上 下
16 / 22

窮地、そして……

しおりを挟む
戦いが始まり。

各地ではグラート魔王国とルイン魔王国の兵士の波がぶつかり合っている。

正輝とアズベラのところも例に漏れず、激しい攻防戦を繰り広げていた。

「あら!、中々やるじゃない!」

「ちっ、くそ!」

アズベラは余裕そうな様子だが正輝はついていくので精一杯だった。

エクスカリバーで爪による攻撃を弾いて一旦距離を取る。

「はあ…はあ…」

「もう終わりかしら」

正輝は信じられなかった。

自分のステータスはレベル上げによって全部2000近くある。

それなのに目の前の敵は自分の剣撃を爪で防ぎ、さらに重い一撃を放ってくる。

「どうやら私があなたと互角以上に戦えているのが不思議なようね」

「……」

正輝は否定しなかった。

実際に自分はアズベラに押し負けている。

「そんなに知りたいなら教えてあげるわ。簡単な話で、私のステータスがあなたより上だからよ」

衝撃だった。

ここまでレベルを上げてもステータスで勝てない奴がいるなんて。

「ついでに言えば、私のステータスは全て3000を超えているわ」

「な!?」

高すぎるステータスに正輝は驚愕する。

「これでわかったかしら?」

「何がだ?」

「あなたが私に絶対に勝てないと言うことを」

「…たしかにステータスでは負けてるかもしれないが、それ以外では話は別だ」

そう言って正輝はエクスカリバーに魔力を通す。

するとエクスカリバーの刃は青色のオーラのようなものを纏った。

「行くぞ!」

正輝は地面を思いっきり踏んでアズベラへと突っ込む。

「青くなったからなんだって言うのよ!」

アズベラは迎撃しようとする。

だがそれは失敗に終わり、アズベラの爪はエクスカリバーによって切り裂かれた。

「なに!?」

「ふっ!」

正輝の横なぎの追撃をアズベラは後ろに跳んでかわすが、今度は跳んだ先で背中を斬られた。

「ぐぅ!?」

アズベラは背中を斬られて前の方へとよろけるがそこにはすでに上段に構えた正輝がおり、すでに振り下ろしていた。

「ちぃ!」

アズベラは横に跳んでかわすことによりなんとか攻撃から逃れたが正輝の謎の攻撃については何もわからなかった。

「随分と面白い手品を使うじゃない。どんな仕掛けなのかしら?」

「お前に言うつもりはない」

急にアズベラの爪を斬り裂く。

先ほど起きた謎の剣撃。

これこそが正輝の『アナザースキル』と『異界具』の能力だった。

『アナザースキル』・『斬撃領域』

自分が使った剣や刃物が起こした斬撃を範囲内の好きなところに発生させることができる。

『異界具』・『エクスカリバー』

魔力を通すことで万物を斬れるようになり、さらに一振りで最大で10本の斬撃を生み出すことができる。

そして斬撃領域には剣の能力が斬撃にも付与される。

この二つを使って正輝はさっきの現象を起こした。

だが話している間にもだんだんとアズベラのさっき斬られたところが治っている。

持久戦は不利だと考えた正輝は再度距離を詰めようとする。

近距離での戦闘は不利だと判断したのか、アズベラはそれを自身の背後に水魔法で発生させた水球を飛ばして迎撃する。

正輝はそれを斬って全て防ぐ。

距離を詰め、アズベラに近づいた正輝はエクスカリバーをアズベラの首目掛けて振る。

「くらえぇ!!」

だが正輝の攻撃は届かず、アズベラがあらかじめ地面で待機させていた水魔法の水柱をモロにくらい打ち上げられる。

「ぐっ!」

「あら、残念だったわねぇ」

「まだまだ!」

再度アズベラへと向かっていくがその全てがさっきと同じような形で失敗に終わってしまう。

(攻撃したくても、水柱が出てくるタイミングがわからない!)

しかも何故か、アズベラは水柱で打ち上げたあと追撃をせずにその場で立っている。

怪しいことこの上ない。

『斬撃領域』で攻撃する方法もあるがまだ使いこなせてなくて、距離が遠くなるほど発生させる位置の精度が著しく低くなる。

本来の射程は自分を中心に15mだが、今使える範囲は精々2mだった。

(くそ!、どうすれば…)

バン!バン!

