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第1話 魔王の初めてのお仕事

1-2 勇者との戦い

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 希望に満ちているような瞳を輝かせているシエルは俺の両手を優しく掴んだ。心地よいシエルの手の肌触りや暖かさに癒やされる。

「はじめは色々と難しい出来事の連続だと思いますが、私がこの世界のことを教えますので心配せずに楽しく暮らしましょう」

「ありがとう、シエル」

 俺とシエルは明るい笑顔になったが、広間に大きな男性の声が叫び渡った。もしかして戦闘か?

「魔王様! 城門に勇者一行が現れました!」

「勇者だと!」

 魔王城は一斉に騒がしくなった。俺は戦闘を避けることはできないなあ、と落胆しながら報告してくれた部下に尋ねた。

「敵は何人だ?」

「勇者、ウィッチ、銃士、ヒーラーの4人です」

「目的は何だ?」

「不明です。おそらく魔王様の命を狙ってやってきたと思われます」

 彼らは俺達を倒して何をしたいのだろうか? 彼らに実際に会って目的を聞いてから対応を考えよう。

「分かった、俺が行く」

 すると城内がどよめいた。広間で膝をついている部下は一斉に素早く起立し、「私にやらせてください!」「勇者を狩るなら私をご指名ください!」と熱意が溢れる声で手を上げた。これは以前の魔王の教育の成果かなあ? でもどうやってこの場を収めればいいんだ? 俺は頭を抱えるとシエルは「落ち着かせますね」と呟いた。

 するとシエルが背中に背負っている大剣を取り出し、刃を思いっきり床に叩きつけた。広間には轟音が広がり、騒がしい部下の声が消え去った。そして静寂に包まれた広間でシエルが真剣に話した。

「皆様は戦闘意欲が高い列強の戦士です。魔王城を守るために率先して戦う行動は素晴らしいと思います。ですが今回は小規模な戦闘なので魔王様に勇者の退治を託しましょう。これでよろしいですね?」

 さすがに姫騎士の意見に歯向かう部下は誰もいなかった。部下は手を下げて黙り込んだ。俺の側近にシエルがいてくれて本当に助かった。

シエルは広間を見渡してから大剣を背負い、俺の手を繋いだ。

「魔王様に万が一のことがあるかもしないので、私を同行させてください」

「分かった、頼む」

「ありがとうございます、では一緒に参りましょう」

 俺は玉座から立ち上がると姿勢正しく起立している部下が「いってらっしゃいませ」と一斉に叫んだ。俺は慣れない城内のしきたりに困惑しながらシエルと一緒に赤い絨毯を歩き出した。

そして真紅の鉄製の大きな扉を開けると、綺麗に磨かれているレンガ造りの内装が施されており、複数の扉が設置されていた。シエルは俺の耳元で「勇者との戦いが終わったら後でご説明しますね」と言った。廊下には複数の銅色の鎧を着用している部下が長槍を持ちながら待機しており、俺達に「お気をつけてください」と言った。

 俺達は城門の巨大な扉に到着した。シエルは真剣な表情で俺を見つめながら取っ手を掴んだ。

「魔王様、ご準備は整いましたでしょうか?」

「大丈夫だ、開けてくれ」

「では開けますね」

 シエルが城門を開けてくれると、目の前には獣を狩るような厳しい目つきをしていた4人組が武器を構えていた。すると赤色のマントを着用している勇者が剣を俺に振るってきた。

「魔王! 俺で終わりだ! ホーリーソード!」

 白色に光り輝く剣で俺の腹を引き裂いたが、俺の全身は無傷であり痛みも感じられなかった。そして勇者は「これならどうだ! フレイムソード!」と勢いよく唱えて、燃え盛る剣で俺を再び引き裂こうとしたが、同様の結果となった。俺が強いのか、勇者が弱いのか?

 俺は怒り狂って自我を忘れている勇者に対して「落ち着いてくれ、話し合いで解決しよう」と提案するが、勇者は「うるせい! 貴様の意見なんて聞きたくない! 死ね!」と叫びだした。彼を静止させることは不可能だろう。後ろで大剣を構えているシエラは彼らに対して攻撃しようとしたが、「少しだけ時間をくれ」と言うと大剣を収めてくれた。

 勇者は後方で武器を構えている3人に対して大声を張り上げながら命令した。

「ヒーラー、お前は俺を強化しろ! ウィッチ、お前は高等魔法で魔王を倒せ! 銃士、お前は連射しろ!」

 3人は「はい!」と声を合わせて攻撃を開始し始めた。

白いドレスを着用しているヒーラーの少女は勇者に対して「勇者様のステータスを高めます! パワードオーラ!」と唱えて、勇者の周囲に赤色のオーラが発せられた。そして攻撃力を高めた勇者は俺に向かって「今度こそ倒れろ! ブリザードソード!」とガラスのように輝く氷に囲まれた剣で俺の腹を刺してきたが、氷が剥がれて剣が弾かれてしまった。俺の体はどうなっているんだ?

