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第1話 魔王の初めてのお仕事
1-4 運命を変える日
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全身の傷が癒えたイネスは元気を取り戻し、安堵している様子だった。
「魔王様やシエラ様はとても優しいお方だったのですね! 今までは大陸を掌握するために強大な力で無差別に人間を殺し続ける怖い人だなあ、と思っていました」
その質問に対して、シエラがわざと嘘を付いてくれた。
「それは昔の暴れまわっていた魔王様ですよ。私の隣にいらっしゃいます魔王様は王位継承されて本日から私達を導いてくれました。とても心が温かい素敵な新しい魔王様です」
「そうなんですか! だから私や勇者を殺さず、私の命を救ってくれたのですね。新しい魔王様、本当にありがとうございます」
イネスが感謝すると、シエラが微笑みながら俺を見つめていた。イネスが混乱しないように、新しい魔王という設定で話を進めて欲しいようだ。
「そうだよ、俺は先代の魔王のように悲劇を生むような戦いはしたくない。新しい魔王として大陸全体に平和を与えられるような仕事がしたいんだ」
イネスは瞳を宝石のように輝かせていた。もう死の恐怖から怯えなくていいんだ、という歓喜の声が聞こえてきそうだった。
「さすが魔王様! ご立派ですね!」
「いやいや、俺はまだ就任初日だから分からないことだらけで何も進んでいないよ。全然立派じゃないよ」
「魔王様ならできますよ! だって私を全身全霊で救って頂いたのですから、思いやりの心の力で大陸全土に平和を与えられると思いますよ! 申し訳ございません、下っ端が調子に乗りすぎました」
「ありがとう、イネス。期待に応えられるように頑張ってみるよ」
幸福感に浸っているイネスから励まされた。俺はイネスのように困っている住人を救わないといけないと覚悟を決めた。魔王という最強の職業に異世界転生したからには必ず成果を上げなければ、と自分自身を奮い立たせた。
イネスと無事に打ち解けて、そろそろ城内に帰ろうと思ったとき、俺は大事なことをシエラに聞き忘れていた。大量の血で汚れているイネスの服を着替えさせないと!
「シエラ、俺の城には人間用の服は用意されているか? 今すぐイネスの着替えは用意できるか?」
「もちろんございますよ。イネスさんの好みの白色のドレスもあったと思います」
「じゃあ早速、俺達をワープしてくれ。清潔で綺麗な服に着替えさせたい」
「承知しました。少々お待ち下さい」
シエラは真剣な表情に切り替わり空間転移の魔法を唱えようとしたとき、感動して大量の涙を流しているイネスは俺達に深々と頭を下げた。
「魔王様、シエラ様、私のために何から何まで、ありがとうございます」
「俺達は当たり前のことをやっただけだよ。突然どうしたんだ?」
「本当に新しい魔王様はお優しいです。こんなに優しくしてくれたのは初めてです」
「そうか、辛かったんだな」
「はい、……」
俺は頭を優しく撫でて号泣しているイネスを落ち着かせようとしたが、一向に泣き止んでくれなかった。イネスは様々な不幸な経験をして苦しんでいたんだな。俺はシエラに「ワープを開始してくれ」と小声で指示すると、シエラは小さく頷いてから「スペーステレポーション」と独り言のように唱えた。
3人は白い霧に包まれ、大勢の部下が膝をついて座っていた広間に到着していた。俺は玉座に深々と腰掛け、シエラは俺の左隣で綺麗な姿勢で起立していた。部下は「おかえりなさいませ」と一斉に挨拶してくれた。
だが広間にはさっきまで一緒にいたイネスの姿がどこにも見当たらなかった。もしかして俺達は幻想を見ていたのか? 凛々しい表情で部下を見つめているシエラに「イネスはどこに行った?」と尋ねると、にっこりしながら「これから紹介しますよ」と答えた。
するとシエラは広間の扉に向かって「お入りなさい!」と優しい声で叫びだした。扉が開かれると高級なウールの白色のドレスを着用していた少女が広間に入ってきた。銀色に美麗に輝くショートヘアー、瑠璃色の透き通った瞳、身長が150センチでCカップの体型のイネスであった。
シエラはイネスに駆け寄り、手を繋ぎながら赤い絨毯を2人で歩きだした。2人は遠慮がない純粋な笑顔の可愛らしい表情をしていた。そして2人は俺の目の前に近づくと、シエラは俺に質問した。
「魔王様、イネス様のお着替えが終わりました。このような服装でよろしいでしょうか?」