正輝が考えていると後ろから銃声が聞こえ、銃弾がアズベラを攻撃したが、アズベラが出した水の盾によって防がれてしまった。

「桐生!大丈夫か!?加勢に来たぞ!」

近嵐ちからし君か!助かる!」

今加勢に来た彼の名前は近嵐ちからしれん

『異界具』は『タスラム』

二丁拳銃のリボルバーの形をした『異界具』で、様々な効果を持った弾丸を撃つことができる。

そして『アナザースキル』は『先見眼』

動体視力がとてつもなく高くなり、さらに3秒先の未来も見えるようになる。

この場に適任の人が加勢に来てくれたと考えていいだろう。

「近嵐君、あいつは水魔法を使ってくる。近づこうにもどこに迎撃用の魔法が仕掛けられてるかわからない」

「『魔力察知』でわからなかったのか?」

「試してみたがダメだった。多分、何かしらのスキルを使って存在を隠してるんだと思う」

「てことは俺が攻撃したほうがいいってことか」

「ああ、俺は防御に専念する」

「わかった、攻撃は任せろ」

アズベラの情報を共有したあと、正輝は錬の前に出る。

「作戦会議は終わりかしら?」

「近嵐君、行くぞ!」

「おう!」

今度は2対1での戦いが始まる

それでもアズベラには攻撃がいまだに届かない。

むしろさっきより防御が固くなっている。

だが正輝が防御にまわり、錬が攻撃にまわって役割を分担することによって一進一退の攻防が繰り広げられていた。

飛んでくる水球を正輝が斬り、水飛沫みずしぶきが飛び散る。

「そろそろかしら」

「?、一体何のこと…」

正輝が聞こうとした瞬間、アズベラがパチンと指を鳴らした直後に一気に体が重くなる。

立てないぐらいなら重くなり倒れてしまう。

それは錬も同じだった。

「やっと準備が整ったわ」

「一体…何をした……」

「ふふ、冥土の土産に教えてあげるわ。これは魔王様より授かりし『カーススキル』、『鋼化こうか』の能力。範囲内の液体を金属に変えることができるのよ。血は無理なのだけれどね。あなた達の体が重いのも服に染み込んだ水が金属になったからよ」

