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第五章
67.婚約者からの贈り物
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(婚約者?贈り物?)
彼はいったいどんな思考を経て、そんな酔狂な結論を導き出せたのだろう。
自分は借り物とは言ったが、贈り物とは一言も言っていない。
「あの夜会嫌いの伯爵が可憐な乙女を連れているというから、どんな女性だろうと会場では噂になっていたよ。きっと婚約者を連れているのに違いないと、誰もが口にしていたな。―――実際、君のように美しくて楚々とした令嬢だったわけだが」
「え」
思わず素の声が漏れたのをリタが見逃すはずもなく、腰を軽く小突かれてアルヴィスは表情を戻す。
(何か、おかしい。どうしてそんな話に?え、婚約者って誰のことかしら)
第一、ヘイウッド伯爵にそんなつもりは微塵もなかったはずだ。
事実、夜会に参加したのも、一夜限りのパートナー役として貴重な植物の種を得るためだけのことだった。
あの宝飾品も、パートナーがみすぼらしかったら困るだろうとエヴァンスが提案して採用しただけの形式的な貸し出しに過ぎない。
頭の中で瞬時に思考が駆け巡る。
訂正すべきか否か――。
(いやこれは、訂正した方がいいのではないかしら?)
そもそも可憐な乙女というのは誰のことだろう。
久しぶりの夜会で、ガチガチに緊張してしまってできるだけ目立たないように、変なことをしゃべってしまわないように口を閉じて微笑んでいただけなのに、変な勘違いをされてしまっている。
そもそも、薬草園の管理者である自分は、可憐とは程遠い生活を日常的に送っている。
虫も日焼けも平気だし、切り傷は日常茶飯事。
木に登ってはリタに怒られ、珍しい野草を探すうちに崖から落ちて使用人たちを心配させたり。
そんな自分が、あの深窓の貴族の令息然としたセリウスの婚約者?
(全くもって彼に失礼だわ)
このまま「婚約者からの贈り物」などと曲解されたままでは、ヘイウッド伯爵の名誉に傷がつく可能性がある。
だがしかし、ここで否定したところで子爵が素直に納得するかどうかは怪しい。
むしろ「ではなぜ婚約者でもない人間から受け取った宝飾品を、ここまでして探しに来たのか」などと問い詰められるかもしれない。
一般的な貴族の令嬢の行動に照らし合わせて考えると、通常は使用人に命じて探させるはずだし、遺失物の届け出がないか軍に問い合わせをかける方が効率がいいはずだ。
(ああああ。どうすればいいの。訂正すれば、面倒だし話がこじれそうな気がするし)
アルヴィスはごく小さなため息を胸の内でつき、冷静さを装って感情を押し隠した。
今は都合よく、使いやすい理由を選ぶのが得策だ。
一瞬の間を置いて、アルヴィスは少し眉根を寄せて、うつむき加減で悲しそうに見えるよう装って答えることにした。
「ええ……おっしゃる通りです。その、とても大切なものなので、何としてでも探し出したいのです」
なんと。そこまでこの令嬢はあの伯爵のことを。
言葉に込められた熱意に、子爵は自分の推測の正しさを確かめるように何度も頷きながら笑みを深めた。その反応を横目に、アルヴィスは内心で再び小さな息をつく。
こういう時は、相手が想像した物語を壊さない方が話が早い。
そう心の中で言い訳を並べながら、アルヴィスは自らの選択が正しいと自分を納得させた。
「とはいえ、ラスフォード邸に残されていた遺留品はすべて軍が回収したと聞いているよ。問い合わせはしてみたのかね」
レヴィーナ子爵のもっともな疑問に、アルヴィスは粛々と答える。
「はい。もちろん、夜会から戻った次の日には連絡を入れ、見つかり次第連絡をいただけるようお願いしておりました。ですが、全ての回収品のリストを拝見させていただいたのですが、見つからなかったのです」
「―――なるほど」
「よく探していただいたとは思うのですが諦められず。どうしても、自分で探したいと思ったのです」
レヴィーナ子爵はしばらく考え込むように黙り、それから何かに気づいたようにパッと顔を上げた。その視線が自分ではなく、自分の背中向こうだと気づくまでに数秒。
「私の権限で許可しよう。お嬢さんと子爵を中に入れて差し上げて」
声に誘われるように振り返ると、緑の目を持つ士官が静かに佇んでいた。甘茶色の柔らかそうな明るい髪色に夏の緑陰のような深みのある色合いの瞳がこちらに向けられていた。
彼はいったいどんな思考を経て、そんな酔狂な結論を導き出せたのだろう。
自分は借り物とは言ったが、贈り物とは一言も言っていない。
「あの夜会嫌いの伯爵が可憐な乙女を連れているというから、どんな女性だろうと会場では噂になっていたよ。きっと婚約者を連れているのに違いないと、誰もが口にしていたな。―――実際、君のように美しくて楚々とした令嬢だったわけだが」
「え」
思わず素の声が漏れたのをリタが見逃すはずもなく、腰を軽く小突かれてアルヴィスは表情を戻す。
(何か、おかしい。どうしてそんな話に?え、婚約者って誰のことかしら)
第一、ヘイウッド伯爵にそんなつもりは微塵もなかったはずだ。
事実、夜会に参加したのも、一夜限りのパートナー役として貴重な植物の種を得るためだけのことだった。
あの宝飾品も、パートナーがみすぼらしかったら困るだろうとエヴァンスが提案して採用しただけの形式的な貸し出しに過ぎない。
頭の中で瞬時に思考が駆け巡る。
訂正すべきか否か――。
(いやこれは、訂正した方がいいのではないかしら?)