なぜイネスの服装を俺が決める必要があるのか? 部下の服を選ぶのも先代の魔王の仕事なのか? これは彼女自身が決める問題だ。
「イネスはこの服はどう思う? 嫌なら嫌と言ってほしい。俺はとても似合っていると思うよ」
するとイネスは弾けるような満面の笑みで明るく答えた。
「とても嬉しいです! こんなに可憐なドレスを着たのは初めてです」
「それなら良かった。イネスが好きなら、これでいいと思うよ」
「ありがとうございます。大切にします」
イネスは俺の目の前で喜びながら跳ねていると、俺の左隣に移動したシエラが俺の耳に小声で話した。
「魔王様、イネスさんにはどのような役職に就任させますか?」
だが魔族について知識不足の俺にはイネスの役職を決めることができない。シエラに「シエラが決めてくれ」と答えると、「私ではなく魔王様が決めてくれた役職ならイネス様は喜ぶと思いますよ」と明るく返答した。
頭の中を何度も捻りながら考えた。イネスにとって相応しい役職とは何か? そもそも俺にはどのような部下がいるのか?
「シエラ、俺にヒントを教えてくれ。俺はどのような部下を従えているだ?」
「広間に集まっております上級階級の役職だけ偉い順に申し上げます。姫騎士、最高軍事司令官、そして接近戦部門と後方支援部門と魔法部門の部門別の司令官、大隊長、中隊長、小隊長、教育長となります」
「俺の秘書や従士長はいないのか?」
「姫騎士である私が兼任しております。先代の魔王様は戦闘に関わる役職だけ与えたため、この魔王城には非戦闘要員のメイド長や料理長、そして秘書や従士長という役職は一切ございません」
「なんかおかしい魔王だな」
「先代の魔王様は大陸全土を支配することだけを考えていましたので、戦いに関わる魔族だけが偉いという結果になってしまいました」
非戦闘要員にも立派な役職を与えて士気を高める工夫をしないとなあ、と今後について考えながらイネスの役職を思いついた。
「イネスを魔王補佐官として働いてもらうのはどうか? シエラとイネスと俺で平和な世界を築きたい」
「良い判断だと思いますよ。では魔王様から発表してください」
「分かった」
俺は深呼吸をついてから玉座から立ち上がると、目の前にいる全ての部下や左隣にいるシエラが一斉に最敬礼した。
「みんな、今日から新しい仲間である、魔王補佐官のイネスを迎えることになった。イネスには新体制に向けて俺の側近として働いて貰いたいと思う。どうか不慣れなイネスを温かく見守って欲しい。どうぞよろしく」
イネスは広間に集まっている部下に頭を下げると惜しみない拍手で迎えられた。なんとかイネスを仲間として認められて良かった。
それから報告が終わった俺達はシエラの空間転移の魔法で俺の自室に移動した。全面が白色の大理石で埋め尽くされており、シルク素材の黒色の絨毯と高級な木材で組み立てられた黒色のダブルベットが敷かれていた。
そして疲れ果てた俺達は3人で抱き合いながら同じベッドで熟睡した。
だが俺は眠れなかった。俺はどうしてもシエラに本音を聞きたいことがあった。俺の左隣でイネスが安心している様子で寝ていることを確認すると、右隣でまだ寝ていないシエラに小声で話しかけた。
「シエラ、俺に無理していないか? 本当は先代の魔王のことが俺よりも好きなんだろう?」
するとシエラは俺の全身を優しく抱きつきながら笑みを浮かべていた。シエラの体温が俺の体を癒やしてくれた。
「私は今の魔王様のほうが大好きですよ。先代の魔王様は私のことを気にかけず、戦争で圧勝することだけを考えていました。でも貴方様は私のことを心から愛してくださって、平和のために立ち上がってくれました。私は貴方様のために輝かしい目的のために命を尽くしたいと思います。これからも貴方様のためなら何でもやりますので、よろしくお願いしますね」
「こちらこそよろしく、シエラ」
シエラは俺を抱きしめながら眩しい笑顔を見せてくれた。
「魔王様、おやすみなさい。いい夢を」
「魔王様やシエラ様はとても優しいお方だったのですね! 今までは大陸を掌握するために強大な力で無差別に人間を殺し続ける怖い人だなあ、と思っていました」
その質問に対して、シエラがわざと嘘を付いてくれた。
「それは昔の暴れまわっていた魔王様ですよ。私の隣にいらっしゃいます魔王様は王位継承されて本日から私達を導いてくれました。とても心が温かい素敵な新しい魔王様です」
「そうなんですか! だから私や勇者を殺さず、私の命を救ってくれたのですね。新しい魔王様、本当にありがとうございます」