「そう…いう……ことか…」

「まあ、今更知ったってどうせ無駄なんだから」

アズベラは水魔法で水の槍を二本作り出す。

「少しは楽しかったわよ、じゃあね」

水の槍が正輝と錬に目掛けて飛んでいき、当たると思った瞬間、白く輝く防壁によって防がれた。

「桐生君!大丈夫!?」

「かなみ…や…さん」

どうやらさっきの防壁は葵の『守護聖域』のようだ。

だが助かったと思うと同時に正輝はあることに気づいた。

体が重くない。

まだ濡れているが軽くなっている。

「これは……」

「なっ!?」

正輝が驚きながらも立ち上がるとそれを見たアズベラが驚いていた。

「なんで元に戻っているのよ!……まさか、あの結界は『カーススキル』を無効化できるというの!?」

『アナザースキル』・『守護聖域』

ドーム状の聖域を展開でき、その内側では味方に葵の回復魔法、支援魔法の効果を与えることができる。

だが本当はもう一つ能力があり、聖域の内側限定で『カーススキル』の効果を無効化できるのだが、これは使う機会が無かったので誰も気付けなかった。

『異界具』・『アスクレピオスの杖』

葵の魔法の威力、効果を2倍にするが、その中でも回復魔法、支援魔法は効果が10倍になる。

「もしそうだとしたら厄介ね。なんとしてでもここで始末しておかないと」

「そんなことさせると思ってるのか?」

アズベラが警戒をあらわにするがクラスメイト全員がすでにその場に集まっている。

「あらあら、随分と集まったわね」

「ルイン魔王国の兵士は全員倒した!もうお前に勝ち目はないぞ!」

「それはどうかしら?」

アズベラがそう言った瞬間ポツポツと雨が降ってきた。

「痛!」

クラスメイトの誰かがそう言ったので見てみると雨が当たった肌が少し火傷を負っていた。

段々と火傷を負う人が増えてきて、痛みに苦しむ声が聞こえてくる。

「まずい!神宮さん、みんなに『守護聖域』を!」

「う、うん!」

葵が『守護聖域』を使うと、雨が防がれたことにより火傷を負う人はいなくなった。

不思議なことに雨はクラスメイトの周りでしか降っておらずアズベラのところには降っていない。

聖域の中で葵が『守護聖域』の能力で火傷を負った人の治療を始めると、誰かが空から飛んできてアズベラの隣に降りた。

「遅いじゃないのスピラ」

「これでも急いできた。アズベラが急ぎ過ぎなだけ」

来たのは肌の色が白く、アズベラに比べたら大きな悪魔の翼を持つ紫色のゴスロリ服を着た少女だった。

「で、なにこれ?」

「敵よ。確実に始末したいからあなたも手を貸して」

「なんで?」

「『カーススキル』を無効化できる奴がいるかもしれないのよ」

「……それは聞き捨てならない。わかった、手伝う」

スピラと呼ばれた少女がそう言うと雨の範囲が狭くなり集中豪雨のようになった。

「アズベラ、あとは任せる」

「わかったわ」

アズベラがそう言いクラスメイトのところに降る雨に手を向けると雨の一粒一粒が金属になり結界へと降り注ぐ。

『守護聖域』は外側からの魔法攻撃には強いが、物理攻撃には弱いという弱点がある。

今は葵がなんとか持ち堪えているがいつまで持つかわからない。

すでに玉のような汗が額に浮かんでおり、見ただけで辛いのがわかる。

「しぶといわねえ」

「早く終わって」

無情にもスピラがさらに雨を強くし、それによってアズベラの鉄の礫も増える。

葵は満身創痍ながらも聖域を維持するが、あと数秒しか保たないだろう。

本人もそれはわかっていた。

でも、諦めることなんて出来なかった。

理由はただ一つ。

まだ蒼矢を見つけれてないから。

もうこの世にはいないかもしれない。

それならここで死ぬばあの世で会えるかもしれない。

でも、もしまだ生きているのなら。

最後に、もう一度だけ会いたい。

そして

もう後悔しないように。

想いを伝えたい。

結界にヒビが入り始める。

亀裂がだんだんと全体に広がっていく。

もう持たないだろう。

思考が働かない頭で考えるのは蒼矢のことだった。

「…蒼矢君……」

気づけば口が勝手に動いていた。

そして亀裂が全体に広がった直後。

結界が破壊され鉄の礫がクラスメイト全員に降り注く。

「助けて……!」

葵はそう言い、これから来るであろう衝撃に備えて、頭を抱えてうずくまった。



……

………

時間が経っても何も来なかった。

衝撃どころか、痛みも、鉄の礫が地面に落ちる音すらも無かった。

葵は頭を上げてみた。

するとそこには自分と同い年くらいの少年と小さな獣人の少女がいた。

だけど葵はその少年のことを知っている。

ダンジョンで会えなくなってから。

ずっと探していた。

ずっと待っていた。

この時が来るのを。

誰よりも待ちわびていた。

「……あんた誰よ?」

「もう少しで終わったのに」

アズベラとスピラが警戒と同時に不快感をあらわにして聞いてくる。

何者か聞かれた少年はアズベラとスピラの方を向いてこう言った。

「日比谷蒼矢」

葵の想い人が、戻ってきた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

平和国家異世界へ―日本の受難―

あずき
ファンタジー
平和国家、日本。 東アジアの島国であるこの国は、厳しさを増す安全保障環境に対応するため、 政府は戦闘機搭載型護衛艦、DDV-712「しなの」を開発した。 「しなの」は第八護衛隊群に配属され、領海の警備を行なうことに。 それから数年後の2035年、8月。 日本は異世界に転移した。 帝国主義のはびこるこの世界で、日本は生き残れるのか。 総勢1200億人を抱えた国家サバイバルが今、始まる―― 何番煎じ蚊もわからない日本転移小説です。 質問などは感想に書いていただけると、返信します。 毎日投稿します。