そもそも可憐な乙女というのは誰のことだろう。
久しぶりの夜会で、ガチガチに緊張してしまってできるだけ目立たないように、変なことをしゃべってしまわないように口を閉じて微笑んでいただけなのに、変な勘違いをされてしまっている。
そもそも、薬草園の管理者である自分は、可憐とは程遠い生活を日常的に送っている。
虫も日焼けも平気だし、切り傷は日常茶飯事。
木に登ってはリタに怒られ、珍しい野草を探すうちに崖から落ちて使用人たちを心配させたり。
そんな自分が、あの深窓の貴族の令息然としたセリウスの婚約者?
(全くもって彼に失礼だわ)
このまま「婚約者からの贈り物」などと曲解されたままでは、ヘイウッド伯爵の名誉に傷がつく可能性がある。
だがしかし、ここで否定したところで子爵が素直に納得するかどうかは怪しい。
むしろ「ではなぜ婚約者でもない人間から受け取った宝飾品を、ここまでして探しに来たのか」などと問い詰められるかもしれない。
一般的な貴族の令嬢の行動に照らし合わせて考えると、通常は使用人に命じて探させるはずだし、遺失物の届け出がないか軍に問い合わせをかける方が効率がいいはずだ。
(ああああ。どうすればいいの。訂正すれば、面倒だし話がこじれそうな気がするし)
アルヴィスはごく小さなため息を胸の内でつき、冷静さを装って感情を押し隠した。
今は都合よく、使いやすい理由を選ぶのが得策だ。
一瞬の間を置いて、アルヴィスは少し眉根を寄せて、うつむき加減で悲しそうに見えるよう装って答えることにした。
「ええ……おっしゃる通りです。その、とても大切なものなので、何としてでも探し出したいのです」
なんと。そこまでこの令嬢はあの伯爵のことを。
言葉に込められた熱意に、子爵は自分の推測の正しさを確かめるように何度も頷きながら笑みを深めた。その反応を横目に、アルヴィスは内心で再び小さな息をつく。
こういう時は、相手が想像した物語を壊さない方が話が早い。
そう心の中で言い訳を並べながら、アルヴィスは自らの選択が正しいと自分を納得させた。
「とはいえ、ラスフォード邸に残されていた遺留品はすべて軍が回収したと聞いているよ。問い合わせはしてみたのかね」
レヴィーナ子爵のもっともな疑問に、アルヴィスは粛々と答える。
「はい。もちろん、夜会から戻った次の日には連絡を入れ、見つかり次第連絡をいただけるようお願いしておりました。ですが、全ての回収品のリストを拝見させていただいたのですが、見つからなかったのです」
「―――なるほど」
「よく探していただいたとは思うのですが諦められず。どうしても、自分で探したいと思ったのです」
レヴィーナ子爵はしばらく考え込むように黙り、それから何かに気づいたようにパッと顔を上げた。その視線が自分ではなく、自分の背中向こうだと気づくまでに数秒。
「私の権限で許可しよう。お嬢さんと子爵を中に入れて差し上げて」
声に誘われるように振り返ると、緑の目を持つ士官が静かに佇んでいた。甘茶色の柔らかそうな明るい髪色に夏の緑陰のような深みのある色合いの瞳がこちらに向けられていた。
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