イネスが感謝すると、シエラが微笑みながら俺を見つめていた。イネスが混乱しないように、新しい魔王という設定で話を進めて欲しいようだ。
「そうだよ、俺は先代の魔王のように悲劇を生むような戦いはしたくない。新しい魔王として大陸全体に平和を与えられるような仕事がしたいんだ」
イネスは瞳を宝石のように輝かせていた。もう死の恐怖から怯えなくていいんだ、という歓喜の声が聞こえてきそうだった。
「さすが魔王様! ご立派ですね!」
「いやいや、俺はまだ就任初日だから分からないことだらけで何も進んでいないよ。全然立派じゃないよ」
「魔王様ならできますよ! だって私を全身全霊で救って頂いたのですから、思いやりの心の力で大陸全土に平和を与えられると思いますよ! 申し訳ございません、下っ端が調子に乗りすぎました」
「ありがとう、イネス。期待に応えられるように頑張ってみるよ」
幸福感に浸っているイネスから励まされた。俺はイネスのように困っている住人を救わないといけないと覚悟を決めた。魔王という最強の職業に異世界転生したからには必ず成果を上げなければ、と自分自身を奮い立たせた。
イネスと無事に打ち解けて、そろそろ城内に帰ろうと思ったとき、俺は大事なことをシエラに聞き忘れていた。大量の血で汚れているイネスの服を着替えさせないと!
「シエラ、俺の城には人間用の服は用意されているか? 今すぐイネスの着替えは用意できるか?」
「もちろんございますよ。イネスさんの好みの白色のドレスもあったと思います」
「じゃあ早速、俺達をワープしてくれ。清潔で綺麗な服に着替えさせたい」
「承知しました。少々お待ち下さい」
シエラは真剣な表情に切り替わり空間転移の魔法を唱えようとしたとき、感動して大量の涙を流しているイネスは俺達に深々と頭を下げた。
「魔王様、シエラ様、私のために何から何まで、ありがとうございます」
「俺達は当たり前のことをやっただけだよ。突然どうしたんだ?」
「本当に新しい魔王様はお優しいです。こんなに優しくしてくれたのは初めてです」
「そうか、辛かったんだな」
「はい、……」
俺は頭を優しく撫でて号泣しているイネスを落ち着かせようとしたが、一向に泣き止んでくれなかった。イネスは様々な不幸な経験をして苦しんでいたんだな。俺はシエラに「ワープを開始してくれ」と小声で指示すると、シエラは小さく頷いてから「スペーステレポーション」と独り言のように唱えた。
3人は白い霧に包まれ、大勢の部下が膝をついて座っていた広間に到着していた。俺は玉座に深々と腰掛け、シエラは俺の左隣で綺麗な姿勢で起立していた。部下は「おかえりなさいませ」と一斉に挨拶してくれた。
だが広間にはさっきまで一緒にいたイネスの姿がどこにも見当たらなかった。もしかして俺達は幻想を見ていたのか? 凛々しい表情で部下を見つめているシエラに「イネスはどこに行った?」と尋ねると、にっこりしながら「これから紹介しますよ」と答えた。
するとシエラは広間の扉に向かって「お入りなさい!」と優しい声で叫びだした。扉が開かれると高級なウールの白色のドレスを着用していた少女が広間に入ってきた。銀色に美麗に輝くショートヘアー、瑠璃色の透き通った瞳、身長が150センチでCカップの体型のイネスであった。
シエラはイネスに駆け寄り、手を繋ぎながら赤い絨毯を2人で歩きだした。2人は遠慮がない純粋な笑顔の可愛らしい表情をしていた。そして2人は俺の目の前に近づくと、シエラは俺に質問した。
「魔王様、イネス様のお着替えが終わりました。このような服装でよろしいでしょうか?」
なぜイネスの服装を俺が決める必要があるのか? 部下の服を選ぶのも先代の魔王の仕事なのか? これは彼女自身が決める問題だ。
「イネスはこの服はどう思う? 嫌なら嫌と言ってほしい。俺はとても似合っていると思うよ」
するとイネスは弾けるような満面の笑みで明るく答えた。
「とても嬉しいです! こんなに可憐なドレスを着たのは初めてです」
「それなら良かった。イネスが好きなら、これでいいと思うよ」
「ありがとうございます。大切にします」
イネスは俺の目の前で喜びながら跳ねていると、俺の左隣に移動したシエラが俺の耳に小声で話した。
「魔王様、イネスさんにはどのような役職に就任させますか?」
だが魔族について知識不足の俺にはイネスの役職を決めることができない。シエラに「シエラが決めてくれ」と答えると、「私ではなく魔王様が決めてくれた役職ならイネス様は喜ぶと思いますよ」と明るく返答した。
頭の中を何度も捻りながら考えた。イネスにとって相応しい役職とは何か? そもそも俺にはどのような部下がいるのか?