 黒い衣を着用しているウィッチの少女は茶色のロッドを天に掲げながら「無数の刃で悪を打ち消せ! ブレード・レイン!」と体を震わせながら必死に唱えると、俺の上空から無数の短剣が大雨のように落下してきた。しかし俺は防御の魔法を使用しなくても短剣を体で弾き飛ばし、刃こぼれした短剣が俺の周囲に落ちていた。俺の体は鉄製のように感じられた。

 茶色のコートを着用した銃士の少年は怯えている表情で長銃の引き金を勢いよく引いた。「当たってくれ!」と何十発も打ち続けて俺の全身に着弾するが、もちろん銃弾は弾き飛ばされた。俺は何もしなくても無敵なのか?

 勇者以外の3人は力を尽くして諦めていた表情だった。熱血の勇者は3人に対して「もっと攻撃しろ! やるんだよ!」と叫んでいたが、3人は「もう力が出ません」「さっきの魔法が私の限界です」「もう降参して逃げようよ」と悲鳴を上げていたが、勇者は3人の意見を無視して「この役立たずの雑魚が! なら俺が倒して世界に名を広めてやる! 使えないお前らは俺の活躍を目に焼き付けておけ!」と罵倒してから剣を握り直した。

 勇者の目的は無理矢理3人を引き連れて俺を倒し、全世界に名を知らしめることが目的だと理解した。勇者と平和的に相談して解決できる問題ではないし、このままでは仲間の3人が可愛そうだ。俺は仕方なく戦うことに決めた。

 勇者はヒーラーの少女の服から体力増強剤のドリンクを強奪し飲み込んだ。赤色に輝くオーラが大きくなった勇者は「魔王! 今度こそお前の負けだ! シャイニングソード!」と唱えながら、太陽光のように眩しく輝いている剣を思いっきり振り下ろしてきた。俺はその剣を素手で掴んだ。

 すると剣から光が失われ、剣先が真っ二つに折れてしまった。勇者は絶望の表情を見せたが、戦う意欲に燃えていた。こんな状態でまだ戦えるのかよ。

勇者はすぐに立ち上がり、「まだ終わっていない!」と叫びながら俺の腹を突いてきた。もうサンドバックのように勇者の攻撃を受け続けるのは飽きたので、俺は勇者の腹に向かって小さな力で殴った。そのとき、俺の目の前に体が大きく揺れるほど強烈な爆風が発生し、勇者は円弧を描きながら落下した。ほんのちょっとだけ殴っただけなのに! 魔王が本気の力を出したら世界が滅ぶかもしれない! 俺は今後から力の使い方を考えることにした。

 俺は意識を失っている勇者に近づくと、仲間の3人は「死にたくないです! 見逃してください! お願いします!」と大量の冷や汗を流しながら怯えている表情で懇願していた。俺は3人に優しく「俺は何もしない。君達の仲間を回復させるためだけに来た」と説明し、勇者の体に手を当てた。それから俺が勇者に対して魔力を流し込むと、出会った前と同様の状態の体力に戻った。

 勇者は仲間と同様に戦意喪失しており、「来ないでくれ! もう嫌だ!」と悲壮の声を上げていた。やっと勇者は戦いをやめてくれたか。俺はため息を吐いてから彼らに話した。

「今日のところは見逃してあげるよ。でも勇者、君は仲間を奴隷のように扱うなよ。君のために一緒に冒険してくれた大切な仲間にもっと感謝しろよ」

 勇者は大量の涙を流しながら返事をした。

「はい、気をつけます」

「俺は君達の挑戦をいつでも受け付けるよ。でも君達はまだまだ戦闘能力が足りなすぎる。この世界にギルドがあるのか分からないけど、色々な場所で戦闘の経験を積んだほうがいい。そして仲間と親交を深めて、強力なパーティになってからもう1度挑んでこい。分かったかな?」

「はい、魔王様。頑張ります」

 腰から崩れ落ちて落ち込んでいる勇者を仲間の3人が担いで、「今日は申し訳ございませんでした。お邪魔しました」と深くお辞儀をしてから立ち去っていった。

 目の前から勇者一行が消えると、後ろで待機していたシエラが嬉しそうな表情で駆けつけてきた。

「魔王様! 初めての戦闘が成功しましたね! 怪我とかないですか?」

「大丈夫だ、傷は全く無い」

「素晴らしい豪快な1撃でした! 私も見習わないといけないですね」

「いやいや、そんなことはないよ」

 この戦闘の成果は俺自身の能力ではなく、俺の無敵の体のお陰だと思う。

「魔王様はお疲れですよね。早速、城内で休憩しましょう」

「そうだな」

 俺はシエラと手を繋ぎながら城内に戻っていった。
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