呟いたのち、体勢を整え、拳を構えながら詠唱を始めた。
『力を受け継ぐは己にあらず、力を受け継ぐは意志にあり。…』全身を橙色のオーラのようなものが纏った。
怪異の表情が明らかに変わり、体を反転して逃げ出した。それを予期していたのか、男は地面を蹴って走り出し、怪異の正面に回り続く詠唱をする。
『…脚に宿れ可憐の滾り、拳に宿れ破壊の衝動…』全身を包んだ橙色のオーラが右の拳に集約される。
怪異は自分の死期を悟ったのか「グゥウワアアアア!!」と雄たけびを上げながら男を目掛けて両腕を振り下ろした。
「無駄」
男はそう言い拳を構え、拳を怪異の胸を目掛けて突き出した。
『破衝撃!』
「ボォォォォン!」
大きな音とともに怪異の胸を大きく貫通し、怪異は断末魔を上げながら霧散した。
余りにも圧倒的な力の差に、浮かんだ疑問をかき分けるように実感が湧き、少ししてからエノコはようやく安堵した。
「よ、よかった。」
「バタンッ」
怪異が倒れたことに安堵したのか、アーゲラは糸が切れたようにその場に倒れこんでしまった。
エノコはすぐさまアーゲラの元に駆け寄る。
「アーゲラ!!」
微かに聞こえる呼吸音に安堵し、エノコは意識のないアーゲラを町へと運んだ。
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