GAME CHANGER 日本帝国1945からの逆襲

俊也
歴史・時代
時は1945年3月、敗色濃厚の日本軍。 今まさに沖縄に侵攻せんとする圧倒的戦力のアメリカ陸海軍を前に、日本の指導者達は若者達による航空機の自爆攻撃…特攻 で事態を打開しようとしていた。 「バカかお前ら、本当に戦争に勝つ気があるのか!?」 その男はただの学徒兵にも関わらず、平然とそう言い放ち特攻出撃を拒否した。 当初は困惑し怒り狂う日本海軍上層部であったが…!? 姉妹作「新訳 零戦戦記」共々宜しくお願い致します。 共に 第8回歴史時代小説参加しました!

異世界でスローライフを満喫

美鈴
ファンタジー
タイトル通り異世界に行った主人公が異世界でスローライフを満喫…。出来たらいいなというお話です! ※カクヨム様にも投稿しております ※イラストはAIアートイラストを使用

四大精霊の愛し子 ~自慢の家族はドラゴン・テディベア・もふもふ犬!~

羽廣乃栄 Hanehiro Noë
ファンタジー
 周囲から『変な子』扱いされて、両親からも関心を示されず、『家族』に期待をすることを止めた少女。大学入学前にひとりで帰国し、大切な祖父のお墓参りで登山したら、四つの月の輝く世界へ召喚されてしまう。  パニック起こした白竜に連れ去られるわ、地球で心の支えだったテディベアは死んだ魔法使いに憑依されるわ、凶暴な猫に騙されて従魔契約を結んでしまうわ、夢見た『家族』は出来上がっていくけど、なんかチガウ! 神殿の魔導士たちは追い掛けてくるし、竜騎士たちは勝手に動き回っているし、精霊に見放された国の天候はおかしい。  そんな天災人災、丸っと踏み越えて、『普通じゃない』を光の柱で天井ぶち抜いて、人外の『家族』と理想のもふもふ・もきゅもきゅ竜パラダイスを目指します。

ちょっと神様!私もうステータス調整されてるんですが!!

べちてん
ファンタジー
アニメ、マンガ、ラノベに小説好きの典型的な陰キャ高校生の西園千成はある日河川敷に花見に来ていた。人混みに酔い、体調が悪くなったので少し離れた路地で休憩していたらいつの間にか神域に迷い込んでしまっていた!!もう元居た世界には戻れないとのことなので魔法の世界へ転移することに。申し訳ないとか何とかでステータスを古龍の半分にしてもらったのだが、別の神様がそれを知らずに私のステータスをそこからさらに2倍にしてしまった!ちょっと神様!もうステータス調整されてるんですが!!

奴隷身分ゆえ騎士団に殺された俺は、自分だけが発見した【炎氷魔法】で無双する 〜自分が受けた痛みは倍返しする〜

ファンタスティック小説家
ファンタジー
 リクは『不死鳥騎士団』の雑用係だった。仕事ができて、真面目で、愛想もよく、町娘にも人気の好青年だ。しかし、その過去は奴隷あがりの身分であり、彼の人気が増すことを騎士団の多くはよく思わなかった。リクへのイジメは加速していき、ついには理不尽極まりない仕打ちのすえに、彼は唯一の相棒もろとも団員に惨殺されてしまう。  次に目が覚めた時、リクは別人に生まれ変わっていた。どうやら彼の相棒──虹色のフクロウは不死鳥のチカラをもった女神だったらしく、リクを同じ時代の別の器に魂を転生させたのだという。 「今度こそ幸せになってくださいね」  それでも復讐せずにいられない。リクは新しい人間──ヘンドリック浮雲として、自分をおとしいれ虐げてきた者たちに同じ痛みを味合わせるために辺境の土地で牙を研ぎはじめた。同時に、その過程で彼は復讐以外の多くの幸せをみつけていく。  これは新しい人生で幸せを見つけ、一方で騎士団を追い詰めていいく男の、報復と正義と成り上がりの物語──

彼はもう終わりです。

豆狸
恋愛
悪夢は、終わらせなくてはいけません。

処理中です...