「シエラ、俺にヒントを教えてくれ。俺はどのような部下を従えているだ?」
「広間に集まっております上級階級の役職だけ偉い順に申し上げます。姫騎士、最高軍事司令官、そして接近戦部門と後方支援部門と魔法部門の部門別の司令官、大隊長、中隊長、小隊長、教育長となります」
「俺の秘書や従士長はいないのか?」
「姫騎士である私が兼任しております。先代の魔王様は戦闘に関わる役職だけ与えたため、この魔王城には非戦闘要員のメイド長や料理長、そして秘書や従士長という役職は一切ございません」
「なんかおかしい魔王だな」
「先代の魔王様は大陸全土を支配することだけを考えていましたので、戦いに関わる魔族だけが偉いという結果になってしまいました」
非戦闘要員にも立派な役職を与えて士気を高める工夫をしないとなあ、と今後について考えながらイネスの役職を思いついた。
「イネスを魔王補佐官として働いてもらうのはどうか? シエラとイネスと俺で平和な世界を築きたい」
「良い判断だと思いますよ。では魔王様から発表してください」
「分かった」
俺は深呼吸をついてから玉座から立ち上がると、目の前にいる全ての部下や左隣にいるシエラが一斉に最敬礼した。
「みんな、今日から新しい仲間である、魔王補佐官のイネスを迎えることになった。イネスには新体制に向けて俺の側近として働いて貰いたいと思う。どうか不慣れなイネスを温かく見守って欲しい。どうぞよろしく」
イネスは広間に集まっている部下に頭を下げると惜しみない拍手で迎えられた。なんとかイネスを仲間として認められて良かった。
それから報告が終わった俺達はシエラの空間転移の魔法で俺の自室に移動した。全面が白色の大理石で埋め尽くされており、シルク素材の黒色の絨毯と高級な木材で組み立てられた黒色のダブルベットが敷かれていた。
そして疲れ果てた俺達は3人で抱き合いながら同じベッドで熟睡した。
だが俺は眠れなかった。俺はどうしてもシエラに本音を聞きたいことがあった。俺の左隣でイネスが安心している様子で寝ていることを確認すると、右隣でまだ寝ていないシエラに小声で話しかけた。
「シエラ、俺に無理していないか? 本当は先代の魔王のことが俺よりも好きなんだろう?」
するとシエラは俺の全身を優しく抱きつきながら笑みを浮かべていた。シエラの体温が俺の体を癒やしてくれた。
「私は今の魔王様のほうが大好きですよ。先代の魔王様は私のことを気にかけず、戦争で圧勝することだけを考えていました。でも貴方様は私のことを心から愛してくださって、平和のために立ち上がってくれました。私は貴方様のために輝かしい目的のために命を尽くしたいと思います。これからも貴方様のためなら何でもやりますので、よろしくお願いしますね」
「こちらこそよろしく、シエラ」
シエラは俺を抱きしめながら眩しい笑顔を見せてくれた。
「魔王様、おやすみなさい。いい夢を」
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